休日をアルターエゴと共に過ごし、ほとんど構わなかったことにご不満な
「何かあったのか?」
「ああ、雪城さんですか。……ええ、考えうる限り最悪の知らせです」
岸波さんにも伝えないといけないので後で一緒に伝えますね、というレオもどことなく疲れていて。そのどんよりとした空気の中、未だ不満そうにするイリヤを撫で、彼女が相好を崩す姿に癒されながら最後の一人たる白野を待つ。
「おはよ……ってどうかしたの?」
白野がやってきたのは少し後。白野にも、この生徒会の空気を理解することはできたらしい。俺も、レオにそろそろいいだろ、と視線で問いかける。
「昨日、お二人が休んでいましたが、その間も残りの三人のマスターに探索をしてもらっていました。それは覚えていると思います」
頷く。確かに「残りの三人に探索をお任せします」と言っていた覚えがある。ということはその三人に何かあったのだろう。
「あの三人がアリーナ内で死亡しました」
……やっぱりか。
そうだろうとは思ったが。そうでもなくても「これから先の戦いにはついてこれなくなりました」あたりが出て、少なくとも戦力として数えられなくなることは予想していた。
で、一体どんなエネミーに殺されたのか。四回戦まで生き残ったマスターとサーヴァント三組を殺害しうるエネミーだ、ということは俺たちも油断したら一気に殺されるだろう。どんな相手でも油断するつもりはないけれど、それがどのエネミーかわかっているのとわかっていないとでは意識の持ちように変化がある。
「それに加え、死亡直前の連絡から『お二人が打倒したサーヴァント・エネミーが大量に出現している』ことがわかりました」
「は……?」
そっちはさすがに予想外だったので、奇妙な声を漏らしてしまう。
「僕も最初に聞いた時は驚きました。……ですが、あり得ないわけではないんです。僕らがサーヴァント・エネミーと呼称するあのエネミーは、『大量のエネミーが共食いをした結果生まれた存在』だとBBは言っていました。では、下からやってくるエネミーの供給を削らない限り、あの階層で無限に生まれ続けるんです」
「待ってレオ。確かBB言ってなかったっけ……?」
白野が、何かに気がついたかのように質問をする。ああ、そうか。確かにBBは言っていた。
「もう三階層あるって言ってたな……」
俺は、だから口にする。これから先攻略する上でこの事実を考えないわけにはいかないのだから。
「ええ。ですが、今から作戦を立てて、それを実行して、を繰り返したのでは、おそらく永遠にたどり着けません。ですから──」
──タイムアタックです。
レオは、真面目な顔で言った。
「タイム、アタック……?」
ええ、とレオは頷く。
「断言できます。僕たちがどれだけ頑張ったところで、僕たちが今存在する全てのサーヴァント・エネミーを駆逐して安全に散策するのは不可能です」
「なんでそれを言い切れるんだ?」
俺の質問が飛ぶ。しかし答えたのはレオではなくラニだった。
「三階層ごとに強力な防壁がある、ということと、それによって失った力を取り戻そうとしていることが原因です」
さらにそこに遠坂の言葉も加わる。
「三層までにいた相手と四層以降の相手だと、元々の実力に近いのはどっちかって言われると、その二つの間にある壁を超えたか否かの差で四層以降の方が近いでしょうよ。……でもそれって、元々の力を取り戻すのに必要なリソース量は四層以降の方が少ないってことになるわ」
そして最後はレオが締める。
「そして先ほども言いましたが、『大量に発生している』というのが問題です。一体倒すのにかかる時間と、下から上がってきたエネミーの共食いによる発生のどちらが早いか、と言われると……」
「なるほど……」
「ですので、最下層まで一気に駆け抜けます。どこかで休息を入れると確実にまたサーヴァント・エネミーが増えるでしょうから、一度も休むわけにはいきません」
──異論は?
