ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン 作:ローグ5
【203X:ア・マイザー・リスぺクツ・ヒズ・ベネファクター】
重金属を含んだ有害な雲に覆われた、陰鬱なウシミツアワーを迎えながらも貪婪の都ネオサイタマは街を行き交う人々の喧騒とネオン光に包まれていた。ギラギラとひかるまばゆいネオンは街々を照らし、同時に光の届かない路地裏をより暗くせしめる効果を持っていた。
そんな暗い闇の中に隠すように建てられた四階建ての雑居ビル、クローンヤクザやギャングスタの死体や血が散らばるオフィスの中で二人のニンジャが対峙している。彼らは影が交差するほどの近距離でアイサツを交す。
「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」先んじてアイサツしたのは赤黒い装束に「忍殺」と恐怖を煽る書体で刻まれたメンポをつけた恐るべきニンジャ、ネオサイタマの死神、カラテモンスターなどの綽名を幾つも持つニンジャ殺しのニンジャ、ニンジャスレイヤーである。
「ドーモニンジャスレイヤー=サン。マネーガーディアンです」ニンジャスレイヤーに対して挨拶を返すのは砂色の装束のニンジャ。マネーガーディアンだ。その顔には脂汗がにじんでいる。「まさか貴様が如き狂人が乱入してくるとはな。厄年を超えたってのに俺もツキがない」
今日この夜ニンジャスレイヤーがマネーガーディアンを殺しに来たのは他でもない。彼が邪悪ニンジャであるからだ。
マネーガーディアンの運営するこのビルに本拠を置く貿易会社は、表向きはキョートからの特産品を商うまっとうな商社であるが裏では違法物資や人身売買その他の非合法事業によって利益を上げている。その悪徳の業をハッキング、あるいは他のニンジャへの拷問によってか知ったニンジャスレイヤーはこのビルをカラテ強襲し、マネーガーディアンをスレイしに来たのだ。
「いつまでも己の不運を嘆き、はした金を抱えて震えておれ。その金をオヌシのアノヨへの六文銭とする故」ニンジャスレイヤーは決断的にジュ―・ジツを構え無慈悲に告げる。その構えを見てもキリングオーラが感じ取れるほどの殺意が彼には宿っていた。「ほざけ!イヤーッ!」キリングオーラにひるむことなくマネーガーディアンが右腕に装着したスリケンボウガンを発射する!イクサの火蓋が切って落とされた。
「イヤーッ!イヤーッ!」マネーガーディアンはスリケンボウガンを連射!一発一発がカラテを込められた弾幕をニンジャスレイヤーはブリッジで躱す!「おのれ!ならばこれだ!」体勢を崩したニンジャスレイヤーにマネーガーディアンはニンジャソードを抜き放ち切りつけた!
「イヤーッ!」「グワーッ!」しかし吹き飛ばされたのはマネーガーディアンだ!ブリッジ状態からばね仕掛けめいて起き上がったニンジャスレイヤーは、左右のワンツーパンチでニンジャソードの側面とマネーガーディアンのボディを巧妙に叩いたのだ!
強烈な打撃に天井まで飛びマネーガーディアンはビリヤードの球めいて天井や壁をけり後退する。スリケンケンボウガンで牽制しようというのだ。
「イヤーッ!」しかし蛇めいて地面を滑るように移動するニンジャスレイヤーの方が速い!「なっ…ハヤイ過ぎ」無慈悲な鉄槌めいた拳や蹴りがマネーガーディアンを捉える!
