アリーナに潜る。今回の始まりは第三層から。ユリウスがチェックポイントを動かしているとはいえいきなりの第四層は狙われる危険性が高すぎる、ということでレオの指示によって輪と白野の二人は三層に降りてきていた。
「じゃあ、行こうか」
「ああ、わかってるよ白野」
四層に二人が足を踏み入れる。と同時、遠吠えが響き渡る。
『二人とも、リターンクリスタルを使えるように! ……もうバレてるわよ!』
「セイバー!」
「アルターエゴ!」
同時にサーヴァントを呼び出して、正面から来る大量のエネミーに対して備える。二人が疾駆し始めてエネミーの大群に接敵したタイミングで──
「え……」
ようやく、己の真横に死神の鎌が迫っていたことに気がついた。
走馬灯のように全てがスローモーションに見える。狼とそれに乗った首無し騎士。上に乗っている首無し騎士がへシアンのはずだが、それが持つ大量の鎌のような鋭い闇が首元に迫って──
「じゃあ、行こうか」
気がつけば、白野と共に第四層に入るところにまで戻っていた。
「ストップ」
「え?……あ、もしかして?」
頷く。一度「未来視」という形で伝えたことがあるが故に、簡単に止まってくれた。
「どんな風だったの?」
「前から大量のエネミーがやってきて、そっちの対処をしている間にアヴェンジャーに首を刈られる」
「そのエネミーを抑える役を入れるか、もしくはこっちがエネミーを抑えて誰かがアヴェンジャーと戦うか。そうしないと勝てないってこと?」
「俺の見た限りだと」
『少々お待ちを。……どうやら校舎内で小競り合いが起きているようで、そちらの対処をランルーくん、モンジ・ガトーに行ってもらっていますが、そちらに何が起きるかわからない以上、こちらから下手に兵力を動かすわけにはいきません』
ラニから、そんな通信が入る。
『今探索をしている三人のマスターじゃ力不足だし、レオと凛のサポートはどっちかが外れることはできても二人同時は無理だからねー』
ついでイリヤからも。仲間割れ……旧校舎に共にいても一緒に戦う仲間ではないのだから仲間割れと呼んでもいいのか謎だが、そんな事態のせいでマスターが動けないらしい。
『ですが、動かないといけない、というのも事実です。……ミス・アインツベルン。確か輪さんは昨日、アルターエゴの肉体の動きを阻害するレベルの魔力を宝石に貯蓄した、と言いましたね』
『ええ、その通りよ』
そんな会話が、生徒会室側で為されているのが聞こえる。
『でしたら、その魔力は僕何人分ですか?』
『……正確に把握できるわけではないけど、だいたいの換算でいいなら──』
イリヤが口にした数字は、自分の中に一時的とはいえあったとは思えない数字で、それを聞いて何か納得したような色を見せているレオの姿が思い浮かぶ。
そして、このことから宝石を使用するのだということもわかるが、ただの魔力の塊にしかならないあれをどう使うのか、謎だ。
『なるほど……でしたら、二人とも。一度戻ってきてください。それの対処を行えるであろう術式を譲渡します』
「そんなものがあるのか?」
『ええ……可能性は低いですが、それでも無策で行くよりはマシでしょう』
大量のエネミーが疾走する。生徒会室から戻り、四層に入り込んだところ、先の周と同じように大量のエネミーが出現したのだ。今はまだ姿を見せないにも関わらず、けれど狼の存在感を感じる。
「■■■■───!!」
今回もまた、気づいた時には死神の鎌が首元に触れそうに──
「二回目はないわ!」
なったところでアルターエゴが転移してきて弾く。シロウを控えさせておくと、気づいているのかさらに大量のエネミーを特攻させてシロウも出ざるを得なくするので、こうして全ての戦力をエネミーの駆除に差し向ける必要があり、そうなると疾駆するアヴェンジャーの攻撃を弾く手段がない。
だから令呪を使った。
『アヴェンジャーの攻撃が届きそうになったら、転移してきてそれを防ぐ』ことを令呪で命じた。だから防いだ。それだけの話。
殺し損ねたと判断するや否やアヴェンジャーは一旦逃げようとするが、それをさせては令呪で命じた意味がない。
