恋にも愛にも重すぎる   作:木冬

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(デヒテラちゃん思ってたよりおっきい)

ヤンヤン度合が足りない?
やみのま属性でヤンヤン深めるとえらいこっちゃになりまして……すまねぇ……


侯爵令嬢は猛追する:後編

思考する。

わざと開けておいたルート。流した情報。企業が開発した装備の概要……実際に運用した際の性能までは分からずとも、どのようなものが作られているかだけでも分かれば、思考の読みやすい連中のこと、どう使うかの予想を立てる事は十分に可能だ。

 

計算する。

統計、確率、心理学……相手の動きは多少の誤差はあっても計算が可能だ。ましてやそれが多少なりとも知っている相手であれば尚更計算は容易い。騎士団なんてお堅い連中、ちょっと煽って餌をちらつかせれば……

 

「ここへ来る確率は92%……まぁ、まず外れない数字でしたね。現時点で詰みとまでは言いません……王手といったところですか」

 

彼女は嗤う。モニターの中で必死に踊る哀れな犠牲者を眺めながら。

現在は反応をロストしているが、潜伏場所など限られている。左腕と右足ホイールが破損していては満足に戦闘も出来ないことは明白だ。

じわり、じわりと……真綿で首を絞めるように、包囲の輪を狭めていく。

 

楽しい。愉しい。タノシイ。

獲物が罠にかかることが、自分の思い通りに事が運ぶ愉悦が、彼女を興奮させる。

薄汚い記憶を、苦いだけの経験を……その全てを覆した栄光の瞬間を思い出す事が出来るから。

 

「あなたが逃げられる確率は0%です。絶対に……絶対に」

 

 

遡ること一週間、彼女の所属する基地へとその指令は届けられた。

新装備の試験を兼ねた偵察。複数の基地へ同時に行われたその指示に、現場の指揮官は思わず眉をひそめた。

 

偵察自体は日々行っている。しかし問題は使用を指示されたその装備にあった。

最近開発された新しいタイプの光学迷彩装置。

正式配備は決定しているし、最新鋭の装備ではあるが……新しく出てきたばかりの物に自分の命を預けられるかと言えば、Yesと答えられる者はそう多くない。誤作動や予期しないエラーが発生したとき、そこが戦場のド真ん中であれば即、死につながるのだ。

ボーダーの数はブラスト以上に限られている。有効な装備は当然欲しいが、有効かどうかの判断材料にするために自分の部隊の人間を出したくないというのが指揮官の……そしてボーダーたちの反応だった。

 

しかし彼女はそこに手を上げた。

高尚な理由など無く、最新型の光学迷彩というフレーズに心惹かれただけではあるが……彼女の得意とする遊撃兵装の新装備、試してみる価値は十二分にあった。

彼女の愛機であるツェーブラに装備し、兵装の重量バランスを調整しながら装備を選び直し、フェニエ騎士団のカラーリングに塗装し直して機体が組み上がる。基地内の試験場で動作チェックを行えば機体の準備は完了だ。

そして最近になって突然大量の物資や大型のコンテナが運び込まれたという情報があるガロアの基地を目的地として、偵察部隊は編成された。

 

ブラストランナーは戦闘用ではあるが、作業、情報収集にも高い効果を発揮する。

特にツェーブラ系列の機体は遠距離射撃戦闘に対応させるため、情報処理能力が他の機体よりも強化されている。

民間に偽装したトラックで目的地付近まで移動しブラストを起動、巡航出力でレーダーを掻い潜り、基地付近で偵察機を射出、ベース内部を一気に解析して撤退……という作戦だった。

 

そう、過去形だ。

 

ブラストを起動した後、巡航出力で接近し……基地をカメラに捉えた、そこまでは予定通りだった。

しかし偵察機を展開し、射出体制に入ったブラストから偵察機が打ち上げられた瞬間……

 

Pi.

Pi.Pi!

PiPiPiPiPiPiPi!!

