Fate/Extra Loop Side   作:ぴんころ

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魔龍怨嗟 第六節

 何者かの侵入を、龍を象った悪性は感じた。

 小さく、呻く。

 

 ああ、どうして自分は今こんなところにいるのだろうか。その質問に答える人物はおらず、その質問はそもそも意味のある言葉として世界に出ない。

 

 侵入者に向けて、その龍は目を向ける。

 

 ああ、あれは年頃の人型()だ。

 ああ、人型()を連れている。

 

「■■■■A?」

 

 そうだ。あの人型()だ。

 だって、あの人型()は他の人型()を連れている。

 つまり、それは、また裏切ったということで──

 

「………………chin」

 

 許されない。許されない。許されていいはずがない。

 二度目の裏切りなど、例え誰が許そうとも、例え神が許そうとも、この私(裏切られた張本人)が許さないのだ!!

 

「Aaaaaaaanchiiiiiiiiiiiiinnnnnnnnnn!!!!!!!」

 

 その思いが篭った呪詛が、人にも理解できる言語として、安珍という怨敵(愛しい人)の名前を叫ぶ咆哮と化す。

 例え全てが消え失せても。そもそも『清姫』という人格すら最初から存在しないはずのこの存在が、安珍の名を出すとは。霊基(データ)の全てに、例え皮だけであろうとも、内側を乗っ取った輩すら染め上げ、名前を出させるほどに、内外問わずに染み付いているのだろうか。

 

 魔龍は飛び立つ。怨敵に向けて。

 この怨敵を殺しても、いずれまた別の存在を怨敵とみなすだけだ。そんな事すら理解できていない彼女(エネミー)には、目の前の怨敵を殺すだけしか頭の中にはない。

 

 皆殺しの殺意を乗せた怨龍は、急速に速度を上げていく。殺意は、無限に。あらゆる全てを撃滅するために。

 

 

◆◆◆

 

 

 そしてそれを、正面から見据えている()()がいた。

 

「頼んだよ、ランルーくん」

 

「今回の切り札だしね」

 

「あなたの成功が、作戦遂行のための最低条件です。その力を見せてください」

 

「クスクス……ウンワカッテルヨ。……ランサーヤッチャッテ」

 

 白野、輪、そしてそれに加えて、レオとランルーくん。今回の作戦においてベストメンバーだと判断された四人。

 

「任せるがいい、我が妻よ」

 

 その眼前に立つのは彼女のサーヴァント、ランサー。頭上から飛んでこちらに突っ込んでくる魔龍を見据える。

 

「龍と化すほどの怨嗟を持つ者よ。その怨嗟は安珍という男に向ける分には、何も間違ってはおらぬ、汝が持つに相応しき嚇怒であろう。だが──」

 

 槍が、宙に浮かんでいく。重力に逆らい、その地上を一時、吸血鬼(ドラキュラ)が舞台たる月夜へと反転させる。

 

「その怒りを向けるべき相手すら認識できなくなり、無関係の者にまで手を出した時点で、貴様のそれは『正当な復讐』では断じてない!」

 

 周囲に、槍の地獄が具現する。串刺しにされた亡者を幻視するのは、アリーナ内部にいる輪と白野だけではなく、サポートのために生徒会室からそれを見ている他のマスターたちすらも。

 

「故にこそ! 貴様の犯すその不徳には、地獄の具現こそが相応しい! 受けるがいい、『串刺城塞(カズィクル・ベイ)』!」

 

 龍の突撃を躱した面々が見たのは地面に突っ込んだ龍の顎門を、地面から生えた巨大な槍が縫い止め、さらには顕現した大小様々な槍が怨嗟の鎧に覆われた鱗を無残に砕く。そんな光景だった。

 

「グルァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 それに、もがけばもがくほどより深く抉る槍に対して、されど眼前の安珍(四人のマスター)を殺すために動きを止めることをしない魔龍。

 

 こうして地上より飛び立てなくする、というのが生徒会の面々が立てた作戦。

 

 ランルーくんがサーヴァント、ランサー。その真名をヴラド三世。そしてその宝具は対軍宝具『串刺城塞』。生前行った串刺刑が由来となった粛正宝具。悪逆を成すアヴェンジャー相手にはこれ以上ない宝具。

 それを用いて『安珍(人間)焼く(殺す)』憎悪に塗れた龍の肉体を縫い止めて、その間に清姫を滅ぼすというもの。

 レオが投入されたのは『ランルーくんの魔力が尽きるまで』という地上で戦える時間に明確なタイムリミットがある中で、確実性を持たせるためだ。

 

「ガウェイン」

 

