意外に乙女なモカちゃんが送る青春劇   作:GRAENA

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九時間目

土曜日の午後四時頃。最近は茹だるような暑さで家から一歩も出たいとは思わなかったが、今日は夏にしては涼しい気温のため外に出ていた。

 

本屋に行った帰り道、ふと家の菓子を切らしていたのを思い出した。もうすぐ家だ。家の近くのコンビニに行こうかと思ったが、時間もあるし、いい運動だと考えてから、少し距離のあるコンビニに行くことにした。

 

モカとリサ先輩が働いているコンビニに向かっている最中、見覚えのある背中を見つけた。

 

「美竹ー」

 

突然名前を呼ばれたからか、少しだけ肩を跳ねさせた。

 

「望月…………」

「どこか行くのか?」

「コンビニ」

「じゃあ、俺と一緒だ」

「ふーん」

「美竹の家からここのコンビニまでまあまあ距離なかったか?」

「別に」

 

ここまでの会話、全て単語だけ。機械と話していると錯覚するレベルだ。

 

美竹の感情を引っ張り出せるような言葉はないかと頭で思案すると、それは簡単に思い付いた。

 

「美竹はモカに会いに?」

「ち、違うから!」

 

ようやく単語以外の言葉を発してくれた。むすっとしていた顔が一瞬で赤くなった。

 

予想よりもいい反応だったためについ笑ってしまった。

 

俺の笑った顔を見た美竹はからかわれたことに気付いたようで、ふんっとそっぽ向く。

 

しばらくの間無言が続いたが、顔の熱が治まった美竹がその静寂を破った。

 

「そういう望月はモカに会いに来たの?」

 

反応を確かめるようにじっと見つめてくる。仕返しのつもりか、そんなことを言ってくる美竹にさらりと返す。

 

「そうだけど?」

「…………」

 

恥ずかしげもなく言った俺に負けた気にでもなったのか、美竹がキッと睨み付けてくるが、それを笑って流す。さらに眼を鋭くさせるが、気にしない気にしない。

 

「もう少し素直になればいいのになー」

「────っ!」

 

ついに堪えきれなくなったのか、顔を真っ赤に染めて、早足で歩いていった。

 

からからと笑いながら、前を行く美竹の背中に追従した。

 

途中でクールダウンしたようで、歩調が緩やかになり、並んで歩いた。

 

美竹との間にあまり会話はないが、不思議と気まずさはない。

 

無言のまま歩くこと数分、目的地へ到着した。

 

来店を知らせる軽快なメロディーのあとに来るのはいつものやつだ。

 

「しゃんぐすてー」

 

原型止めてないし、単語の意味が全く分からない。レジにはモカとリサ先輩。今のところ、俺はこの二人以外見たことがない。

 

「いらっしゃいませー。あ、蒼に蘭じゃん」

「お疲れ様です」

「どうも」

 

入り口脇からかごを手に取り、手前のレジのリサ先輩に労いの言葉をかける。美竹も一応挨拶はする。

 

客がいないようで、モカもリサ先輩のレジに寄ってきた。

 

「モカちゃんにはないのー?」

「どうせ疲れてないでしょ」

「えー、蘭ってばひどいなー。モカちゃんかなしー」

 

およよよよ、と目元を袖で拭いながら嘘泣きをするが、美竹は見向きもせずに、スタスタ歩いていった。

 

「もう、蘭ってば冷たいんだからー。ツッキーはー?」

「オツカレサマー」

「棒読みだねー」

「疲れてなさそうだから」

「モカちゃんはこれでも頑張ってるんだよー?」

「はいはい」

「てきとー」

 

適当だからな、そう言ってからお菓子コーナーに行く。

 

かごに、家で食べる飴やチョコレートを入れてからそのままぐるりと店内を回る。すると当然だが美竹とも遭遇するわけだ。美竹がスイーツコーナーで何やら悩んでいるようだった。

 

「美竹は何買うんだ?」

「ひまりが美味しいって言ってたコンビニスイーツ」

「あー。よく言ってるな。全部聞き流してるけど」

「………まあ、確かに長いけど」

 

どの商品が美味しいかだけでいいのに、ここが美味しくてここをもう少し改善した方がいいんだよねー、と余計な情報も付属される。最後のお決まりの台詞は、あとはもう少しカロリー抑えてくれたら完璧なのになー、だ。

 

「上原って異様に詳しいんだよな。女子が好きそうな話題には」

「ひまりはそういうのに関しては頼りになるから」

 

俺もそういうのに関してのみ頼りにしている。まあ、頼る機会はほとんどないのだが。

 

「うん。これにしよ」

 

手に取ったのは、ティラミス。少しだけ意外なチョイスだった。

 

「じゃあ、俺も前におすすめされたの買ってみるか」

 

モンブランをかごに入れる。上原曰く、コンビニスイーツとは思えないクオリティ、らしい。ただ、少しカロリーが高いせいで中々手が出せないとか。

 

「ちゃんと聞いてんじゃん」

「最初の方だけな」

「ふーん」

「美竹はおすすめないのか?」

「あたしの?」

「美竹の」

「…………」

 

陳列された棚の前で考え込む。視線が上段から下段まで下がり、また上に上る。

 

意外としっかり選んでくれるんだよな、とつい感心してしまう。

 

悩むこと十数秒。一つの商品を手に取った。選んだのは、あんみつだった。

 

「これ、かな」

「じゃあ、これも。サンキュ」

「不味くても知らないから」

「大丈夫だろ。美竹が美味いって言うなら」

 