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「アバーッ!」CRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!気取った窓にはめ込まれた窓ガラスをぶち破りマネーガーディアンはブザマに路地裏へ落ちていく。その様はまるで彼の転落人生を暗示しているかのようであった。
「イヤーッ」ニンジャスレイヤーは躊躇なくマネーガーディアンの落ちた窓に足をかけ飛ぶ。今宵も邪悪なニンジャを殺す為に。
深夜のネオサイタマ。ウシミツアワーを迎えながらも飲み屋を始めとする様々な店が客を呼び込み盛況なこの辺りの市街は今が繁盛時だ。事実隠れ家バーめいて地下二階で開店しているこの「吼えるバー」にも多くの酔漢が集まっていた。
付近にネオサイタマ湾岸警備隊の基地や関連施設が多い事からこのバーに集まるタフガイたちは多くが軍人だ。彼らは一様に日ごろのハードな業務や無能な上官について管を巻き、知能指数の低いアナーキストを愚弄する。真に騒がしい事になっているが、声量の多い彼らの中でも一際うるさいのがカウンターの左隅に座っているコートを着たままの老人だ。
「それでのうコンドの奴はな!なんと余剰金をうまく使って儂らの部隊の弾薬を補充したんじゃ!全く戦場の勇者とはただ声を上げて突撃するだけじゃない、むしろ兵站に細かな気遣いが出来る者の事だとは思わんかね!」
「アッハイその通りです」
マグロめいた目で相槌を打つ若い兵士に向かって老人――――サカマサは機関銃のようにしゃべり続ける。もう数十年も前に彼の部下であった兵士のコンド・ムラノチの事を。
「いろいろとあったがのう…思い返せばあいつが儂に良くしてくれるようになったのは、カモにされてたあいつに金を貸してやった時の事じゃ」「金を貸したんですか?」「そうじゃほんの少しばかりの、な」
サカマサ曰くコンドとは同じ部隊に所属していた物の、その時までほとんど交流がなかったという。しかしある非番の日、質の悪い兵士とやっていたギャンブルでカモにされていたコンドを見かねて金を僅かながらも貸してやった所コンドはギャンブルに大勝ち。彼はサカマサを慕うようになったのだという。
「それからアイツとは親しくなってのう…階級の差はあったが色々酒と女から装備の仕方までいろいろと教えてやったんじゃ。無論それだけだとちょっとしたどこにでもある美談だ。しかしあいつが凄かったのは出世して、別の部隊に移ってからの事じゃった」
コンドが別の部隊の指揮官となってから2年後の事だ。サカマサの部隊はとある反政府ゲリラの掃討に投入されたが相手の待ち伏せにはまり隊長が戦死、数で勝る反政府ゲリラに対して追い詰められて廃病院に立てこもった。乏しい弾薬をやりくりして何とかゲリラを食い止め、HQには応援を要請したが時すでに遅し。彼らの命は風前の灯火となった。
「あの時は儂の人生でも電子戦争以後は最大の危機じゃった…儂も部隊の他の隊員も諦めムード。もう生きて故郷の土を踏めぬものだと思っていたよ…だが、其処に来たのが我らがコンドじゃ!」
コンド率いる少数の部隊は危険を冒してゲリラの背後に回ってその無防備な背後をついた。彼らの戦いぶりはすさまじく次々とゲリラを打倒していった。特にコンドは指揮官であるにもかかわらず縦横無尽に暴れまわり
「あの時は本当に助かったが…それだけじゃない。その後コンドの奴は儂がスキャンダルに巻き込まれた時も、部隊が演習中に遭難した時も儂の基に駆け付けて救ってくれた。そして今はケチな湾岸警備隊年金事務所に代わって儂に少なくない金を毎月送ってくれている」
サカマサ老人は涙ぐんでいるようであった。彼の弟子ともいえるコンド―――おそらく今は壮年となっている彼には返し切れない程の恩がある。それに比べれば自分が彼にしたことなどほんの微々たるものだというに。
「アイツには初孫の名付け親になってもらったがそんな事じゃ到底足りんあいつは…あいつは……いい奴じゃよ。なあ若いの。お前さんがどんな軍人になるかはわからんがの、ああいう真の男を見つけ友とする、それはとても良い事だから…心に刻んでおくとよいぞ……」
年甲斐もなく飲み過ぎたのかうつらうつらとサカマサ老人は舟をこぎだす。その様子を見て彼の聞き役となっていた若い兵士はホッとした様子で帰り支度を始めるが、同時に何処か感じ入った様子でもある。何処か、あたたかな浪漫のようなアトモスフィアを感じる光景であった。
