Fate/Extra Loop Side   作:ぴんころ

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一回戦 三日目

 ──第一暗号鍵(プライマリトリガー)を生成

 ──第一層にて取得されたし

 

 そんな文言が無機質な電子音に乗って端末に届いたのは、三日目の起床と同時だった。横ではすでにアルターエゴも起床している。

 

「さあ、行きましょうマスターさん。今のうちにとっておかないと、またあいつに邪魔をされるかもしれないわよ?」

 

「うん、そうだな。シンジのサーヴァントの能力を考えるといつどんな妖怪が暗殺に来るのかわからないもんな……」

 

 アルターエゴとともに、昨日調べた以上のことはわからなかったシンジのサーヴァントについて話をしながらマイルームから出る。そんな俺の首元には、昨日までは存在しなかったマフラーと、そして制服に隠されてはいるが、内側には刀をモチーフとしたネックレスが存在している。

 

 昨日、購入した礼装。それらを夜に改造して自分用に仕立てたもの。ただし、これが初の実用なので、今日運用した際に見つけた欠点を直してまた試して、ということを決戦当日まで行うことになると思う。最終的にはどれくらいの大きさと、そして完成度になるのかは今はまだわからないが、戦闘時に同時に扱える個数程度なら、今日のそれである程度の予測はたてられるはずだ。

 

 今、できることはそう多くない。以前のシンジなら誰かに自慢する時にでもぽろっと情報を漏らしてくれそうだったが、今のシンジにはそういったことも期待できそうにないのだ。そう思って、それでも一応は校内のマスター達から何か新しい情報がないかを聞き出してからアリーナに向かう。

 

 

◆◆◆

 

 

 ──アリーナ:一の月想海・第一層

 

 アリーナの構造は以前と何も変わっていない。単調な透明な青い立方体の連結によって構成された迷宮の中に徘徊するエネミーの姿も含めて何もかも。ただ、ここに入って来た異物たる俺たちだけが、以前とは違っていた。

 

「今回は向かう場所の制限なんてないわ。暗号鍵を見つけるまで、このアリーナにこもって捜索するとしましょう?」

 

 もちろん、奇襲には気をつけてなんて笑うアルターエゴにうなずいて

 

「さすがにそれで殺されるのはごめんだな」

 

 そんなことを言いながら踏み出す。アルターエゴと二人でアリーナの捜索を開始し、以前の敵も全て復活しているのは、どのタイミングで行われたことなのか。結局昨日はアリーナには潜らずじまいだったので、その辺りの確認はできていない。

 

「それじゃ、昨日の改竄でどれくらい強くなったか見せてもらっていいか?」

 

「ええ、任せてちょうだい」

 

 そう言ってアルターエゴが走り出す。

 

 そこからは一方的だった。

 

 以前は数撃を必要とした敵を一撃で屠り、道を切り開いていく。アイテムボックスの中を確認し、トリガーではないことを確認しながらアリーナを進んでいる関係で、その進行速度は決して早いとは言えなかったが、戦闘にかかる時間から見て、遅いと言えるほどのものでもなかった。

 

「多分、あれよね」

 

 そうして進んでいれば、未踏の地は減っていき最終的には暗号鍵が入っているらしきアイテムボックスを見つけ出す。色が違うからわかりやすいと言えばわかりやすいのだが、逆にあのわかりやすさだと罠の可能性も考えてしまう。……さすがに、第一回戦からそれはないとは思うが。

 

「開けてみればわかる……はず」

 

「そうね……でも、その前に」

 

 すっとアルターエゴが構える。

 

 アイテムボックスの前には、これまでとは少し形が違うエネミーが用意されていた。特殊なエネミー、とまでは言い切れないが、それでもわざわざ防衛用に置かれているエネミーだ。これまでと同じだと思ってはきっと痛い目を見るだろう。

 

「頼む、アルターエゴ!」

 

「任せなさい!」

 

 俺の頼みに即答し、アルターエゴはエネミーに向かっていく。これまでよりも早く疾走し切りつけながら、昨日の改竄によって習得した(思い出した)、いや俺の未熟で使えなくなっていたスキルを発動する。

 

「凍りつけ」

 

『雪原疾走』

 

 速度が足りていない関係で、以前の彼女には扱えなかったスキル。凍らせて動きを止めてその間に切りつけながら進んでいく、そんな程度のもの。ただ、あの一瞬で作ることができる氷の強度を考えると砕けるまでに走り抜けていくには最低値(敏捷E)では厳しかった。

 

 今回のそれは少し変則的なもの。相手がただのエネミーである関係で、氷を作ることにかけられた時間が少し延びたことで、動きを止めるだけではなく、凍りついた部分を狙い撃ちにする形でエネミーの肉体を砕いていく。

 

「お疲れ様」

 

「ふふん、これぐらいなら問題ないわ」

 

 ない胸を張るアルターエゴにこれまでのお姉さんのような姿とは違う、子供っぽさを感じて苦笑するが、俺も彼女も一切気を抜いてはいない。以前は、ここで気を抜いたタイミングで殺されてしまったのだ。もう二度と、同じミスをするわけにはいかない、と思っていたところで──

 

──世@gayr。地gn立dofn$bい。

 

 わずかに、セラフという世界そのものが崩れ去ったような錯覚を得た。

 

 きっとこれが、あの時白野が言っていた地震なのだろう。掴まれるところがないので、立ってすらいられないほどの大きさだ。そうしてへたり込んだ直後──

 

「これは僥倖」

 

 上からサーヴァントが降ってくる。以前見た、火の玉の姿で流星と化して。あれらすべてを撃ち落とすのは現実的ではなく、そしてアルターエゴの周囲も俺のところに来ているものよりも大きな火の玉が取り囲んでいてすぐにはこちらに守りに来れそうにない。

 

 だったら──!