だから、レオから借り受けた術式が必要になる。
「真名開帳。不浄よ、浄滅せよ」
これは、決闘の開始を告げる号砲である。
「これは全ての邪悪、全ての怨嗟を焼き払う、太陽の聖剣。起動せよ『
両手で数えられる程度の数しかない中で、今回の一件のために細工された宝石に魔力を通すことで、そのまま急造の経路であるために幾分か魔力が零れ落ちるロスが発生しながらも
エネミーを外、アヴェンジャーを内に閉じ込め、外に出ることも、中に入ることも許されない。
「この宝石の魔力が尽きるまで付き合ってもらう」
「その間に倒させてもらうわ」
「ユリウスの仇を取らせてもらうぞ……!」
「うむ。仲間をやられて我慢できるほど、余は我慢強くない!」
この宝石にある魔力だと魔力の伝達がしっかりしていないことを鑑みて、だいたい十〜十五分の間で途切れると判断されている。そのため、余裕を持って観察に徹する時間など作ることはできない。
──死を纏う者:A
アヴェンジャーが己が炎の檻に捕らえられたと知り、その霊基に刻まれた生前の記憶が衝動となってその躯体をを駆け巡り、満たす。復讐の怨嗟が、人間への憎悪が、呪詛が形を成して外装と化す。へシアンが纏う鋭き闇となり、ロボが咥える怨嗟の鎌となる。
「行くぞ……!」
走る、走る。
爆速を以て駆けるロボの進撃は、これまで見たことがないほどの速度だった。
当人にそんなことを思考するだけの知恵が残っているのかは謎だが、触れれば人間でしかない俺たちは確実に死ぬ。それを二人の本能が理解した。
宝石から魔力供給されているために『聖剣集う絢爛の城』以外に全ての魔力を回すことができるので、輪から魔力を引き出してすでにアルターエゴは『
「貴様はこっちだ!」
さらにそこに合わせてセイバーがロボに向かって炎熱の剣を解放する。本来、筋力Dでしかない彼女には真っ向から打ち合うだけの力などないはずなのだが──
──皇帝特権:魔力放出(炎)
シモンから魔術を学んだ
この戦いの肝となるのはセイバーの方。少なくとも『ロボがいる限り神速の暗殺を避けることができない』という、四足歩行の魔獣と元が人間でしかない英霊の差異から生まれる絶対の現実がある。故にこそ、この場で確実にそれを倒さぬ限りは、別の作戦を立てない限りは探索は不可能となる。
そんな戦いが、幕開けた。
『聖剣集う絢爛の城』の展開時間は少なく見積もって十分だと言われているが、輪たちにそれは関係がないことだった。
「厄介、ねっ……!」
七つの固形化した闇と、両の腕に一つずつ持つ不気味な鎌。それら全てにバーサーカー印の剣技を以て対応する。確かにそれを振るう筋力はとんでもないものだが。それを構成するための大元のスキルも強力なものだが。何よりもそれを構成する
ならばなぜ今、彼女はそれを無視せずに一つ一つ対処して戦っているのか。
その答えは単純に、バーサーカーの力を完全再現できていないから。
元々がこの宝具はバーサーカーのクラス特性たる『狂化』も載せられることによって、彼女が理性を保ったまま戦えるのは十分が限度。その時点で十分以上『城』が保っても意味がない。
さらにそこにアルターエゴがバーサーカーになるのではなく上乗せするという、本来彼女の霊基には想定されていない力を使用しているために、彼女の体には負担が大きい。
そのため、彼女は上乗せする力の取捨選択を行い、結果として『
敵の魔力は最低ランクであり、対魔力も持たないために、魔術を用いて攻撃すればこの状況を脱することもできるだろうが、そんなものを使う隙を与えないかのような殺意の発露。
そしてそれだけではなく──
「これで少しは──っ!」
アルターエゴが防御を抜いて迫り、対人特化の『射殺す百頭』を放つ。けれど──
威力が、目に見えて減衰する。傷をつけることができても殺しきることは不可能なレベルに。
そして、スキル構成を見たときにこれを可能とするスキルはなかった。
──■の因子:C
これ以外には。
そして、そのスキルの影響は白野とセイバーにも出ていた。
「セイバー、援護する!」
