ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン   作:ローグ5

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204X年のネオサイタマを舞台にした新作エピソードです。

ヒビミク、ユウミモ、アサヤモはこの世界の真理なんだ。俺にはそれがワカルからこの話を描いたんだ(彼は狂っていた)


【204X:シーイズ・ア・エッジ・オブ・ハーマスター 上】

其処は貪婪の都ネオサイタマ。月が砕け散り磁気嵐が消失し、明日世界が滅びるやもしれぬ状態でもなお聖書の貪婪の獣の如き成長を続ける貪婪の都。この悪徳の街ではサラリマンが己の愛社精神を試され、ヤクザはソンケイを磨き、情け容赦ないヤクザや企業戦士達はサイバネで己の身を鎧う。世界の中心の一つである暗黒都市は当然のことながら混沌の都市でもあった。

 

故にネオサイタマの治安は地域にもよるが全体的に悪いと言ってよい。市内の各所にはスラムやヨタモノの根城が築かれ、地域住民の治安リスクとなり続けている。このウナギディストリクトの西部にある廃墟群もまた質の悪いジャンキーやヨタモノで満ち溢れていた。

 

この荒れ果てまともな経済活動の存在しない地域に企業の治安部隊はリスクから近づくことなく、もし無力な子羊がこの廃墟群に迷い込むか引きずり込まれた場合死までも覚悟しなくてはならないだろう。実際今区画には極悪なハックアンドスラッシュ集団がたむろしており、まともな人間ならば決して近寄らない極めて剣呑なアトモスフィアに満ちていた。特に今は。

 

バラララララララ!!「「「アバーッ!」」」」普段は野卑なアトモスフィアに満ちているはずの某ハックアンドスラッシュ団アジトはガトリング砲の唸る轟音と、アビ・インフェルノの断末魔に満ちている。部屋の隅に陣取った一機のモーターガシラがガトリング砲掃射で汚らしいハックアンドスラッシュ団を薙ぎ払っているのだ。オムラ・エンパイアの手による制圧戦闘が行われているのだろうか?

 

「アイエエエエ!ナンデ!モータガシラがナンデ!?アバーッ!」ガトリング砲掃射を受けたジャンキーがザクロめいて頭を弾けさせ倒れる。「お、俺が止め……エットマラナアバーッ!!」操作キーを手に止めようとしたハックアンドスラッシュ団員が砲塔の振り回しに直撃されて倒れる。

 

然り、このモーターガシラはオムラや他のメガコーポの所属機ではなくこのハックアンドスラッシュ団が鹵獲に成功した機体だ。本来はマッポや企業警備隊に向けられるべき武力が自分たちに向けられている。そんなインガオホーに薄汚いアウトローたちは疑問を抱きながら死んでいく「アバーッ!」しかし不可解な点がある。

 

オムラのマシンは火力や装甲に秀でている物のAIの性能については2040年代を迎えた現代においても優秀とは言い難い。だが幾ら不安定かつメンテナンス不測のオムラのAIでも突如戦闘モードで起動し味方登録した者達を殺傷するだろうか?それはNoだ。

 

ならば何故?その答えはモーターガシラの陰の、人影にある!

 

人影の姿は照明がない事とモーターガシラの陰になってよく見えない。だが……おおナムアミダブツ!読者の皆様がニンジャ感知力をお持ちならばお分かりの事だが、顔を覆ったその姿とアトモスフィアは紛れもなくニンジャだ!モーターガシラの暴走はこのニンジャの手による物なのだろうか!?その時ニンジャの背後のフスマが開いた!

 

「ウオオオ―ッ!! このタツジン・オノミチ社製アサルトライフルでネギトロになりやがれぇ!!」BLAMBLAMBLAM!!!コンバットドラッグで加速した首領の手にした高性能アサルトライフルから放たれた銃弾がニンジャを捉えようとする。タツジン・オノミチ社製アサルトライフルの銃弾は極めて正確かつ大口径であり当たり所によってはロボニンジャすら破壊する。だがしかし。

 

「イヤーッ!」おお……ゴウランガ!襲撃者は素晴らしいトライアングル・リープで弾幕を躱し、そのまま首領を目指す!その稲妻めいた速さは重金属の銃弾をすり抜けてジグザグ軌道で首領を目指す!イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャはコンパクトなセイケン・ヅキで首領の腕を破壊し、首に手をかける!「「イヤーッ!」「アバーッ!」ゴキリ!鈍い音を立てて首領の首が折れ、その場に崩れ落ちた!