出ることはなかった。
「まさかあんたと一緒に走ることになるとは思わなかったわ」
「それは僕もですよ、ミス遠坂」
「あはは……二人とも仲良くね?」
今回に関してはそのまま侵入者との決戦に向かうために、今現存するマスター全員が出発することになる。そのため、不倶戴天の敵である二人は今の時点でもちょっとした牽制を行なっているが、それでも険悪な雰囲気はない。だから白野もそんなことを言いながらも、特に諌めることはしない。
『四人とも、準備はよろしいでしょうか?』
『一気に駆け抜けるんでしょ? こっちでできる限り道のサポートはするけど、完全じゃないから結構厳しいことになるよ』
「ええ、わかってます。以前、道が全くわかっていない状態で完全なサポートに徹した
茶化しあいながらもアリーナに入る。……これが、きっと最後になるのだと信じて。
『どちらから入りますか? 三層と四層を繋ぐ階段前のチェックポイントなら、あの階層でサーヴァント・エネミーを作り出すのには時間がかかるでしょうから、これまでに他のマスターが探索と同時に多数のエネミーを撃破したことも合わせておそらくは安全に入れます』
『逆に、四層と五層を繋ぐ階段前なら、襲われる危険性はあるけど、一階層ショートカットできるわ。襲われる距離を短くする代わりに入った直後から狙われるか、襲われる距離はそのままの代わりに安全に入るか』
「ふむ……それでしたら──」
《center》◆◆◆
走る。走る。レオの案により三階層から入ったところ、四層に入った直後、後ろから追いかけて来始めた魔狼を無視し続けて。時折俺に向かってくる攻撃は、前回の戦いの時に使用した令呪の効果が未だに残っているのか、たとえどれだけのものであろうと全てアルターエゴが弾き、他の面々も弾いているようだ。
次の階層に繋がる階段を発見し、それぞれがそこに触れて転移をして、俺も最後に触れたところで──
頭上に魔狼が一匹出現する。すでにアルターエゴはその階段の機能によって一時的に霊体化して、俺に付随する情報として魂内部に格納されているために、対応ができない。
憎悪に濡れた瞳と、その憎悪が生み出した概念兵装が、俺が次層に向かう、どうしようもなく抵抗できない瞬間を狙って殺しにきた。
その殺意に肉体が硬直する。けれど迷宮の機能は滞りなく俺の肉体をデータへと変換させて、結果として漁師変換の途中に重なる一撃が、俺の一部を削り取る。
──あ
何か、重要な部分が削れた気がした。それでも、俺の意思など無視してやはり肉体の変換は続き、それが終了したと同時に次の階層に移動が終了した。
「全員、無事……!?」
遠坂の視線はおそらく俺の方を向いているのだろう。でも、ああ、問題ないと伝えないといけないのに、俺の唇は一切動かない。欠損している。さっきのあれで、間違いなく
待ち受けるのは電脳死。アルターエゴが死ぬたびに起きた俺の死に方なので、もはやこの感覚も、次にどの部分が消えていくのかも理解できている。それぐらい、慣れ親しんだ死に方だ。
プツンと切れる俺の意識。ああ──次──と──しな──
幾度か試したけれど、三層から入って四層から突入するとどうしようもなく手が足りなくなることを理解した。故にそれを伝え、四層ラストから入ることになった。
そっちでも数度殺されたが、その代わりに文字通り死んで道筋を覚えたから、もう迷う心配をする必要はない。迷ってる最中に殺されたこともあったので、最短距離で向かえるのは重要だ。
たどり着いた階段に、けれど俺が心配する必要は今度はない。さっきは俺が最後だったからあんなことになったのであって、優秀な魔術師なら、あの攻撃を知っていれば十分に対処できるレベルだ。
だから──
「
俺が、俺たちが移動した後、殿を務めていたレオが、触れようとしたところで狙われた瞬間に迎撃の術式を放って、転移することなくアヴェンジャーと向かい合う。
「知っていますか、ガウェイン? この状況は『ここは僕に任せて先に行け』という、言った人間は死んでしまう状況らしいです」