 

「……なっ」

 

レーダーに光る赤いマーキング。

自分の通ってきたルートにすら灯る敵の反応。

思考が真っ白になった瞬間、コクピットに痛烈な衝撃が走った。

 

 

「おのれ……こちらにも忌々しき光の使徒が現れたか」

 

機体のカラーリングは自分の方がそれっぽいことを棚に上げ、闇の主を自称する彼女は毒づいた。

あの奇襲の直後。機体出力を一気に跳ね上げ退却を試みたが、最初の狙撃で左腕に深刻なダメージを受け、右足も爆風で破損し、無理な崖下りがトドメとなって右足のホイールが破損、脱落していた。

その甲斐あってか敵の包囲から一時的に脱することは出来たが、逃げ込める場所はよりにもよってガロアの基地周辺のみであった。

 

「歩くことは出来ても戦闘は……それに左腕に刻まれし呪印。これでは我が絶技を奴らに見せつけることも叶わぬ」

 

左腕の代わりになる台座を見つけることが出来れば狙撃は可能だが、反動をいなせない以上一射で狙撃銃がどこかへすっ飛んでいくことは明白だ。更に拾い直して再度構えている間に攻撃の方向から自分の位置は特定されてしまうだろう。

しかし主兵装であるマーゲイも使えない。戦闘中にリロード動作が安定しない上に片方しか使用できないのでは敵を撃破しきる前にこちらが撃破されてしまうだろう。

コアを使用した強制転送による脱出が出来ない現状、不用意な行動は出来ない。

頼みの綱は背中の光学迷彩装置……ツェーブラの索敵能力と光学迷彩によってほぼ一方的な索敵が可能な事だけが救いだった。

壊れかけの左腕を慎重に動かしマーゲイのリロードを行い、腕のハードポイントに格納する。

事前に入手しインストールしておいた周辺の地図と、今確認した敵の包囲網を重ねて表示し、脱出のための経路を探す。

 

「我がこんなところで討たれるなど……あってなるものか!」

 

洞窟を、レーンの下を、時に光学迷彩を展開して堂々と敵の正面を通り抜け、必死に機体を移動させる。

彼女の鍛え上げた技巧は損傷の激しいブラストであっても衰えず、彼女を探して走り回るガロアの兵たちから的確にその身を隠していた。

しかし……歩行のみに限ったブラストの移動速度は原付バイクよりも遅い。光学迷彩にも展開限度はある。

レーダー対策のため、巡航出力まで絞った出力ではその限界は更に早く……

 

『随分と上手に逃げ回りましたね。半日以上粘るとは、ボクの計算以上でしたよ』

 

そうして彼女は追い詰められていた。

目の前にずらりと並んだ10機に届こうかというブラストの群れ。

背後には断崖絶壁、下はニュードに汚染された海……飛び込もうものなら命は無い。

チェックメイト。彼女自身がどのような手を打とうと、ここから挽回の手は存在しなかった。

 

『さあ、諦めて投降してください。素直に従えばそれほど手荒な真似は致しませんよ……ええ、しませんとも。フフッ』

 

どこか仄暗い声。愉悦と侮蔑を多分に含んだ、強者にあることを確信した口調。

せめて一矢報いるか。背中にマウントされた狙撃銃か、左腕に据え付けられたマーゲイを抜いて……

 

(駄目だ。既に銃口はこちらに向けられている、何かしようものなら一瞬で……)

 

『それとも無理矢理引きずり出される方がお好みでしたか?それは失礼しました、投降すら恥だとはあなたの騎士道精神とやらを見くびっていたようです』

 

そして先頭の隊長格らしい機体がその銃をこちらへ向ける。

アラート、ロックオン警告がコクピットに虚しく響く。

 

『では……少し揺れますよ。舌を噛まないでくださいねぇ?』

 

デヒテラが悔しさとともに空を仰ぐ。

瞬間、その二色の目が大きく見開かれた。

 

 

積み上げた経験がすべてだ。

重ねた修練だけが結果を導く。

瞬間のひらめき、刹那の見切り……何かしらを悟ったところでそれを成し遂げる肉体がなければ全て机上の空論だ。

何度練習したか。どれほど失敗したか。漠然と失敗を重ねるのではなく、一歩一歩を踏み固めるように、研ぎ澄ませていった極致。

イメージする。始まりから終わりまで、10秒……たった10秒に今まで積み重ねた全てが現れる。

 

「頼むぜ……!」

 

0秒。トリガー。

 

1秒。カタパルトによって機体が爆発的加速を得て、シートへ体が深く深く沈み込む。

 

2秒。圧力で空白になっていた思考が復帰し、音と光、周りの状況が一気に戻ってくる。同時に体が反射的に動く。

 