 

崩れ落ちる首領をよそにニンジャは用済みとなったモーターガシラに手を掲げる。KABOOM!!モーターガシラは無言でガトリング砲を自身に向けて発射しセプク、轟音を立てて崩れ落ち炎上。最早壊れ切ったガラクタの姿にアワレを抱く事なくニンジャは無音で駆けだす。割れた月のみがその無慈悲なニンジャの姿を視ていた。

 

 

 

【204X:シー・イズ・ア・ソード・オブ・ハー・マスター 上】

 

 

ネオサイタマの富裕層居住区、地を這う蟻を見下ろすイーグルめいた視点を入居者に与える富裕層向け高層マンション「三位一体の直立塔」の最上階は見事な庭園となっている。それぞれ和洋中のテーマで分けられた三種類の庭園は熟練職人によるメンテナンスを毎日受け、それ自体が観光名所となりうるほどの奥ゆかしい美を醸し出す安らぎ空間だ。

 

住人の共同出資で維持管理されるこれらの庭園は後退での貸し切り制となっているが、その優先順位はやはり住人の立場に依拠する。メガコーポ重役の関係者などが優先的な使用権を得るのだ。

 

そのような専制的側面を持った庭園の中、洋風庭園の四阿で話し込むカネモチあり。いずれもこの庭園にマッチした女性であった。「それでね。やっぱりあなたもここに籠るだけじゃ良くないでしょう?」話しかけたのは30代半ばほどの女性だ。彼女の名前はタテナシ・ビワ。ネオサイタマの中堅メガコーポであるタテナシコーポレーションの創業者一族の一員であり現役の役員である。

 

タテナシコーポレーションはネオサイタマではオムラやヨロシサン程ではないが、それなりに知名度の高い会社だ。大正エラの頃に経営者の死亡により経営破綻したオガバシ紡績工業などの数社を合併した後に急成長を遂げ、混迷期を超えた今なお衣料や建材等の複数分野で高いシェアを得ている。

 

特に近年は軍需関係においても成長を見せ、軍用スーツの製作やニッチ分野兵装においても評判が高い。中堅どころの安定成長を続けるメガコーポだ。

 

そんなメガコーポの役員であるビワが気安く話しかけるのは当然の事であるが、彼女の一族の物だ。「スミマセンビワ叔母様。どうもまだ街中はコワイです」苦笑しながら告げるのはおそらくまだ20代の女性だ。

 

初雪めいて白い紙に細い体つきに穏やかな面持ちながらどこか病み上がりめいた印象を残す顔。彼女もまた傍系ながらもタテナシ一族の一員であるタテナシ・マナネだ。

 

「嫌な事件も実際多いですから。この間もあったでしょう?あのマルノウチスゴイタカイビルで大勢マッポの方が亡くなられて……何か知っていると言われているオリガミアーティストの方も行方不明だとか」マナネは恐ろしそうに告げて見せる。ネオサイタマにおいては尋常な神経の人間ならば眉を顰めるような事件も多い。だがその事件はあまりにも異質であり、まるでコズミックホラーに出てくる事件めいている。それはマナネだけでなく多くの人が感じている事だ。

 

「そうね、あれは実際コワイ事件だわ」「ええ、本当に」「だからビワおば様、ゴメンナサイ。折角気を使っていただいているのに」「いいのよ。確かにネオサイタマは治安が良くないし……自分で決心がついた時が一番ね」ビワは心に痛みを覚えながらも一息つく。タテナシコーポレーションの経営は安定しており、少なくとも彼女の安楽な一生は保証することができる。そう急ぐことはない。そう自分に言い聞かせた。

 

「でも、実際あなたが心配だわ」ビワがマナネを心配するのには理由がある。彼女が奥ゆかしく視線を向けないようにしているマナネの足がそれだ。

 

高価なオーガニックひざ掛けの下にある足は黒いタイツに包まれているがその足はピクリとも動かない。彼女は両脚が付随であり、体質的な問題でサイバネ置換も不能である。そんな状態では如何にセキュリティの優れた高級高層マンションとはいえ心配な事には変わりない。「だから私からもお願いしますねキノト=サン」「かしこまりました。奥様」

