Fate/Extra Loop Side   作:ぴんころ

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??? 第四節

 数日、探索に費やしたところ、いきなりレオに呼び出された。

 

「これより、僕たちは月海原生徒会を名乗ろうと思います」

 

「…………は?」

 

 そしてその先にはダメだこりゃ、と頭をかかえる遠坂と、レオがすまない、と謝るユリウス、それを見てニコニコと笑っているレオ。その姿……特にユリウスとレオのそれは表の聖杯戦争では絶対に見られないような代物だった。

 

「いきなり何を言ってるんだ、レオ?」

 

いいえ(Non)。これから僕のことはレオ会長、と」

 

「……どういうことなんだ、レオ会長」

 

「そちらについては私から」

 

 ラニが説明をしてくれるらしい。

 

「まず、月海原生徒会、というのはここにいる面々です。基本的に『調査における中心人物』がここに集まっているわけですね。ランルーくん、臥藤門司は性格の面で、残りは実力や連携の面で未だ不安が残るのでここの補欠要員、という形になります」

 

 今教室にいるのはレオ、遠坂、ラニ、ユリウス、イリヤ、俺、白野という面々。確かに指揮を取っているレオ、サポートをしている遠坂、ラニ、イリヤ、主な調査要員である俺と白野、俺と白野が休んでいる間にアリーナの構造などを調べるユリウス、という調査の主要な人物が集まっている。

 

 残りの面々は今は何も参加できていない上、エネミーの戦闘能力を考えると連携ができない限りはアリーナに向かわせることができない、と言われているために旧校舎屋上で試しているらしい。

 

「ですので、呼び出す時に調査の主要人物を呼び出すのであれば個々人の名前を列挙するよりもまとめた呼称があった方がいいとのことになり、『学園にいるんだから生徒会がいいだろう』とレオ会長が言ったことにより月海原生徒会になったのです」

 

 ランルーくんと臥藤を放置するって、本当に大丈夫なのだろうか? 放置していたら勝手に迷宮に潜りました、とかもありえそうな気がするんだけど。

 

「その辺りは抜かりなく。もちろん仕事を与えることで下手な行動はとれないようにしています。臥藤門司には『こちらに協力する気になった人物を迎え入れる役割』を、ランルーくんに関しては校舎内部で暴走し、こちらに甚大な被害を与えかねない人物の粛清をさせることになりました」

 

 ……なんとなく、ガトーの言動にキレた他マスターがランルーくんによって粛清される悪循環が見えた気がするけど。

 

 うん、まあ、俺よりも頭のいいやつがあの二人にその役割を与えて、人間の機微もちゃんとわかるであろう遠坂も許可を出してるんだったら何も問題なんてないんだろう、うん!

 

「では、呼称についての通達をしたところで今日の定例会議(ブリーフィング)を始めましょう」

 

 レオが居住まいを正し、表情もニコニコしたものからマスターとしてのそれに戻る。

 

 ──ここからは、俺たちの今日の目的を決める話し合いだ。

 

「今日の『聖杯防衛』では、輪さんと白野さんが一層の敵を危なげなく倒せるようになったことを鑑みて、第二層のエネミーがどれほどのものなのかを調査してもらいたいと思います」

 

 『聖杯防衛』

 

 俺たちに与えられた『侵入者の撃退』というミッションに、『聖杯を侵入者の手から守る』ということで与えられた名前。俺はその内容に頷くのだが──

 

「……ん? レオ、ちょっと待って」

 

 白野は何か疑問に思ったようだ。

 

「なんですか?」

 

「エネミーの実力っていうけど、二日目『第一層にいたエネミーが下の階層から上がってきた』ってユリウスは言ってたよね?」

 

 すでに殺されかかったことに関しては過去のことだと思っているらしい。今は心強い味方だと簡単に割り切れる白野のそれはすごいと思う。

 

「ええ、それがどうかしましたか?」

 

「下にいた個体がそのまま上がってきただけなら、戦闘能力とかは変わってないんじゃないの?」

 

 ……ああ、なるほど。確かに白野の言うことに一理あるような気がしないでもないが。それでも、上がってきたエネミーと同系統の相手しかいない、というのは少し楽観的すぎる気もする。

 

「あれらの種類のエネミーが下の階層では最弱クラスだから生き残るために上の階層にやってきた可能性など、この調査を行う理由をあげようと思えばいくつか挙げられますが、何より大きな理由としては『このアリーナが僕たちを鍛えるために作られている』ということです。最初の階層で出てきた敵と戦闘能力を含めて全く同じだというなら第二層以降の存在の意味がありません」

 

「なるほど」

 

