恋にも愛にも重すぎる   作:木冬

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エドガー受難記。


整備士は振り返る

「各関節駆動部チェック完了。エネルギー伝達経路に異常なし、ニュード流出も……無し、と」

 

手元のタブレットに流れてくる情報を読み取りながら、機体に接続された端末をチェックしていく。

コンソールを叩き、機体が腕を上げる。反応速度を記録し、機体内蔵センサーと格納庫据付センサーの数値に誤差が無いかを確認する。

腕が終われば足を、足が終われば胴回りを……一つの見落としがともすれば命を左右する戦場では、ブラストの整備ミスは正しく命取りとなる。

 

故に、手抜かりは許されない。この数秒の確認に誰かの命と自分の誇りが懸かっている。

 

「それが分かってない馬鹿が多すぎるんだよなぁ……よし、チェック終わり。もしコイツが落とされるなら、そりゃボーダーがヘマしただけだ、ってな」

 

何とはなしにメガネレンチを手元でくるり、と半回転させる。そのまま肩をトンと叩き、凝り固まった体をほぐすようにぐっと背伸びをする。

 

「毎度のことながらコイツの整備は手間がかかるな。ブラックボックスが下手に触れないから気を遣わないといけないし……ハティ!終わったから微調整に入ってくれ!」

 

いつものようにこちらをじっと眺めていたハティに声をかける……仕事の間中ずっとじっと見られるのはまだ幾分居心地悪くはあるが、下手に手伝おうとしないだけアランなんかよりよっぽどマシだ。

 

タラップを登り、コクピットに潜り込んでいくハティを眺めながら俺は工具を片付ける。

 

「ハティ!設定はいつも通りにしてはあるが今の自分に合わせての微調整を忘れるなよ!」

 

「はい。『毎度のことでも命に関わる、疎かにするな』、ですよね」

 

「ああ、上出来だ。変更した場合はちゃんと記録することもな……俺はこのまま他の機体の調整に入るから、後は任せるぞ」

 

そう言い残して俺は次のハンガーへ向かう。一戦ごとに何機も損壊するブラストランナーの修理、整備、発注に微調整……整備士の仕事は無限にあるのだから。

 

 

 

 

エルヴス艦内、第二格納庫。

 

十数機のブラストのチェックを済ませ、ここ数日の激務がようやく一段落した後に俺はここに来ていた。パーツ取りや予備の予備といった、普段使用されない機体が詰め込まれたここには滅多に人が寄り付かない……そのため整備班のサボり場としてよく使われているのだが。

 

「さて、ようやくお前の整備が出来るな……相棒」

 

そこに俺の愛機が格納されていた。

直線と曲線が入り混じって構築されたツギハギの躯体、背にマウントされたあまりにも巨大な刀身、肩に描かれた凶悪な鋏のエンブレム。修復の優先順位が低いため前回の交戦のダメージがそのままの酷い姿だが、交換部品はもう届いているため後は修理するだけだ。

普段は整備士としてこの艦に勤めているが、整備士がボーダーをしてはいけない、なんてルールも無い。逆もまた同じ……どころか整備している都合上、並のボーダーよりも機体に詳しいと言える。無論詳しいだけで戦い抜けるほど甘いものではないが、知識は多いに越したことはない。

 

「随分酷くやられちまったからな……部品の発注にえらく時間がかかっちまった」

 

機体の各部を点検し、前回出撃からのダメージを確認する。

前に出撃したのはトラザ山岳基地。現在はフェニエ騎士団の制圧下にあり、ここを含むいくつかのプラントを同時に攻撃することで敵の戦力を分散させたい、とガロアから攻撃要請があった。

以前の戦闘では伏兵で大変だったという話があったため今回は周辺の索敵を多く飛ばしたのだが、その分主戦場に割り振れる兵力が少なくなり俺にもお鉢が回ってきた……本末転倒ではないか、と思わなくもないが、どうあってもダメージを受ける主戦場に向かう人員が少なくなるという事は、仕事が少なくて済むという事であり……整備士の俺としては複雑な心境だった。

周囲の索敵に向かった機体のうち実際に会敵したのは数機だったが、配置は巧妙で見つけられないまま戦闘に突入していれば被害は大きかったに違いない、とはオペレーターのコノハ嬢の談。

 

高低差の激しい地形だったため影響の大きかったであろう、機体の下半身の関節部のチェックが終わり、引き続き表面装甲の整備を行う。避け損ねた近接攻撃を思い出して反省することもあれば、覚えの無いダメージに首を傾げることもある。

そして一際大きな……

 

「……あれは一体何だったんだ。騎士団長から何からエース連中が目の色変えて襲ってきやがった」

 

思い出すのはフェニエ陣営の繰り出してきた猛攻。脚部に刻まれた狙撃の痕跡、そしてコクピットハッチの接合部をこじ開けるように捻じ込まれた銃身……あれは明らかに狙ったものだった。でなければ主武器を潰すような攻撃をするはずがない。

