ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン 作:ローグ5
帝都某所の森林公園。展望台に最近設けられた転落防止用の柵の上で超人的なバランスで立つニンジャ同士がアイサツする。「ニンジャスレイヤーです」「ルーンスピアです」赤黒装束のニンジャスレイヤーと肩にあてた光り輝く穂先のヤリを携えたルーンスピアはアイサツした。
「我は帝都の暗雷の先鞭たるヤリの達人……ニンジャスレイヤー=サンよ。帝都の暗雷に歯向かった罰として、光り輝く我が名槍の光を目に焼き付けて死ぬがいい。イヤーッ!」「イヤーッ!」ルーンスピアの鋭いツキをチョップでいなしながらニンジャスレイヤーは攻め入る隙を伺う。
光り輝く穂先にルーンカタカナによるエンチャントが施されている為かそのヤリの一撃は木を真っ二つにする程強烈であり、ルーンスピアも油断ならぬ使い手だがそれ以上に場所が悪い。この近くは孤児院等も含めて人家が多く大っぴらには動きづらい。鋭い穂先に注意しつつ最短の時間で惨たらしく殺すべし。
「イヤーッ!イヤーッ!」ルーンスピアは突き、薙ぎ自在にヤリを操り、ニンジャスレイヤーは重量の乗った攻撃を受け止める事なく凌ぎ回避する。ヤリの長さは接近戦においては非常な優位であり、一説にはヤリを持った相手にカタナで戦うには三倍の技量が必要という。が、至近距離においてはその長さは仇となり、また下方からの攻撃にはかなり対応しづらい。そこが付け入る隙だ!
ギラリとニンジャスレイヤーの目が光るとクモめいて超低空姿勢で槍の薙ぎ払いをかいくぐり、ルーンスピアにアッパーカットを繰り出す!「グワーッ!」ルーンスピアがのけぞり穂先がぶれた!絶好の好機だ!
【エンプティネス・オブ・ロストエイジ 2】
大正エラの日本における新興宗教団体の数は流石に明治時代の雨後の筍と言えるほどではないが、依然として仏教系や新統計を始め多くの教派が存在している。その中には明治から大正にかけての政府の宗教方針に反発したカンヌシやブッディストなどが主導する団体も多数あり、それらは本格的な宗教的教義で人々を魅了する物も多い。
だがそうした本格的新興宗教の衰退はここ数年確実に起き始めていた。数年前に大正時代に天災による世の立て直しを予告したとある新興宗教団体は歴史的建造物や新聞社の買収までも行う大規模な団体だったが、世を騒がせた事とエンペラーへの不敬を理由に警察による大弾圧事件、通称「ダイドー・ブレイク事件」を機に解散させられた。彼らの標榜する世の立て直しがなかった事もありその団体のみならず多くの新興宗教団体は衰退し始めた。
が、何事にも例外はある物でこの新興宗教にとって冬の大正エラにおいても、むしろだからこそ隆盛する宗教も確かにある。帝都郊外に建てられた景教系の新興宗教団体「神聖なる祈りの会」は真新しい礼拝堂から見てもわかるように懐具合は非常に豊かなようだ。
「「ラーラーラー」」やや奇妙な讃美歌が流れる教会の上の祭壇に立つのは穏やかな眼差しの若い教祖だ。穏やかに合唱を指揮する男はやがて歌を止めると滑らかに話し出す「皆さん。実際良い讃美歌でした」「「アリガトゴザイマス!」」高性能蓄音機の再現めいて信者たちは教祖に反応を返す。
「皆さんの信仰は必ずや天におわします父に届き、やがて天へと導かれるでしょう」「「アリガタイデス!」」「その日まで良く祈り、よく目上の人に仕えましょう」「「ワカリマシタ!」」「よろしいです。それでは私はこれで」教祖は穏やかな笑みで退出する。再び讃美歌の練習が始まった。
暗い舞台裏をツカツカと歩く教祖は穏やかな笑みを侮蔑に満ちた笑いに変えた。「……愚民どもめ」彼はもとより神への信仰等なく宗教等は金もうけの道具でしかないと考えている。餌を待つ豚めいた顔の信者たちも救う対象ではなく金と、数は限られるが好みの「景品」を持ってくる相手だと考えている。「全くバカばかりだな!笑いをこらえるのが難しいぜ!」嘲笑う彼に裏を知っている幹部が駆け寄ってくる。
