ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン 作:ローグ5
【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 3】
フォルネウスは子供のころから人の自由を奪う事が好きだった。人間の心身の自由を奪いこちらの一挙手一投足を怯えながらうかがう、そんな人形めいた状況に人を追いやるのが好きでいろいろと試行錯誤して遊んでいた。そんな彼は幸運なことにメガコーポ幹部の子弟であり、彼には絶えず女の子たちが寄ってきたが、彼女達とデートするよりも、捕らえた子達で遊ぶのが好きで面倒な事態に巻き込まれたこともある。
そんなフォルネウスの悪癖はニンジャになって加速した。しかしそれがどうしたというのだ。彼は才覚にあふれた強靭なニンジャであり、親譲りの地位から引きずり降ろされる事なく高い地位を誇る。そして何より……そんな彼をブッダもジーザスも寝込んだこの世の中で誰が自分を止められよう?
が、世の中には物好きなニンジャもいた者だ。エンバースというニンジャはなかなかにやる。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!しつこいぞおっさん…!」「若造が…!」
移動しながら続く二忍のカラテラリーは苛烈だ!エンバースのカラテは力強くフォルネウスの俊敏なカラテに撃ち返してくる。フォルネウスがスイトンを使うのに対してあちらはカトン。相性の利はこちらにあるはずだがサイバネ機構を利用したカラテは相性差をものともせずこちらにガードすら難しい痛打を与えてくる。そしてなにより
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
フォルネウスの至近距離から放つウォーターカッターめいた鋭利なスイトンをブリッジで躱したエンバースはそのまま半月のような円弧を描くサマーソルトキック!フォルネウスの顎をかちあげた!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
追撃に放たれたスリケンを巧みな空中動体で躱し着地する。機敏にカラテを構えなおすフォルネウスはメンポにひびが入っているのを見て舌打ちして放り捨てた。どうせこれから無用になるものだ。
「ハハ…強いなアンタ。良かったら俺のボディガードにならないか?報酬は弾むし、なんなら商品を特別価格で卸してやってもいい。どうだ、いい条件と思わないか?」「報酬がお前の首なら考えてやる」「年甲斐もなくイキっちゃってまあ」
フォルネウスはエンバースをあざ笑い、上半身のニンジャ装束を緩める。その如何にも余裕気なアトモスフィアにエンバースは違和感を覚える。彼の巧妙な立ち回りによって攫われた娘たちが人質にされるような位置には二人は立っていない。先程確認した所では彼女達の身には毒や爆薬などもなく、遮蔽物の裏に隠れた彼女たちはエンバースの足手まといとならない。ならば何故?
「自分語りしちゃうとさ…俺、性癖もだけどニンジャとしても普通じゃないんだよ。ちょっと前に親切な人が便利な物くれちゃってさあ…!」
いったい如何なるジツの効力か、自己陶酔的な言葉と共にフォルネウスのシルエットは異形へと変わっていく!その姿はまるで……、ナ、ナムアミダブツ!異形のニンジャを前にエンバースは目を見開く!
「ありがとうサツガイ=サン…持ってる俺にさらに良い物をくれて!やっぱこれ最高ダヨ……!アハハハハハハハハハハハ!」
彼のニンジャネームにあるフォルネウスとはかつてソロモン王の召喚した72柱の魔神の一つからとられている。しかし彼が変身した姿の悍ましさはそのソロモン王ですら眉を顰め視線を逸らすだろう!心臓の弱い方は注意して次のセンテンスを読んでいただきたい!
灰色の装束と一体化した四肢の肉はパテを無理やり盛ったかのようにカイジュウめいた太さとなり胸板も汚染物質含有の鋼鈑めいた不健全なボリュームを備える。そしてクトゥルフめいた名状しがたい形状に変形した顔には4つの邪眼が禍禍しくきらめく。そしてその背中では退化した翼と鱗に覆われた尾が伸びる。なんという悍ましさか!
「これはアクマ・ニンジャクランの……!馬鹿な、スイトンとは全く系統の違う力のはず!」
「ハハハハアアアアハアハハハハ!!ダメダヨオジサン。イマノヨノナカニジュンオウシナキャ!アハハハハ!!ターノシー!!!」
エンバースは知らない。かつてキョートで起きたある事件がきっかけとなり、ニンジャにランダムにジツを授ける超存在サツガイがこの世界に降り立ったことを。サツガイがフォルネウスにジツを授けていたことを。それは当然の事であるが今このイクサにおいては致命的。ニンジャのイクサは誠に無慈悲なのだ。
「イイイイイ……」
カラテを構えるエンバースに対してフォルネウスは両腕を伸ばし、それぞれ一本ずつが成人男性の腕ほどもある五指を向ける。不可解な事にすべての指には空洞が開いていた。
「ヤアアアアアアアアアアアアア!!!」
指の穴からウォーターカッターめいたスイトンが噴き出す。両腕から合計十本放たれたスイトンは恐るべき速度でエンバースに迫り必死の回避運動にも拘らずその身を捉えた!
