羽沢珈琲店の一角を占拠して行われている勉強会。羽丘では七月中旬にテストが行われる。そのための勉強会だ。
赤点があったら、夏休みに補習が設けられる。また、テストの成績表は家に配送されるため結果を握り潰すことはできない。
宇田川は平均程度は取れるし、つぐみも普段から勉強している。モカに至っては普通より頭がいい。
ヤバイのは残る二人、上原と美竹。
美竹は隣のテーブルで、モカと古文の勉強。パラパラと古文単語を捲る音が高頻度で聞こえる。
宇田川も向こう側だが、ほとんど一人で勉強している。たまにモカに分からないところを聞くぐらいだ。
上原は俺の目の前で、ペンを握って英文とにらめっこしていた。
「んー」
ペンを片手に唸りながら、ノートにローマ字を書き記していく。ちなみに上原が英訳している文章は『過去のアメリカで最も有名な言葉の一つはラブアンドピースだ』。one of the mostを使わせる文だ。英訳用の文特有の不自然さが目立つ。
唸ること一分弱、上原が、できたと言って、ノートを差し出してくる。差し出された英文を見る。
───五点満点なら部分点で二点ってところか。
「間違えは二つ。past of Americaの部分。ofは『~の』って使い方であってるけど、pastだけで『過去の』だから、ofはいらない」
「なるほど」
「次に、平和は」
言葉でスペルを言うのは面倒くさいので、ペンを机に転がしていたペンを拾い上げ、スラスラと書く。
「上原が書いたのはpiece。正解はこっちのpeaceだ。これじゃ、愛と欠片で意味が伝わらないだろ」
「うぅ。英語嫌だー」
ぐでーと机に上半身をくっつける。目は閉じられ、その代わりに開いてる口からは、はぁあああ、と無駄に長いため息が漏れている。
「まあ、それ以外は合ってるから大丈夫だ。ケーキ奢ってやるから頑張れ」
「本当!?」
「本当だ。俺は約束は破らないから」
「言ったからね!よーし!頑張るぞー!」
目を見開き、体を起こして、腕を突き上げる。やる気十分のようだ。
「単純だな」
…………………
……………
……
それから、一時間ほどしてまた上原の集中の糸が切れた。見れば、横のテーブルも、こちらと同じ状態になっていた。
「休憩するか」
「そうだね。モカ達も一緒に休憩しよーよ」
「そうだねー。モカちゃん、お疲れー」
「あたしも疲れた」
「あー、アタシも久しぶりにこんなに長く勉強したし、疲れたな」
テーブルをくっつけて、距離を縮める。俺の横にモカ、その横に美竹。俺の向かいは上原。上原の横に宇田川。
「みんな、お疲れ様」
「つぐみ、注文いいか?」
「うん」
「ホットのブレンドとガトーショコラ一つ」
「私はアイスティーとチーズケーキおねがい」
「かしこまりました。あっ、あともうすぐ私も休憩入れるから分からないところ教えてもらってもいいかな?」
「いいぞー」
「ありがとう!すぐ持ってくるね」
パタパタとカウンターの奥へ入っていった。
「二人は勉強教えてばっかりだけど、大丈夫なの?」
「ん?あぁ、俺は家でやってるから大丈夫だ。それに今の範囲なら授業聞いてるだけで分かるし」
「モカちゃんもー」
「二人とも授業中よく寝てない!?」
「それはな」
「それはねー」
「「睡眠学習だ(よー)」」
「納得いかない…………」
うんうん、と宇田川と美竹も頷く。
睡眠学習は半ば冗談だが、授業を聞けば分かるって言ったのは本気だ。最初のテストだし、あまりひねくれた問題も出さないだろうし、出ても授業でやったことを理解してればいけると思うんだが。
「ツッキー。折角だし勝負しないー?」
「勝負?」
「そー。順位が高かった方が相手に何か奢るっていうのはどー?」
「いいぞ」
「あたしが勝ったらー、山吹ベーカリーのパン、お腹一杯買ってねー」
