Fate/Extra Loop Side   作:ぴんころ

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魔龍怨嗟 第五節

 生徒会室は沈黙に包まれていた。

 

 理由は考えるまでもない。探索の邪魔となるあの魔龍。あの存在がいる間は確実に落ち着いて探索することができない。

 

「あの龍についてスキャンしてみたわ。結構面白いことがわかったわよ」

 

 その沈黙を破ったのは遠坂凛。彼女は、あの魔龍について調べて、そしてわかった結果を公表しようとしていた。

 

「雪城くんのアルターエゴが龍殺しの属性が通用しないって言ってたけどそれも当然。あれは外装(テクスチャ)として『龍』の姿を使っているだけで、中身は私たちが戦ったエネミーの強化版。もしくは集合体みたいな存在。だからどっちかっていうと『龍殺し』よりもこれまでと同じように対悪系統の力の方が有利ね」

 

 でも、と凛は一つ、ため息をつく。

 

「それも、あいつに攻撃が届くっていうのが最低限の前提よね……」

 

「それをどうにかするのが僕らの仕事でしょう」

 

 間髪入れずにレオが返す。

 その瞳はそれが当然と思っているようで、全員の視線を受けても揺るぎはしない。

 

「あの魔龍を地に縫い付け、僕らの戦いに落とし込む。さっきまでは向こうにいいようにされていたんです。今度はこっちの独壇場にさせてもらいましょう」

 

 それと雪城さん、とレオの瞳が輪を向く。

 

「あなたの危険に関する未来視が本物だ、ということはよくわかりました。これから先にも同じようなことがあった場合には逐一の報告を」

 

 輪はその言葉に頷いた。

 

「一応言っておくと、俺の未来視は『何も知らずに行ったら確実に俺が死ぬ』場合じゃないと効果はない。どれだけ危険な未来でも『俺が生き残る可能性がある』場合は発動しないからな」

 

 正確には未来視ではないので、危険を伝えるには『一度死ぬ必要がある』ということを、そんな言葉で伝え、死なない事案に関しては伝えられない、と先に伝える。

 

「わかりました。……今日のところは二人ともお疲れ様でした。明日一日かけても何も案が出ない場合は、僕が出ることも──」

 

『いきなりのぉ…… BBチャンネルー!!』

 

 

Now hacking……

 

 

Now hacking……

 

 

OK!

 

 

『BBチャンネル』

 

 レオの言葉が終わる前に、いきなり初日のものと同じそれが出現した。

 

「はい、それでは皆さんお待ちかね、BBチャンネルで──」

 

 初めから予定されていたかのような無個性な拍手がBBを包み込もうとした瞬間途切れ、直後その瞳が疑問の色に染まる。

 

「……ってちょっと、なんでレオさんはそんなに落ち着いてるんですか。他の皆さんのように少しは驚いてください。……は? ムーンセルから派遣されてるんだから、いずれかのタイミングであの魔龍や表のものとは違いすぎるエネミーについての説明が入ると思ってた、ですか? ……なんか行動を見透かされているみたいでムカつきます。次回からは三階にいるマスターさんたちみたいに悲鳴をあげながらギャースカ騒いでくださいね」

 

 ポンと小さな爆発とともにホワイトボードが現れる。

 

「ま、しょうがありません。真面目なBBちゃんはやる気が失せても仕事はしっかりします。レオさんが言った通り、今回はあの魔龍とエネミーについてです」

 

 おっと、その前に、なんて言ったBBは居住まいをただす。

 

「まずは、ムーンセルの危機にあって『動く』と判断してくれたマスターには感謝を」

 

 ぺこりと頭をさげる殊勝な姿に、少し前の小馬鹿にしたような姿は一切見えず、全てのマスターが驚く。

 

「もしも誰も動かないようであれば、旧校舎にエネミーを放って強引に動かざるを得ないようにするほかありませんでしたから。そんな無駄なことをさせないでくれてありがとうございました」

 

 上げた顔には冷笑の表情が張り付いていて、誰もが一瞬言葉に詰まった。しかしそれに頓着することのないBBが教鞭を振るうとホワイトボードに映されるはエネミーたち。

 

「まず、凛さんが言った『魔龍=エネミー』というのは間違いないです。あの魔龍の中身はエネミーそのもの。三層ごとにある強大な防壁を突破して、突破したことで失った力を補填するために共食いをしたあと、有り余る力に肉体が耐えきれなくなり、結果『月の裏』に廃棄された、『聖杯戦争を破壊するために使用できない』と判断されたサーヴァントたちの情報(データ)を外装として纏った存在ですね」

