ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン   作:ローグ5

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予定よりちょっと早めだけど投稿
もうクリスマスシーズンみたいなものだしいよね


【192X:フォー・サンクス・イン・テイトズクリスマス】

かすかに雪の降るクリスマスの帝都東京。幸せそうな人々が道々を行き交う年末の幸福に満ちた街の中、商魂たくましい商人達は行き交う人々の財布のひもの緩む今こそが商機と言わんばかりに活発に客を呼び込み、思わず人々はそれに応じてしまう。

 

そんな寒さとは裏腹の熱気にあふれる帝都の片隅にあるビルヂングはないながらも由緒ありげな店が立ち並ぶ商店街に木造の由緒ありげな店舗があった。店舗の看板には「ヤマシタ洋風喫茶」とショドーされている。

 

喫茶店の中も小綺麗で大正エラではまだ珍しいショーケースの中には色鮮やかなサンプルが飾られており、和やかな雰囲気に誘われたのか客足は絶えないようだ。現に今も喫茶店にはそぐわない謹厳そうな軍人が洋菓子を買い求めていた。「あーウン、そこのケーキを4つくれ」「ハイ。所でキャンディーはいかがですか?喉にもいいしお子様にも人気ですよ」「なら、それもだ。にしても君はずいぶんと日本語がうまいな」店員は外国人だ。

 

「もう十年近くも日本にいますからね」「そうか。この辺りは長いのかね?」「戦後から半年にはここに来ましたから」「ムッ…失礼した」「お気になさらず」店員は慣れた手つきで代金を受け取りケーキを包装し箱に詰めていく。

 

「アリガトゴザイマシタ」「ドーモ」接客をしていたエッカルトは店を出ていく客に頭を下げる。これでようやくクリスマスの繁忙期が終わった。大正エラを迎え洋風の習慣が根付きつつある帝都ではクリスマスという西洋の祝い事に興味を抱き、プレゼントや菓子類を求める者も多い。「さすがに疲れたな」

 

故に一角の洋菓子職人であるエッカルトの仕事は忙しかった。このヤマシタ洋風喫茶に朝早く来て師匠譲りのバームクーヘン等の洋菓子を焼き、それが終わったら店員として次々来る客に応対する。幸いにもこのヤマシタ菓子店の店主はエッカルトを外国人だからと見下し不当に扱う事もなく給料もきちんと払っている。しかしそれでも30を超え疲れやすくなった身に激務は堪えた。

 

「ヤマシタ=サン。これで売り切れです。そろそろ店を締めますか?」「そうしよう。アアっ腰が……」50台を過ぎたヤマシタは腰を叩きうめき声をあげる。「ジャクイン社の湿布だと全く駄目だ……これはオガバシ製薬の奴じゃないと駄目だな」「配達ついでに買ってきましょうか?」「いい。いい。エッカルト君も早く仕事を終わらせて帰りたまえ」「アリガトゴザイマス」悪い環境ではない。閉店の札を店の前掲げる。これで残りの仕事はあと一つだ。

 

「じゃあ、配達に行ってきます」「年末は事故が増えるからね。カラダニキヲツケテネ」「ハイ」エッカルトは配達の為重点的に包装された包みを持ってバイクにまたがり3件の配達に繰り出す。ヤマシタ洋風喫茶は配達サービスも割増料金でオプションとして行っている。その役目もまた最近腰を悪くしたヤマシタに変わりエッカルトが行っていた。

 

「まずはウラクディストリクトのトトノ=サンだったか」配達先は3つ。だが包装されたバームクーヘンは4箱。最後の一つは客への配達物ではなく彼自身の自己満足の為にヤマシタに頼み込んで自費で作ったものだ。(((行かねば。私の気持ちに整理をつける為にも)))ようやく仕事が終わるにも拘らず浮かない顔のエッカルトの乗るバイクは、何度か気の抜けたような声を上げると、ようやく走り出した。

 

 

 

【フォー・サンクス・イン・テイトズクリスマス】

 

 

 