 

マナネの右横に気配を立てずに立っていたのはマナネの専属メイドのキノトだ。日本人形めいた黒い長い髪は日本人形めいており、悠然とした整った顔立ちの右側を奥ゆかしく覆い隠している。その伝統的メイド服に包まれたバストは実際豊満だ。

 

「マナネお嬢様は私が、命に代えても守らせていただきます」うっそりとキノトはビワに告げる。日本人にしては長身な彼女の手をマナネの細い手がたおやかに撫でる。インヤンめいて対照的な二人であるが相性は悪くないようだ。

 

「ふふ……おばさまが思っている以上に強いんですよキノト=サンは。それに私の家にはああいうドロイドもいますし」キュイイイ……庭園の量隅に直立不動するのは2メートルほどのマッシヴな戦闘用ドロイドだ。

 

赤銅色の身体を繰りローブで覆った機体はヤナマンチ・インターナショナル製要人護衛用戦闘ドロイド「AL-011ウチノメス」ヤナマンチ技術部がネオサイタマや各国のカネモチの護衛の為に製造したロングセラー商品であり、各種兵器を内蔵したメインアームの他に医療や精密作業用のサブアームを脇腹に内蔵した極めて優秀な機体である。「……そうね。あなたはここに居ればダイジョブでしょう」

 

「ええ。重ねて言いますが私はダイジョブですよ叔母様。それよりも私はパリ旅行の話について聞きたいです。最新のモードとか観光名所とか」「そうね。そういう話の方が建設的だわ」ビワは上品に息づいた。

 

それからはビワも安心したのかマナネと他愛のない話に興じた。最新のモードであるとか、はたまた社会問題であるとか、またはドサンコの農場で育てられたオーガニック食材の事であるとか。そんなくだらなくもある話であったがビワはその話を通じて身を案ずべき姪の近況が穏やかなものであると知り、マナネもまた両親を亡くしてからというもの強張りがちな心を解きほぐした。

 

そうして時は過ぎてゆき、夕暮れ時になりビワも自宅へ帰る次第になった。マンションの一階のホテル的半円構造の道路入り口からビワの乗ったリムジンは出ていく。それを手を小さく振り身を来るのはマナネ、ビワもまた彼女に上品に手を振り返していた。

 

しかしビワの表情も道路に出てマナネが見えなくなって以降は曇りだす。あの事件以来セプクを考える程に沈んでいたマナネが、空元気も混じっているだろうが元気になったのはいい。

 

しかし深く心身を傷つけられた彼女はいまだ家であるマンションの敷地からはごく限られた範囲しか出る事が出来ない。足の不随以上に心の傷はいまだに深刻だった。

 

そんな状況のマナネをキノトは良く面倒を見てくれている。能力と人格と共に申し分ない。だが、そうではあるがキノトおそらくは……タテナシにも何人かいる……「マナネ=サン。あなたの未来が心配だわ……」ビワは車内でそっと嘆息した。

 

 

 

 

 

チキ……チキキキ……マンションの中層近くにあるマナネの邸宅は年頃の女性の邸宅らしく整っている。落ち着いた色合いの調度で部屋は整えられ、ネオサイタマの不健康な空色を追い隠すように薄く色づいた強化ガラスが窓にははめ込まれている。そんな部屋の床は何体ものヨロシサン製ハウスキーピングマシン「トクノシン」が動き回り常に実際清潔な状態に家を保っていた。

 

「叔母さまは心配性ね」「仕方がありませんよ」「……別に面倒に思っているわけじゃないのよ。ただ申し訳ないだけ」「存じております」マナネやキノトの声が聞こえるのは居間ではなく書斎めいた小部屋だ。他の部屋同様に落ち着いた雰囲気で整えられたかのように見える部屋は事実は違う。ここはいわば二人の築いた作戦指令室である。

 

何のための作戦指令室か?それは単純な目的が故、この貪婪の都ネオサイタマに潜む悪を追い詰め、狩り殺す。そんな無慈悲なハンティング、否処刑の為に作られた部屋であった。「見て、キノト=サン」マナネは部屋中央に置かれたハイパワーUNIXの画面をキノトに見せる。「拝見させていただきます」キノトはマナネの肩越しに画面をのぞき込む。

