ニンジャストーリーズ・ハイデン・イン・ハーメルン   作:ローグ5

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今回の話は全体的にいつもよりカラテと心情描写を端的ですが力を入れて書きました。
偉大なるボンモーに比べると拙い出来ですが楽しんでいただけたなら幸いです。


【192X:エンプティネス・オブ・ロストエイジ 3】

帝都内でも落ち着いたトコシマ区内に立つ真新しい孤児院は中級貴族であるサミダレ家が設立したものだ。ここの数年の間何かに怯えていた気のあったサミダレ家の老夫婦は中興の祖である義息の死をきっかけに、貴族の位階を成金カネモチに売り渡す等して一切の財産を処分し、この孤児院を設立した。まるで何か自分たちの目をつぶってきた悪行を償うかのように。

 

そんな老夫婦の真摯さによるものか、この孤児院は如何なる伝手を使ったのか優秀な職員にも恵まれ、火事の直前に迎え入れられた義娘の働きもあり帝都でも随一の評判の良い孤児院となっている。

 

だがそれでも不満に思う孤児はいるようだ。「ハァーッ!ハァーッ!」無鉄砲にも鉄扉を乗り越えた帽子をかぶったサキオ少年は息を切らせながら道路へ駆け出す。色褪せた黒服の男、あのクソったれな教団の教祖とニンジャを殺した男、ロストエイジが歩いていた。雑踏の中へ踏み出す男は一度見逃がせばもう見つける事は出来ない、少年は本能的に駆け出した。

 

「ハアーッ!ハァーッ!」サキオ少年自身にも何故ロストエイジと名乗ったニンジャを追うのかは説明がつかない。ただただ、本当に殺したかった奴らを殺した事を問いたかった。なぜ殺したのかと。「サキオ=クン!」異変に気付いたシオン先生がこちらにかけてくる。綺麗な明るい色の髪をした何処か姉を思わせる先生で、この帽子も孤児院に来て日を置かない彼に買ってくれた優しい先生だが今は気にしている場合じゃない。

 

しかしサキオ少年の行いは無謀であった。ギィィィ―ッ!彼が渡ろうとした路地には溝が彫られその中には鉄製の線路が引かれている。それはすなわち彼が渡ろうとしているのは路面電車の線路であり、折悪くも通過する路面電車の目前であった。

 

「アイエエエエエ!飛び出し!」運転手がダイヤ遅延及び自我にダメージを与えるゴア清掃もたらす轢殺を避けようとブレーキを引くがサキオ少年より先に停まるには遅すぎた。金属がきしむ音を立てて路面電車が通り過ぎる。

 

「ンアーッ!」しかしその前にシオン先生がサキオ少年を抱きすくめ引き戻す事に成功!何とか低速運転する路面電車にゴア轢殺される様は避けた。「ハーッ!本当にやめないか!」「スミマセン。今後はよく見ておきますので」シオン先生は謝罪し何とか場を治めるとサキオ少年に向き直る。「サキオ=クン、何であんな危ない事をしたんですか?」「……あいつがいたんだよ。俺の姉さんの仇を、勝手に殺したニンジャが」

 

サキオ少年はうつむきながらそう話した。「ニンジャ……」「やっぱりシオン先生も信じないんだな」「ううん。信じるわ。ただニンジャは酷いし危険だから……考えない方がいいわ」ニンジャへの複雑な胸中を話すサキオ少年に対してシオンは柔らかく諭す。その誠実な在り様にサキオ少年は少しばかり顔を上げるが「成程、懸命な判断だ」

 

いつの間にか色褪せた黒装束の男が背後に立っていた。男の服装は一見着古した古着に見える。だが少しばかり見方を変えるとニンジャの装束めいており……!(((アイエエエエ!!)))それ以上に剣呑でどこか異常なアトモスフィアはかつてシオンを苛んだレッドダスクと同じ。紛れもなくニンジャの剣呑さだ。

 