3秒。引き絞った右腕。フットペダルを蹴り上げ、直後両足を蹴り込む。システムがあらかじめ組み立てていた動作を再現し、腰のブースターが火を噴き機体がくるりと回る。

 

4秒。着地の衝撃がコクピットを激しく揺らす。同時、振り抜かれた鉄塊が軌道上のブラストを食い千切り、翡翠色の爆発が吹き荒れる。

 

5秒。右手のサブトリガーを押し込み機体が慣性のままに大剣を手放す。放り投げられた大剣が軌道上にいたブラストを貫通し、更にその向こうにいたブラストを串刺しにする。

 

6秒。更に機体を回転させ、左手のサブトリガーを押し込む。左手に装着されたウエポンコンテナがパージされ、回転の慣性のままにコンテナが放物線を描く。

 

7秒。空いた右手に主兵装をロード。空中のコンテナを狙う。

 

8秒。発砲。コンテナが砕け、中の強化手榴弾とマガジンが誘爆、大爆発によって更に3機のブラストがニュードを撒き散らして機能停止する。

 

9秒。そのまま照準をずらし、唖然として棒立ちになっている機体を蜂の巣にする。

 

10秒……弾切れによって最後の一機を仕留め損ねた。

 

『積み重ねた経験が全てだ』

体が勝手に動いた。ブースターにアサルトチャージャーが接続され、機体が爆発的に加速して最後の一機に迫る。

『重ねた修練だけが結果を導く』

フットペダルを蹴り込み、親指のボタンを押し込む。何十何百、千回と繰り返した動作が千一回目を刻む。

計算だけ、思考だけ……頭だけで組み立てていた者と、汗と血を流し実際にその身に刻みつけた者。

二人の差は1秒の差を生み出す。1秒の差が、銃と足の射程の差をゼロにする。

 

「お前も、寝てろっ!!!!」

 

重量と運動エネルギーの全てを乗せた足が敵ブラストの腰を抉り、システムが致命的損傷を判断し大破。ボーダーの強制転送が発動し最後の一機が基礎フレームを残して沈黙した。

 

「……あぁ、危なかった」

 

N-DEFが回復していく。あと1秒遅ければN-DEFを貫き本体が蜂の巣だっただろう事実に、今更背中から冷や汗がどっと噴き出す。

そもそもカタパルトで射出されている最中に格闘武器を使用すること自体が相当危険であるのに、その中でもトップクラスの扱いにくさと重量を誇るエグゼクターでやるなどほぼ自殺行為……出来ると確信していてもやりたいものではない。着地をしくじればあの数の前で無様にコケるだけだったのだから。

だが、確かに生きている。その事実を噛みしめながら機体を反転させ、最後の一機……フェニエ騎士団の紋章をペイントされたツェーブラへ向き直った。

 

「さて……」

 

 

突然目の前に舞い降りたブラストの華麗な逆転劇。

あまりの衝撃に呆然とする彼女へそのブラストは向き直り……

 

『はいごめんよぉっ!!オラァッ!!』

 

おもむろに手にした突撃銃を捨て、こちらの機体の左腕を掴み力任せに引き千切った。

 

「なっ……何をする!!」

『いいから暴れるな、手元が狂う!』

 

致命的な損傷に機体が警告をがなり立てる。しかしそんな事は知ったことでは無いとばかりに背中に回り込んだその機体は、今度は背中にマウントされた狙撃銃をもぎ取りその場に打ち捨て、光学迷彩装置を殴りつけて叩き落とし踏み砕く。

 

『脱出する、舌を噛むなよ!』

 

そうして乱暴に『軽量化』された私の機体を乱暴に掴み、そのブラストは駆けだした。

コクピット内の私にははたまったものでは無く、下向きに吊り下げられシートベルトが腹部に食い込み、がくがくと乱雑に揺られる。

その重みに、先ほどの衝撃に……数年前の始まりの記憶がフラッシュバックする。

 

あの日、破落戸に襲われようとしていた私を助けた少年の……

 

スピーカーから聞こえたのはあの声に似てはいなかったか。

彼が逃げるときに撒き散らしたブラスト用の部品、なぜそんなものを持っていたのか。

この必死な乱暴さは……

 