 

キノトの長くつややかな髪がマナネの頬に触れるが彼女は主に謝意を見せない。マナネがキノトの髪の触れる感触を楽しんでいるのを知っているからだ。「クルードボルト、ですか」画面に映るのはモヒカン頭のレザー製メンポをした男。チンピラめいているがそのただならぬ眼差しは紛れもなくニンジャのそれだ。「最低の屑ですね」キノトは冷たくつぶやいた。「でしょう?」マナネの声も冷たい。

 

クルードボルトはネオサイタマの衛星地方都市で多数の強盗殺人事件に関与。マッポによる鎮圧部隊を返り討ちにしてこのネオサイタマに流れ着いてきた。質の悪い事に既にオニイサンを殺害し破門されたヤクザクランに所属していた時代に、カラテのインストラクションを受けた為それなりのワザマエがあるという事。

 

「どうやら傘下の窃盗団のアジトに居るらしいわ。今夜、この男を取り巻き共々殺しましょう」「かしこまりました。装備の方はどれを?」「戦力評価はそう低くない……例の武装も使って確実に殺します」マナネとキノトの脳裏にはこの処刑ミッションをIRC越しに頼んできた老いた男性の姿がある。(クルードボルト、あいつは儂の息子一家を殺しやがった……!)

 

生命維持サイバネにつながれた男性はもう長くない(8歳の孫までよくも……よくも……!オネガイシマスセンセイ……!儂はせめてアイツの死を見届けてから息子たちの待つアノヨに行きたい……!)「速く処刑して安心させて差し上げないと」「ええ」「だからキノト=サン、今夜やりましょう」「望むところです」二人はうなづきあうとそれぞれ別の道をとる。マナネはUNIXルームと直通の隣室へ、キノトは隣室の隅に併設されたロッカーへ。

 

これら剣呑な会話は二人がひそかに行う裏の活動、それはすなわちネオサイタマ圏内の治安悪化により誕生した犯罪者への秘密有料報復組織における活動である。組織の名前は特定を防ぐ意味もあり定められていないが、二人はこの組織に所属しニンジャを含む凶悪犯罪者を度々ハントしているのだ。

 

二人はその理由を他者に黙して語らない。だがしかし、彼女たちは秘かに犯罪者たちにインガオホーを与え続けている。

 

キノトは扉を開けロッカーに入ると共に伝統的なメイド服を脱ぐ。素早く丁寧にロッカーにしまい込む動きの中でもうすでに新たな装束を掴んでいる。(サーヴィターセンセイ。私はあなたや他の隊員程、秩序の創生に邁進は出来なかった)既に死したセンセイに語りかけるキノトが着ていくその装束はハイ・テックな濃い紫色のニンジャボディスーツ装束である!

 

(だが私は後悔しません。最早構成員の心中にしかない組織の理念よりもお嬢様の安らぎの為に、私はカラテを振るわせてもらいます)キノトはボディスーツ装束を着込みその上から白いプロテクターをつけていく。そして最後にプロテクターと同素材の強化セラミック製メンポをつけ、髪を結った。その姿はニンジャだ!

 

そう、キノトとマナネはニンジャであるクルードボルトを殺すといった。ならばその為の戦力があるのは必然!不随のモータルであるマナネが都市に潜む邪悪を駆り殺す為の戦力、それが彼女の侍女であり刃でもあるキノトは、ニンジャである!

 

(私の唯一生きる目的の為に)完全装備のキノトはロッカーから隣室、タタミ張りの床と衝撃吸収材を張り巡らせたドージョーにエントリーする。そこではもうすでに彼女の主が武装の調整を始めていた。嗚呼、美しい。人が何かにひたむきに挑む姿勢は美しいとキノトは思う。特に彼女の主の、犯罪者にインガオホーを与える為に熱意を注ぐ姿は一入だ。「お嬢様。こちらは準備が整いました」

 

「そうですか。ならば最終調整を始めましょう。キノト=サン、いやシルキー=サン」「ハイ」キノトことシルキーはカラテを構える。全ては彼女の麗しき主の願いを叶える為に。女ニンジャは精緻なカラテのカタを構えた!

 

 




後半は明日か明後日に投稿します。

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