黒歌と言う名の猫魈を拾って、翌朝。
海外出張の多い両親を持つ俺の家に、件の彼女は居た。
というのも、もう既に肩を貸す事は無くなっていたものの、まだ体を動かすのに差し支えがあるようだったからだ。
彼女が言うに逃亡中なのだとか。
犯罪者? と聞けば、きっとこの家から出て行く事になるだろうから聞かなかったのだけど、激しく動くかもしれないならちょっと休め、的な事を言って昨日は留めた。
……一生に一度も無いだろう機会を逃すわけには行かないのだ。
「黒歌さん。身体の調子は大丈夫?」
「うーん……まだちょっと本調子じゃ無いかな」
にゃはは、と笑う彼女の笑顔が眩しい。
気を抜いたら鼻血が出ちゃうくらいだ。
一日やそこらで治る怪我じゃねーよ、と言いたかったが本当に治ってきているので妖怪と悪魔の再生力は凄いと思う。
「……でも明日にはもう出て行くから。……色々と有り難う、奴良さん」
「いや全然。むしろずっと居てくれても構わないんだよ、こっちとしては」
「……有り難い話だけど迷惑掛かるし。きっと私の追っかけがこの家に襲撃してくると思うから」
「……」
むぅー……。
このままだと明日には行ってしまう。
……ならもう言ってしまおう。
「黒歌さん。……俺も明日、一緒に行っても良いかな?」
「駄目! だって」
「黒歌さん人間じゃないんでしょ? 馬鹿みたいに回復早いし。それに俺も人間と少し違うし……ほら」
「へ? ……嘘っ!」
黒歌さんの後ろに
「ね? まぁ、でも身体は普通の人間だから……って、なんでそんな警戒してるの? 気持ちは分かるけど」
「……私を嵌めたのかにゃ」
「そんなつもり更々ないんだけど……ま、生まれ持っての
手を差し出す。
「…………ナニコレ? 干渉出来ない?」
触れているのに触れて無い。
押しているのに押していない。
あらゆる意味で干渉出来無いのだ。
厳密には違うけど……敢えて厨ニっぽく名づけるなら『位相操作』みたいな?
「……OK?」
「……でもにゃ。君は分かって無い。きっと君が黙って出て行ったらご両親も心配する」
「そんなことないよ……家にはすぐ帰ってこれるし。……黒歌さんさえよければこの家を隠れ家にしてもらっても問題無いわけで。あ、勿論ココに住んで貰っても構わないから」
「だから!」
「家も細工してんだぜ? 俺と黒歌さん以外にはさっきみたいな事になるし、なんかこうオーラ的な物も絶対に感知されない」
「……」
黙ってしまった黒歌さん。
むー……行けるか?
「……どうかな?」
「ちょっと考える時間が欲しい。……明日。明日決めさせてくれる?」
「うん、了解。……で、朝食はどうします?」
「…………空気読めないねって言われるでしょ」
「何ソレ美味しいの?」
はぁ、と溜め息吐かないで貰いたいものだ。
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困惑。
今の心境はソレに尽きる。
まさかこんな事になるとは思いもよらなかった。
でも運が……私にも向いてきたのかもしれない。
ただ……ごめんなさい白音。
お姉ちゃん、あなたを一緒に連れて行けば良かった。
きっと今頃冥界では、私は主殺しの大罪人として指名手配されていると思う。
……私を拾った彼。
リクト、
分からないけど、きっと良い人……なのだと思う。
幾らこんな美少女だからって家に上げて、世話をしようだなんて思わないと思う。
何かから逃げてる、って聞いただけでも厄介事の匂いがするもの。あと臭いも……身体洗ってなかったから。
それについて聞いてみたけど、『私だから』って答えられた。
彼は訳の分からない能力を使う。……分からない。
彼は美味しいご飯を振舞ってくれる。……分からない。
なんで優しくしてくれるのかが分からない。
……厄を運んで来るかも知れないって言うのに。
自惚れかもしれないけど、彼が私に優しくしてくれる理由は……私の事が好きだからだろう。
でも、なんで?
一目惚れって感じじゃ無い。
あれは……前から私の事が好きだった、って感じだった……彼の出す匂いからして。
なんなんだろうか、彼は。
何やらこの世界の裏の事も知ってそうだし……自分の力の事については詳しく言わないし、私の事についても追及しない。
もう五日。
結局リクトの家に住まわせて貰うことになったけど……そろそろちゃんと話さないといけないと思う。
色々と。
……というか私が申し訳無い気持ちで押しつぶされそう。
白音。お姉ちゃん、ストレスで胃に穴が空きそうだよ……。
「何してんの?」
「あ、や、なんでもないにゃー…」
書いてた日記見られそうになった。
恥ずかしい。
にゃー…にゃー…。
「コレから買い物行ってくるけど……どうする?」
「うんっと……アイスが欲しいかにゃあ……って」
「了解。……じゃ、行ってきます」
「……気を付けてね」
行ってらっしゃい、は言わない。
ちょっと残念そうだったけど……ケジメは、つけるところはつけとかないと。
きっと私が『いってらっしゃい』を言う日は来ない。
此処までがプロローグ。
次回から原作突入。