黒歌が可愛くてつい始めた話。   作:楯樰

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今回展開が余り進まず。


説得する日

 小猫ちゃんが先にバテた。

 

「……落ち着いた?」

「当たってくださいよ奴良先輩っ! 私の事なんて何も知らない癖にッ! なんで――」

「仙術を忌避する理由は知らない。……でも赤の他人である俺が聞いて良い事なのか?」

「っ……それは……!」

 

 ――本当は赤の他人と言うわけでは無い。

 愛してるヒトの抱える問題だ。

 でも其処に俺が直接首を突っ込むのは間違ってると思うから。

 ……だからせめて彼女の手伝いはさせて欲しい。

 それは驕っていると、自分でも思うけど。

 

「小猫ちゃんが話そうと思わないなら俺は無理に聞かない。……でも、さっきも言ったけど一応俺と小猫ちゃんはリアス部長の下に集まった仲間だ。『王』のリアス・グレモリーからしてみれば家族同然の事だと、俺は聞いた覚えがある……違うかな?」

「違わないです……っ。でも……!」

「小猫ちゃんが俺の事を仲間だと思っているなら話してくれてもいいよ。それで小猫ちゃんが仙術を使えるようになって、そして誰よりも強い戦車になろうと思うなら……俺は何時でも話しを聞くからさ」

「……」

 

 ぺたりと小猫ちゃんは座りこんだ。

 ……ヤバイな。なんだか口説いてる気分。

 口で説くって言う意味の「口説く」なら問題はないけど。

 ――……ずらす。

 小猫ちゃんの俺に対する感情を親愛にずらして軌道修正をした。

 ヒトとしてやっちゃいけない事だけど……ゴメン。

 

「…………ふふふ。おかしいですね。今ちょっと先輩のことかっこよく見えちゃいました。……話、聞いて貰えますか?」

「お、おう……」

 

 危なかったみたいだ。

 ……はぁ。黒歌に見られてないと良いんだけど……無理だな。うん。

 あそこの木の上でめっちゃ見てるもん。……妹を口説いたって怒られる。

 

 ――そして白音ちゃんの口から語られるのは、白と黒の姉妹猫のこと。

 優しくて温かかった姉猫の事。

 才能溢れる姉が上級悪魔の目に止まり、悪魔となり、もう明日死ぬかもしれないという事を考えなくても良いようになったこと。

 でもそれは違った事。

 姉が主人を殺し妹をおいて逃げた事。

 

 小猫になる前、猫又猫魈の白音ちゃんの受け取った姉の暴挙に対する思い。

 ある悲しい事件の一側面。

 

「その妹が私です。……分かりましたか? 私が仙術を忌避する理由が……恐いんです。姉さまみたいになるのが」

 

 森の中で語る、白音ちゃんの独白は終わる。

 白音ちゃんはいつの間にか泣いていた。

 ……それは木の上にいる当事者も同じ。

 黒猫も目から小さい雫を零していた。

 

「どうするかなぁ……おいで、黒歌」

「え……?」

「あぁ、ちょっと吃驚した。なんせウチの飼い猫と一緒の名前なんだ。そのお姉さんの名前。……早く来いってば」

 

 急に名前を呼ばれて木の上の彼女は酷く狼狽していた。

 ……あ、落ちて足から着地した。……猫って本当に足から着地できるもんなんだなぁ……。

 トボトボとゆっくりこっちに来る。

 

「よしよし。……お前木の上なんかに登ったりして……ホントにどうやってお前ついてきたの?」

「……。先輩、本当にその猫はただの猫なんですか?」

「うん? 多分。三年くらい前に拾ったんだけどね」

 

 ビクリ、猫の身体が震える。

 念話が来た。

 

『止めて、リクト!』

 ……でも本当に良いの?

 

『駄目だけど……でも、まだ……』

 ……。

 俺が言う筋合いは無いけどさ……何時になったら打ち明けれるのよ、黒歌さん。

 本当に……一生打ち明ける事なんて出来ないよ?

