恋にも愛にも重すぎる   作:木冬

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フェニエに貴族がいるかどうかすら分からないのでこちらオリ設定となります。
今更言うまでも無いですね。

そういやゲームではカタパルトエグゼクターとかぽんぽこやってるけどこのお話では「急激な加速に耐えながら」「空中で姿勢制御しつつ剣に慣性を乗せて」「異常な姿勢での着地を決めつつ」「敵を切り払えるように方向微調整を瞬間的に行い」「コクピット内で機体に振り回されながら完璧にこなす」までしなければならないので、この作品内でのカタパルトエグゼクターは魔剣の領域です。着地ミスっただけで普通は脚部損壊します。

そもそもS.N.C.A.の入団テスト自体も「カタパルトの急激なGに耐える」「機体の各種操作をこなす」「プラントへのアクセスを行う」「強襲兵装で自動砲台を破壊する」といった「一般人に毛が生えた程度では到底不可能」な領域にあるのでこの作中ではあの入団テストクリア出来るだけで十分凄いんですよね。


侯爵令嬢は猛追する:前編

運命。

人の意思に関わらず、必然的に巡り来るもの。

そこから逃げる事は叶わないと、人々は口にする。運命など壊してやるなどと、口にするものも数多い。そんなものは無い、全ては偶然なのだと言うものも……逆に全て必然であり、その大本を調べ尽くせば、この世の全てを予測することも可能なのだと言うものもいる。

 

運命。

あらかじめ定まった道筋。なんとつまらないことだろうか。

まるで私の将来のようだ。全部が定まっているなら壊したくもなるだろう、そう思う事もあった。

 

でも、運命を感じる瞬間は確かに存在する、と……今の私は胸を張って言える。

こんな素敵な想い、一度抱いてしまえば後は進むしかないのだ。

 

彼を想うだけで心臓がテンポを上げる。頭がぼうっとなって、頬が熱くなる。狂おしいほどの感情が胸から溢れ、いてもたってもいられない。

 

ああ、きっと私は今、恋をしている。

 

 

○○○-○

 

 

お忍びで街を回る……それはある種のステイタスだ。

有名な劇団の新作を観劇してきた、新作デザインの宝飾品を購入した、確かに素敵な事ではあるけれど……お金で買える物は自分も手に入れることが出来る物でもある。

見慣れない路地裏にある小さな雑貨屋で購入したという、気泡の混じった粗雑な瓶の中でで妖しく揺れる香水こそが他のどれよりも芳しく、純度が低いからと研磨されないままに、丸く加工された紫水晶の原石のアクセサリーこそが誰の物よりも輝いて見える。

自分の足で街を回り、その思い出と共に語られる何でもないような小物に、誰しもが魅せられ溜息をこぼした。

 

そして次は私もと、誰かが鳥籠からの脱走を企てて。

時に成功し、時に失敗すらも話題となって、箱庭の令嬢たちはそうして日々を過ごしていた。

 

彼女もそんな一人だった。

世間知らずで、品は良く、はずんだ心で鳥籠から抜け出ることに成功し、あれが話で聞いた建物だろうか、これは誰もまだ話していなかったのではないかと、見るものすべてにその目を輝かせた。

 

ただ一つ違ったのは、彼女の容姿は令嬢たちの中だけでなく……世間一般ですら非常に珍しいものであったこと。

善悪を問わず様々なものを引き寄せるそれは、およそ善に類するものしかない鳥籠の中ではただの話題でしかなかったが……善も悪も入り乱れた街中においては、あまりにも無防備な宝石だった。

 

ふらふらと流されるだけの、目的地の無い少女の足取り。それは男三人で人垣でも作れば路地裏へ容易に流れて行った。気付けば目の前に野卑た笑みを浮かべる男が一人、後ずさりすればそこに二人。

彼女にはまだそういった知識は無かったが……このまま自分が、何か酷い事になるんだという漠然とした実感だけはあった。

 

「ひっ……嫌、こないで……」

「おいおいジョー、お前がそんな欲望丸出しだからお嬢ちゃんブルっちまってんじゃねぇか!!」

「俺だけの所為にするなよペニー?コーディもお前も俺に負けず劣らずだぜ!ひゃはは!」

「お嬢ちゃーん、こーんなとこにノコノコやってきちゃだめですよー?酷い目にあっちまう……あわせる俺らがいう事じゃねぇかぁ?ガハハハハ!!」

「や……嫌ぁ……お父様、お母様……兄様ぁ……」

「ひょー!家族にすがっちゃってかーわいー!!」

 

ぞわぞわと足先から悪寒が背筋を通って這いあがってくる。せめてもう見ないでおこうと目を瞑ろうとしたその時。

 

「……ペニー、コーディ、おい後ろ!!」

「あぁ?何ごぉげっ」

「何だよジぃげぁっ」

「ちょ、ぶへぁっ!?」

 

