そして比企谷八幡は仮面の少女と   作:白羽凪

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運命はいつも残酷で。
巡り合わせは突然に。
始まりを告げぬまま。
終わりを告げようとして。
いつになったらこの残酷な運命は
終わりを迎えるのだろうか....。








うーん、やっぱ無理!


#2' ただ、雪ノ下陽乃は

ー陽乃sideー

あの日からずっと想いを寄せていた愛しい人。

別れは告げたはずなのに恋しくて。

もう会うことなんてないと思ってた。

でも目の前の世界にはあの日と同じ彼がいた。

《服を血で濡らした》彼が。

 

えっ...いやっ...

 

「いやぁあああああああああああああ!!!」

 

私は絶叫した。普通ならすごく痛みを感じるくらいの声で叫んだが、今はそんな痛みすら感じなかった。それよりも目の前の彼の痛みの方が遥かに自分に来ているからだ。

 

私の身体が刺されたわけじゃないのに、刺されたように鋭く心が痛んでいる。

 

「雪ノ下さん...!とりあえず離れて...ください...!」

 

彼は男が包丁を持っている方の手を掴み

「あああああ!!!」

声とともに男を押し倒した。その時、包丁がさらに深く彼の身体に刺さり込む。

 

それでも彼は男を押さえ込み続けた。

「くそっ!ガキが!!離しやがれ!!!」

男がもがき、抵抗していたが彼はピクリとも動かなかった。そして無理して作った笑顔をこっちに向ける。

その顔にはもう血の気がなかった。

 

いや...もうやめて...

 

声はかけられなかった。どうやら思考回路が止まってしまったらしい。私は何も出来ず、座り込んだままだった。

 

数分くらいたった頃だろうか。近くでサイレンの音が聞こえだした。どうやら救急と警察が来たみたいだ。

 

「くそっ!来やがったか!どきやがれってんだ!」

 

男はやっとの思いで押さえ込んでいた彼の身体から抜け、道を引き返すように逃げていった。が、警察がもう到着していたみたいで、捕まっていた。

 

「大丈夫ですか!!」

 

救急隊の人が別方向から担架を持って走って向かってくる。この細道はどうやら車は通れないようだ。

 

「あっ...、雪ノ下...さん...。とりあえず...救急...呼んで...大丈夫...から...。」

 

彼の声は次第に途切れ途切れになっていき、ついには何も言わなくり、そのまま目をつぶった。

「あっ...いやっ...!」

いや...いや...死なないで...!

 

「大丈夫ですか!!」

再び救急隊の人の声がした。もうここまで来たようだ。

少し安心したのか、ちょっと眠たくなってきた。

そして意識は少しずつ薄れていき、いつの間にか

 

意識を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

---数時間後---

目が覚めたそこは病院だった。

救急搬送なんて初めてだったけど、意識がなかったせいでそんなことは覚えてなかった。

 

それより彼は...?

 

「比企谷くん...。」

 

力なく呟く。返事なんて帰ってくるわけじゃないのに。

 

「はい?」

 

しかし返事は帰ってきた。

そしてその返事は、聞き覚えのある声だった。

え?どこ?

急いで辺りを見回す。

 

「あぁ、ここですよここ。」

 

隣のベッドのカーテンが開く。

そして彼はそこにいた。

 

「え?なんで...?」

 

 

 

 

ー八幡sideー

さて、飛び出してきたはいいものの...参ったなこりゃ。

 

自分の身体には包丁が刺さっている。ただ、1番驚いているのは、この状況で異常な程に冷静な判断が出来ている自分自身だった。

何故か痛みは感じない。こういう時、アドレナリンは本当に役にたつ。

そんなことはどうでもいい。とりあえず今まずすべき事は...。

 

「雪ノ下さん...!とりあえず離れて...ください...!」

 

俺は雪ノ下さんに逃げることを催促した。腹周りが刺されているようで、声が途切れ途切れになる。が、まだ平静は保っているようだ。

 

「あああああ!!!」

 

そのまま声を出しながら男が包丁を持っている手を掴み、地面に押し倒した。さらに包丁が奥深く突き刺さる。流石に痛みが伝わる。

「.......!!」

声にならない悲鳴をあげる。けど今は抑えなければ。

 

そこからはもう何も考えないことにした。

雪ノ下さんを守ること。男を抑え込むこと。

脳に残っていた指令だけに従って無我夢中で動いた。

 

男がなにか喚いているが聞こえない。

ただ、遠くから聞こえるサイレンだけは耳に入ってきた。

そしてその一瞬。油断してしまったのかもしれない。男は俺の抑え込みを抜けていき、そのまま逃げていった。

 

(くそっ、逃げるな...!)