「何を言うのですか、レオ。そのようなことはありません。このガウェイン。どのような状況であろうとも、貴方の道を切り開きます」
「ええ、知っています。ただ、そんなことを僕がしている状況が、もうすでに楽しいんです。僕は王である以上、これまでの王の事例を見れば、『貴方は生き延びてください!』と逃がされる側に最後はなるものだと思っていました。そんな僕が、誰かの道を切り開くために、自ら囮になるなんて、きっとこの月に来た頃の僕は思ってもみなかったと思います」
ジリジリと、距離を保ったままのアヴェンジャーとガウェインの戦場に新たなアヴェンジャーが推参する。
「そろそろこんな話をしている時間も終わりですね。──では、さっさと片付けて僕たちも追うとしましょう」
「はっ!」
ガウェインが構える。アヴェンジャーがさらに増える。戦端の幕開けは、どちらからともなく。
「走れ!」
レオが残ったことを理解して、レオを待とうと躊躇する二人を叱咤する。ここで待っていてアヴェンジャーに襲われて死んだことも数回。電脳死も首刈りによる死にも慣れてしまった。嫌な慣れだ。けれど、それがある故に、レオがあとで追いつくと信じて走り抜けるしかないとも理解している。この階層を抜ければアヴェンジャーの階層は抜けられる。次の三層はここまで無茶苦茶な階層ではないと信じたいのだが、それもこれもまずはたどり着かないことには話にならない。ので走る。
上空に魔狼が出現する。おそらくは別の通路からジャンプして来たのだろう。唐突すぎる出現だった。それはアルターエゴが対応するも今度は前に別の個体が出現し、首を狙ってくる。
それを視認するよりも早く、肉体に急ブレーキをかけて、俺が進む速度も計算した上での鎌の動きを躱す。足にかかる負荷は嫌なものだが、こうでもしないと躱しきれないとわかっている以上は躊躇しない。返す刀で振るわれる鎌は──
「させるかよ!」
遠坂凛のサーヴァントたる
「道を開けよ!」
それにセイバーが斬りかかり、またわずかに、アヴェンジャーが対応できない空白の時間が生まれる。けれど──
「ああ、もう、面倒ね……っ!」
さらに数体のアヴェンジャーが出現し、階段への道と、そして後方から襲いかかってくる。
「仕方ない……か!」
そこに遠坂が、何かを覚悟するかのように一度呟いて
「二人とも、先に行きなさい! あんたらが向かう時間をきっちりと稼いであげるわ!」
「えっ……!?」
「何言って……!」
「レオが体張ったってのに、私が体張らないわけには行かないでしょ」
そう言って、一度動きの止まった俺と白野を見て
「あんたらじゃ数秒で死ぬもの。無駄に一人死ぬ人間を追加するのと、あんたらが駆け抜け終わるまで持ちこたえられる人間のどっちを残すかって言ったら、そりゃ後者でしょ」
「……わかった」
「でも……!」
まだ何か言おうとする白野を強引に掴んでそのまま階段に向かう。
階段の機能によってこの階層から姿を消した二人を見送り、ランサーとともに遠坂凛は階段を背に向き直る。
「さ、私たちもこいつら全員片付けてあの二人の後を追うわよ、ランサー。クランの猛犬と言われたあなたがただの犬に負けたりはしないわよね」
「はっ、いいねぇ。これだけの相手だ。戦いの相手としちゃ申し分ない。……だが、どうしてあの二人を先に行かせた? ここでまとめてぶっ倒してから進むでも良かったろうに」
答えはわかりきっているというような表情をしながらも、わざわざ凛に問いかけるランサー。それに嘆息しながらも凛は答える。
「あの二人、魔術師としての実力ならともかく、マスターとして聖杯戦争で戦うならもう私やレオでも一筋縄じゃいかないわ。しかも、それでもまだ成長が止まってないのよ。あるいは、レオすら超えるレベルになるかもね。……なら、その二人をこんなところで失うわけにはいかないでしょう。あの二人は、およそ一対一の戦闘と呼べるものなら上位になるけど、これはそんな単純なものじゃないもの」
さあ、行くわよランサー、と少女は言う。青い槍兵もそれに応えて深紅の呪槍を構える。無限に湧いて出てくる魔狼との戦いが、今始まった。