黒歌が可愛くてつい始めた話。   作:楯樰

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きっとこんな感じかな、と。



出会う、その日

 

 私は一人、部屋の中で想起していた。

 仙術を得て暴走した姉。殺された主人。……そしてあの冷たい視線と殺意。

 その全てが仙術によって引き起こされた忌まわしい過去だ。

 

 だけどその仙術にきっと罪は無いのだ。

 罪があるとすれば使う者たちに。

 そして仙術という力を使う上で、自分の持つ気ではない世界の『悪意』とも言える『瘴気』が一番の原因だと。

 

 そして、あの先輩が言うように瘴気を『使う』のではなくて『従える』のであれば……力に溺れる事は無いんじゃないかと。

 だけど、とも思う。

 仙術は自分から大切なヒトを奪っていった。姉を奪われ自分を傷つけていった。

 きっとどっかで仙術は姉を今も魅了し、その力を振るっているのだろう、と。

 

「姉さま……私は――」

 

 ――大好きで大嫌いな姉。

 私を置いて行った優しかった『お姉ちゃん』。

 私の声に振り向きもせず行ってしまった『姉さま』。

 ……あの悪魔を殺したのには何か理由があったんだ、と思いたかった。

 

 だけど。

 ……あのヒトに訊いたわけじゃない。

 ――でも私は「『はぐれ悪魔』となんら変わり無い『力に溺れたから』というとても身勝手な理由」だと聞いた。

 

「私は……私は――一体どうしたら」

 

 ベットの上で蹲り、誰にも聞かせるわけでもなく呟く。

 あの先輩は私に仙術を使えと言う――でもその決心は付かなかった。

 ……やっぱり姉のように暴れてしまうのでは、と頭をよぎる。

 

 ――にゃぁ、と何処からか一鳴き、猫の鳴き声がした。

 

 部屋の扉の外からだ。

 少し考えて――先輩の連れて来ていた猫だと、気づいた。

 姉と同じ名前に黒い毛並み。

 色々と想起させる、姉にとてもよく似た黒猫。

 泣き声が聞こえていたのだろうか……その猫が扉の前に来ていたようだった。

 

 ――なぁお、とカリカリと扉を引っかく音、再び鳴き声が聞こえた。

 

 このまま無視をするわけにもいかない。

 扉を開けて、抱き上げて部屋の中にいれる。

 

「……どうしたの?」

 なーお。

 

 猫の顔を正面から見つめて聞く。

 泣いてる声がしたから、と猫の鳴き声は言う。

 珍しい。基本気分屋の猫はあまり他猫の事を気に掛けたりしない。

 その猫が気にするくらい……私は情けない声をだしていたのか、と少し恥ずかしく思った。

 

「心配いらないから。……大丈夫だよ」

 にゃあ?

 

 ベッドに座り、背を撫でて私は言う。

 それに、本当に? と猫が鳴く。

 ……本当の事を言えば辛かった。

 仙術の事を考えるとつい姉の事を考えてしまう。

 

「……っ……ねぇ、さま……」

 にゃああお。

 

 情けないことだ。涙が零れてしまう。

 猫に心配されるようじゃだめだ、と涙を堪えようとするけれど止まらない。

 

「……とまっ、て……ないちゃ、だめだから」

 

 この猫に心配させてしまう。

 私はただの飼い猫に心配されるような弱い子じゃない。

 ……そんな自分の小さな意地もポロポロと零れていく。

 

 

 ――……ごめんなさい白音!

 

 不意に。

 なつかしくて温かい……優しかったお姉ちゃんの声が聞こえた。

 ……気のせいだ。

 だって此処には雌の黒猫と私だけ。

 いくら姿が似ていても。

 いくら名前が同じでも。

 自分の鼻も、気配も違うと訴えてきている。

 ――……だけど。

 

「――――っ! ごめんね白音ぇ……っ! 私、わたし……!」

「……ねぇ、さ……ま?」

 

 私を抱きしめるのは猫じゃない――ヒトの形をした誰か。

 そこにいるのが、仙術に溺れて暴走した『姉さま』じゃなくて。

 大嫌いで大好きな、優しい私の『お姉ちゃん』だと気づいて。

 

「――くろかおねえちゃん……っ!」

「うぅ……しろねぇ――っ!」

 

