それでも終わらない「物語」〜inherited will〜 作:満月信仰
ある
_______また
______それはきっと残酷な事なんだろうね...
_______え?もっと聞きたいって?
______いいよ、また語ろうか...
______時代の流れに飲み込まれた歴史を...
誰からも忘れ去られた歴史をね...
______これは、ある男と北方棲姫の物語...
人々から「英雄」と呼ばれた男がいた。その男は、突如として人類の前に現れた、「艦娘」と呼ばれる者達をを率いて、深海棲艦と戦う__所謂、提督業をしていた。
彼は戦場で培った類稀なる指揮能力に加え、艦娘と心を通じ合わせることが出来る力を先天的に持っていた。彼はそれらを活かすことで、深海棲艦との戦いを有利に進め、侵略された海域を解放していった。人々は彼に対しての尊敬と功績を称え「英雄」という呼び名で呼ぶようになった。
そして現在、「英雄」が行方不明になって早5年。人類と深海棲艦の戦いは深海棲艦が優勢になりつつあった...
雲の中を進むようだった。
立ち込める霧が海面を隠していた。視界は悪く、数メートル先すら見えないほど白く霞がかり、空を見上げても太陽の場所すら掴めない。深くずっしりとのし掛かってくるような霧だった。まるで、何者をも近付くことを拒む様な雰囲気を醸し出していた。
そんな霧の中を進む船がひとつあった。簡素な船である。しかし、この深い霧を切り開くように、真っ直ぐに、真っ直ぐに進んでいる。その船に乗っているのは一人の男だった。男は視界の悪い中、周りを見渡すこともせず、前だけを見つめていた。
一風変わった男だった。年齢はまだ20代前半だろうか、若い顔つきをしていた。外見は軍人の様で、軍服を羽織っていた。しかしその軍服は所々がほつれていて、一般的に見られる軍服ではなく、表が白、裏が黒のリバーシブルになっている、そんな珍妙な軍服であった。
長いこと船を進ませているが、船から見える景色は変わらず、霧が立ち込めている。白い塗料で塗りつぶされているかのようだった。
しかし、その白が元の色に戻るかのように少しずつ、少しずつ薄くなりはじめていた。やがて、霧が薄くなりだすとともに、男の進む先に小さい島が姿を現してきた。その島に近づくにつれて、島の全貌が見え始めてきた。その島は無人島の様であった。灯台や古びた建物などの人工的なものもあるが、鬱蒼と茂った森が島の大部分を占めていた。
男は岸壁に流されないように船を停泊し、海岸に沿うように砂利道を歩き出した。道は荒れ果て、長年整備されていないようであるが、男は迷いのない足取りで道を進んでいっている。
ただ、じゃり、と小石を踏みつける音がどうにも不快だったらしく、男は目を細めていた。
男が歩き出してから数分、砂利道の横に門が見えた。門の奥には白と黒の大きい建物が所在しているのが見える。しかし、今となっては、何に使われていた建物なのかわからない程荒れ果てており、完全に廃墟化していた。男はその建物を一瞥しただけで、また視線を前に戻し門の前を通り過ぎて、その歩みを速めた。
男が歩みを止めたのは、海が一望できる丘であった。そこには、小さな墓標と、木造の家があった。それは家と言うには余りにも小さく、少し大きい小屋と言うのが正しいかもしれない。男はまず、墓標の前で立ち止まり、祈るように手を胸の前で合わせた。そして数秒間、その姿勢を保ち続けた。
墓標には、「わ す れ な い」と、文字らしき物が書いてあった様だが、最早読むことは出来ないだろう。
やがて男はその姿勢を解き、今度は家の方へ歩き出した。男が家のドアを開けると、中からとてとてと走ってくる足音が一つ聞こえてくる。
その足音の正体は白い髪を持ち、白いワンピースを見に纏った可愛らしい少女だった。
その少女は男の元へ駆け寄り、腰辺りに飛びついた。その動作は子犬を連想させるようだった。男は少女をあやすように頭を撫で、後ろ手でドアを閉める。静寂が辺りを再び包み込む。
残された広い丘と墓標には、風が通り抜けるだけ。