あの攻撃の所為でコクピットに亀裂が入っただけでなく、油圧シャフトが歪んで緊急脱出口を使用する羽目になったし、ニュードの飛び交う戦場に生身を晒すという恐ろしく肝の冷える思いもした。自身に耐性があってもニュードの毒性の恐怖は誰しもの心に染みついている。滅多に狙われない部品が損壊したことで部品の入手も大変だった点も見過ごせない。

弾け飛んだ装甲片から目だけでも守ろうと咄嗟に左腕で庇いつつ後退したが……すぐに退却を選ばなければどうなっていたことか。

 

「ガロアの別動隊が目標プラントを確保したらしいし、戦略的にはこっちのが勝ちだったからいいが」

 

何故、自分だけがあんな攻撃を受けたのか。勝敗は戦場の常であり、またフェニエからそこまで恨みを買うような戦闘を行った記憶も無い。あくまでボーダーらしい戦闘ばかりだった筈……

解けない問題に頭を悩ませつつ、その日の整備は続いた。

 

 

●-●

 

 

フェニエ騎士団 女性士官寮 ミーティングルーム

 

「大戦果と言っていいな」

 

部屋の照明はつけられておらず、モニターからの青白い光が室内に並ぶ面々の端正な顔を不気味に照らしていた。

彼女達の視線の先にあるのは解像度の荒い幾つかの画像。

 

「斬滅使徒の残影に至る聖痕……今や我らが手中に在りか。序章はこれまでのようだな」

 

「デヒテラ!……いや、今はよそう。最初に申し上げた通り、こちらの画像が今回撮影できたものです……イリーナ様。最も状態の良いものですらこの荒さ、我が身の不明を恥じております」

 

「よせマルファ。大戦果だと言っただろう……むしろ恥ずべきは私の方だ。到着が遅れて二当てしか出来なかった」

 

「そんな……!」

 

「それよりも続きを聞かせてくれ。『中身』について進展があったと聞いたが?」

 

「は……ハッ!御存じの通り正面からは捉えられませんでしたが、周辺施設の監視カメラとデヒテラの狙撃銃のスコープから……ダメージを受けたハッチに亀裂があり、そこから内部を撮影することに成功していました。監視カメラの方は民生品ですので画質がこれよりも荒く使い物になりませんでしたが……こちらの、この部分です」

 

数枚の画像の中から一枚が拡大され、その一部に赤いマルが表示される。

 

「イリーナ様が銃身を打ち込まれた直後の画像です。恐らく顔を庇っての事だと思われますが……左腕の、この部分。前後のコマとも比較し画像解析した結果、特徴的な三本の傷跡が検出されました……それもこの瞬間出来たものではない、古い傷です」

 

「!……それはつまり」

 

「はい。もしも今後生身で遭遇した場合、その人物であると特定することが出来ます」

 

目的を考えればS.N.C.A.に面と向かって「そちらにこのような者はいるか」と聞くことは出来ない。しかし……偶然顔を合わせる機会があれば。

 

「素晴らしい成果だ!プラントの一つや二つ程度奪還するのは容易い……その事を考えればこれは、これこそが今回の戦闘において最高の成果であったと言えるだろう」

 

自国の領土を奪われた事をその程度、などと騎士にあるまじき発言を平然と吐き捨て、しかし咎めるものは誰一人としてこの場にはおらず、ただただ彼女はその身を掻き抱く。

 

「忘れもしない……あの屈辱、あの絶望、この身を捕らえた鋼鉄の冷たさ!ああ……私はまた一歩貴様に近づいた!」

 

空色の瞳に昏い狂気を浮かべ、彼女は嗤う。

いや、彼女だけではない……室内にいる全員が、カタチは違えど同じかそれ以上の執着をその瞳に浮かべていた。

 

「尽きることなく燃えるこの気持ち……ふふ、まるで恋する少女のようではないか」

 

絶対に違う。

 

そう突っ込むものが居ない空間で、彼女たちは想いを募らせる。

 

近くて遠い出会いへ向けて……恋にも愛にも重すぎる想いを。




イリーナ様見た瞬間「くっころ」って呟いちゃったのは俺だけではない(断言)

とりあえずイリーナ様がくっころしてヤンデレ堕ちするのとデヒテラ嬢に一目惚れさせる回はどれだけ時間がかかっても書きます。ホントだよ!
ここだけ見たら勘違いしそうだけどイリーナ様ちゃんとデレあるよ!ホントダヨ。

それ以外に原案浮かんでるのはキトリーとコノハとフリッシュ。
でもヤンデレ書くの難しいね……テンプレ通りのヤンデレはそのまま出したらただのサイコパスだから如何にして真っ当に狂気を出すかが難しい。ヤンデレもの書いてる人は凄いなぁ……
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