「はっ、太陽の聖剣を以てかの魔龍の憎悪を焼き払いましょう」

 

「セイバー、頼む」

 

「任せよ、奏者よ……華麗に舞うとしよう!」

 

「アルターエゴも」

 

「うん。……容赦しないけど、ごめんね」

 

 

──ランルーくんの魔力が尽きるまで(45秒以内)に清姫を撃破せよ

 

 

 走り出す、二騎のサーヴァント。前衛(セイバー)二人と後衛(アルターエゴ)一人。配置はそうすると、ここに来る前に決めていた。

 自らの身を抉る、自らに対して特攻を持つ(対悪属性の)槍の数々を無視し、ただ目の前に存在する三騎の安珍(サーヴァント)を滅ぼすために、顎門を貫く槍をも無視して強引に肉を裂きながら口を開いて炎を放つ。

 

「はっ!」

 

 ガウェインが少し前に出て、その龍炎を、太陽の炎を纏わせた聖剣にて打ち払う。その上を飛び越えて今は白き花嫁衣装に身を包んだ情熱の皇帝が唐竹割りを放つも、対悪属性など持たないその剣は生来(テクスチャ)の頑健性には敵わず、鱗によって弾かれる。

 

「ならば、仕方あるまい!」

 

 弾かれ、滞空するセイバーはその場で一回転。斬撃が通用しないということはあっても、その剣が叩きつけられた時の衝撃まで無効化されることはないだろうと考え、斬撃でなく打撃で、剣ではなく鈍器として剣舞を放つ。

 

「『喝采は剣戟の如く(グラディサヌス・ブラウセルン)』!」

 

 もとより縫い止められた身。その状態で動くことができない巨体など、ただの的にしかならない。炎を放つために開いていた口を強引に閉じられて、内側でその炎が爆発する。それでもと攻撃しようと尻尾を仕掛けようと槍に貫かれた尻尾を振るう。

 

「させると思う?」

 

 そこに、アルターエゴの放った矢が「龍殺し」の属性を以って龍の外装に突き刺さり、対悪属性を持たぬために内部の本体には一切の痛痒を与えない。けれど、宝具『吠えよ我が友(オプタテシケ)我が力(オキムンペ)』の一部として放たれた矢であるが故に、『最後の剣撃に繋げるための、敵を縫い止める氷柱』が発生し、尻尾が動きをわずかに止められる。

 

「全て、我が王のために」

 

 その刹那の硬直の隙に、ガウェインが走りながらも水平に構えた剣に手を添えて、剣身を撫でることで太陽の聖なる焔を纏わせた。破壊力をその焔を以って上昇させた『忠義の剣閃』の一撃が、これ以上ないほど綺麗に、先のセイバーの一撃をなぞるようにして放たれた唐竹割りとして決まる。

 

「■■■■────!!」

 

 もはや死に体。そうとしか言えない肉体ではあるが──

 

「ウン……ゴメンネ……ソロソロ……限界ミタイ……」

 

 その肉体が龍であるが故に、普通なら死んでいるのが当然としか言えないような傷ですらも死には届かず、そしてそのしぶとさによってランルーくんの魔力が尽きるまでの時間を耐え抜いた。

 

「くっ……ですが、今一気に畳み掛けます!」

 

 レオの宣言により戦闘が続行される。確実に倒しきれると判断したのか。あるいは『ここで逃したらもう同じ手段は通用しない』と考えたのか。その答えは『どちらも』としか言えない。だが──

 

「なっ!?」

 

「嘘だろ……?」

 

「自分の、首を……」

 

 ブツリ、と音がしたと思ったら、ガウェインが切り裂いた首から上の部分を切り離すかのように首元から血が溢れ出す。ゴトリと音がした時には首から上が落ちていて、全身揃っていないと飛び立てないのか、首から下の部分が傷ついた尻尾を地面に叩きつける形で飛び上がり、この階層からの脱出を計る。

 

「逃しません!」

 

 レオのコードキャストであるbomb(32)が発動し、その飛び立とうとした巨体を撃ち落とす、はずが──

 

 

──戦うに値せぬものの介入(その悪性)を許さぬ。

 

 

 そのコードキャストは不発に終わり、レオは驚愕の表情になる。けれど現実は変わらず、コードキャストの不発により阻害するものが存在しないために魔龍は逃げ出すことに成功した。

 

「……っ、そうか。あの外装(魔龍)は滅んだところで本体たる中身には関係ない、ということですか……! 今から追います! ミス・ランルー。自力で戻れますか!?」

 

「チョット……厳シイカナ?」

 

「でしたら、白野さんと輪さんは僕とともに追撃を! サポート(校舎側)は一人がミス・ランルーの回収を! 残りはあのエネミーの追跡をお願いします!」

 