『……ぃ、おい!聞こえてるのか返事しろ!!』

「は、はいっ!!」

『ヘリを奪って脱出する、偵察機がまだ残っているならあっちに向かって飛ばせ!』

「りょ、了解っ!」

 

一瞬出てしまった素の自分を隠すように、慌てて機体を操作する。

一旦下ろされ、偵察機を指示された方向に射出する。機体のコンピュータがあらかじめ予定していた偵察の部分まで含めてのデータスキャンを開始し、一瞬だけ機体の反応が重くなり……直後、レーダーに次々表示される反応を見て、ようやく目の前のブラストが友軍を示す青いマーカーであることに気付いた。

 

『よし、射出したな……じゃあこのコンテナも不要、っと』

 

めきゃりがりごりぶちぶち。

乱暴に偵察機のコンテナが外され、警告音と共に私の機体が更に軽くなった。本当に友軍なんだろうか。

再び持ち上げられる機体、必然的に吊り下げられ食い込むシートベルト。実は刺客ではないんだろうか。

そんな事を思いながら、偵察機の情報を元に敵を躱し、二機のブラストは海へせり出した予備ベースの近くまで到着した。

その頃には幾分か心も落ち着き、いつもの調子を取り戻すことが出来た。

 

『詳しいことはヘリで話す、先に行ってヘリを起動しておいてくれ』

「……我を小間使いにするとは。汝で無ければ闇の炎で灼いていたところだ」

 

リフトを起動し、ベースの裏手のヘリポートへ直接向かう。ご丁寧に右腕と両足は残されていたので、リフトは問題なく使用することが出来た。

そうしてヘリポートに残されたヘリに機体を格納し、コクピットから遠隔操作でヘリの起動手順を進める。

システム起動、エンジンの始動、通信機器の再設定と飛行ルートの確認……ガロアのブラストに追いつかれる前に何とか飛び立とうと、作業を進めたのだった。

 

 

リフトで機体がヘリポートへ向かっていくのを確認し、俺は武器をコールした。

エグゼクターは投擲し、手榴弾はコンテナごと投げ飛ばした。残弾の尽きた突撃銃も投げ捨て、ブラストを抱えて移動するときにアサルトチャージャーは空っぽになった……それでも。

 

ヘリが離陸するための時間を稼ぐ。

 

胴体から特殊なアンテナが立ち上がる。ニュードの光を放ち……上空に待機させた機体に格納されたものを、自分の手元に呼びつける。

視界の端に紫色のブラストが次々と現れるのと同時に、それは転送されてきた。

 

「要請兵器受領……!悪いが、ここはちょっとだけ通行止めだ!!」

 

ニュードに汚染されたのは海や大地だけではない、大気もまたニュードに汚染されている。この空気中のニュードが発する磁気や熱が電波を阻害し、正確なデータ通信には相応の手段が必要となった。

それは戦場においてブラストでネットワークを構築し情報精度を高めることであったり、偵察機のように使用時間を代償に高出力化を図ることであるが……よりシンプルな解決方法がある。

 

即ち、通信装置を巨大化し、出力を馬鹿みたいに上げ、無理矢理指令を送信する、である。

 

要請兵器・爆撃通信機。ブラストでようやく抱えられる程の巨大なアンテナを地面に突き立て、攻撃指令が送信される。

直後、方位角と周辺地形のデータから算出された爆撃ポイントが上空の爆撃機へ伝達され、遥か上空を旋回しつつ待機していた航空機が一気に機首を下げ戦場へ飛来した。

 

『使わせ……間に合わんか!退避だ-!!』

『急げ、どこから突っ込んでくるか分からないぞ!』

 

そう慌てるガロアのボーダーたちの行く手を遮るように投下されたそれは真っ直ぐに地面を抉り、派手な炎を吹き上げた。

通常戦闘で使用されるのは大型の榴弾であるが……

 

『炎が、炎が消えません!』

『これは榴弾じゃない、焼夷弾だぞ!』

『ニュードの活性化も起きてないのに要請兵器を使って、しかも特殊弾頭だと!?』

 

「クライアントから大盤振る舞いして貰えたからな。このまま行かせてくれればいいんだが」

 

混乱に陥り、炎の壁に立ち往生するガロアのブラストを尻目にリフトでヘリポートへ向かう。目をやった先では既にヘリがローターを始動させ始めていた。

 