「エヘムエヘム。このケーキはね、ありがたく食べさせてもらうからね。エヘム」「アリガトゴザイマス」1つ目の配達、船成金のトトノ家に豪華仕様の金箔入り洋菓子の配達を終え、エッカルトは寒空の下バイクを走らせる。思えば遠くに来た物だ。

 

エッカルトは物心ついた時から故国ドイツで菓子職人を志し研鑽を積み、勉強するうちに菓子に対する理念が噛み合い意気投合した師匠や同門と共に中国青島の租界で店を開く。そこまでは順調だった。

 

彼らがいた動乱の時代の中国の政情は不安定極まりなく菓子の売れ行きは一部の者相手にしか商売ができず、また国の荒んだ状況により難癖をつけられる事も多々あり経営はうまくいかなかった。そんな状況の後やがて勃発した世界大戦によりバーグラ―めいて青島に攻め込んだ日本軍により師匠共々エッカルトは囚われの身になった。

 

だが困難な状況の中でも乏しい材料や道具を駆使して菓子に関する研鑽を積み、この極東の地で西洋菓子の美味を広めんと、収容所から解放された後は師匠や弟弟子は横浜で、エッカルトは下見もありこの帝都東京で就職し菓子職人として活動を始めた。外国人故のハンデはあるが彼らと再集結し店を開く日も遠くはないだろう。

 

だが夢の実現が近いにもかかわらずエッカルトの心は晴れない。それは今年起こった痛ましい事件―――――彼と面識のあった家で起きた凄惨な放火殺人事件は彼の心に暗い影を落としていた。「オット」そう悲しんではいられない。次の孤児院の配達を辛気臭い顔で行うわけにはいかなかった。

 

「このあたりだったか……ああ。アッタ」トコシマ区内の孤児院。まだ真新しいその孤児院の経営者夫妻が子供達には祝日だけでも偶の楽しみをと考えクリスマスのケーキを注文した事からエッカルトは配達に来たが、辺鄙な土地なのではないかという予想と裏腹に予想以上に良い立地にありすぐに白い建物を見つける事が出来た。建物の前には雪がまばらながらも降り、実際寒い中にもかかわらずまだ若い女性が待っていた。

 

「ドーモ遅くなりましてスミマセン。ヤマシタ洋風喫茶のエッカルトです。注文のケーキをお届けに上がりました」「私はシオンと申します。ありがたく受け取らせていただきます!寒い中ご苦労様でした」シオンという孤児院の職員らしき女性は間近で見るとまだ二十歳程にも関わらず所作は育ちの良さをうかがわせている。

 

「ワーすごーい!」「実際大きい!」「高くておいしそうだ!」近くで聞き耳を立てていたのか、子供達が砂糖に群がる蟻めいて次々とエッカルトの周りに集まってくる。「こらこら、エッカルト=サンにお礼を言わなくてはなりませんよ」「「「「アリガト、エッカルト=サン!!」」」「どういたしまして」子供達は明るい声で礼を言う。寒い中凝っていたエッカルトの気持ちも幾分かほぐれてきた。

 

「あとお茶をドーゾ」「ハイ、おじさん」その上に暖かい茶まで持ってきてくれた。「嗚呼…実際ありがたいです」寒空の中を飛ばしてバイクを走らせた体に暖かい茶は染み渡る。エッカルトの身体に染みわたる暖かさには単にかぐわしい茶だけじゃなく心遣いの物も確かに含まれていた。

 

孤児院の子供達の喜ぶ様を見てエッカルトも少しばかり気が晴れた。「ごちそうさまでした。それでは私は次の配達がありますので。今後ともヤマシタ洋風喫茶をヨロシクオネガイシマス」「こちらこそオネガイシマス」エッカルトとシオンは互いに深々と頭を下げあい、エッカルトはバイクにまたがる。最後の配達先もここからそう遠くない。次で今年最後だ。

 