かごをレジへ持っていく。手招きされたので、モカの方に進む。

 

「蘭と一緒に来たんだー」

 

手際よく、スキャナーで商品のバーコードを読み取り、流れるように済ましていく。

 

「たまたま会ってな。あ、あと肉まん一つ」

「はーい」

 

ケースから肉まんを取り出し、包みに入れてからレジを操作する。

 

「1290円になりますー。ツッキーって、蘭と仲良いっけー?」

「廊下で会ったら話すぐらいにはな」

「モカちゃん初耳ー」

 

ピッタリのお金を渡す。

 

金額を確認してレジに入れてから、吐き出されたレシート───そして、ポケットからもう一枚の紙を取り出して手のひらに押し付けてきた。

 

渡されたメモ用紙にはローマ字と数字の羅列が書かれている。

 

「はいこれ。あたしのアドレス。五時には終わるから」

 

キメ顔で言われた。アドレスは既に登録されていて、一番上に名前を連ねているのだが、ここは付き合うべきだろう。

 

「そんなこと言われたら期待するぞ?」

 

人差し指と中指の間で挟み、こちらもキメ顔で言う。横で会計をしていた二人が何やってるんだ?みたいな目を向けてくるが無視だ。

 

「ふふふ。待ってるからね」

「五時に君を迎えに───」

「何やってんの、二人とも」

 

邪魔されたか。せめて最後まで言いたかった。

 

「いやー、ツッキーがノってくれたからついー。蘭はやってくれなかったからねー」

「やるわけないでしょ」

「さて、買うもの買ったし帰るか」

 

持ち手を向けられていたレジ袋を二つ持って、自動ドアをくぐる。

 

「ありがとうございました!」

「しゃーしたー」

 

コンビニを出てすぐに肉まんを取り出す。外気にさらされた肉まんが、細長い湯気を立てる。半分に割ると、より白い湯気が出る。

 

「何でこんな暑い中、肉まんなんて買ったの?」

「何となく。美竹も半分食うか?」

 

半分にした肉まんの半分を素手で掴み自らの口に運び、包みにくるんだもう半分を美竹に差し出す。

 

「別にいらない」

 

きゅるるる。声と被るように発せられた音の出所は、押さえつけられた美竹の腹部。

 

同時に音を出すなんて器用だな、と茶化したいところだが、頭から湯気を出しそうなほど恥ずかしがってる姿を見れば、そんな言葉は吹き飛んだ。

 

「………何かごめん」

「謝らないでっ………!」

 

無言で肉まんを差し出せば、ポツリと『………ありがと』と言って、受け取る。

 

「どういたしまして」

 

簡素に答えてから、肉まんにかぶりついた。

 

──────────────────

 

 

「むぅ」

 

コンビニの中から二人を見て、モカが唸る。

 

「不満そうだね、モカ」

「ツッキーと蘭が仲良くしてくれるのは嬉しいんですけどー…………」

「モヤモヤする?」

「…………」

 

胸の内を当てられたことに少しだけドキリとしたが、顔には出さなかった。

 

「モカもヤキモチとか焼くんだね」

「モカちゃんは意外と嫉妬深いんですよー?」

「うーん。蒼なら大丈夫じゃない?」

「何でですかー?」

「んー。女の勘……かな?」

 

それ以上は何も答えずに裏へと入っていった。ただ一人、モカはレジで首を捻っていた。

 

 

 

 

 

 

「先、上がりますねー」

「お疲れ、モカ」

「お疲れ様でーす」

 

レジに立つリサに労いの言葉をかけてから自動ドアをくぐって外に出る。

 

コンビニの中は冷房がついてて程よい気温だったために、外の暑さが一層際立つ。体温の調節に余分なエネルギーが使われたのか、体が怠くなる。

 

「よう、モカ」

 

ここから自宅まで暑さに耐えなければいけないのかと、辟易としていると横合いから、一時間程前に聞いた声がした。

 

「ツッキー?どうしたのー?買い忘れー?」

「五時に終わるって言ってたから迎えに来た」

「………えへへー。ありがとねー、ツッキー」

「どういたしまして」

「モカちゃんも肉まん食べたくなっちゃったー」

「はいはい。何個食うつもりだ?」

「一個でいいかなー」

「お疲れのモカに奢ってあげよう」

「さすがツッキー」

 

今さっき出たコンビニに逆戻り。ひんやりした空気が火照った顔を冷ましてくれる。

 

「いらっしゃいませ。あれ?モカと蒼?何で?」

 

品出しをしていたリサが声を出してからレジに戻ろうとする。そして、蒼と、ついさっき店から出たはずのモカを捉えて、首を傾げる。少し考えてから結論が出たようで、あー、と唸った。

 

「さすが蒼だね」

「そうでしょう?あ、肉まん一つとあんまん一つお願いします」

「はーい」

 

レジに少し駆け足でリサが入る。

 

「260円になります。ちょうどお預かりします。ありがとうございました」

 

リサは二人が退店したのを確認してから品出しに戻ろうとするが、少しだけ気になり、何も書かれてない部分のガラスから外を覗いてみる。

 

「────全く」

 

見えた光景に、リサは呆れたような声音で、それでいて慈愛に満ちたような表情で言った。

 

「早く付き合っちゃえばいいのに」

 

ガラスを隔てた向こう側では、モカが蒼に肉まんにを、蒼がモカにあんまんを差し出し、互いにそれを咥えているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

次の話のネタ(書けるかは分からない)

  • 学校生活
  • 日常生活
  • Afterglow絡み
  • デート系
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