「起きた事は仕方がない。より無意味な人生を歩むよりは忘れた方がいいぜ」へらへらと笑う虚無的な眼差しのロストエイジは陰鬱に告げる。特に力がない孤児故放っておいたがまさかまたしても出会うとは。まあ今回もどうでも良いが。「死んだ人間は、もうそれで終わりだからな」この二人に殺す意味も理由もない。今殺すべきなのは先日ルーンスピアをも殺したニンジャスレイヤーだ。

 

それだけ言うとロストエイジは踵を返そうとする。「あの……私はそうは思いません」驚いた事にシオンはロストエイジにか細い声であるが反論した。「死んだ人は……確かにこの世からはいなくなったけどそれでも親しかった人の記憶や…魂に息づいている。だから……死んだら無意味、終わったら無意味だとは思いません」その言葉にサキオ少年もうなづく。彼も姉との記憶がまだ心の中にあるのだろう。

 

もう一台路面電車が通り過ぎる。「……ロマンチストな事だ」ロストエイジは今度は笑わず、完全に踵を返し線路越しに立つ男に向き直った。それはコート姿の謹厳たるアトモスフィアの若い男でであり、シオンは驚いた様に口を押える。

 

ロストエイジは男を見据える。帝都の暗雷と一人戦う男を。屠るべき帝都の死神を。「場所を変えるか」

 

 

 

 

【エンプティネス・オブ・ロストエイジ 3】

 

 

 

 

……数分後帝の中にある薄野。開発著しい帝都の中にあるいかなる理由でか放置された薄野は当然ながらロクに訪れる者もなく何日もわずかな虫を除いて無人の状態が続いていた。が、今は二人のニンジャが対峙している。一方は色あせた黒い装束を着なおしニンジャの姿を露にしたロストエイジ。

 

もう一方の旅人めいたコート姿の青年は右腕を眼前に掲げる。ゴウッ!すると一陣の炎と風が揺らめき彼の姿は赤黒いニンジャの姿に変わった。ロストエイジとニンジャスレイヤーは向き直りカラテを構える。

 

「用件は分かっているよな?」「当然だ。ルーンスピアとかいう小うるさい駄犬の後を追わしてやる」「ハハハ……復讐なんて無意味な事に随分と粋がる物だ」ニンジャスレイヤーはもはや答えない。フイゴめいて送り込まれた憎悪のエネルギーがミシミシと筋肉を押し上げ、殺伐たる眼差しでロストエイジを見据える。

 

対するロストエイジもまた右腕から拳までを狙撃銃めいてニンジャスレイヤーに照準し、恐るべきキリングフィールド・ジツに向けて神経を研ぎ澄ます。イアイ対決めいた緊張感の中両忍は攻撃の期をうかがう。上空では黒雲が唸り雨が降り注ぐが微動だにしない。

 

次の瞬間、薄野の果てに一本のみある松の木に落雷が命中、轟音が響き松の木が斃れるよりも早くニンジャスレイヤーは低空ジャンプから薙ぐようなチョップを繰り出した!「イヤーッ!」ロストエイジはチョップの到達よりも早く掌中の虚無を解き放つ。「コクウ!」闇よりも暗い虚無が放たれた。

 

「この空間は……!」ニンジャスレイヤーは異様なモノクローム空間に取り込まれ戸惑う。ナラクの声が遠ざかりながら告げるのはこの空間はコロス・ニンジャクランの恐るべきキリングフィールド・ジツによる物だという事。一切のジツをスリケンに至るまで無効化するこのサツバツ空間はナラクすら封じ込める恐るべき空間だ。

 

「ヌゥーッ!」「驚いたか?まあ悪趣味だよなこの空間は。装束の色すらない寂寞の空間には二忍を取り囲むように立つ廃屋とノッペラボ―の死体がただただ広がる。「あれが俺の妹で、吊るされているのが俺の…恋人。もう顔も思い出せねえな」ロストエイジが呟くと同時に両者は地を蹴り接近する!「「イヤーッ!」」

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」両者は決断的な殺意に満ちたカラテを繰り出す!顔面を狙ったストレート!臓腑を抉るフック!円を描くようなチョップ!脾腹を貫くようなヤリめいたサイドキック!その全ては流水の如き防御に受け流され決して有効打にならぬ!