「「エッカルト=サン、また来てねー!」」声援を受けながらバイクのエンジンに活を入れるとまた走り出す。寒空の中雪の降る帝都のまだ舗装したての道をエッカルトはバイクを走らせる。次の配達地は警察省の高官が党首をしているミドタ家。職業から連想される格式ばった家風とは裏腹に流行りもの好きの家で、エッカルトもミドタ家には何度か配達に行った経験がある。嫌な相手ではないが道中を考えると気が晴れない。

 

エッカルトは何処か塞いだ気持ちのままバイクを走らせる。エッカルトが日本に来てからも成長目覚ましい帝都は年々豊かになりビルは高さを増し都市は完璧に近づいている。だがそれでもクリスマスに洋菓子を口にできないような立場の者は沢山いるし、理不尽な不幸がこの世から根絶された訳ではない。それは、どうしようもない事だ。

 

エッカルトはバイクを走らせていく。そろそろ近くなるはずだ。後五分程で着くミドタ家への配達の途中、昔ながらの家が立ち並ぶこの区域の入り口から数えて5つ目には……ああ、やはりあった。「オオ……ナムアミダブツ」エッカルトはやり切れない思いで首を振る。彼が通り過ぎた横には当局によって片づけられ更地に変えられた家の跡地があった。

 

ここに数か月前まであったのはカザミ家の実家だ。カザミ家は両親はすでに亡くなったが、長男であるケンジョウが二人の妹を育てていた。仲のいい兄妹だった。家計は豊かではなかったが仲のよく、見る者に穏やかな気持ちを起こさせる良い兄妹だった事を知っている。ケンジョウは乏しい時間や金を遣り繰りしてよく妹二人の為に洋菓子を買いに来たからエッカルトは知っている。

 

「あいつら、舌が肥えてているから。エッカルト=サンのバームクーヘンじゃないと満足しないんです」そう言って苦笑していたケンジョウ青年はそれでも妹二人への愛情にあふれていた。だが彼らは殺された。謎めいた放火殺人事件によりカザミ家はこの世から完全に消えた。もう二度と会う事はなくなってしまった。

 

(((ブッダもあの男もオーディンも寝ているのか……はたまたボードゲームに夢中で気づかないのか。なんにせよ役に立たない……ナムアミダブツ)))エッカルトも生涯の中に何度も苦汁をなめてきたが、それにしてもカザミ家の死はあまりにも惨過ぎる。元より信仰心の薄い彼は惰眠を貪る神に対する失望を覚えていた。

 

エッカルトは死したカザミ家の人々の為に何かをしたい。だが一介の菓子職人である彼には菓子を作る事しかできない。惨たらしい惨劇と死に体して彼はあまりに無力だった。(((しかしせめても……)))世の無常と己の無力に嘆きながらもエッカルトはバイクを走らせる。彼にはするべき配達とその他に……やるべき事がある。

 

そうこうしている内にエッカルトはミドタ家にたどり着いた。立派な面構えの家門が見えてくるがそこで違和感を覚える。ミドタ家に隠れるようにして路地裏の片隅に停車した黒塗りの車が一台あり。(((配達用の車でもあるまいし、不審者めいているが…何だ?)))エッカルトは車の運転席に乗っていたハンチング帽にコートの男と目が合う。どこか不自然なアトモスフィアの目。ぞくり、と寒気がして目をそらす。

 

(((護衛か何かだろう。そうに違いない)))エッカルトは男の存在をやや不自然なほど意識から追いやりミドタ家の門についている呼び鈴を鳴らす。速く配達をして、あの場所へと向かわなくては。

 

「ドーモミドタ=サン。バームクーヘンの配達に上がりました」「アララエッカルト=サン!ドーゾドーゾ上がっていって!」陽気なミドタ夫人がエッカルトを迎え入れる。その光景を黒塗りの車の中から見る眼があった。「ハハッ…バームクーヘンねぇ。実際暢気なもんだ」その目は歪んだ悪意に染まっている。

 