「教祖様。特別顧問様がいらしています」「何だ……ああフォービ=サンが来たのか。今月は早いな」教祖は納得すると自室ではなくそちらよりも豪華で「景品」の備えてある別棟にある貴賓室に向かう。渡り廊下の落ち葉を蹴散らして向かう彼の顔は必要であろう支出にしかめられている。
「ドーモお待たせしましたフォービ=サン」貴賓室にあるソファの上座に腰かけていたのは赤茶色の装束のニンジャだ。「待ってないからいい。さっさと金を出せ」その足元には痛めつけられたオイランめいた姿の娘―――――正確には信者が差し出した娘が苦しみ悶えている。「アッハイ」教祖は側近幹部の差し出した札束入りケースをフォービと呼ばれたニンジャに差し出す。
「ヒィフゥミィ……しかし宗教とは儲かるものだ」「ハイ。イディオットが多くて実際儲かります」「それがワカルだけ貴様はマシだなハハハ。ああそうだ。また二、三人借りていくぞ」フォービの言葉に教主は当然の事の様にうなづくが背後で震える者あり。「アイエエエエエ……」鎖で繋がれたうら若き娘たちだ。
彼女達は信者が差し出した者や貧農の娘を買いたたいた者といずれも出自は異なるが、全員がこの教団において奴隷的扱いを受けている。幹部や教祖に、フォービによって非人間的に尊厳を蹂躙される娘達の無残な姿は筆舌に尽くし難い。これも大正エラの闇の一側面だというのか。
「その代わりといっては何だが俺も貰いすぎるのは良くないと思ってな……面白い物を持ってきたぞ」「面白い物ですか?」応える代わりにフォービは顎をしゃくると引っ立てられて来る十歳前後の少年があり。「糞坊主!糞成金野郎!姉ちゃんを返しやがれ!」「こいつ、こいつはマジで面白い」
「これはあの……サネ、だったかの弟でしたっけ」教祖にはその少年の顔立ちに見覚えがあった。両親によってこの教団に差し出された彼の姉は、教祖によって嬲られた後嗜虐心にかられたフォービによって骨までしゃぶりつくされ半年ほど前に死んだはずだ。「そうだ。こいつウヒヒッ姉の復讐に来たんだとさ!非ニンジャの屑が良くやるよな!」「本当によくやりますね!」「面白いよな!」「面白いです!」
「畜生!畜生ーッ!」「こいつの首をボトルネックカットチョップで落としてみようと思うんだがどう思う?」「見て見たいです!」教祖は素直にフォービに応じる。絨毯の汚れは気がかりだがこの凶暴なニンジャが小汚いガキ一人で機嫌を良くするのは喜ばしい事だったし、背後の奴隷たちへの威圧的アピールにもなる。それに彼も……元ヤクザとしてはたまには血が見たいのだ。
「ではタライも用意できたしやるとするか。何か言い残す事はあるか?」「呪われろ……糞野郎!」「ブフゥーッ!お、俺を笑い殺す気か!?ノロイなんて今どきねえよっ!ウヒャヒャヒャッ!」浅ましく笑いながらもフォービは鎖で引き立てた少年の首に手刀を軽く当てると大きく引いた。それを見た教祖が舌なめずりする。
その時豪華な部屋の中に入り倒れこむ者あり!「アバーッ!」それは外で警護していたはずの武装幹部、拳銃を握る右腕はほとんど切断され無惨に垂れ下がり腹部はどす黒い血で染めあげられている。コワイ!「お、おい、どうしたんだその格好は!」「アバーッ、あ、あれはバケモノだ…ハレルヤ……アバッ」そこまで言い終えると武装幹部は死んだ。「アバーッ!」さらに一つごく近くから武装幹部の断末魔が響く。
「……どいてろ」開け放たれたドア向こうの廊下に血が広がっていくのを見てフォービは少年から離れるとカラテを構える。血が広がらなくなったのと同時にエントリーしたのは色あせた黒装束のニンジャ、ロストエイジだ。「ロストエイジです。お二人の命を貰いに来ました」「ドーモロストエイジ=サン、フォービです。それは如何なる命題によるものか」
「知らん」ロストエイジは肩をすくめた。「俺は知らんが上役がお前らに死んでほしいらしくてな」「ならば貴様が死ね!カカレーッ!」「「ウオオ―ッ!!」」部屋に残っていた武装幹部たちがロストエイジに襲い掛かる!だが力の差は歴然だ!「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」一瞬で全員が殺されロストエイジは右腕を突き出しザンシンする!