「グワーッ!」「ハハハハハハハ!ヘアハハハハハハハ!!」
サツガイの力を得たフォルネウスのヒサツ・ワザはアクマ・ニンジャクランの強靭な異形を利用したスイトンの同時射撃だ。カラテを込めて高速で射出される10本のスイトンはニンジャであっても目視すら難しい。実に強力なヒサツ・ワザだ!
「ムオッハハハハハハ!!イイイイイ……」「チィ―ッ!」「ヤアアアアアアアアアア!」「グワーッ!」
得意絶頂のフォルネウスが二射目を準備する。その動きにエンバースはなすすべもない。形勢は完全に逆転していた。
「アイエエエエ……」
囚われた娘たちは絶望のままにニンジャのイクサの結末を見る。嵐が吹き荒れた後のような有様のこのホールで立つニンジャはただ一人。見るだけで精神を侵食されそうなほどの異形にヘンゲしたフォルネウスのみだ。
「アハハハハハゴメンネオレ、ツヨスギテアハハハハハハハ!!」
哄笑するフォルネウスの視線の先ではスイトンの直撃を受け壁に叩きつけられたエンバースが崩れ落ちる。もはや傷だらけの彼はこれ以上の継戦が不可能に思える。かつてキョートがカタストロフに包まれた日、彼の娘が死んだ日以来の傷を負っていた。
(…………これが、俺の死にざまか)
死を迎えようとしているにもかかわらずエンバースの心には無しかない。あの日のような激情もなくただ自分は死ぬのだという認識のみがある。彼の心は燃え尽きた灰山のように静かだった。
(我ながら、無意味な生だ)
キョートのアンダーガイオンの平凡な生まれであったサゴは、早くに結婚した妻を亡くしながらも娘を養う為懸命に働く最中―――ニンジャとなった。そののちにザイバツ・シャドーギルドに迎え入れられた時、彼はザイバツの待遇の良さに歓喜した。これで娘を大学まで出し、豊かな生活を送らせてやれると。そうして忠誠を胸にエンバースとなったサゴはカラテを鍛え、組織の為に懸命に働いた。おそらくアンダー生まれの自分はザイバツで出世することはないだろう。しかしそれでも偉大なるロードに仕え、娘の幸福に生きる事の出来る理想社会を作る一助になるはずだと考えていた。今にしては何と滑稽な思いだろう。
結果として娘はあの日死んだ。それを成したのはザイバツ・シャドーギルド。娘の亡骸を見て暴徒やニンジャに八つ当たりをしてももう遅い。彼は最低の父親であり、汚らしいエゴにまみれた殺戮の片棒を担いだ邪悪なニンジャだった。故に彼には生きる理由も価値もない。なのになぜこれまで生き恥を晒していたのだろう?
「サテト、ソロソロオワカレダエンバース=サン。コノコタチハセキニンヲモッテ、ヒドイメニアワセテアゲヨウ」「アイエエエエエ!!やだ、やだよぉ……」「カワイイネ!」
囚われた娘でも一番若い娘が――――彼の娘が生きていれば同じ年頃になるであろう娘がさめざめと泣く。それを見てフォルネウスはあざ笑う。エンバースの胸の奥深くで何かが燃えた。悲哀と嘲笑。その二つの相反する感情が彼の何かに火をつけた。
エンバースにはもうこの10年間自分が生きていた意味が分からない。わかるはずもない。だが、だがだがだが!今ここに彼の娘と同じ年であったであろう娘が苛まれ、ロードやザイバツニンジャ、そしてかつての自身のようなクソったれのニンジャが笑ってやがる!歪なエゴを満たす為、若い娘を苛んでいるのだ!
(生きてちゃいけないファック野郎が…!腐れニンジャが!)
怒りだ。しばらく感じていなかったマグマのような激しい怒りが今この瞬間のエンバースには生まれていた!目の前に反吐の出るようなニンジャがいる!
「ならば……十分だ!」
このフォルネウスというニンジャを殺す!その一念で転がるエンバースは目を見開きボロ雑巾のようになった全身にカラテを集中させた!
「ッ!?シネ!エンバース=サン!シネ!」「イヤーッ!」
ただならぬアトモスフィアを感じ取ったフォルネウスの放ったカイシャクのスイトンをエンバースはカトン小爆発を利用し無理やり躱す!そしてそのまま跳ね起きてボロボロのサイバネ腕を突き出した!彼の体の奥深くのカラテが怒りの焔を呼び覚ます!
「イヤーッ!」「イマニナッテコレホドノカトンヲ!?イヤーッ!」
回避運動とスイトンを一体化させた機動でフォルネウスは強引にエンバースのカトンを躱す。エンバースのカトンは虫の息と思えない程に強力だ。恐ろしい勢いをした、酸素どころかこの世ならざる物すら燃やしかねないほどの迫力を持った焔が、彼に迫っていたのだ!