嘲笑うコートの男の背は高くおよそ6尺(約180cm程)である。鋭い目と巌の如き頑健な顔立ちと背丈に違わず、鍛えあげられた肉体を分厚いコートの下に隠していた男は車の扉を開ける。「年末の殺戮ボーナス、てとこかねぇ」男はハンチング帽コートを脱ぎ捨て車外に出ていく時にはすでに暗灰色のニンジャ装束に姿が変わっていた。ニンジャの名前はシェイドウォーカー。帝都の暗雷の構成員たる邪悪ニンジャだった。

 

シェイドウォーカーは帝都の暗雷の武力担当ニンジャの一人であり、隠密行動よりもジツと無慈悲なカラテを用いた見せしめ的な凄惨な殺人を得意としている。今回も組織の上層部の指示によりミドタ家に強制的に押し入り、一人残らず一家を惨殺するという恐るべき任務が下されていた。

 

この凄惨な任務が一体如何なる帝都の暗雷の利益誘導もしくは政治的力学によって下されたのかシェイドウォーカーは知らない。だが彼は家という一種の聖域に無慈悲に押し入り殺戮し、ゴアをまき散らす。そんな邪悪極まりない殺戮を彼は愛していた。死したモータルの絶望の表情、不可解かつ理不尽な殺戮に打ちのめされる表情、それらは彼に活力を与えてくれる。

 

「殺しの後のクリスマスディナーは格別だろうな…フフッ」ナイフめいて手刀の形にした両手を交差しそのまま滑らす、ルーティンワークを終えるとシェイドウォーカーはミドタ家の家門に向けて歩き出す。「明日の朝刊一面は独占だぜ」立派な家門の鍵を破壊してエントリーした後は配達者毎殺戮ミッション開始だ。

 

ブロロロ「あん?」高揚した気分に水を差すようなバイクの駆動音を聞きハードアームは怪訝な顔をした。前方の舗装されたばかりの道路からやってくるのは一台のバイクに乗った配達者の姿だ。「オット、ボーナスゲームかぁ」思わぬ獲物の増加にハードアームは酷薄な笑みを浮かべる。だが、バイクの運転者が走行しながら上着を脱ぎ捨て、その身に秘めた正体を現すと彼の酷薄な笑みは凍り付いた。「何だと……!」

 

高速で走りくる運転者はジゴクめいた赤黒装束のニンジャだった。長く荒々しい断ち布を首に巻き面頬には殺伐たる書体で「忍」「殺」と刻まれていた。そして装束と同様にバイクもまた赤黒に塗られておりその後部には風呂敷が下げられている。ちょうど人の頭が二つ程入っているような形状と大きさの物が。おそらくは帝都の暗雷のニンジャの生首。

 

「貴様は……!」シェイドウォーカーは身構える。帝都の暗雷に敵対する者は大日本帝国海軍や政財界にも少ないがいまだに存在している。だがこれほどの狂気と憎悪を秘めた、恐るべきニンジャは一人だけ……!

 

「ドーモシェイドウォーカーです。貴様は……ニンジャスレイヤー!」「ドーモニンジャスレイヤーです」赤黒のニンジャはバイクを停車させると同時にアイサツした。「クリスマスだろうが貴様ら帝都の暗雷のニンジャは」そして情け容赦ないジュ―・ジツを構える。「全て殺す!」ニンジャスレイヤーの双眸には無限の憎悪が宿っていた!

 

 

 

 

 

日の暮れた帝都の街、行き交う人々は雪交じりの風に顔を討つ向かせしかしそれでも年末の雰囲気に足取り軽く帰路へついていく。それゆえに人々は、いやそもそも道行く善良なる常人達はたとえ見ていても気づかなかっただろう。高速で街を駆けるニンジャ同士の死闘を。

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」帝都でも高級な土地として知られるザギン地区の3階や4階建てのビルの屋上を高速で駆けるニンジャが二人!シェイドウォーカーとニンジャスレイヤーは度々交錯し、鋭いカラテをぶつけ合う度に鋭い金属音が鳴り響く!「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

ギュン!ギュン!ギュイン!雪交じりの風すら置き去りにして寒空とは対照的な熱いカラテを両忍はぶつけ合う!「噂通りの手練れか!相手にとって不足なしよ!」「ほざけ!」ドッグファイトめいて巧みに位置取りを変えながら相手に対して致命的な一撃を狙い合う。極めて高度な三次元的カラテ合戦だ!