 

「イヤーッ!」ロストエイジのコンパクトな掌底を捌きながらカラテの程を図る。無気力かつ虚無的なアトモスフィアと異なる練達のカラテ。これまで殺してきた両腕の指の数を優に上回る帝都の暗雷のニンジャの中でも一二を争うだろう。だがそうだろうとも必ずや隙はある。隙を見つけ突破口を開き殺すべし。

 

パァン!甲高い音を立てて弾かれたニンジャスレイヤーは少しバランスを崩し、隙を見たロストエイジのケリ・キックが襲い掛かる!「イヤーッ!」「グワーッ!」そのままボトルネックカットチョップを繰り出すロストエイジ!しかしニンジャスレイヤーは臆する事なくロストエイジを取り巻くように超低空でクモめいて移動する。

 

ニンジャスレイヤーの回し蹴りが放たれる!「イヤーッ!」「グワーッ!」今度有効打を与えたのはニンジャスレイヤーだ!左腕のガードの上からロストエイジを揺さぶりノックバックする。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ノックバックしたロストエイジとニンジャスレイヤーは再びチョーチョー・ハッシのカラテラリーを始めた。

 

お互いの目線や足の動き、体勢から次の一撃を読み捌き、新たな一撃を繰り出す。防御と攻撃が一打毎に入れ替わる熾烈な競争が二人のニンジャの間で繰り広げられる!「「イヤーッ!」」常人ならばニューロンを焼かれるほどの読みあいを制した両者はクロスカウンターめいて互いの顔面にストレートを叩き込む!「「グワーッ!」」

 

強烈な一撃を受けて両者がノックバックしタタミ2枚分ほど離れる。ここまでの攻防ですでに両者には無数の傷がついている。両者の拮抗を物語る傷からはモノクロームの血が垂れ荒れた地面を濡らす。「ハハハ……やるな。まさかこれほどまでに強いとは」相手の急所を狙う獣めいてロストエイジがニンジャスレイヤーの左側を狙い同様にニンジャスレイヤーも左側を狙い体を上下させず円を描くように移動する。

 

「……」「ハッコワイねぇ……なぁニンジャスレイヤー=サンよ。復讐なんて無駄だぜ。所詮人間はどれ程大切だろうと死んだら終わり。復讐なんて自己満足でしかないし得れる物など何もない。ああばかばかしい」「勝手に言っていろ」ニンジャスレイヤーはロストエイジの言葉を一顧だにしない。

 

「ニヒリスト気取りの無価値な戯言はせいぜい壁相手にでも話すがいい。そこまで無意味な死が好きならば俺が貴様に与えてやる故」ニンジャスレイヤーの目は漆黒の憎悪に燃える。彼の妹たちを殺したニンジャへの無限ともいえる憎悪に。「ハハハ……言いやがる!」ロストエイジは笑い、カラテを構えて地を蹴る!

 

両者は宙を蹴り突進する!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ドッグファイトする戦闘機めいて幾度なく交錯する両者はそのたびにする度一撃を繰り出し、衝突のたびに周囲にカラテ衝撃波をまき散らす!

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身をひねると縦回転しながら踵落しを蹴りこみ、危険と見たロストエイジは大きくステップし躱す!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの側面を狙った拳を今度は地に伏せる事で躱し、そこからメイアル―ア・ジ・コンパッソを繰り出す!「グワーッ!」ロストエイジは側頭部に強烈な蹴りを喰らいよろめいた。

 

「イヤーッ!」2発目のメイアル―ア・ジ・コンパッソをブリッジで躱すとロストエイジは報復のメイアル―ア・ジ・コンパッソでニンジャスレイヤーをけん制し、後退する。ロストエイジは半ば幻影の廃屋に突っ込みながらも迎撃のカラテを構えそこに立ち上がったニンジャスレイヤーが突撃する!

