休日の今日、いつもより早く目が覚めた俺がある目的地へと足を運んでいるとバッタリとモカと出くわした。
「あっ、モカ」
「ツッキー」
一瞬で互いの行き先を理解した。
「行き先は」
「もちろん」
「「山吹ベーカリー」」
息がピッタリあったことにモカと笑いあう。ひとしきり笑ったあと、何の声もなく、一緒のタイミングで歩き出した。一緒に歩くことも多々あったため、二人の歩幅も歩調もピッタリだった。
俺の三大癒しスポットの一つに着いた。外からでもパンの香ばしい香りがしている。
カランカランと扉を開けると心地よいベルが鳴り、中に入るとパンの香りが一層強くなる。
「いらっしゃいませ。あっ、モカ、蒼」
奥からやってきたのは看板娘の山吹沙綾。明るめの茶髪を後ろで束ねたポニーテールがよく似合う美少女だ。
「おはよう、沙綾」
「おはよー、さーや」
「おはよう。二人一緒なんてはじめてじゃない?」
「モカと来たら買う前にパン根こそぎ持ってかれるからな」
「ここのパンはぜーんぶモカちゃんのだからねー」
「そうか。そうなったら、俺とモカの友情もそこまでだな」
「冗談だよー」
「あははは。二人とも仲良いね」
俺らの軽快なやりとりに沙綾が笑う。
「そうだな。俺自身、ここまで仲良くなるとは思わなかった」
「二人ってどこであったの?」
「普通に学校だよ。モカから話しかけてきたんだよな」
「そうだよー。ツッキーが入学式で新入生代表挨拶のときに盛大にくしゃみしちゃってねー。そのあと、同じクラスになったから面白そうだなーって思って声をかけたんだー」
今でも、っていってもそれほど時間も経ってないか。あのときのことはすごい鮮明に思い出せる。
くしゃみした瞬間、会場中の視線を一人占めにして、次いで体育館が揺れそうなほど大爆笑が鳴り響いた。恥ずかしさを表に出さないように、ものすごく頑張ったのを覚えてる。
「入学式も終わってそろそろ帰ろうかなって思ってたところにモカが、『くしゃみの人だよねー?あたし、青葉モカー。モカちゃんって呼んでねー?』って、パン片手に言ってきてな」
顔を上げたら、にへらと笑った女の子が立っていた。真っ白な髪が窓から入る陽光に照らされて、少しだけ言葉に詰まったことも、モカがその時に言った言葉も一言一句覚えてる。
「よく覚えてるねー。そのあとにツッキーが、『違うんだよ。あれは、そう、新入生からのサプライズだよ』って言ったんだよねー?」
言葉を覚えてるのはモカも一緒のようだ。あの時言った言葉と一言一句、間も完璧にコピーされてる。録音機もかくやというぐらいに。
俺のその大胆な誤魔化しに、モカは一瞬だけキョトンとして、もう一度笑っていた。その笑みに魅せられたのは内緒だ。
「モカこそよく覚えてるな。まぁ、そんなこんなで互いに面白い人だって思って教室で話すようになって」
「隣の席になってからはもっと話すようになってー」
「今に至るって感じだな」
「出会いのきっかけはくしゃみってこと?」
モカと顔を見合せる。小さく笑ってから、沙綾の方を向く。
「モカちゃんは多分、くしゃみがなくても友達になってたと思うなー」
「俺もそう思うな。変わったのは遅いか早いかだけだと思う」
それは自信を持って言える。多分、そういう運命だったと思う。言葉にすると、モカがからかってきそうだから、心に閉まっておく。
「へー。何かいいね、そういう関係って」
「モカちゃんとツッキーは言葉がなくても言いたいことが分かるからねー」
「いや、言葉は必要だから。それよりそろそろパン選ぶぞ」
「りょうかーい」
トレイとトングを持って、パンを選ぶ。今日は家族の分も買っていこうか。普段は買わないようなパンも選ぼう。
「ツッキー、それ取ってー」
「分かった。あっ、モカ。俺もそれ」
「わかってるよー」
「本当に言葉はいらないのかもね」
パンを選ぶ二人を見ながら、山吹沙綾は頬笑む。
望月蒼と青葉モカの出会いは必然である。
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