 

「Shock(16)!」

 

 放たれたのはそこまで威力は高くない魔力弾(コードキャスト)。これではサーヴァントを怯ませることすら不可能だろう。けれど、今はそれでいい。なぜならこれはサーヴァントを相手に放ったものではない。

 

 魔力弾は俺の体を撃ち抜いて、地震の揺れで動けない俺をその場から吹っ飛ばす。一瞬の後、俺がいたところに大量の炎弾が殺到した。おそらく、俺がその場にいたままだったら塵も残さず蒸発していたのではないだろうか。焼き尽くされるアリーナ内部の空気に、呼吸も数瞬ままならなくなり──

 

 

◆◆◆

 

 

「何があったんだ……」

 

 気がつけば、三日目の始まりに巻き戻っていた。最後、何があったのか理解できなかった。アルターエゴの姿を探して、彼女に最後何があったのかを聞こうと思う。アルターエゴとの繋がりが消える感覚がなかったから、おそらく殺されたのは俺だろうし。

 

「マスターさんがあの攻撃を躱した後に、私の方を取り囲んでいた火の玉がいくつかマスターさんに向かって行ったの。それに背後から強襲されて……」

 

 なるほど。それなら仕方ない。令呪を使わなかった俺のミスだろう。今日はスキル関係もさっきの周で確かめることはできたから、ここからは如何にして地震が起きるより早く手に入れて帰ることができるかにかかってくる。少なくとも、空を飛べない以上は今日の戦いでは絶対に勝ち目がない。

 

「そうね。手に入れたらそのまま帰るぐらいの勢いで行きましょう」

 

 そう言ってから、本日二度目のマイルームからの出立を行う。購買に立ち寄ってリターンクリスタルを買ってからアリーナに向かうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「手詰まりか……」

 

 また、三日目の朝を迎える。これですでに5回ほど繰り返しているのだ。

 

 リターンクリスタルを買いに行くと、その間に過ぎた時間によって暗号鍵を手に入れた直後に地震が発生する。スキルを使用しないと、スキルを使用した時よりも時間がかかり、結局倒し終えた直後に地震が発生する。もう最初から地震を覚悟して令呪を使用しても、アルターエゴも地震を受けている関係でほとんど意味がない。最初からリターンクリスタルを用意しておくのは、地震によって落としてしまう。

 

「リターンクリスタルを用意しておいて、強く握りしめておく?」

 

「それが今のところ一番現実的だよなぁ……」

 

 今日は諦めてしまうというのも一つの手だが、明日以降は起きないなんて言い切れない。できれば今日中に取ってしまいたい。トリガー確保と情報蒐集のことを考えると、猶予期間(モラトリアム)は七日間で足りるとは口が裂けても言い切れないのだ。

 

「よし、行こっか!」

 

 もう一度、アリーナに足を向ける。俺たちの会話で余計な時間を使った気もするので、今回の周もおそらくは死に戻りに使われることになるだろうが、リターンクリスタルを試せるかどうかは結構大事な話だ。

 

「ええ」

 

 

◆◆◆

 

 

「はぁ……」

 

 ため息をこぼす。どれだけやっても成功しない。しかも、本当にあとちょっとというところまではいけるせいで、どれだけやっても踏ん切りをつけられない。

 

「一旦落ち着いてみたら?」

 

 そんなことを考えていると、思考の隙間に潜り込むようにアルターエゴがお茶を持って近寄ってきていた。なんというか、慣れていない感じがひしひしと感じられるが、それでもせっかく入れてくれたお茶だ。受け取って飲む。普段こういうのは弟がやっていたと懐かしんでいる彼女の姿に、未だ数日とはいえ生前のことを口にするのは珍しいと思ってしまう。

 

「ありがとう」

 

 一番の安牌は、「地震が起きてから向かう」ことなのだろうが、死に戻り(朝に戻る)の割に、地震が起きるタイミングが微妙にずれていたり、威力もある程度の揺れ幅があったりと、少し自由度が高い。地震が起きてからだと、時間も厳しい可能性がある。だから、地震が起きるより早く取りに行って、地震の最中リターンクリスタルで帰ることに全力を尽くす。これが、おそらく一番可能性が高いと思っている。

 

「それじゃ、今度こそ生きて戻ってこようか」

 