―――――――――――――その光景を冷酷な目で見つめる男が居なければの話だが。
「クソったれめ…酒がまずくはなる話を聞いちまった」「お客様、何かおっしゃいましたか?」「別に。それよりこのツマミをくれ」「カシコマリ!」いい加減な様子で男はメニュー表の一部を指さした。店員が行くと男は鼻白んだような息を吐き、服の下のホルスターに収めたスリケンを触った。男はニンジャだった。
男のニンジャネームはブラッドボウ。ネオサイタマを裏より支配する暗黒ヤクザ組織ソウカイヤの構成員であり、
下部組織や取引先との交渉、時にはカラテ制圧の為に日夜ネオサイタマの闇を駆けずりまわっている。そんな彼がサカマサ老人の話に不快感を覚えたのは他でもない。彼は話に出てきたコンドという男がどんな人間か知っていた。名前や経歴からすると彼の知る男と同一人物のはずだ。
コンド・ムラノチ、ニンジャネームマネーガーディアン。ソウカイヤと提携する組織の一員である彼はニンジャソウルの憑依以前、湾岸警備隊に所属していた頃からあらゆる悪事を重ねていた。そう深い付き合いでもないブラッドボウですら彼の犯罪歴についてはうんざりするほどよく知っており、恐らくやってない悪事は尊属殺人くらいではなかろうか。現在においても彼は独自のコネクションから様々なものを仕入れ下は薬物から金髪オイランまで多くの違法物資を闇カネモチやヤクザに納入している。およそ邪悪ニンジャという称号が似合う男だった。
「くっだらねぇ…てめえの酒代がどこから出ているかも知らねえで調子こきやがって…クソ老害が」ブラッドボウは低く毒づき、小ぶりなスリケンを左手のひらに握りしめ、暢気な老人を睨みつけた。
一瞬ブラッドボウは酒をまずくしてくれた礼にサカマサを殺そうかと考えた。しかしやめた。この店のだすツマミと酒はなかなかうまい。少なくともチンケな殺しで失うにはもったいない程度には。
「ケッ……」ブラッドボウはツマミのバイオエビの姿焼きを食いちぎり、高くない酒をのどに流し込んだ。
「クソめ…ここまでか」脚の筋肉に深刻な損傷を抱えながらもマネーガーディアンは路地裏に降り立つ。ニンジャスレイヤーの強烈なカラテを受けて彼の身体はボロボロだ。スリケンボウガン毎右腕は砕け歪な体勢からはあばらが何本も折れている。この有様では逃げきれないだろう。
だがその前に彼に流行っておくべき事があった。インプラントしたIRCから送金の指示を無事な端末に向けて出す。これだけはやっておきたかった。電波を送った直後傷一つないニンジャスレイヤーが目前へ降り立つ。ベイビーサブミッションめいた実力差に傷一つない。やはり自分の腐れ人生がここで終わるのは明白だ。まあ、今となってはもういい事だ。
「ハァ……悪い事しかないわけじゃなかったが…それでもクソみてえな人生だったな……」マネーガーディアンは天を仰ぎ独り言ちる。「だが…」
キャバーン!キャバーン!彼らが先程までいたビルの四階からは何らかの口座への振り込みを告げる電子音が響く。その音を聞くとマネーガーディアンはニヤリと笑った。事はなった。「何の真似だ」「アバッ…気にしなくていいぜニンジャスレイヤー=サン。ソウカイヤのビズと関係のないちょっとした私用だ」そしてうなづく。「殺せよ。ニンジャスレイヤー=サン」
「ハイクは読むか」「ああ…」マネーガーディアンは損傷しつつある呼吸器にキアイを入れ、それでもしっかりと呟いた。「六文銭より、重き物は、わが師の恩」「イヤーッ!」「サヨナラ!」ニンジャスレイヤーの断頭チョップがマネーガーディアンの首を切り捨て、ほとんど同時に爆発四散せしめた。
糸の切れたジョルリ人形めいてマネーガーディアンの身体が爆発四散し灰燼に変わる。ほとんど同時に残された巻物を掴みニンジャスレイヤーは再び闇夜を駆けていく。全てはニンジャを殺す為。妻子の仇をとる為に彼の戦いは続くのだ。
ニンジャスレイヤーの去った後、爆発四散の風と、高速でスプリントするニンジャの動きの起こす風が合わさった二つの風に巻き上げられて一枚の写真がネオサイタマの夜を飛んでいく。色褪せた古い写真に写るのは壮年の頃のサカマサと彼のもっとも信頼する部下であったコンド・ムラノチが肩を組み映っている。
重金属に包まれた雲の下、ネオン光に包まれた貪婪の都の間を色褪せた写真は、コンド・ムラノチであったニンジャの持っていた写真はふわりと、飛んでいく。
2時間ほどで書いた作品ですが楽しんでいただければ幸いです。