叩き潰されて。右往左往して。
それでも変わりたいともがき続けて。
周りに助けられて、自分を知って。
また今日も変わりたいと願い続ける。
故に、その思いに迷いはない。
うーん...。
ー陽乃sideー
小町ちゃんが帰って1時間くらい経ったころ、一通のメールが来た。都築からだ。
『陽乃様、あと数分ほどでお母様がお見舞いに着くそうです。』
それまでの空気が消え、表情が険しくなる。
私は雪ノ下を捨てる。
今日はそのことを伝えなければならない。
ただ、相手は自分より遥かに強い人間だ。一筋縄で押し通せないことは百も承知だ。
「いざとなりゃ脅せばいいんですよ。一つや二つまずいことやってるんでしょう。雪ノ下家も。そいつを脅しの材料に使えばいい。」
比企谷くんはそう言ってた。やはり彼の曲がった部分は1部だけど変わってないらしい。
実際、そのまずい部分というのはある。直接聞かされた訳じゃないが、仮面を被って生き続けたことや、その上で情報を収集したことが役に立ちそうだ。
かといって、もう仮面をつけるつもりはないが。
「あれ、小町帰りました?」
隣のベッドで寝ていた彼の目が覚めた見たいだ。
「帰ってもう1時間経ってるけど?」
「あ、まじっすか...。絶対ポイント下がったなこりゃ。」
「それはまたドンマイ。」
彼はバツが悪そうに頭を掻く。
「そういえば比企谷くん。さっき都築から連絡があったんだけど...。」
急で悪いかもしれないが話題転換を行う。
「分かりました。ちょっと席外しますね。」
「まだ何も言ってないよ!まあ、わかってるからその行動なんだろうけど。」
「本当はちょっと聞きたいですけど家族の事情に足を踏み入れるのまでは流石にあれなんで。」
うん、今回ばかりは聞かれたくないかもなぁ...。
「そっか。まあ、後でちゃんと伝えるよ。」
「そうですか。じゃあ、外出ておきますね。」
比企谷くんはそのまま外に出て行った。今、病室には私一人だけだ。
母が来るまでの間、しっかりと気持ちの整理をする。
それから間もなく、病室のドアが空いた。入ってきたのはもちろん、母さんだ。
「調子はどうかしら、陽乃。」
向こうが立ったままで会話は始まった。
「うん、大丈夫...だと思うよ。」
「そう。」
それ以上は何も言わずに私のベッドの近くの椅子に腰掛けた。
さて、どうやって言おうかな...。
だが、そんなことを考えなくても、向こうが起爆剤を送り付けてきた。
「早いところ治してちょうだいね。まだやらなければいけないことが沢山あるのだから。」
そう言って悪意のないような笑みを見せる。けど、そんなもの全然いらない。
今欲しいのは...『自由』だ。
「...ねぇ母さん、私はもう、雪ノ下をやめるよ。」
「なんですって...?」
浮かべていた笑みは一瞬で消え、こめかみ近くに血管が浮かぶのが見えた。
「...どういうことかしら陽乃。」
言葉に怒気が混ざる。
「そのまんまだよ。私は雪ノ下家と縁を切って一人で生きていく。そう決めたの。」
「ふざけた発言はやめなさい...!」
「ふざけてなんかない!!」
力いっぱい叫んだ。母の怒気よりも更に強く、自分の気持ちをぶつけた。
「子供は親の奴隷なんかじゃない!ここまで育ててもらったのは感謝してる。けどそれだけ。親の背中を見て学んだものなんて何一つないんだよ。縛られた生き方。決められた道。そんな人生は捨てるの。今日、ここで!」
「そんなこと...させないわ。」
『雪ノ下建設は1部分の物件において違法建築を行った。』
「!?」
『国会議員雪ノ下は自分の手を汚さず賄賂を行っている。』
「あなた何故それを...!?」
「他にもあるよ。この家が抱えてる問題。さて、もし無理を通してこの家に残そうって言うなら、これらの問題は報道陣に一言一句伝えるよ。《雪ノ下》陽乃としてね。」
「...。」
もうすぐ夢が叶う。もうあと一押しだ。
「だから言ったように私は雪ノ下をやめて、一人で生きる。お願いだから、その邪魔だけはしないで。」
母は諦めついたような顔をして言った。
「もう好きにしなさい。今日をもって縁を切ります。」
母はそう口にして、止まることなくドアへ向かった。やはりその背中には何も見えず、何も感じなかった。
「さようなら。母さん。」
気づかれないように小声でつぶやく。これが別れの手向けだと言わんばかりに。
返事は返ってくることなく、ドアはバタンと音を立て、再び病室内は私一人になった。
やっと...。
やっと終わった...!