放つコードキャストは清姫の時と同様にスキルによって無効化され歯噛みする白野。
「問題ない! 自分の身だけ案じているといい、奏者よ!」
「それこそ、セイバーがいれば大丈夫だよ」
「む、それもそうか。ならば──」
セイバーの剣に纏わりつく炎が一層濃くなる。全てを照らし、焼き尽くす太陽とはまた違う、一個人の情熱を顕現させた炎が、より強き力をその総身に与える。
それにより増大した力で、ロボを一度弾き飛ばしたセイバーは、一度マスターの近くまで下がり──
「その期待に応えるとしよう!」
魔力をジェット噴射のように扱い、一気にロボの目前まで迫る。
『
最も基本の。ただの魔力による射出を受けての一刀。けれどそれがスキルとして昇華されている以上は、その一撃は絶大な威力を持つ。
それを──
『■の因子』が必殺の一撃の威力を、減衰させる。
「奏者よ。こやつ、厄介すぎるぞ!」
すでにこれも数度目。攻撃は全て弱体化させられ、致命の一撃となり得るはずの英霊の
「でも──!」
けれど、白野は倒せないわけではないと断言した。
「あいつ、『一撃で殺せる威力の攻撃』を軽減してるだけだ! だったら、連続で攻撃を仕掛けて地道に削ってやれば──!」
「時間制限があるのに無茶を言ってくれるな! ……だが、それだけわかっていればやるだけだ! 余は、奏者のサーヴァントなのだからな!」
咥えた鎌ではなく、憎悪を力と変えた爪の一撃が空気を裂きながらセイバーの身に迫る。
速く、早く、疾く、捷く。
セイバーが退く時間などなく、故に彼女が取れたのは、ただ己の前に剣を構えてその剛撃を受け止めることだけ。
その重さによって下がりながら、暴風によって発生した鎌鼬が、セイバーの肌に裂傷を生み出していく。そこに獲物の肉体に入る経路ができたと大気に撒き散らされていた呪詛が潜り込んでいく。
──死ね
端的に、ただ殺意を向けるだけの呪詛。けれどその呪詛の濃度は、外皮も中身も『人類への殺意』は大きく、たったそれだけで心の弱い者であれば即死するレベル。だが──
「舐、め、る、なァァッァァァァァァッァ!!!!」
怒号と共に、皇帝特権が発動する。精神耐性を手にする『勇猛』を獲得し、己を苛む頭痛もこの一時だけは無視して、呪詛による
剣を構え、斬撃ではなく突きを放つ。音速の技。すでに減衰しても殺しきれると判断したことで、防御を考えない一撃。
「■■■■──!」
「終わりだ、狼王!」
闇の鎌による一撃が、それを迎え撃つ。満身創痍の己の身を理解して、退けないことも理解して、その上で『確実にこいつは殺す』と絶殺の決意に満ちた、己の生存を考えない一撃。
それらが交差する。
セイバーの剣はロボの肉体を貫き、ロボの鎌はセイバーの肉体に深々とした裂傷を刻み込んだ。
アヴェンジャーは倒れる。己が無念を嘆くように、命の火が消えかけながらも呪詛以外には何もない小さな咆哮を白野とセイバーに向ける。
セイバーは倒れそうになるも、瞬間、彼女の周囲に魔力がゆらめき、それにより力を取り戻す。
『
自らに事前にかけておく蘇生魔術。それが発動し、セイバーの生存を確定させた。
「すまぬ、奏者よ。……さすがに、余は疲れた……」
「うん、お疲れ様、セイバー」
ロボが消滅した後も、動けるようになるまでには時間がかかりそうだった。
そして、ロボが消滅したことはもう一つの戦場にも影響を与えていた。
「……!?」
『へシアン・ロボ』という一体のサーヴァントとしての繋がりからロボの消滅を知覚し、頭はないが、驚いている気配を発するへシアン。わずかに、攻撃が緩む。そしてそれだけの空隙があれば
「遅いっ!」
小柄な肉体をそこに潜り込ませる。大剣から『射殺す百頭』を放って吹き飛ばすと、そのまま開いた距離を詰めるのではなく通常の姿に戻る。
「シロウ!」
神代の
「これで──!」
アルターエゴがシロウに乗る。シロウの一撃がへシアンを殴り飛ばす。そこにアルターエゴの弓矢が迫る。一回戦を勝ち抜いた際に使用された彼女の宝具。
「おしまいよ──!」
『
その斬撃が、凍りついたへシアンの肉体を粉々に砕いた。
一回限りの主人公によるソード・キャメロット。