「「アイエエエ!」」飛び散る血や手足を後目にテーブルに乗ったフォービはニンジャサインを組むとロストエイジを指さす。「カトン・ジツ!イヤーッ!」フォービはロストエイジのただならぬカラテを見抜くとモータルを囮に必殺のカトンを解き放とうとしたのだ。何たる損害前提の冷酷な戦術か!
だがそれもすでに遅きに徹した。ロストエイジのザンシンに見えた右こぶしからは虚無が放たれる。絶望に満ちた恐るべきサツバツ空間を形作る超自然の虚無が。「コクウ!」
ロストエイジとフォービはこの世から忽然と消えた。
………「何だとっ!?」フォービは己のカトン・ジツが不発に終わった事、そして恐るべきジツの発動と同時に世界がモノクロームへと変わった事に驚愕する。さらに世界はモノクローム一色に変わっただけではない。周りをコロシアムの壁めいて取り囲むのは朽ち果てた廃屋と損傷したノッペラボーの死体ばかりだ。
「ハァーッ!ハァーッ!こ、この死体は一体……!」廃屋の中や壁沿いにある死体は餓鬼のように痩せた者、狼藉を尽くされた者、縛り首にされた者等どれもノッペラボ―で顔が分からないが一つとして満足な状態の死に様はない。ニンジャの彼からしても恐怖を感じる恐ろしい空間だった。「イヤーッ!イ、イヤーッ!」
思わずフォービはカトンで焼き払おうとするが何度力を込めてもカトン発動しない。「無駄だぞ。この空間では
ジツは使えない」廃墟の一つから出てきたのはロストエイジだ。その目は先程に増して虚無的である。
「何なんだこのジツは……貴様、何をした!?」「この死体は俺の妹のはずだ。当時は大飢饉で食い物がないうえに流行り病にかかってな。俺がボーで叩かれながらも薬と食べ物を持ってきた時にはもう、死んでいた」フォービは
一歩後ずさる。ニンジャの中に異常な姿や精神をした者は珍しくない。しかしそうした者たちと比べても虚ろなロストエイジは井戸の底を想起させるような虚無的な恐ろしさがあった。
「あそこの死体は俺が革命に参加した時にファックされてたカネモチの娘だ。俺は泣いて謝った様な気がするがなんでだろうな?それで煉瓦の壁に吊るされているのは……20くらいの頃の俺の恋人、だったっけ?」フォービをよそにロストエイジは独り言を続ける。「ま、顔も忘れたしいいか。ハハハハハ」己の心を蝕む虚無めいて笑う。
「イ、イヤーッ!」フォービはカラテを構えロストエイジに躍りかかった!この場に至っては最早カラテあるのみ!カトン・ジツが使えないならこの凶人を素手で殺して悪趣味な空間を離脱し帰還する!
フォービのパンチを左腕のガードでいなしロストエイジはヤリめいたサイドキックを放つ。フォービは左足を掲げサイドキックを防いで打ち下ろすかのような手刀を見舞う!「イヤーッ!」ロストエイジは半身になって躱すと巧みな両腕からのコンビネーションでフォービの行動を制限しようとする。
フォービのフックをステップで躱しロストエイジのストレートが顔面を狙うが、巧みなスウェーにより空を切り、引き戻すときの肘をガードしたフォービは、ロストエイジの足先をとろうとして互いの足をぶつけ合う。そして下に注意が言ったのを見計らって左腕で水平なチョップを繰り出すが速度が乗るところで掲げたロストエイジの左腕が止める。
ロストエイジはコンパクトな掌底でフォービの顎を撃ち抜くが浅く、カウンターのパンチが来るが首を傾けて躱す。頭突きをフェイントにフォービの脇腹を狙い、フォービもまた距離を開けて迎撃と攻撃のカラテを繰り返す。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ノッペラボーの死体
の視線を受けながら二忍はカラテラリーを継続する。巧みなパンチが撃たれては流され互角の攻防が成立するがやがてバランスは乱れる。「イヤーッ!」フォービは先程のお返しと言わんばかりに半身になってロストエイジの拳を躱すと、拳が伸び切った事を見計らい右足に組み付く。
「……イヤーッ!」そのまま引き倒される事なくロストエイジは逆にフォービに覆いかぶさるように倒れると左足首を両手でがっちりとつかむ。「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャの力でひねられた足首は180度回転し激痛でフォービはロストエイジの足を離す。
そこでロストエイジは保持されていた右足を引き抜くとフォービの左足首を保持し180度ひねる。「イヤーッ!』「グワーッ!」両足首無惨!