 

「イヤーッ!」並走するニンジャスレイヤーの裏拳がシェイドウォーカーの頭部を断裂回転葬せしめんと狙う!「イヤーッ!」だがシェイドウォーカーは右腕を掲げブロックすると跳ね上がるようなケリを繰り出した!「グワーッ!」「イヤーッ!」後退するニンジャスレイヤーにシェイドウォーカーはスリケンを投擲する!

 

だがニンジャスレイヤーは怯んではない!吹き飛ばされた先で回転し給水塔に水平着地すると足をたわめ「イヤーッ!」バネめいて一気に加速しトビゲリ繰り出した!「グワーッ!」決断的なトビゲリによりシェイドウォーカーは真っ二つとなる!

 

だが真っ二つにされたシェイドウォーカーの陰から新たなシェイドウォーカーが出現!どこか朧げな輪郭のままチョップを振り下ろしてくる。その姿は蜃気楼めいて幻惑的に二つ重なって見えた!コワイ!「イヤーッ!イヤーッ!」「ヌゥーッ!」ニンジャスレイヤーは幻惑的なチョップを巧みなサークルガードで防ぎながら機をうかがう!二重のシルエットのせいか軌道が読みにくい!「これは……ブンシン・ジツか!?」

 

(((グググ左様……このサンシタめは自身の体とブンシンを重ね打点をずらしカラテ優位を保とうとしておる。小賢しくいじましい弱小ニンジャ特有の無駄な努力よ……)))ニューロンの同居者が嘲笑う中ニンジャスレイヤーはブンシンを見切ろうとする。(((対策を言えナラク!)))(((所詮は児戯故カラテで破ればよい。点でなく線の攻撃で攻めい!)))

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはサークルガードのまま薙ぎ払うような攻撃を繰り出す!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」弧を描くような荒々しく、しかし鋭いカラテの連撃に一瞬にして攻守が逆転した!「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの右拳がシェイドウォーカーを捉える!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの左拳がシェイドウォーカーを捉える!今度はシェイドウォーカーが遊技台の小球めいて弾き飛ばされ、両足をしならせながらビルヂングの瓦屋根に着地する。其処へ飛び掛かるのはニンジャスレイヤー!瓦割めいた拳を……シェイドウォーカーの脳天に振り下ろす!「イヤーッ!」

 

ドクン。だがニンジャ第六感に違和感。シェイドウォーカーの身体は先程よりも1尺に満たないが大きい。ニンジャスレイヤーは認識と同時に目を見開くが時すでに遅し。

 

違和感に気づいたその瞬間にはすでに瓦割めいた拳はシェイドウォーカーの……ブンシンの脳天を砕いていた。

「これは……!」「インガオホー!イヤーッ!」大技を繰り出し無防備なニンジャスレイヤーの首に横薙ぎのボトルネックカットチョップを薙ぎ払う様に繰出すのは……シェイドウォーカーの本体だ!

 

この作品を読む読者の皆様が高度なニンジャ戦略性をお持ちならばご明察の事であるが吹き飛ばされたシェイドウォーカーは着地と同時に自身の姿を覆い隠すような大きめのブンシンを出現させ、その陰に隠れてニンジャスレイヤーの攻撃をやり過ごし、ニンジャスレイヤーの無防備な状態を狙ったのだ!何という熟練ニンジャ特有の巧みなジツの利用法か!