 

 ちょいちょい、とホワイトボードに映し出された映像は、その『共食い』の映像。刺激に慣れていないマスターは吐きそうになってサーヴァントにラインを通じてなだめられたり。逆に一部の特殊なマスター(ランルーくん)は『同類を食べる』その姿に親近感を抱いて、即座に『生き残るためでしかないそれには愛がない』と嫌悪を示す。

 

「では、ムーンセルが封印していた権限をも持ち出して作ったアリーナの防壁すらも突破するようなあのエネミーは一体なんなのか。その答えは至極単純。今回の敵(侵入者)が作り出した使い魔(ファミリア)を、作られるたびに裏側に廃棄して、という工程でムーンセルが排除したのを再回収したものです。配置するよりも先に勝手にアリーナ中を駆け回っているのは予想外でしたが、それならそれで配置を考えなくていいので楽なので、BBちゃん的にはOKです」

 

 ムーンセルが対応しているのに排除できていない、ということは「ムーンセルの排除速度よりも早く生み出されている」のか。あるいはまた別の内容か。その真実を知ることはマスターたちには未だできない。

 

「まあ、『ムーンセルがまともに排除できない』と判断した相手なんですからこれぐらいできないとダメですよねー」

 

 からからと笑うBBだが、これを聞いているマスターたちからすれば全く笑うことはできない。侵入者の元にたどり着いた瞬間、サーヴァント最強クラスの実力を持つエネミーに囲まれる可能性も見えてきたのだ。そんなもの、全く笑えるわけがない。むしろ引き攣っている。

 

「ま、皆さんにはこれから馬車馬のように働いてもらうことになりますし、最大限のサポートはさせてもらいますよ。……え? あの下から突っ込んでくる魔龍についてですか? それぐらいは自力で対応してもらわないとまずいラインですから」

 

 全く、誰一人として想像していないようなところからいきなり攻撃を仕掛けてくる相手への対処が当然、というレベル。それもまた、『侵入者』としか呼称されていない人物の厄介さを示している。

 

「というわけで、皆さんの聖杯戦争時代から持つ端末にあの魔龍のサーヴァントとしての情報を送っておきました。さすがにそれを見ればいくらダメダメな人間たちでもどうにかなるでしょう?」

 

 前回と同じように手を合わせてパンという子気味良い音を立てるBB。

 

「では、本日のBBチャンネルはこれにて閉幕! 皆さんまた来週会いましょう!」

 

 

◆◆◆

 

 

 生徒会室は、最初のそれとはまた別種の沈黙に包まれていた。

 BBの謎のハイテンション。そこに混じるマスターたちへの侮蔑。さらにはサポート達が必死に調べ上げていたものをしれっと暴露されたことにより、その全てが徒労と化した事実。

 BBは、登場しただけで全員から何かしらの力を──少なくとも生徒会の面々からは──奪い取っていた。

 

「……とりあえず、確認しましょうか。BBが渡してきたデータを」

 

 少し疲れた表情をしながらも指揮を取るのはやはりレオ。全員がその言葉に曖昧に頷きながらも端末を取り出して、送られてきたメールに添付された『ドキッ! BBちゃんからの秘密のデータ 〜絶望を添えて〜』なる謎のファイルを開く。

 

【CLASS】アヴェンジャー

【真名】清姫

【性別】女性

【身長・体重】158cm・41kg

【属性】混沌・悪

【ステータス】筋力B+++ 耐久EX 敏捷B+++ 魔力EX 幸運E 宝具EX

【クラス別スキル】復讐者:B 忘却補正:B 自己回復(魔力):B

【固有スキル】怨嗟の魔龍:A 魔龍変生:A 狂化:EX

【宝具】魔天変生龍白拍子(まてんへんじょうりゅうはくびょうし)

 

 それが、あの魔龍の皮部分。『サーヴァントとしてのあのエネミー』の実力を端的に示したそれだった。

 

「……『安珍・清姫伝説』に出てくるあの清姫ですか。裏切られたことに悲嘆して安珍を焼き殺した女性。確かに、『激怒の余りに()に変化する』と原典において明言されているのですから、龍としての外殻には最適なのでしょうね」

 