 幻想でも幻影でもいい。

 ……でも今だけは優しいお姉ちゃんに会えた事が嬉しかった。

 

 -------------------------

 

 二人で泣いて、落ち着いてから。

 

「……黒歌姉さま」

「えっと……」

 

 ……どうしよう。

 白音が心配になって部屋に来てみたのはいいけど、泣いてる白音を見て思わず人型にもどって抱きついてしまった。

 ……や、やばいにゃー。な、何も考えてなかった……。

 うぅっ……助けてぇーリクトー……。

 

「……やっぱり姉さまは仙術に溺れてあの主人を殺したの? ……私の事を置いて行ったのは邪魔になったから……?」

「うぁ! ち、違うのよ白音! えっと……」

 

 ひとしきり泣いて、目の周りが赤い白音がまた涙を湛える。

 べ、弁解し無いと……白音と仲直り出来ない。

 リクトじゃあるまいし嘘なんて直ぐに思いつけない。

 ――えぇい! 覚悟決めろ私!

 

「……実はあの男は私が仙術って力を手に入れてから眷属に力を求めて、……まだ仙術なんて使ったら暴走しちゃう白音にも覚えさせようとして私はやめるように言ったのだけどやっぱり聞かなくて……」

「……」

 

 白音の視線は戸惑いに揺れていた。

 あぁ、――落ち着こう。慌ていたら伝わるものも伝わらない。

 

 一つ深呼吸して、私は続ける。

 

「……私は白音を仙術から遠ざけたかった。"白音にはまだ早い"って私が会得したから分かったの。だから奴を殺して、私は白音を置いて逃げた。……私なんかと一緒に行ったら白音は絶対不幸になると思ったから……」

「……それは本当なの?」

 

 真偽を聞かれて私は頷く。

 私は追われる身になっても良かった。

 白音に嫌われても。白音が幸せならそれで良かった。

 ……あの時白音を連れて行って――私のように追われることは。幸せを逃すような事は――。

 

「――っお姉ちゃんのバカッ! なんで……私は――私はッ!」

「……ごめんなさい。白音が辛い思いをしたのはずっと見てて分かった。私のせいで処分……殺されそうになった事も知った。……ごめん。私が馬鹿だった――本当に御免なさい」

「……ッ! ……頭上げてよ……!」

 

 額を床に付けて謝る。

 許してくれなくても、許してくれても……私は白音に謝らなくちゃいけない。

 リクトに会って、白音の様子を見れるようになって分かった。……白音は私以上に辛かったんだって。

 

 だから私は謝る。

 ……嫌われても良かったけど――やっぱりそれは嫌だったから。

 

「ごめんなさい、白音。許してくれとは言わない。でも私、やっぱり……白音に、嫌われるのはっ……嫌で……っ!」

「……」

 

 許されないことを私はしてしまった。

 白音は……許してくれるだろうか。

 無理なら私はもう……。

 

「――嫌いです姉さま。私を置いて行った姉さまなんて大嫌いです」

 

 ……やっぱり。

 

「そうだよね嫌い――」

「……でも大好きです。私の事を考えてくれる不器用なお姉ちゃんが私は好きです。……好きの反対は嫌いじゃ無いんですよ?」

「……っ! しろねぇ……!」

「――大好きで大嫌い。……頭上げて、お姉ちゃん」

「――っっ!!」

 

 あぁ、白音。

 本当に――。

 

「大きくなったね……」

「――はい!」

 

 ヒトとして。

 悪魔として。

 身体はまだまだだけど……。

 ――もう私よりアナタは大人だよ――白音……。

 

-------------------------

 

 今まで見ていた無表情な小猫(悪魔)はいない。

 

「所でお姉ちゃん。……奴良先輩とどういう関係なの?」

「べ、別にリクトとはまだ何でもないよ?」

「――まだ?」

「うっ……あぅ……」

「はははっ……変なお姉ちゃん」

「……白音がいじめるー……」

 

 白音(白猫)は今、笑っていた。

 

 

 




小猫ちゃんのスーパーお姉ちゃんタイム。
きっと黒歌が主殺しをする前はこんな感じだったんじゃないかな、と。
急展開だったけど良かっただろうか。

黒歌は可愛い。
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