 

ドクン。コンマ0.1秒後に到達する逃れられない死に対して、ニンジャスレイヤーの脳裏で脳内物質が高速で駆け巡り窮地を抜け出す手段を探すが、回避も防御ももう遅い。シェイドウォーカーの確かなカラテによるボトルネックカットチョップは一撃で首を切り飛ばすだろう。

 

ドクン。だがそれでもニンジャスレイヤーのソウルには絶望等かけらもなくただただニンジャへの憎悪が燃え続けている。故にニンジャスレイヤーは片目を線香めいて見開いた「サツバツ!」

 

風切り音を残してシェイドウォーカーのチョップが何もない空間を駆け抜けた。「エッ」後に残るのは赤い火の粉と渦巻き唸り声の様な音を残す風のみ。首を切断するはずのニンジャスレイヤーの姿は何処にもなく消えていた。「エッ」シェイドウォーカーは首に違和感を感じた。訝しみ振り向こうとするとそのまま首がずれ、地面へと落ちていく。

 

「ヘッ?」地面へと転がり落ちた首だけのシェイドウォーカーは自身の背後に立つ影を見た。悪鬼めいた形状に面頬を変形させた邪悪極まりないシルエットのニンジャスレイヤーの姿を。この世の物とは思えない恐ろしい姿に恐怖の叫び声を上げようとするが、それよりも早くシェイドウォーカーの意識は途絶えた。「サヨナラ!」シェイドウォーカーは爆発四散した。

 

生首を残して爆発四散し灰燼へと帰したシェイドウォーカーの残滓を背に、ニンジャスレイヤーはしばし邪悪な殺戮衝動に耐えると「イヤーッ!」シェイドウォーカーの生首を掴み取り血で編んだ風呂敷にくるみ帝都の闇へと消えていった。

 

帝都の街では陽気なクリスマスソングがどこからか鳴り響いていた。

 

 

 

 

クリスマスに沸く帝都郊外とは対照的に陰鬱ですらある静寂に包まれた郊外の墓地の近く。日本では少ないが社会の上層から下層まで確かな数の存在するキリスト教徒の為に建てられた教会の上には微動だにしない影あり。襤褸切れめいた赤黒装束を纏うニンジャスレイヤーだ。教会の頂点にある避雷針にはニンジャの生首三つを入れた風呂敷が括り付けられている。

 

殺伐たる光景の中静かにニンジャスレイヤーは目を見開く。その目にはいつもの憎悪に満ちた殺忍衝動のみならず悲しみに満ちていた。

 

……一年前のクリスマスはこうではなかった。あの日彼は面識のあるヤマシタ洋風喫茶で妹たちの好きなバームクーヘンを買い求め、クリスマスソングが鳴り響く中帰路についた。そうして家についた後妹たち二人とクリスマスを祝ったのだ。それは彼のそう長くない人生における妹達と培った幸せな記憶の一つだった。

 

だがもうそんな幸せな記憶がまた築かれる事はない。帝都の暗雷に殺された彼の妹達はすでに亡く、彼自身は謎めいたナラク・ニンジャと融合し復讐のカラテモンスターニンジャスレイヤーとして蘇った。最早超自然の怪物でありただ一人の彼はニンジャを殺し続けるのみの呪われし死人だ。

 

思い出は増える事なく、ただすり減っていくのみ。普段は思いをはせる事ない寂寥にニンジャスレイヤーは思いを馳せる。カザミ家は、彼と二人の妹は人々の記憶に残る事なくこの世から消えていくのみなのだろうか?

 

だが少なくとも今はまだそうではないようだ。元から良かった上にニンジャとなって大幅に強化された彼の視力はある物を捉えていた。それは彼の妹たちの墓の前に立つドイツ人の男と、彼が供え物として墓前に供えたかつて見慣れた包みだった。

 

「エッカルト=サン……」かつて知古であった自分より十近く年上の菓子職人はこの寒い年末の中妹達の理不尽な死を悼みに来てくれたのだ。彼が如何なる衝動を以てこの場に来てくれたのかはわからない。だが、その気持ちだけでニンジャスレイヤーには充分に過ぎた。

 

教会上のニンジャスレイヤーは静かに頭を下げる。クリスマスの帝都には白く穢れのない雪が降り注いでいた。

 

 

 

【フォー・サンクス・イン・テイトズクリスマス 終わり】

 

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