 

KRAAAAAAAAAAAASH!ナ、ナムアミダブツ!廃屋の幻影を蹴散らしながら両者が激突するが吹き飛んだのはニンジャスレイヤーだ!「グワーッ!」ロストエイジは幻影でニンジャスレイヤーから正確な軌道が見えない事を利用してケリ・キックの機動をフェイントすると無防備な箇所に鋭い一撃を叩き込んだのだ!何たるニンジャ戦略性及び技巧か!

 

「ヌゥーッ!ウカツ!」ニンジャスレイヤーは体勢を立て直すがその時にはすでにロストエイジが急速接近していた!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」三発の打撃を喰らったニンジャスレイヤーはモノクロームの胸壁の向こうへ吹き飛ぶ。衝撃の為か胸壁の前で吊るされた死体が揺れた。

 

ロストエイジはそのまま慎重に確実なカイシャクを期して右腕にカラテを込める。終わりか。所詮はただ一人のニンジャ。いかにニンジャスレイヤーのカラテが強いといっても所詮はより強い者によって狩られるのみ。つまらない復讐のつまらない終わりがこれだ。

 

軽く息を吐くとロストエイジは歩を進める。先程の拳は並ならぬニンジャでも即爆発四散しかねない威力であり、当たった感触からしても完全に入った。カイシャクの手刀をどこか諦観と共に構えたロストエイジは歩みだすが、其処で幻影の彼方から不意に出てきた飛来物に目を見開く。

 

それはモノクロームのブレーサーだ。ロストエイジは容易く弾くがそれは紛れもなくニンジャスレイヤーの付けていた装備。さらにもう一つのブレーサーが飛んできた。やはりニンジャスレイヤーは生きている。少しばかりであるが動揺するロストエイジが対峙する彼方、幻影の向こうよりニンジャスレイヤーは帰還した。

 

被弾個所からはモノクロームの血が垂れ満身創痍の有様だ。しかしその目はまだ先程と同じように、いやそれ以上の殺意が宿っている。「ニンジャ……」これまで幾度なくあった戦いと同様にニンジャスレイヤーはカラテを構えた。「殺すべし!

 

「イ、イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロストエイジとインファイトを開始する!静かに内なる憎悪の風が唸り、焔が燃え続けている。(((成程。確かに俺の妹たちは死んだ)))殺された彼の妹達は墓地で眠り最早彼に何も語りかける事がない。彼女達が復讐を望む事もなくまたすべての復讐を終えても戻ってくる事はない。

 

(((だが、それがどうした!!!)))ニンジャスレイヤーのソウルにはニンジャへの憎悪だけではない。かつて在りし日の妹達の思い出が息づいている。それは彼の、カザミ・ケンジョウの血肉である。辛い事もあった。楽しい事も沢山あった。その全ては彼にとってかけがえのない物だ。

 

だがそれはニンジャの手によって穢された。二人の幸せな生は断ち切られた。(((許せるものか)))ニンジャスレイヤーは帝都の暗雷を、所属する邪悪なニンジャを、チルハ・ニンジャを決して許さない。(((何か得る物があるからじゃない。意味があるからでもない。そんな事はどうでもいい)))「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは殺伐たる忍殺のカラテをふるう!(((俺が奴らを、殺すと決めた!)))

 

あの日死んだ二人の妹。ニンジャスレイヤーとして復讐のカラテをふるう過程で見てきた無数の犠牲者。その根源には奴らがいる。ならばこんな所で(((負けていられるものか!!!)))

