ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン 作:ローグ5
【204X:ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 1】
月破砕以後も尚成長を続ける極東の大都市、貪婪の都ネオサイタマの遥か西。四千年の歴史を誇る煌びやかなキョ―ト共和国。
人類の至宝とも称される歴史と、その長さに伴った壮麗な建築物を幾多も有するこの国は10年前に起きた痛ましいカタストロフを経てなおも観光業を主産業としている。むしろ元老院穏健派の改革によりよりキョートは24時間のカブキ営業などより観光に特化した国としてなおも栄えていた。
が、ここ数日は観光客の脚も滞りがちだ。原因はネオサイタマにおける重金属酸性雨のように陰鬱な長く続く雨。数日間降り続く雨は観光客や小場人たちから気力を僅かなりとも奪っているようだ。しかし、これで良いのかもしれない。日照り続きのキョートに久しぶりに続いた雨はこもりすぎた熱気を奪い、僅かづつたまった瘴気を洗い流すのにはもってこいの天気だからだ。
「ヤメロー!ヤメロー!」
が、続く雨を以てしてもすべての汚れを洗い流すことは出来ないようだ。キョートの首都であるガイオンの路地裏、建造物の高度制限が欠けられていることにより横に折り重なった建造物のアーチに隠れた路地裏では惨劇が起こりつつあった。
標的とされたのはまだ若い外国人の観光客カップル。好奇心から隠れ家的バーのような店を探しに来た彼らはすぐに後悔することになった。彼らを待ち受けていたのは魅力的なキョートの隠れた名店ではなく血と欲望に飢えたケダモノめいたヨタモノの群れだった。
「アイエエエ!!」「ヤメロー!その子は何も悪くない!俺が悪いんだー!」
「イディオットめ!悪い悪くないの話ではない、我々テツノオニのテリトリーを犯した者には死を以て代償を払ってもらう!そういう決まりだ!」
泣き叫ぶカップルを周りのヨタモノ達はニヤニヤと見守る。その下卑た表情は彼らがその惨劇を楽しんでいる事の何よりの証明だ。そして彼らの中心にいるのは……ナ、ナムアミダブツ!緑色の装束に身を包んだニンジャである!ニンジャとはかつてこの世に生きていた闇夜を駆ける半神の如き戦士が人間に憑依する事で生まれる超自然の戦士。
その多くがヤクザやメガコーポに仕えるものの、こんな路地裏のチンピラにもニンジャが混じるとは昨今のニンジャ数の増加は実に深刻なようだ。
「だが安心しろ!貴様の女は見た所中々にバストが豊満だ!殺さずに俺のネンゴロにしてやろう!ガーハッハッハ!」
「ヤメロー!ヤメロー!」「アイエエ!アイエエエ!!」
「バカ!」「ウラナリ!」「雑魚!」
冒涜的な言葉に泣き叫ぶカップルをヨタモノ達があざ笑う。こうした悲劇は古今東西在りがちな事である。しかし悲劇の当人たちにとってはそれは何の慰めにもならない!ただ軽率であっただけでこれほどの凄惨な代償を払わなくてはならない。これもマッポーの一側面なのか!?
カップルの反応に満足したのか首領ニンジャは深くうなづく。そして手を振り上げた。
「さてと…そろそろ頃合いだな。この軟弱者を始末せい!」
「イヒッ任せてくださいよボス…その代わり一撃で殺せたら後で、その女をお願いしますぜイヒッ!」
「いいだろう!煮干しめいた状態になった後だけどな!」
「イヒーッ!!ありがたき幸せ―!」
進み出た焦点の定まらない目をしたヨタモノが斧を振り上げる。被害者の絶望の叫びを無視し彼は重力の力に任せて斧を…振り下ろした!重く粘ついた音を立てて血と体の一部が転がる。
「イヒッイッヒヒヒヒ!イ……」
「何ッ!?」
一泊遅れてチュンと、軽い音が響く。レンガでできた壁に刺さったのはニンジャの扱う武器の一つであるスリケン。摩擦熱か故か薄い煙を立てるそれが意味する事は……!
「イヤーッ!」「「「アバババーッ!!!!」」」
さらに天より降り注いだ火炎がヨタモノ達の半分を焼き尽くす!その凄まじい炎は奇妙な事にカップルを巧妙に避け、並みいるヨタモノ達のみを焼き尽くしたのだ!