「イヤーッ!イヤーッ!」
エンバースはカトンを纏ったスリケンを投げ続ける!そしてデスパレートなまでの鋭角なジグザグ軌道でフォルネウスに近づいていく。スイトンが当たらない!
「ロウガイガーッ!ウゼエンダヨーッ!!」「お前はここで死ね…!」
スイトンに身を削られようとエンバースは巧みに致命傷を割け、フォルネウスに肉薄していく!もはやその距離は目前だ!
そうしてワン・インチ距離へと至った二人がとった攻撃方法は奇しくも同様。フォルネウスはスイトンを、エンバースはカトンを宿した拳で殴り合う!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
水蒸気を上げながら二人の左拳が互いを捉える!一瞬ののけぞり硬直の後再び殴り合い始めた!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
水蒸気を上げながら二人の右拳が互いを捉える!一瞬ののけぞり硬直の後再び殴り合い始めた!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
水蒸気を上げながら二人の左拳が互いを捉える!一瞬ののけぞり硬直の後再び殴り合い始め…ない!
「イイヤアーッ!!」「「グワーッ!!」」
エンバースはそのまま自爆めいたカトンを叩き込んだのだ!自身をも深く傷を付ける超至近距離カトンはされどフォルネウスを傷つけ、これまでにないほどのダメージを与えた!カイジュウめいたフォルネウスの身体が揺らぐ!
「イイイイイイ……」
そしておお、おおゴウランガ!あらかじめダメージを予期していたエンバースは素早くダメージから復帰し、聖剣めいて右のサイバネ腕を掲げる。限界以上のカトンが注ぎ込まれたサイバネはその身を黒く焦がしながらもエンバースのカラテに支えられ確かに天へ向けて立っていた。トドメヲサセー!
極度に加速したニューロンの中フォルネウスは絶望と共に掲げられたサイバネ腕を見る。バカなこの俺がここで死ぬ。今この瞬間に死ぬ。ただモータルで遊んでいただけなのにナンデ?
「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
エンバースの灼熱するチョップが、邪悪ニンジャフォルネウスに振り下ろされ袈裟懸けに切り裂いた!
「サヨナラ!」
真っ二つにされたフォルネウスは懺悔の間もなく灰燼に帰し、エンバースもその横で膝をつく。近づいてくるキョート治安局の車両の馴らすサイレンと共に、何処か送り火のような火の粉が天井へと立ち上っていった。それはまるで死した魂を弔うセンコのような。
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かつてキョート城があった地域近くに建設された真新しい墓地。あの忌まわしい事件から一か月後。ホノカは以前より彼女の外出を渋るようになった両親を説得し墓参りに来ていた。かつての陰鬱な梅雨が嘘のようなからっと晴れた天気の下でホノカがオジギする墓石に眠るのは彼女の一族の者ではない。
そもそもこの墓地は10年前のカタストロフの犠牲者を弔うためにキョート元老院の主導で建てられた施設である。暴動に加わった犯罪者を除く死者が、貴賤の別なく観光客も含めて皆埋葬され、死後の冥福を祈る為に建てられたのだ。その一角にはホノカの親友であったムメも、その父も眠っている。
(ムメ=サン、安らかに)
ホノカがこの墓に参ろうと思ったのは他でもなく一か月前のあの事件が原因だ。テツノオニなるヨタモノにかどわかされ、後は闇カネモチの元へ出荷される無残な末路を待つだけだったホノカはエンバースと名乗ったニンジャの恐るべきカトンによって救い出された。凄惨な傷をものともせずフォルネウスなる異形のニンジャをも打倒し彼はホノカ達を絶望から救い出したのだ。その姿をホノカは一生忘れることはないだろう。
エンバースが何者なのか、そしてどこへ行くのかををモータルであるホノカは知らない。しかしメンポ越しに見えた彼の目は、そしてそのアトモスフィアはかつて死んだ親友の父、子供の目からしても自身の娘を愛していたあの人を想起させたのだ。
(アリガトウムメ=サン。私…あなたのおかげでまた帰ってこれたよ。家族や友達のいるこの世界に)
それが意味する事をホノカは知らない。ただホノカはオヒガンの彼方に旅立った親友に感謝をささげる。かつて逝った親友がニンジャとなった父を遣わし自分を助けてくれたのだと。彼女はそう信じている。
(そっちへ行くにはまだ時間がかかるけど…それまで、ゆっくりと待っていてね)
ホノカが祈りを終えるとぽたり、と水滴が一滴落ちた。それと同時にホノカは振り向き目を見開いた。雑木林の中に人影を見つけたような気がしたのだ。
そしてその人影は、ホノカの目が誤ってないならば両腕をサイバネに置換した、壮年の男に見えた。
【ゼア・イズ・ア・リグレット、イーブン・ソー・エンバース・イズ・スティル・バーニング 終わり】
今回の話はこれで終わりです。
自分なりに力を入れて書いた作品なのでもしよかったら評価・感想などいただければ幸いです。