作者は言わせたい台詞から物語を構成していき、そこから辻褄合わせしていきます。
今回は、その辻褄合わせのため、少しだけ蘭の性格が悪いと感じるかもしれません。それでもよろしければどうぞ。
学校が終わり、夏休みに入った。ハイテンションのひまりが、みんなでつぐの家に行こうと提案した。モカも巴も乗り気で、望月は半ば強引にひまりに引っ張られた感じだ。
話題が二転三転していく中で、ひまりがふと「そういえば」とあたしと望月を交互に見た。どうやら話題の矛先があたしと望月に向けられるようだ。
「望月くんと蘭ってどうやって仲良くなったの? 」
「アタシらは望月がモカとつぐみと話してたから、そこに混ざったって感じだけど、蘭は謎だな」
「確かに、いつの間にか仲良くなってたよね?」
「まあ、色々あったんだよ」
あたしが何か言うよりも早く望月が答えた。
「あたしも知りたいなー?」
「モカちゃんも知らないの?」
「うーん。本当にいつの間にかなんだよねー」
「むむむ。モカも知らないなんて。これは聞き出さないと!」
「帰るか」
「そうだね」
「じょ、冗談だから~~!」
「でも本当に気になるな」
「うん。私も」
「あたしもー」
「悪いな。こればっかりは内緒だ」
あたしは最初望月が嫌いだった。あたしの幼馴染みと話してるときの表情とあたしと話すときの表情があまりに違いすぎていたから。あたしと話すときは露骨にしかめっ面になっていて、嫌われているのだと思っていた。
その認識が変わったのは四月と五月の境目ぐらいだった。
その日、鞄の中を探ってて英語の教科書を忘れたことに気が付いた。そうなれば隣の人に見せてもらうことになるのだが、男子なのだ。あまり話したことのない男子が手の届く範囲にいるというの若干の抵抗があった。
そうなれば借りに行くしかない。
その時には既に望月とモカは隣同士だった。望月はあたしに気が付いて、そんな望月に気付いたモカが振り返る。
「モカ、英語の教科書貸してくれない?」
「ごめんねー。今日は英語ないから持ってないんだー」
それなら、ひまりも巴もつぐみも持ってないだろう。もちろん他のクラスに友達はいないので、借りることもできない。
少し暗い気持ちになりながら諦めて教室に戻ろうとしたとき、一条の月明かりが差し込んだ。
「あ、俺あるけど貸すか?」
「何であるのー?」
「英語と現国は置いてってる」
「ん。ありがと」
「どういたしまして」
差し出された教科書を受け取り礼を言えば、素っ気なく返された。いつも通りだった。
教室に戻り、ぼんやりしていると先生が入ってきて授業が始まった。望月の教科書には、分かりやすく書き込みがされていた。
英文が次のページに移ったので捲ると、英文には手がつけられてなかった。しかし代わりに余白部分に文章が書かれていた。
“ツッキーは蘭のこと嫌いなの?”
見まごうことなく、モカの字だった。元より興味のなかった英語だ。あたしの興味は完全にこちらの文章に移った。
“勝手に人の教科書に字書くな”
“それでどうなの?”
“別に嫌いじゃない。というか、向こうが俺のこと嫌いだろ?”
“どうして?”
あたしの疑問とモカの疑問が重なった。
“モカとかつぐみと話してると、やたら睨まれるから“
その問いに、心当たりはないようで、ある。確かに他人を怖がらせるような目付きだという自覚はある。しかし、これはどうにもならない。
“あれが蘭のデフォルトだよ?”
“親の仇を見るような目付きだったけど?”
“あーいう目付きなのだよー”
……………。とりあえず、目付きについてはスルーしよう。
“あとは、前挨拶したら険しい顔された。話しかけるな、みたいな?”
“どう返したらいいか分からなかったんじゃない?”
確かに最初の頃は挨拶されてた。ただ、挨拶をオウム返しすることしかできなくて、それ以上は話せなかった。向こうから話題を振ってくれても、その流れをぶった切ってた。
思い返せばその時は、おそらく無意識に眉間にシワを寄せていたのだろう。挨拶の度にそんな顔をしてれば挨拶もされなくなるか。
よく考えれば、いや、よく考えなくても悪いのはあたしじゃん。
その下にも文章が続いている。自責の念を抱きながら、視線を下へと流す。
“ちゃんと話してみたら?”
“難易度高いんだよ。話題がないし”
“適当に、いい天気ですね、とかでいいんじゃない?”
“いくらなんでも適当すぎないか?”
“てきとーぐらいがちょうどいいのじゃよ”
“何キャラだよ”
“それより先生に呼ばれてるけどー?”
「今日の授業はここまでだ。ちゃんと予習復習をしっかりなー」
そこで意識が引き戻された。顔を上げる。黒板に書かれた英文はどれも見慣れなくて、時間が飛んだような感覚だった。
シャーペンを手にとって、サラサラと文章を書いてから教科書を抱えて廊下へ出る。すると、ちょうどよく望月がいた。
「ありがと」
「ん」
「ねぇ望月」
突き出した教科書を受け取り、そのまま通り過ぎようとする望月を呼び止める。手を伸ばせば届く距離に望月が止まる。
「ん?」
呼び止めたはいいものの何を話せばいいのやら。あたしにトーク力なんてものはない。話題に困って迷って、ようやく口から出たのは。
「………いい、天気だね」
それはさっきの教科書で書かれていた、モカの助言だった。
望月が『急にどうしたんだ?』といった顔をしたのも束の間、思い出して教科書を捲り出した。そして、さっきまであたしが開いていたページを凝視したあと顔を上げた。
「あー、もしかして、見た?」
「うん。バッチリ」
「消し忘れたー」
「…………ごめん。折角挨拶してくれたのに、素っ気なくて」
「いや。俺の決め付けも悪かったし、おあいこだ。改めて、よろしく。美竹」
「うん。よろしく」
これが、あたしと望月の関係が『友達の友達』から、『友達』に変わった出来事。
『今度はちゃんと挨拶返すから』
望月の英語の教科書の、モカと望月の筆談の最後にあたしが書いたその一文は今でも残っているのだろうか。
次の話のネタ(書けるかは分からない)
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