「チィ―ッ!良くも折角集めた部下共を!これでは奴らに喰わせたメン・タイが無駄になったではないか!」
「イヤーッ!」
距離をとり舌打ちする首領ニンジャの前に現れたのもまたニンジャ。新たなニンジャはやや紫のかかった蒼色の装束に両腕を中心とした体の各部をサイバネ化し、フルメンポには三日月めいたサムライの如き装飾が施されている。その武骨な雰囲気と醸し出すキリングオーラは間違いなく一級のニンジャだ。
「ドーモ」
乱入ニンジャが先んじてアイサツする。アイサツはニンジャにおいて必要不可欠な儀式である。それをおろそかにするようなシツレイは例え敵対者でも、いや敵対者だからこそあってはならないのある。
「エンバースです」
カトン使いのニンジャ、エンバースは柔らかにお辞儀をした。一見儀礼的な振舞にはされど、燃え盛る炎とカラテが凝縮されている。
【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング】
ニンジャのイクサは無慈悲である。ただのコンマ1秒の判断があっけないほどに生死を分ける。だがこの場のイクサはそうなりはしなかった。
「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」グワーッ!」「イヤーッ!」グワーッ!」「イイイイイヤアーッ!!!」「アバーッ!サ、サヨナラ!」
イクサはエンバースの圧勝。ラッシュのとどめに放たれたエンバースの赤熱カトンチョップが首領ニンジャの肩甲骨から袈裟懸けに身を断ち切り、爆発四散せしめた。如何にニンジャとはいえ所詮はモータル相手に粋がるのみが能の弱敵。幾多のイクサを生き残ってきたエンバースの敵ではない。
「フーッ……」
ザンシンするエンバースの周囲には放火されたツキジめいた惨状が広がっている。彼の無慈悲なカラテによって殺戮されたヨタモノ達は無残な躯となりある者は焼け焦げ、またある者はネギトロめいた有様になっている。インガオホーではあるが実に容赦ない。最もニンジャの殺戮とは遥か昔よりこういう物であるが。
「「アイエエエ……」」「表街道でケビーシガードに保護を求めろ。そしてもう裏道には近づくな」「「アッハイ」」
凄惨なニンジャのカラテを目撃したカップルは急性NRS(ニンジャリアリティショック)により茫然自失としている。朦朧となった意識はエンバースの助言をあっさりと受け入れふらふらと催眠術にかかったように歩いていった。キョートとって観光客は全てVIPだ。手厚い保護を受けて家族の基に変える事が出来るだろう。家族の元に、心身共に無事で。
「………」
カップルの去っていく様を何処か哀しみを秘めた目でエンバースは見守る。だがそれもわずか数秒の事。すぐに彼は踵を返しアビ・インフェルノめいた死体たちの見分を始めた。そして何体かの死体からバッチのような物を取り出すと舌打ちし、端末からIRCコールを行った。
『モシモシ。手早く用件をいえ』「先程観光客を襲っていたヨタモノ共を殺したが、例のバッチを持っていた。こいつらもテツノオニだ」『チッその様子だと皆殺しか。お前の腕なら生け捕りも容易いだろうに』「そうすると観光客が危険だった」
「それもそうか。後五分でそちらに行くから少し待っていろ」
……七分後!エンバースはケビーシ・ガードめいた現場検証に立ち会っていた。勤勉に動く背広や作業着姿の職員たちをまとめ上げているのは特徴的な白いスーツで身を包んだ目つきの鋭い男。ただしその顔には強化セラミックのメンポが装着されている。彼もまたエンバースと同様にニンジャなのだ。名をホワイトリングという。
ホワイトリングはキョート治安局に仕えるニンジャであり、外資系暗黒メガコーポ及び犯罪組織に対する捜査から犯罪ゲシュニンの討伐までを幅広く担当しているエージェントである。過去の一部過激派の暴走からニンジャを公職に登用することを避けがちな現在のキョートでは珍しい存在であり、若いながらも有能なエージェントとして現在頭角をあらわしつつある。フリーランスとして活動しているエンバースにとっては貴重なまっとうな仕事を回す雇い主だ。
「……やはりバッチの材質や構造を見るにテツノオニの連中のようだな。キョートを汚すファック野郎どもが。そんなにツッコミが好きなら奴らのケツの穴に焼けた鉄棒をつっこんでやる」「全くだな。品のない、下衆共だ」
だがアッパーガイオン育ちのエリートとは思えぬほどに彼は口が悪い。尤も今回の口の悪さは敵に対する強い怒りによるもの。テツノオニというクズ共の手口の下劣さにはエンバースも同意見だった。
テツノオニと呼ばれるヨタモノ集団は近年急速に最近キョートのアッパーガイオンを含む市街にはびこりつつある。彼らは電脳麻薬密売などの闇ビジネスを行っているが中でも非道なのが人身売買事業だ。そうした行為を行う組織はキョートに他にもいないわけでもないが彼らの事業はアッパーガイオンでも良家の子女や観光客をも標的にする事で常軌を逸している。