「納得していただけましたか? でしたら、調査の件で一つ守って欲しいことがあるのでそちらを伝えさせていただきます」

 

「守って欲しいこと?」

 

「ええ。できる限り入り口付近から離れないで欲しい、ということです。入り口から離れた結果大量のエネミーが一層に移動した、なんてことになれば『ようやく実戦投入できるレベルにまで仕上がったコンビが、入った瞬間大量のエネミーに囲まれて為す術なく死亡』という事態にもなりかねませんから」

 

「了解」

 

 ……確かにわざわざ無意味に死なせる理由もないからな。

 

 白野が口に出し、俺が頷いたことでレオも一つ頷いて──

 

「ではこれより、アリーナ探索をお願いします」

 

 

◆◆◆

 

 

「ここからは未知のエリア、か」

 

「何があるのかわからないから慎重にいこう」

 

 白野の言葉に頷く。後ろに視線を向けるとちゃんとアルターエゴとセイバーが存在する。

 

「ううむ、それにしても可愛らしい童女よなぁ」

 

「おさわりは禁止よセイバー。『触れないから美しい』というのもあるってことを知りなさい。……それにしても、セイバーに似てるし、クラスも同じなのに全く性格が違うのね」

 

「む? 何か言ったか?」

 

「なんでもないわ」

 

 抱きつこうとするセイバーをアルターエゴが躱し、何かをポツリとつぶやいている。

 

「……なんかごめん、輪」

 

「……アルターエゴも本気で嫌なら氷を落とすぐらいはしてるだろうし、『やめて欲しい』程度だとは思うけど」

 

『二人とも、ふざけてないで早く進んでください』

 

『何かあった時のためにリターンクリスタルの用意は忘れちゃダメだよ』

 

 ラニとイリヤからの通信があったので、今もじゃれあっている二人を止める。

 

 目の前には第二層に繋がる階段。階段の前にはチェックポイントとでも呼ぶべき『校舎内部から直接転移できるスポット』があった。これのおかげで、第二層の調査をしたいのに第一層で邪魔をされるという事態は避けられる。

 

 階段に足を踏み入れると、すぐにそこは二層の入り口になった。『繋ぐもの』としての設置物(オブジェ)なだけで、これは本当の意味での階段ではない。ここに足を踏み入れたことはイコールで『次の階層に降りた』に繋がっている。上の階層と下の階層を繋ぐ概念は、起動しただけで効果範囲にいる俺たちを下の階層に降ろしてくれる。

 

 ■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!

 

 そして、足を踏み入れると同時、呪詛の籠った、怨念と称するしかない、されどその純度には目を見張るような咆哮が轟いた。

 

「……っ!」

 

「一体、どこから……!?」

 

「下がるのだ、奏者よ!」

 

「マスターもよ!」

 

 サーヴァント二騎が飛び出し、迫って来るであろう脅威に対して全神経を傾ける。しかしてそれは──

 

「え、あ……?」

 

 たまたま視界に入った透明なアリーナの床の奥に見えた、赤き、殺意を秘めた瞳により場所を把握した。

 

「下……!?」

 

「なっ……!?」

 

 それが言葉になるか否か、そのタイミングで赤き瞳の主が、灼熱の炎を口からわずかに漏らす怨念を象った漆黒の魔龍が、こちらに向かって飛んできた。

 

 どうする? 前に進む? 後ろに進む? いや、待て。所詮はエネミー。このアリーナの床をぶち壊して俺たちを焼き殺すことも食らうことも不可能のは──

 

 

◆◆◆

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「どうかしたのか?」

 

 気づけば、第二層に向かう直前にまで戻っていた。さっきの龍の『全てが憎い』と言わんばかりに怨嗟を撒き散らす瞳を間近で見て、それ以降の記憶がない。口元に溜まっていた炎に焼き殺されたのか、それとも食いちぎられて殺されたのか。それすら今はどうでもいい。

 

「おーい。聞こえてるのか?」

 

 ただ、感じたのは恐怖。これまでの相手のように『死んでくれ』と殺意を漲らせるのではなく、『お前が憎い』と憎悪を燃やしている。あれは『自分が生き残るために死んでくれ』ではなく『お前が憎いから殺す』であるあれは、自分の生存を度外視して向かって来るであろうあれは、これまでのどの敵よりも原始的な恐怖を喚起させた。

 

「ていっ!」

 

「痛っ!?」

 

 気がつけば、目の前で白野が手刀を俺の頭に振り下ろしていた。その痛みは小さなものだが、それでも俺の意識を戻すには十分な一撃だった。

 

「何するんだ……!?」

 