『ルート入力完了、IFF書換完了、各部ロック解除……4番ハッチ開放!汝!』

「ナイスタイミング、だ!」

 

俺を迎え入れるようにヘリ側面のハッチが一つ展開され、同時にローターの回転速度が上昇していく。

側面に飛び込み機体を固定……

 

『逃がしませんよ……』

 

しようとした次の瞬間、爆音と共に一機のブラストが炎の壁を突き破って突破してきた。

 

 

記憶を頼りにヘリを操作していく。コンソールにコマンドを打ち込み、始動手順を確実に、しかしできる限り早く入力する。

必死に学んできたことが活きる。達成感と充足、生き残ることが出来そうだという安堵……

 

「……よし、汝はこれより我が眷属である!その翼、存分に使ってやろうではないか!」

 

ヘリを掌握し、エンジンの出力を上げながら戦場に目をやる。

丁度上空から何発もの砲撃が降り注ぎ、炎で分断されたブラストの集団を尻目に彼がリフトで渡ってくるところだった。

ハッチを開け、ヘリの格納庫へと迎え入れいざ飛び立とうという瞬間。

 

『逃がしませんよ……』

 

粘つくような暗い声、同時に炎の壁の一角が爆発する。

サワードロケットによる爆風で一瞬だけでも火勢が収まった瞬間を狙って、一機のブラストが飛び込んできた。

爆風へ自分から突っ込む無茶と、弱まったもののまだ十分な勢いを保ったままの炎により大きなダメージを受けながら……それでもそのブラストは炎の壁を乗り越えこちら側へと辿り着いていた。

 

(まずっ……今攻撃されたら抵抗の手段が!)

 

このヘリに武装は搭載されていない。装甲もブラストによる攻撃を受ければひとたまりも無いだろう。

彼の機体は主武器、副武器はおろか補助、特殊に至るまで全て使用しきっており、要請兵器も残されていない。

 

『あなたが逃げられる確率は0%なんです!逃がさない……あってはならない!ボクの計算に、狂いなんか……』

 

通信機越しでも分かるほどに激高し、半狂乱の声を上げるそのブラスト。

焼け付き、ニュードを噴き上げながら……その損傷すら知ったことかと、恐ろしさを感じるほどの執念のままに突っ込んでくる。

 

『認められない……認めないっ!!ボクの計算がっ!絶対なんですよ!!』

 

その手の銃がこちらへ向けられ……

 

銃声が、響いた。

 

 

「……、……?……テラさん!」

「っ!何事だ、機関の襲撃か!?」

 

突然の声に飛び跳ねて周りを見回す。すぐに声の元は見付かった。

さらりとした金髪、青い瞳。整った顔立ちの青年だ。

 

「おはようございます、デヒテラさん。整備担当から内線ですよ」

「ニコライか。済まぬな、少し闇に囚われていたようだ……主任、如何したか」

 

受話器を取り、接続ボタンを軽く叩く。直ぐに通話が繋がれ、用件を聞く。

 

「あぁ……うむ、その銃だけはそのままにしておいて頂きたい。補充も交換も不要だ、元より戦場へ持ち込むつもりも無いのでな……否、そうではなくてだな、その……ああ、理解して頂けたなら結構。ではよろしく頼むぞ」

 

受話器を置き、一息つく。毎度の事ながらこの説明をするときには妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。

 

「用件が何だったか伺っても?」

「ああ……我が愛機の寝台に飾ったものについてな」

「そういえば機体の搬入が今日でしたか。これでデヒテラさんも本格的にこの基地の仲間入りですね」

「うむ。願わくばこの闇の契約がより長く続かんことを祈ろうぞ!」

 

 

そう、彼女はまたトバされたのだ。

足並みをそろえることが出来なかったり、その言動で敬遠されたり……理由は同じようなものだが、都合何度目かという配置転換。

優れた技術を持ちながら一ヶ所にとどまることが出来ない彼女は、そのブラストと共に何度もトバされてきた……が、ある時からその持ち物が一つ増えた。

格納庫の彼女のブラストに割り当てられたスペースに飾られた、何の変哲も無い一挺のマーゲイ。二挺一組の片方だけが常に機体の傍にある。

 

 

「あれこそは運命を撃ち抜く銃だ。魔を払い、真を穿つ……否、穿った故に唯一へと至った器と言えるだろう」

「は、はぁ……そうなのですか」

 