更にはテツノオニは複数のニンジャを擁し制裁に入った地元ヤクザやケビーシガードにまで被害を出した。この段になってキョート治安局は最優先捜査対象としてテツノオニを指定。ホワイトリングやエンバースのような信頼できる雇われが日夜暗闘を繰り広げている。
「これでN案件だけで三件目。しかも奴らそれなりに武装が整っていると来ている。そうすると……」
「言われなくても分かってるよ。奴らはメガコーポの紐付き。大方コウ・タイ・シュメイ社の根暗サイコパス野郎どもだろうがよ」
ホワイトリングは検死の済んだ死体を蹴飛ばす。死体となったヨタモノの身に着けているのは焼け焦げてはいるが軍用のタクティカルベスト。最新式ではないが製品の高い信頼性で知られるロシアの暗黒メガコーポ、スダチカワフ社の製品だ。明らかにそこらのヨタモノがそうそう着ている代物ではない。
ホワイトリングの言葉はただの言いがかりではない。以前にも海運系メガコーポであるコウ・タイ・シュメイ社は良家の子女を含む多数の人身売買をキョートで行った疑いがあり、強制捜査が行われたことがある。さらにその時の被害者は買い先のボロブドゥールにキョート外務省が多額の金を払い何とか取り戻したがそのクソッタレな結末には多くの人間が腹を煮やした。
「以前の事件を主導していたロングゲイトっていう下衆成金はヨグヤカルタでくたばったらしいがどうせ同類の糞どもがまだウジャウジャいやがる。そいつらもさっさと首を切らねえと市民の皆さまが安心できねえ」「ああ」「ハッさすがは元キョートの守護者様だ。頼もしい返事だよ。……すまねえ。少し言い過ぎた」「べつにいい。本当の事だ」
気が立っているとはいえ自身の失言に気づいたホワイトリングは気まずそうに目を伏せる。だがエンバースは平然としていた。そのような言葉で傷つくような心は彼にはもうない。夥しいほどの回数行った自己嫌悪が何も感じさせなかった。
「それより問題はテツノオニだ。急速に規模を拡大しているようだがそのぶんおそらく不安定な組織だ。バックからの支援が途絶えれば殲滅は容易だろう」「ああ。こっちもケビーシと連携して根拠地の特定を急いでいる。もし奴らの巣穴が判明したら……皆殺しだ」「その時の報酬は多めに頼む。あとは…今日の2件の分も」
プシュッと気の抜けた音がたつ。エンバースの身体に組み込まれたサイバネは彼のカトンを十全に生かす為の特注品だが、長時間の戦闘後も100パーセントの性能を発揮する為には冷却時間を要するのだ。この地での戦闘の前にもハックアンドスラッシュ集団を殺したエンバースのサイバネは冷却に入っていた。
「分かった。いつもの口座に振り込んでおこう」「それでは、オタッシャデー」「オタッシャデー」
エンバースは予備動作なしの跳躍で屋根に飛び乗り、キョートアッパーガイオン特有の高くない建築物をパルクールめいて飛び移りあっという間に去っていく。その動きの機敏さから見ても並のニンジャではないのは明らかだ。エンバースの挙動に見とれていた部下がホワイトリングに話しかける。
「あれがエンバース=サンですか。腕利きとは聞きましたが…実際強そうですね」「ああ、奴はウチの使う雇われの中でもトップの腕利きだ。俺の知ってるだけで7人はニンジャをやってる。だがな……」「ですが?」
「アイツの経歴に問題があってな。それさえなければ正式な職員として迎え入れていいんだが――――まあいい。俺は2課の奴らと情報交換してくる。お前たちも検証が済んだら引き上げろ」
敬礼する部下を残してホワイトリングは歩き出す。彼の手には黒漆塗りのタブレットめいた情報端末。治安局の指揮官級人員のみに支給される端末は様々な人間のプロフィール個人情報を閲覧できる、犯罪者が高級オーガニックトロよりも欲しがる代物だ。その中にはキョート市民であるエンバースの情報も載っている。
『ニンジャネームエンバース。本名サゴ・ブンゴ。カトン・ジツを操るニンジャであり過去の負傷から両腕を始めとする各所がサイバネ化されいる。過去の任務達成率は高く――――』
そんな事がつらつらと書かれた液晶画面をスクロールしていく。こんな内容はどうでもいい。
『特筆事項1:エンバースはかつてキョートアッパーガイオンに甚大な被害を与えたキョート・ヘル・オン・アース事件を引き起こしたザイバツ・シャドーギルドのニンジャである。特筆事項2:エンバースにはモータル時代から養育していた娘がいたがキョート・ヘル・オン・アース事件で死亡している』
以前より知っていた情報を見返しホワイトリングは眉根を寄せた。世の中にはクソッタレな偶然もあるものだ。
次回の投下は明日には行う予定です。もし駄目な場合はゴメンナサイ。