再び目に涙が浮かぶ。ただ、これは今まで感じたこともなかった嬉し涙だった。
っと、そうだ。あと伝えなければいけない人が2人ほどいたね。
感傷に浸るのを一旦やめて携帯を取り出す。
今は仕事中かもしれないが、きっと電話はとるだろう。
「〜♪」
「もしもし陽乃か?母さんから聞いたぞ、さっきの話。詳しく教えてくれ。」
「あ、もう電話いったんだ。じゃあ1から話する必要なさそうだね。」
ただ、とりあえずどういう経緯、どういう心情で動いたかはちゃんと自分の口から伝えた。
父さんは何も言わずにただ聞き続けてくれた。
「なるほど...。もうそれなら仕方あるまい。ただ、陽乃。大学の資金、一人暮らしの金はどうするんだ。」
「あー...。」
そういえばそうだ。少なくとも大学はまだ金がかかる。バイトを始めたところで自分一人じゃ無理だろう。
「...大丈夫だ。いつかこうなるかもしれないと思ってその分の金を貯めてたから、お前の口座に振り込んでおくよ。大学卒業までは持つだろう。」
そこまでしてるとは思ってなく、私は驚いた。
「なんで、そう思ってたの?」
「まあ、母さんあれだからさ。いつかはこうなるかもしれないってずっと思ってたんだ。とはいえ一人分。このことを最初に決断した方にだけ前々から渡そうって決めてたんだよ。」
父さんは自分の気持ちを理解してくれていた。
その上で動かせてくれたら、こんな結果にはならなかったかもしれなかったけど。
「そっか。ありがとね父さん。助け舟を出してくれて。」
「礼はいらんよ。自分の娘だからな。ただ...。」
「ただ?」
「もしお前がいいなら、これからも私個人でいいから会ってくれないか?」
「うん、いいよ。」
「そうか...。話すことは以上だな。これからもがんばれよ、陽乃。」
「...うん!」
そうして電話は切れた。
少し大きいため息をついて、一旦落ち着く。
このことを伝えるべき相手はあと一人。ずっと好きだった雪乃ちゃんだけだ。
渋々yesを出すしか無かった母と、自分の巣立ちを受け入れてくれた父。なら、《妹》は、どう答えるだろうか。
そう思いながらかけ慣れた番号をひとつひとつ押していく。
「〜♪」
「ひゃっはろー雪乃ちゃん!」
「元気そうね姉さん。今更なんのようかしら。」
「あれ?母さんに聞いてないかな?じゃあ改めて伝えるね。」
「...?」
「私は今日で雪ノ下をやめるよ。雪乃ちゃん。」
「...言ってる意味がわからないわ。」
少し怒気がある。けどそんなものはもう何も怖くなかった。
「私はね、変わるの、雪乃ちゃん。これまで生きた道を全部否定して。雪ノ下陽乃を壊して。」
「そんなこと...出来るわけ」
「できるよ。許可は貰った。」
「そんな...。」
電話越しに雪乃ちゃんが呆然としてるのが伝わる。ただ、今は攻めの言葉をやめない。
「比企谷くんは変わった。そして私も変わろうとしてる。あなたはどう?雪乃ちゃん。ずっと逃げてばっかで、何も変わらなかった。そしてこれからもきっとそう。だからもう一度聞くね。雪乃ちゃんはどうするの?」
「私は...。」
答えが直ぐに出ないということは、きっと今まで通りだろう。もうそこに妥協はいらない。
「結局そうなんだね。もういいよ。私からはもう何も言うことはない。これが最後の電話になるね。...じゃあ、これからも頑張ってね。《雪ノ下》雪乃ちゃん♪」
そう言って電話は終わった。
最後の声は自分でもゾクッとするほど低い声だった。
けれどもう、これで赤の他人だ。
これからはなんの束縛もない未来が待っている。
これまでよりはずっと厳しい道だと思うけど、期待感だけで胸がいっぱいになっている。
そして私はベッドから飛ぶように出て軽やかに進み出した。
自分を変えてくれた彼が待つ場所へ。
ネタなしですm(_ _)m
――――キリトリ線――――
次回最終回です。(main〜NEXTの)
ここからside、afterなどのストーリーは書くかもしれませんが一応次回がmainの最終回です。
ここまで来れたんやなって思うと泣きそうです...。
(今回内容しょっぱくてすいません...。)
最後まで気を抜かず、頑張ろうと思います!
――――キリトリ線――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!
とりあえず次回も、何卒よろしくお願いします!!