苦笑しつつニコライが相槌を打つ。きっと理解は出来ないだろう。

だが、それでいい。あの銃の価値を知るものは私だけでなければいけない。

 

真実、あの銃は真を……心を撃ち抜いたのだ。私の心を。

 

数ヶ月前のあの日。無謀とも言えるほどの突撃を行ったガロアのブラストが、ヘリに銃を向ける、その寸前に。

 

『借りるぜ』

 

左腕も、狙撃銃も、光学迷彩も偵察機も奪われた私の機体に残されていた唯一の武器……右肘にマウントされていたマーゲイ・サヴァート。

片手となった今抜くことすら出来ない、存在すら忘れていたその銃を抜き取って彼は発砲した。

大口径の銃弾は真っ直ぐ飛び、吸い込まれるように頭部へと着弾。無理な突破でダメージを受けていた機体はひとたまりも無く爆散し、ボーダーは強制的に転送されていった。

 

『Jackpot(大当たりだ)!』

 

その一言に、撃ち抜かれた。

胸の奥からとめども無く真っ赤な想いが溢れる。今すぐ飛び出してしまいたいのに手が離せない、寄り添えない寂しさは心に穴が空いたようで、すぅすぅと風が吹き抜けるように漠然とした不安が通り抜けていく。

ああ、死んだのだ。間違いなく……恋を知らなかった自分は、胸を撃ち抜かれて息絶えたのだ。

だってこんな熱い想い、一度知ってしまえば戻れない。恋を知らなかった時の生き方なんて二度と出来やしないだろう。

彼との出会いは鮮烈で、思い出すたび胸がドキドキした。しかしそれは恋では無かった……今なら理解できる。何も知らない子供が、世界に初めて触れる瞬間の、感動と期待による胸の高まりというだけだった。彼よりも世界の方が大きかったのだ。

 

だが、これは違う。顔も知らず、名も知らず……しかしそんな彼に今、自分は間違いなく恋をしたのだ。

 

 

 

 

今になって思えば何と勿体ないことだっただろうか。

初恋に頭が真っ白になり、どう声をかけていいかも分からず、あんなに近く……コクピットから飛び出せば直ぐの位置に彼がいたにも関わらず、何も出来ないまま拠点に下ろされ彼が去って行くことを見守るしか出来なかった。

憶えているのは二つだけ。飛び去る巨大な航空艦と、肩に刻まれたエンブレム。後から調べて分かったのは、傭兵集団S.N.C.A.という名前だけ……

 

それでも。

 

「父上、母上、兄上……我は見出したぞ。我が生涯を捧げるに相応しき主を、我が深淵の闇に立つ騎士を……我が半身たりえる運命の使徒を!」

彼女は止まらない。それどころか同じ存在を求める同志を騎士団から見つけ出し、説得すらやってのけた。

あの堅物の騎士団長すら同志である以上、今やフェニエ騎士団の全てから追われているといっても過言では無い。

一歩ずつ、着実に……彼女は彼へと近づいていく。

 

「我が侯爵家の出しうる全てを捧げよう。権力も、金も、思いのままに。我が正妻となるのであれば側室なども好きに付けるとも。我と汝の間には覆し得ぬ運命が既に繋がっている……後は世の些事を整えるのみ」

 

格納庫のマーゲイ・サヴァートを前にして、そのグリップに、歪んだ固定ボルトに付けられた強引な傷跡を人差し指でなぞり、彼女はそのオッドアイを歪める。

 

「だから汝よ。どうか……どうか、幾久しく」

 

騒音の鳴り響くハンガーの中、その呟きに気付く者はいない。例え一つ隣のハンガーであっても。

故に、自機の調整に集中しているニコライがその瞳を見ていなかったことは、きっと幸せだったのだろう……そう、きっと。




出張が終わったら気温が上がってきて執筆止まるという。
ちまちまと書き進めてる間に新キャラ新キャラあとLv.10衣装。ぬわー!

それでもデヒテラちゃんまでは書ききるって言ってたので有言実行。他のキャラも考えてはいるけど書けるかはわかりますん。
もし書けるならコノハかフリッシュかなぁ……


あ、コクピットの描写しましたけど内装は公式と違う部分があります。あしからず。
OP見たらハティがコクピットいる時にボダコンしっかり映ってるんですよね……

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