「アッアア……イ、イヤーッ!」フォービは立てぬ状態で懸命に身をひねりチョップを繰り出すが、大地を踏みしめない一撃は容易くロストエイジに止められる。「アッ……」「イヤーッ!」「アバーッ!?」破城槌めいた膝蹴りが隙だらけのフォービの顔面にめり込み破壊する。
ロストエイジの装束を血で濡らしたフォービの顔面は完全に砕けており、もはや虫の息だ。「イヤーッ!」ゆっくりと後頭部から大地に投げ出されるフォービの股間をロストエイジがストンピングで破壊した。ムゴイ!「アババーッ!?サヨナラ!」フォービは爆発四散しこの虚無の空間からも消え失せた。
この空間より出れるのは二人に一人、フォービが死ぬと同時に廃墟や死体は急速に薄れていきロストエイジの周りから消えていく。「ARRGH……」ロストエイジが唸り首を回すともうすでにあたり一面は先程の貴賓室だ。「アイエエエ!フォービ=サンは?」「殺した」無慈悲にロストエイジは答える。「次はお前の番だ」「エッ……アバーッ!」
首を切断され噴水の様に血を噴き出す教祖を後目にロストエイジは出口に歩みだす。特に今回の任務では何か書類や資産を回収しろとは言われていない。どうせ軍や政財界にいる帝都の暗雷構成員がどうにでもするのだろう。死体だらけのアビ・インフェルノめいた室内の有様をそのままにロストエイジは自然にしまったドアを開けるがその前に首を回し
「復讐ねぇ……そんな事を良く態々やる物だ」ロストエイジはこの時代においては非常に希少なニンジャソウル憑依者として前世紀より生きている。そのうちに経験した出来事の多くはすでに忘却の彼方にあるがまだ覚えている事は幾つもある。
極貧の中で体調を崩し死んだ両親……飢え死にした妹の小さな死体……復讐の為参加した革命軍の度を越した残虐な行い……傭兵として参加した内戦での泥沼の争いと味方による恋人の処刑……その全ては彼は人は死ねば何も残りはせず、万物は存在に意味がなくただ虚無となり消え去るのみという陰惨な教訓を彼のソウルに刻んだ。
惰性で帝都の暗雷に参加してはいるが、彼が他者に求める事は特にない。ただ惰性で無意味なニンジャの生を歩んでいるだけだ。
「「ラーラーラー」」教会の方からはまだ奇妙な讃美歌がうたわれている。「ハッ」あれはこの世にある物の中でも、特に無意味だ。ロストエイジは嘲笑うと特に用もないが足を速めた。
他方数十キロ彼方の帝都某所の公園内。「イヤーッ!」「サヨナラ!」ロストエイジが任務を終えるのとほぼ同時にルーンスピアをスレイしたニンジャスレイヤーは機密情報付き巻物を手に森林を走り抜け、色付きの風となり帝都の暗雷のニンジャの首を刈り取る為にスプリントしていく。
邪悪なるニンジャソウルの供物を求めて死神は走る。だが本格的に加速する前にまだ真新しい孤児院を見つけると、やや速度を落とし近くの孤児院を一瞥する。そうした後ニンジャスレイヤーは再びスプリントし常人には見えない動きでまだ明けぬ帝都の夜を疾走した。
次回も明日の夜8時に投稿します。