 飲み終えたお茶は、慣れていないという割には美味しかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 アリーナに、今一度足を踏み入れる。すでに道は覚えているので、できる限り最速で走り抜ける勢いで暗号鍵の元へと向かう。道中で出会うエネミーは、こちらを補足するとどこまでも追いかけてくるので、逃げるのは現実的ではない。

 

 ──故に斬り捨てる。

 

「Shock(64)!!」

 

 気づかれるよりも早く、以前のそれと同系統の、けれどそれよりも威力は段違いの……本来、今持っている礼装に登録されている魔力弾を発射してエネミーの動きを数瞬止める。その隙にアルターエゴが凍らせて、さらにそのまま氷を中身ごと砕きながら走り抜けた。

 

「このまま一気に……!」

 

「ええ、任せてちょうだいマスターさん!」

 

 防衛用のエネミーを発見する。これまでにも打倒に成功しているため、実力に関しては一切の脅威を感じてはいないが、ここからは本当に時間との戦い。これまでを最短時間で駆け抜けてきたが、ここで失敗してしまえば元の木阿弥。時間はかけられない。

 

「Shock(64)!」

 

 やることはこれまでと変わらない。動きを止めて、一切の行動をとらせずにアルターエゴが斬り捨てる。未だ貧弱なままのアルターエゴではあるが、この階層の敵であれば一切の行動をとらせないで倒せることは確認済みだ。そのまま消滅するエネミーの横を俺が走り抜けて、アイテムボックスに触れる。触れた途端、四方に開く形で中心部分が見えてくるが、その中身が実際に目に見えることはなく、端末に何が手に入ったかが表示されるだけ。この部分はオートで時間短縮などできないので他のところでできる限り時間を削減していたが、それらを無駄にしないためにそれをさっと流し見して暗号鍵であることを確認したところで世@vsnjdv──

 

「これは僥こ──」

 

「リターンクリスタル!」

 

 世界が揺れ、これまでと同様に敵サーヴァントの声が聞こえてくる。ただし、最後まで聞くことなく手に握っていたリターンクリスタルを使用したことで、校舎に向けて転移が開始される。ただし、それがサーヴァントによる攻撃より先に戻れるかどうかはわからない。故に──

 

「アルターエゴッ!」

 

「させ、ない──!!」

 

 右手の甲、刻まれた令呪が一画赤く発光し消滅する。それにより、自身も揺れによって確と狙いを定められないアルターエゴが俺の周囲に氷の壁を展開することに成功。俺を凍らせてしまう危険性を「氷の壁を作って敵サーヴァントの攻撃から守れ」という命令によって消滅させての時間稼ぎは、これにより成功した。破られるまでの時間は数秒もないだろうが、それだけあれば十分。

 

「さようなら」

 

「残念だったわね」

 

 氷が破られた瞬間を目撃するのと同時、俺の視界に入る光景がアリーナのものから見慣れたマイルームに移り変わる。どうやら帰ってくることに成功したようだ。

 

「まさか一回戦から令呪を使うことになるなんて……」

 

「ごめんね、マスターさん。私が弱いせいで……」

 

 その言葉に力はなく、アルターエゴの方を向くと落ち込んでいる姿が見える。「そんなことはない」と言葉で否定するのは簡単だが、それだけで納得するとは思えない。どうすればいいか悩んで──

 

 悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで

 

 そうして、気がつけば彼女のことを抱きしめていた。

 

「マスター、さん?」

 

「俺の心音、聞こえる?」

 

 アルターエゴを抱き寄せて、心臓のあたりに彼女の顔を持っていく。こくりと頷く姿を見てから、言葉を紡ぐ。

 

「少なくとも、俺はアルターエゴがいなかったら今ここにいることなく、予選で死んでた。だから、アルターエゴが力不足なんてことは絶対ない。俺の命の恩人のことは誰にも悪く言わせない」

 

 ……そうだ。たとえ彼女が自分のことを「弱い」と言おうと。たとえ他の誰であってもあの人形を倒せたのだとしても。「あの場で俺を助けてくれたのは眼前の少女(アルターエゴ)だ」という事実は変わらないし、誰にも変えさせない。

 

 だから、俺にとっての最強は彼女なのだ。

 

 彼女以上の相棒などいないし、彼女以上の武器も存在しない。他の誰が何を言おうと、俺の中ではそれだけが事実なのだ。

 

 だから、負けるのであればそれは、俺が弱いから。俺が彼女の力を引き出せれば、どんな相手だろうと彼女が負けることはない。

 

「でも、実際に正面から戦って負けちゃってるし……」

 

 そこまで言ってもうじうじとしている。そんなに、これまでの死に戻りが堪えているのだろうか? でも、それならちゃんと言葉にしないといけないだろう。

 

「知ったことじゃない」

 

 いいか?

 

()()()()()()()()()()()()()()。他の誰かに負けるようなことはない。俺はそう信じてる」

 

「……うん」

 

 その言葉に、ようやく彼女も頷いて。そして、なぜか俺の体に手を回してきた。

 

「もう少し、このままで」

 

「はいはい」

 

 見た目相応の、子供のような言葉を発するアルターエゴに、初日とは真逆だなと思いながら二人で眠りについた。




令呪三画→二画

どこかで聞いたようなセリフ
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