 

『うぅ……でも……』

 わかった。じゃあもうそれっぽい事は言わないから。

 ……ごめん、余計な事した。

『……リクト!』

 

「……どうしたんですか先輩」

「んあ? や、ちょっと考えてた。小猫ちゃんいや、この場では白音ちゃんと呼ぼう。……白音ちゃんはそのお姉さんが嫌い?」

「直球ですね……好きでした。けど嫌いです。だって私の事、置いて行ったから……姉さまは私の事が邪魔になったんです。それで姉さまが行った後、私は……」

 

 ――処分されそうになった。

 

 あぁ、これだ。これが俺が少し悪魔を嫌う理由。

 ……いや、悪魔だけに言える事じゃない。

 人、妖怪、悪魔、天使。

 知性ある生き物が異端を嫌うかのような、忌まわしい存在を理解もせず消そうとするのが。

 なんのために知恵を付けたのか。

 なんのために頭が付いているのか。

 なんのために――。

 

「先輩?」

「……ごめん、また考え事。……どうしてもそういった話を聞かされると考える所があるからさ」

「……先輩らしいですね」

 

 苦笑された。

 ちょっと暗い気持ちが晴れただろうか。

 もう一押し。

 

「さて。……ちょっと話したけどさ。やっぱり使う気にはなれない?」

「……はい。まだ恐いです」

 

 結構深いトラウマになってるんだろう。

 ……腕の中でピクリともしない黒歌が少し気になる。

 

「そうか……俺は恐くはない。誰かを救う事ができる。誰かを守る事が出来る……俺にとって仙術は大切なヒトと一緒にいるために振るえる力の一つだ。だから外界の瘴気なんてものは……俺はそれすら従えてやる。……自分に毒になるように、それは相手に送り込めば毒になるんだから」

「……そう、ですか……」

 

 言う事は言った。

 あとは小猫ちゃんの決心しだい。

 

「すぐに結論を出せとは言わない。だから考えてみて。……大事な部長を守るため必要と思ったら……俺の所に言いに来れば教える。暴走しない方法に……瘴気を従える方法を」

「…………わかりました。少し、考えてきます……」

 

 そういって、服に付いた土を払って小猫ちゃんは先に戻って行った。

 

 

 ……黒歌が腕から飛び出てその場で人型に戻る。

 同時に俺は自分と黒歌を外界から『ずらした』。

 

「……リクト。どうしてあそこで私の事を……」

「ちょっとした出来心じゃ駄目……だよな」

「うん。……どうしてなの」

 

 追及する言葉は少し刺々しい。

 少し恐い。

 もしかしたら嫌われるんじゃないか、と思うとどうしようもなく恐い。

 そんな関係でないにしろ……多少なりと好意を受けている自覚はあるのだ。

 今の関係は楽しい。でも先にも進みたい。

 

 ……とにかく今は。

 ちゃんと答えなければ軽蔑されるだろうことは、既に分かっていた。

 

「デートの約束を黒歌はしてくれたけどさ……今回の合宿で白音ちゃんの強化は打ち明ける絶好の機会だと俺は思ってたんだ。……目先の欲に囚われたけど」

「私もそれは……なんとなく分かってた」

「……そう、絶好の機会だったんだ。今回の事は。……白音ちゃんに仙術を教えに来た、と言って彼女の前に黒歌が出る。何故黒歌が主人殺しをしたか、何故白音ちゃんを置いて一人で逃げたか話せば……良いと思ったんだ」

 

 思った、だ。

 実際にどうなるか、その時にならないとわからない。

 所詮シュミレートだ。想像と現実は大きく違う。

 ……少し、自分は浅はかであったか、と今なら思う。

 

「……」

「やっぱりもっと二人の溝は深いのかな」

「……わからないよ私には。白音の苦しみは……わからないよ」

 

 猫又の姉妹。

 互いを想う良き姉妹であったのは……もう過去の事だった。

 

 ――未来は未だ、わからず。

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