「一応言っておくけど、あれは皮がそれなだけで中身はあのエネミーだからね。もしも仮に意識か何かが残ってたとしても、安珍への恨みで動くはずの清姫があんた達を狙った時点で『人類皆安珍』ぐらいに認識は歪められてるわよ」

 

 内側から操られていると考えたのか白野は顔を歪め、それに気がついた凛があれは清姫ではないと断言する。

 

「……にしても面倒ね。私のサーヴァントは敵の核を抜くけど、あれは『多数のエネミーが一つに集合して皮を被っているだけ』だから、『外側である清姫の霊核』『総体(エネミー)の核』『多数のエネミー(レギオン)のうちの一体の核』のどれを抜くのかわからないし……『槍を投げて』戦うこともできるから遠距離手段がないわけではないけど……」

 

「やはり、一番現実的なのは『落として接近戦に持ち込む』でしょうか」

 

「そうね……となると重力系統の魔術で捕縛かしら?」

 

「一時的にどこかに閉じ込める、というのもアリではないでしょうか?」

 

「でも閉じ込めるってどこに? 『あいつと戦えるだけの空間があって』『マスターの安全を確保できて』『なおかつサーヴァントの攻撃が届かないほどの高さに逃げられることのない』ってなかなかに無茶な条件だと思うけど」

 

「……お前達は今のうちに第一層で修行でもしておけ。ここで戦闘に持ち込む手段が出来上がっても素の実力が低ければ意味がない」

 

 レオ、凛、ラニ、イリヤの魔術師として優秀な面子が対策を話し合う。それに輪と白野は加わることができず呆然としていたところ、ユリウスが話しかけ、アリーナでの修行を促す。

 

「うん、そうだな」

 

「……対空迎撃用の練習もしておくか?」

 

 それに、二人が頷き、アリーナに向かう。

 生徒会室から外に出てアリーナの入り口に向かうまでの間、二人が話し合う内容は『ユリウスの変化』についてだった。

 

「なんていうか、ユリウス。微妙にとっつきやすくなったと思わない?」

 

「あれはどっちかっていうと『敵じゃない』から、一緒に戦わないといけない仲間だから『意思疎通できていないといけない』ってわかってるからの行動じゃないか? あいつ、叛乱分子対策の大元ってことは部下とかいるだろうし」

 

「それでも、だよ」

 

 白野は笑う。

 

「それでも、あのピリピリしたままの雰囲気よりは、歩み寄ろうとしてくれる今のユリウスの方が好きだな」

 

「どうせ、最後は戦うことになるのに?」

 

「願いがハーウェイの邪魔にならないなら、誰かと対立する願いじゃないなら、わざわざ戦う必要はないよ」

 

 そんな会話をしながら、二人はアリーナに向かう。

 その歩く姿はまさしく、『ただの友人の会話』というに相応しいものだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 アリーナにて過ごしている最中、ある程度の作戦は固まったことを伝えられて、帰還し、休息をマイルームで取っていた輪。その膝の上に前日のようにアルターエゴが乗って話をしていた。

 

「マスターは、聖杯にかける願いはあるの?」

 

「……今日の白野との会話?」

 

「ええ」

 

 話の内容は、聖杯にかける願い。白野とユリウス達(今の仲間)と願いの如何によっては最後に戦うことになる、と話をしたので、その辺りがアルターエゴには気になっているようだ。

 

「……うん、そうだな。アルターエゴも関係あるし」

 

「私も?」

 

「俺の願いは『俺、イリヤ、アルターエゴの三人で一緒に生きていたい』ってことだからさ」

 

「ああ、そういうこと。…………うん、それなら私はいいよ。マスター……リンがそうしたいっていうなら一生を共に過ごすのもいいかなって気がするし」

 

「うぇ……!?」

 

「どうかした……? ああ、もしかして……」

 

 クスリとアルターエゴが見た目にそぐわぬ笑みを浮かべる。

 

「名前で呼んだから驚いちゃった?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「……これから先もずっと一緒に生きていくんだから、ちゃんと慣れないとダメよ?」

 

「うん」

 

「それと、イリヤにもそのことを言わないとダメよ。あの子がどうするのか私にはわからないけど、それで勝手に連れていくわけにはいかないんだから」

 

「大丈夫、わかってるよ」

 

「うん、よろしい」

 

 今日もまた、夜が更けるまで二人は話を続ける。途中、イリヤも入ってきて微妙に騒がしく、三人でのいつもの夜が過ぎていった。




アヴェンジャー清姫の能力などは倒した後に公開するよ
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