 

凄まじいシャウトを上げながらニンジャスレイヤーは負傷を押してカラテをふるう!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」当初は互角に見えたカラテラリーは次第にニンジャスレイヤーの有利へと傾いていく。「イヤーッ!」「グワーッ!」

ニンジャスレイヤーの右手が万力めいた力でロストエイジの右ひじを掴み破壊する!「グワーッ!」

 

「イヤーッ!」苦悶するロストエイジはチョップをニンジャスレイヤーの傷口を突き刺す!が、ニンジャスレイヤーは構わず左肘打ちでロストエイジの左腕を破壊!「イヤーッ!}「グワーッ!」そしてロストエイジの肩を万力めいた力でつかんだ!

 

至近距離からのニンジャスレイヤーの凝視にロストエイジは慄いた。その目に宿る殺意は虚無も絶望も吹き飛ばす憎悪の暴風めいて荒れ狂っており……!「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの頭突きが放たれた。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

「ハァーッ……フゥーッ……!」ニンジャスレイヤーがロストエイジを手放しザンシンすると完膚なきまでに頭突きの連続で頭をかち割られたロストエイジはあおむけに倒れ伏した。「アバーッ……」

 

「アバッ……アバッ……!」薄れゆくキリングフィールドの中頭を割られたロストエイジは地面に倒れ伏す。彼の頭より流れ出るのは血と脳漿に、摩耗した記憶。「ハハッ……死ぬのか。ハハハハハ…!」虚ろに笑いながら己の死を受け入れるロストエイジは目を見開いた。「アッ……アアア!」壊れた脳はいったい如何なる働きによる物か、彼の虚無的な生を過ぎ去っていった幾つもの顔が浮かび上がる。

 

それはカロン・ニンジャの導きかそれとも死にゆく事へのソーマト・リコールか。彼の脳裏には幾つもの……いつしか忘れていた、もはやキリングフィールドの中にも記憶にもないと思われていた、大切だった人人々の顔が浮かび上がっていく。両親に青年時代の恋人……わずかながらある幸せな思い出と共に浮かび上がっていく。

 

「オオ……オオオ……!」そして彼の長き人生の最後に浮かび上がるのは彼の妹の笑顔。(((オニイチャン)))太陽に照らされる野原で笑う妹の顔を最後に見て、静かにロストエイジはこれまでと違い虚無的ではない笑いを浮かべ、目を閉じた。「サヨナラ」

 

現実世界に残されたロストエイジの爆発四散後には、雨粒ならぬ雫が一つのみ落ちていた。

 

 

 

 

翌日の早朝。自室で起きたシオンは身支度を整えた後に月命日である両親のオブツダンをきれいに掃除し線香を備えると、何か異常がないか点検しながら清々しい朝日の昇る孤児院の庭に出た。毎朝孤児院の子供達が飲む牛乳を配達人が届けに来るのだ。

 

昨日のニンジャ……サキオ少年が言うにはロストエイジの事は心配だ。だがそれでも彼と対峙した青年―――――――かつて自分を救ったあの決断的な眼差しの、何処か人間らしさを失っていないニンジャは必ず勝つだろう。だからシオンは己のできる事をして子供達を支える。ニンジャがいようといなかろうと子供達がロストエイジの様に絶望に囚われ、自分を損なう事がないように。

 

「今日の分の牛乳です。ドーゾ」「アリガトゴザイマス」牛乳を受け取り重さに苦戦しながらも母屋まで運んでいく。そうしてすべての牛乳を運び終わるとコトリと軽い音がした。「アイエッ……ニンジャじゃ、ないよね?」

やや怯えながら振り向くと郵便受けに引っかかっていたのは昨日落したサキオ少年の帽子とシオンの数少ないし物であるブローチだ。

 

「やだ、落していたんだ」慌てて郵便受けに走って帽子とブローチをとると、今二つを持ってきたのは誰か思い当たり、穏やかに笑った。

 

 

 

【エンプティネス・オブ・ロストエイジ 終わり】

 

 

 




次回はクリスマスあたりに新規エピソードを投稿しようと考えています。
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