 

が、もう身体が限界を迎えていた。血を出しすぎたのかもしれない。立つことができなかった。

 

ただ、遠目に男が捕まった様子が見えた。とりあえず一件落着である。

雪ノ下さんは固まって動かなくなってしまっている。まずい。何か伝えなければ。

「あっ...、雪ノ下...さん...。とりあえず...救急...呼んで...大丈夫...から...。」

やっとの思いで声が出るくらいしか、もう力は残ってなかったようだ。

さて、今は休憩するか...。

 

もう身体を使う気力がなかった俺は意識を失い...

 

 

 

 

数ヶ月前とおなじ病室で目が覚めた。

 

...えぇ?

とりあえずまた辺りを見回す。時計の針は5時を指していた。が、明かりがないあたりどうやら朝だろう。

特にやることもないので、傷口の周りを見ている。そこには痛々しい手術の跡があった。

 

はぁ...また入院かぁ。すまんな小町。お兄ちゃんこんなで。

 

そんな他愛もないこと思っている頃だった。

隣のベッドからゴソゴソと音がした。どうやら起きたみたいだ。

 

そういえば、前回は病室に他の人はいなかったのだが、今回はいるらしい。

 

「比企谷くん...。」

聞き覚えのある人の声が聞こえた。が、その声に元気はない。

「はい?」

とりあえず返事は返しておいた。すると隣から更に音が聞こえ出す。俺を探しているみたいだ。

 

「あぁ、ここですよここ。」

 

そう言ってカーテンを開ける。そこには焦った様子の雪ノ下さんがいた。

 

「え?なんで?」

 

雪ノ下さんはとても驚いていた。まあ、普通は起きるのに時間のかかるような傷だ。刺された位置がよかったとしか言い様がない。

 

「まあ、運が良かったんだと思います...。」

「そっか...。」

雪ノ下さんは俯いて何も言わなくなった。そしてせき止めていたものが溢れたかのように泣き出した。

 

「よかった...死なないで...よかったよ...。」

「そこまで深い怪我じゃないっすよ。だからそんなに泣かないでください。」

 

しかし雪ノ下さんは泣き止まなかった。それどころか強くなっていくばかりだった。

 

「もうやだ...もうやだよぉ...!なんで...普通に生きれないの...!なんで《雪ノ下》なの...!命を狙われないといけないの...!ただの女の子として...生きさせてよぉ...!」

 

そこに仮面をつけた雪ノ下さんはもういなかった。そこにいたのはただ1人の、心の弱い少女だった。

 

あぁそうか。雪ノ下さんが抱え込んでいたものはこんなに大きかったんだ。

それに雪ノ下さんは決して強くなんてない。こんなものを引きずっていたまま生きてきたこの20年で、もとよりの自分が壊れてしまっていたのだろう。

 

ただ、今、壊れた自分を取り戻しているのなら。

遠慮はいらない、もっと心に素直になればいい。

俺はまだ少し痛む身体を起こして雪ノ下さんのベッドに近づいて、そのまま雪ノ下さんの身体をそっと抱き締めた。

「今はもっと泣いていいですよ。大丈夫です。全部受止めますから。」

「比企谷くん...。」

その一言で充分だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから雪ノ下さんは壊れたように泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




平均評価8.0...嬉しい限りですm(_ _)m
――――キリトリ線――――
そういえばこのNEXTなんですけど、多分10話もいかないと思います。ただ、内容が薄いとは言われたくないので、そこは今まで通り、それ以上に頑張ろうと思います!

(今回言う内容ないなんて言えない...)

――――キリトリ線――――
今回もここまで読んでいただきありがとうございました!
NEXTはおそらく短いですけど、最後まで読んでいただきたいと思ってます!ですので、これからもよろしくお願いします!!!

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