目の前を黒い人が飛び抜けた。

その両腕に呆然と口を開けたままの野卑た男たちを抱え、真横に向いて足の裏をもう一人に叩きつけて(ラリアットとドロップキックというのだと、後で聞いた)まるで猟犬のような俊敏さで三人を路地へ叩きつけ……

 

「はいごめんよぉっ!!オラァッ!!」

「え、きゃぁっ!?」

 

そのままこちらへ走ってきて私の脇腹の下へもぐりこみ、肩を私の腹に当てて一気に持ち上げて来た。

 

「どっせいィァ!!」

「ヒッ、いやぁぁぁあああーーーっ!!」

 

怖い怖い怖い怖い怖い!!

今までされた事の無い体勢で、周りの景色がぐんぐんと私を追い抜いていく。お腹を肩で何度も圧迫され、頭が上下にガクガク揺さぶられて色んなものが飛び出てしまいそうだ。

直前の恐怖とは全く異なる、しかしそれ以上に暴力的で衝撃的な初体験が私の心臓をかつてないほどに高鳴らせる。

 

「あ、あな、たっ、うぷっ、わたっ、わたく、しを、誰、だとっ、げうっ!」

「ぜっ、はっ、黙ってろボケッ!ふっ、舌噛むぞっ、はっ、ァアッ!!」

 

きっと時間にしたら1分も無いだろう短い時間。

でもその一瞬が永遠よりもずっと長く感じられたのを、今でも覚えている。

 

そのまま私は通りを一つと路地二つを荷物のような扱いで運ばれ、大通りへ出た所で私の脱走を知った護衛に見つかり……私を助けてくれた人が犯人と勘違いされて、彼は私をすぐそばの雑貨屋へ放り出して黒服の人に追い立てられていった。

 

取り残されたのは呆然とする涙目の私と、慌てて息を切らし冷や汗などで汗だくになった黒服の人と……突如として現れた厄介事の雰囲気にこめかみをヒクつかせた営業スマイルの店員だけだった。

 

この後私はその雑貨屋で迷惑料とばかりに値の張る物をいくつか購入して連れ戻されることとなった。

帰りの道中で私は、もし彼が捕まっていたのなら事情を話して許してもらわないと、と黒服の人に彼のその後を訪ねてみたが、ブラストのボールベアリングを撒かれて転んでしまい取り逃した、と言われた。

そして帰宅した直後から数時間にわたってこってりと絞られ、とても心配したのだと両親に抱きすくめられ、翌日から誰もしたことのない大冒険をしたのだとクラス中から尊敬のまなざしで見られることになる。

 

これが一回目。

きっとこれがきっかけ。

 

ブラストランナーというものへ興味を持ったのも、外の世界への関心も、きっと彼があの時私に叩きつけて行ったのだと思った。

 

 

○----○

 

 

そして彼女は見事に道を踏み外した。

 

ブラスト、という単語から調べを進め、ボーダーを目指した事だろうか?それは違う。職に貴賤はない。

守護してくれた親元を離れた事だろうか?これも違う。いつかは来ることだ。

では……高貴な生まれを、その血を継ぐ義務を放り出したことだろうか?これも違う。彼女には優秀な兄がいた。周囲の関係も穏当かつ良好であり無理に繋がねばならない程の血の責務は彼女には無かった。

 

ではその間違いとは。それは……

 

 

●●●●

 

 

「さて……お父様もお母様も、私が私の道を進むことを認めてくださいましたし、お兄様にも頑張れと応援をいただきましたわ。検査の結果も十分、ボーダーを志すには足りているよう。嬉しいこと……」

 

様々な書類をはらはらと捲っては確認し、時に流麗な文字を書き込んでいく。

そしてその手がふと止まった。

 

「そう言えば……まだしていない事がありましたわね。いけない……ん、んんっ!ぁ、あーあー」

 

あの事件以来、彼女は予め準備しておくことの重要性をちゃんと理解していた。

そして彼女はその欠点を埋めるべく日々研鑽を欠かさない勤勉な人間であった。

 

「わたくしの……いいえ、『我の覇道はこれより天へと至るだろう……世界よ、我への福音を赦そうぞ!!』」

 

彼女がボーダーになる上で学んだ事は多岐にわたる。

操縦技術、戦術は言うに及ばず、ブラストの構造、ニュードの研究、最低限の整備といったブラストの周りの事。

そして『彼女自身の身の振り方について』だ。

あの日、様々な人間が居るのだと彼女は理解した。

体力、精神力に……社交性。

即ち、言語。貴族の言葉だけではいけない……最前線でどのような言葉を扱えばよいかを、彼女は自分なりに調べた。

 

だが、それだけはしてはいけなかったのだ。

 

身の回りにいるのは同じような身分と言葉の人ばかり。

黒服は職務中は余程の事が無い限り喋らず、いないものに徹している。

ただでさえボーダーになる事に難色を示している両親に相談などすれば、それ見た事かと、考え直せと……そう言われるだろうと考えた彼女は。

 

せめて自分の容姿に合った話し方をしよう、と。

インターネットを使って話し方を、その言葉を調べたのだ。

 

『話し方 金髪 14歳 オッドアイ』と!入力して調べたのだ!!