お腹一杯。普通なら多くて五個も食えば限界なのだが、モカの場合底が見えない。マジで店にあるパンを根こそぎ食えるのではと思うほどだ。
「破産するから、せめて十五個にしてくれ」
「しょーがないなー。ツッキーはー?」
「じゃあ、ここで何か奢ってもらおうかな」
「いいの?モカって、結構頭いいんだよ?」
「だ───」
「お待たせしました」
大丈夫だろ、そう言おうとしたところで、つぐみがトレイを持ってやってきた。丁寧にテーブルの上に食器が置かれていく。それからサービスなのだろう、クッキーが盛られた小皿も。
「休憩もらったから、勉強道具持ってくるね」
そう言い残してもう一度カウンターの向こうへ行った。今日もつぐってるな。
「えー、望月選手、自信のほどは?」
向かいの上原がペンをマイク代わりにこちらへ向けてくる。
「そうだなー」
チョコの粉末がかかると悪いので、英文が書かれたノートを脇に避けてから、ガトーショコラが乗った皿を引き寄せる。
皿に添えられていた小さめのフォークを持ち上げ、ケーキを掬う。一口大にしたケーキを口に運ぶ前に目の高さまで上げてみる。
「ケーキ一欠片分ってところかな」
言ってからケーキを食べる。
ちょっとしたシャレのつもりだったが、目の前の上原には伝わらなかったようだ。横を見れば、宇田川と美竹も分かってなさそうだ。ただ、横のモカだけが、へぇ、と声を漏らしながら不敵に笑っていた。
そこへつぐみが勉強道具一式を携えてやってきた。少しの雑談のあと、また勉強が始まった。
テストから土日を挟んで月曜日。
昼休みになると、生徒達は足早に玄関へと向かっていった。前もって、テストの上位二十名が玄関近くの掲示板に張り出されると告知されていたからだ。
上原は早く見に行きたいようだったが、どうせ混むからパン食べてからな、と俺が一蹴。『さんせーい』とモカが緩く同意。
それからパンを食べ終え、昼休みも残り十分という絶妙な時間帯に行くと案の定人はいなかった。
俺とモカの名前はすぐに見つかった、
中間テスト結果
1位 1‐B 望月蒼 493点
2位 1‐B 青葉モカ 489点
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17位 1-B 羽沢つぐみ 424点
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B組屈指の居眠りコンビがトップという結果。採点した先生はさぞ驚いたことだろう。
「嘘ッ!?望月くん、一位!?」
横では張り出された結果の紙を見て驚愕のあまり声を上げる上原。その横で、美竹も宇田川もつぐみも驚いている。
「勝負は俺の勝ちだな」
「あららー、負けちゃったー」
いつも通りの口調だが、少しだけ残念さが滲み出ている気がした。
「自信がないとか言ってなかったか?」
「一言も言ってねぇよ」
「ケーキ一欠片分とか言ってたじゃん!」
「…………なるほど」
「つぐみは分かったか?」
「うん、多分」
流石はつぐみ。上原、宇田川、美竹は理解できてないようで、首を傾げている。
「ツッキーってば、キザったらしよねー」
モカがニヤニヤしながらうざったらしい視線を向けてくる。
「シャレだよ、シャレ。それより早く行くぞ。授業始まる」
その視線から逃れようと、話題を転換して、廊下を歩く。ひょこひょこと後ろにモカとつぐみがついてくる。
「次って数学だよね?」
「確かそうだったはず」
「ツッキー、どうせ寝るんでしょー?」
「モカもだろ」
「とーぜん」
「ダメだよ、二人ともっ。ちゃんと起きないと」
「今の数学は簡単だからつい眠たくなるんだよねー」
「そうだな。俺たちからしたら」
「「楽勝だからな(ねー)」」
「もうっ」
A piece of cake────楽勝。。
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