『了解!』

 

 未だ、戦闘は終わらない。

 

 

◆◆◆

 

 

「こういうことを言うのは不謹慎かもしれませんが、楽しいですね」

 

「楽しいって、あんな化け物と戦うことが!?」

 

「もしそうだったらレオって結構戦闘狂(バトルジャンキー)なのか?」

 

 走りながら、レオの言葉に信じられないと思い、言葉を返す。

 

「いえ、違いますよ」

 

 けれどレオはそれを否定する。

 

「こんな風に、『誰かと協力して何かをする』というのは、僕のこれまでの人生に存在しませんでしたから。同じ目的を持った、同じ立場の人物と一緒に、こうして何かをするというのはとても楽しい!」

 

 そんな風に笑うレオは、王としての姿ではなく、ただの年相応の少年のようで。彼が初めて体験した『仲間との共闘』ということが、『誰も知らないレオ』を引き出している。

 

「願いが相入れぬ場合、いずれ戦うことになるというのに! 今はこうして対等な立場で共に戦えることが楽しいんです!」

 

「……なら」

 

「今回限りの共闘、なんてことにならないように、誰も死なないで戻らないとね」

 

 なんとなく、俺も楽しくなってきた。レオやハーウェイの願いなんて知ったことではないし、俺の願いもそれに関わらないので、肉壁から肉壁(仲間)として見てもいいかなと思える程度には、多分心を許している。白野も、レオとの共闘という事態がとても楽しいらしい。笑っている。

 

『三人とも!』

 

 そこに、遠坂からの通信が届く。

 

「アヴェンジャーの反応を追ったところ、次の階層にいるわ! しかも、使用した魔力を回復するための巣みたいな魔力スポット(回復地点)まであるみたい! 急がないと万全な状態のあいつと、今度はランルーくんの援護なしに戦うことになるわよ!」

 

「ええ、わかりました。でしたら、その地点までの案内を。最短最速で向かえるルートで」

 

『むちゃくちゃ言ってくれるわね!……ええ、でもやってやるわよ!』

 

 遠坂が、三階のデータを強引に精査し始める。虚数空間に存在する人工物であるがゆえに、本来ならば観測などそこに存在する実数(人間)の周囲しか不可能なソナーを、アヴェンジャーにつけた傷を基に、その傷に残る魔力の残滓を追い、ラニとイリヤ、二人のホムンクルスの演算能力を借りる形で、アリーナに突入している三人の視覚情報から得られたデータとアヴェンジャーの地点から、いくつものアリーナの構造の予想を立てて、それらを走る三人の視覚から得られる新たな情報によって間違っているものを削除していく。

 声を聞いて、だいたいやっていることを予想しただけだが、普通の人間には不可能なことで、優秀な魔術師と優秀なホムンクルス二体がいてもほとんど不可能なことをやってのけた遠坂に戦慄する。

 

『最後! そこを右に!』

 

 結果、たどり着くまでにかかった時間は、絶対に三人で闇雲に探し回るよりも短いものだったと断言できる。

 

 

◆◆◆

 

 

 ああ、ああ、(データ)が足りない。

 安珍(奴ら)を縊り殺すための力が足りない。

 

 今のままでは勝ち目がない。

 このままでは逃してしまう。

 

 ただ直すだけではダメだ。

 もっと、何かもっと新しい力を得ないと。

 

 そうだ。自分の肉体すらもういらない。

 安珍(人間)を殺すのであれば、もはや今のままの姿にこだわる必要すらない。

 

 焼き殺す必要はない。殺すことが重要なのだから。

 飛ぶ必要などない。空から攻撃などせずとも、頑健な手足と、強靭な力があれば、四肢だけでも殺し尽くせる。

 

 ああ、もっと。何かもっと。

 

 己の身を強靭とするものはないだろうか……?

 

 己が生まれた悪意の海(悪性情報)の中を漂う。ここにあるのは破滅をもたらすものばかり。巣にて眠ればいつでも行ける場所であるがゆえに、今も回復に勤めながら、その中でさらなる強化を己に施すものを探していた。

 

「Aaan──?」

 

 ふと、今の肉体に似たものを見つけた。

 それが、己にふさわしい、となぜかそう思える。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、思った。

 

 ──悪竜現象(ファヴニール)

 

 その名前が、己の頭によぎった。




アヴェンジャー清姫は基本男は全員安珍。女は戦闘を始めると安珍に見えます。しかもかなり思考が支離滅裂で最終的に全部安珍が裏切ったにたどり着きます。まず安珍が裏切ったという結論ありき。
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