 

そこから流れ込んだ情報に彼女は夢中になった。

世間知らずが悪い意味で働き、それをフィクションの中だけの事だとは疑わなかった。

詩歌や故事を学び、観劇も数限りなくしていた彼女にはそれを朗々と歌い上げることに抵抗が無かった。

全てが裏目に出た。彼女の性格すら……それが彼女自身の話し方として定着する頃、ようやくフィクションだと知った時、彼女は「ならばこの言葉は私だけの言葉であると……ええ、ええ、とても素晴らしいですわ!」などとのたまい、むしろ胸を張るようになってしまった。

 

こうして彼女は家を出て、それまでの繋がりを断ち、実家の侯爵家との関係も隠すため名前すら変えて……こう名乗った。

 

「我が身の現世における名はデヒテラ!因果の縁交わりし汝よ、願わくば朋友たらん事を!!」

 

間違いなく、彼女は盛大に踏み外していた。

 

 

○○○

 

 

フェニエ騎士団の階級はそこまで複雑ではない。

あまり細かく階級を区分けしても事務作業が煩雑になるだけであるし、何より入れ替わりが激しい。

昇進に式典を開くこともなければ、葬儀が盛大に行われるものでもない。

 

ニュードに侵され、争いにあちこちで火の手が上がる……人の命は軽いものだった。

 

そんな中でどうやって階級を見分けるのか。

まさか士官全員の名前と顔を一致させるなんてことは到底不可能、一目でわかるものが必要だった。

 

服だ。常に着用するもの……そして着脱が容易であるものであれば尚良い。

さらに民の希望である騎士団として、見栄えが良いもので……更に更に、国を表すようなものが、より望ましい。

 

そうして騎士団の階級は布で表わされるようになった。

 

花弁をイメージした、見栄えの良い純白の布地。

白によく映える金の刺繍。

騎士の鎧が如き留め具から伸びるそれは、概ね好意的に受け取られていた。

 

騎士団に入団した時、団結の証として与えられる一枚。

訓練を終えて、晴れて一人前として認められる時与えられる一枚。

一般兵であればおよそこの二枚を腰から下げる。

更に訓練を重ね、「自分専用の機体を与えられる」時にもう一枚。

これを肩から下げれば、フェニエ騎士団の一般的なボーダーとなる。

このほかに、部隊長や前線司令官などの要職に就いた時や、その先へ昇進した時……また勲章として与えられる小ぶりなものも存在するが、およそ階級というものは「飾り布の枚数と大きさ」で推し量ることが出来る。

 

ただし、例外が存在する。

 

貴族……高い身分のものは、一目でそれと分かるように通常の白布とは別に、淡い黄色に染め上げた布を与えられる。この幅と本数がその人物の階級を表す。

が、この事実を知るのは階級の高い者の中でも更に限られた者に限られる。

不用意に広まってしまえば不要なトラブルを招くためである……薄々察している者もいるが、そういった勘が鋭い者は貴族のゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁と一様に口を閉ざしてしまう為、広まる事は無い。

 

このため、与えられた者ですらその意味を知らないままに着用している、という事も稀にある。

 

デヒテラは侯爵家を出ていたが……やはり親の愛というものか、影ながら便宜を図ってもらえるよう、と父である侯爵がこっそりと手を回し、彼女にもその布が与えられていた。

珍妙な言葉で周囲から浮きまくり連携に多大な悪影響を与える彼女が今日まで騎士団を追われずに済んでいたのは、彼女の技量が飛び抜けていた事ももちろんだが……その他に、その布の働きによるところが多少は含まれていた。

 

しかし、たらい回しも繰り返されれば不慮の事故が起こり得る。

 

その布の意味を知らない指揮官の下に配属されることも……当然、あり得る事だった。




デヒテラの目ってあれカラコン?天然?天然だったら面白いよね。
騎士団ってやたらヒラヒラしてない?しかも階級ごとに増えてない?
あれ?デヒテラのヒラヒラやたら長くない?オサレにしても階級章デコるって許される?

なんてことを考えてたらできました。ここで止めておけばまだ綺麗な恋で済むぞ!後編で後悔しても知らんぞ!!

マジモンのお姫様をお米様抱っこする系主人公。
ちなみに本人は特に覚えていない模様。

あ、今日からまた出張なんで次回更新は早くても三月頭までは無いです。出張先でも続きは書くけどな!


出張なんてなくなっちまえばいいんだ……

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