「さっきから呼びかけてたのに返事がないから。……それで、どうしたのさ?」

 

 話せるわけがない。死に戻りなどどう説明すればいいのだ。そうは思うが、かと言って言わなければ確実にこいつは「逃げる」と言っても納得はいかないだろう。……それに、あいつが下から狙って来るのであれば、ありえないだろうとは思うが、それでも第二層の最初のブロックが消滅してしまう万が一も考えないといけない。そうなると一度出直すというのが難しいので、あの咆哮を聞いたら前に進むしかないのだ。

 

「……俺の、ホムンクルスとしての機能はなんやかんやで色々とあるみたいなんだけど、その中にある未来視擬きが、このまま進んだら下から狙われてブロックごと破壊される未来が見えたんだよ。だから、降りたらそのまま一気に三層まで向かわないと、死ぬ」

 

 未来視……未来を見る技能ではなく、未来を体験する技能ではあるが『自分が死ぬ未来を見ることができる』という一点ではある種同類とも言える。だから、このまま進んだら死ぬことを伝える。

 

「そんな便利な能力あるんだ」

 

「あるんだよ。今日死ぬ場合のみ見えるんだけどな」

 

「……なら、レオ」

 

『ええ、聞いていました。それなら二層の探索はまずチェックポイントを解放することを目的にしましょう。そしてそれに伴い、できるようならその死因となる相手の撃破を』

 

 ──そして、もう一度二層に入る。

 

「走り抜けるぞ……!」

 

「……おっけー!」

 

 咆哮が轟く。その呪詛は俺たちを標的とし、白野が想定もしていなかったそれに一瞬動きを止めたが声をかけると走り始める。

 

「乗って、二人とも!」

 

 そこにアルターエゴがシロウを召喚し、その上に俺たちを乗せて、俺たちが走るよりも速く、移動を始める。少し進んだところで、下からアリーナの区画ごと食い散らすようにして魔龍が立ち昇った。

 

「龍相手ならこっちのものよ!」

 

 その結果、地の底から獲物を狙うのではなく、空中を舞いながら空から俺たちを狙う形となった魔龍に、遮蔽物がないため、弓による攻撃ができるようになったアルターエゴが仕掛ける。

 

「嘘っ!?」

 

 アルターエゴは「大蛇を殺して英雄となった」ので龍殺しの属性を持つ。その少女が放つ弓矢なのだから、なんらかの反応を見せてもいいはずなのに、当たったにも関わらずそんなものが一切見えない。

 さらにその位置から降りて来ることなく炎弾を吐き散らす。

 

「ええい、降りてこないと余が攻撃できないではないか! 一方的な攻撃など狡いぞ!」

 

 アルターエゴがそれらを弾きながら弓で迎撃を行い、遠距離攻撃手段を持たないセイバーがそれを弾くだけとなる。

 

「あいつを叩き落とすか何かしないと、一方的に嬲られるだけだぞ!」

 

「わかってる……わかってるけど……!」

 

 白野が堪えるように言っている通りそんな手段など、今はない。

 

「って、エネミー!?」

 

「セイバー、頼む!」

 

「任せよ!」

 

 目の前に現れたエネミーが、セイバーによってかちあげられ、炎弾の盾となりながら燃え尽きていく。俺たちが一層で苦労した相手も一撃で塵と化していくのを見れば、その威力も考えるまでもない。一撃でも当たれば、俺たちはその時点でお陀仏確定だ。

 

 走る。走る。走り続ける。

 

 恐怖という感情を叩き起こしたあの怪物から逃げるように。自分たちの死神の手から逃れるために。

 

『お兄ちゃん、少し先にある三叉路を右に行って! そしたらあとは道なりに進めばチェックポイントがあるみたい!』

 

「了……解っ!」

 

 イリヤからチェックポイントの位置を聞いて、シロウに右に曲がるように指示を出す。

 

「一旦引くよ!」

 

 後ろにいる白野がセイバーとアルターエゴに伝達する。それに従って龍殺しの属性がそこまで効果がないと理解したアルターエゴが、目に向かって氷雪の矢を放ち、直撃した地点を中心に広がった氷が魔龍の視界を塞ぐ。

 それと同時に、チェックポイントも見えてきた。

 

「チェックポイント、起動!」

 

 沈黙を保っていたチェックポイントに触れた途端、その石碑型の不可侵設置物(イモータルオブジェクト)が作動したことを示すように、内側から光をほんのりと放つ。

 

「転移!」

 

 ──その言葉とともに迷宮内部から俺たちの姿は消え、氷を振り払った魔龍の姿を、見ることがなかった。

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