ぬらりくらり
掴めぬ現実 舞い散る幻想
凍てつく寒さも 燃えうる熱さも
夢も希望も 野望も宿願も
三千世界の万物万象
其の遍く全ての理
其の起源
揺らぎよ 揺れよ
ゆらり ゆれり
ゆりゆれ ゆれゆり
人にあって人にあらず
妖にあって妖にあらず
魔にあって魔にあらず
仏にあって仏にあらず
神にあって神にあらず
揺れよ体よ
揺れよ心よ
揺らぎよ 遍く全ての揺らぎよ 混沌たる揺らぎよ
今はずれろ 人にずれろ
意思を持て 心を持て
揺らぎよ 理の揺らぎよ
其の魂を理が一にせよ
起源はずらし ずれよ ずれて昇れ
ずれて下へ 下へずれて
ずれて上へ 上へずれて
ずれてずれてずれの果てへ
夢幻の如く昇華せよ
無限の如く昇華せよ
其が魂は揺らぎへ
其が魂は夢現へ
ゆらりゆれり
「っっっ!!! っハァ――ッ! はぁ……っ!」
唐突に目が覚めた。
口の中が気持ち悪い。
用意された水差しから直接水を飲む。
吐きそうなほど気持ちが悪かった。
……部屋から外を見れば、まだ日は昇っていない。
部屋に置いてある時計も針は四時半前を指している。
寝たのは十一時頃だったろうか。
確か最後、祖父から話を聞いたのだ。
……
京都の妖怪について。
此処の妖怪について。
……妖怪は皆、始めは人の「おそれ」から生まれた者達なのだそうだ。
だからか元来気性が荒い者達が多い。
そんな彼等無法者を纏める大きく別けて二つの組織がある。
東の百鬼夜行の主、ヤクザ者の『ぬらりひょん』。
西、裏の京都の主『九尾の八坂』。
そしてこの両者は仲が悪い。
故に、ぬらりひょんに連なる俺はあまり京都へ近づかない方が良いのだそうだ。
仲が悪い原因はぬらりひょんに有るらしいが、それは誤魔化されたのでよく分かって居ない。
……ただ、少し予想は付くが……。
「っはぁ……」
肺に溜まった嫌気を吐き出し、少し落ち着く。
思考で頭を埋めて、気分が少しよくなった。
……それにしても気味の悪い。
何もかも無くて何もかもが有る夢。
夢から覚めれば大抵の内容は忘れるものだが、事欠かなく覚えている。
全てを曝け出されて全てを暴かれるようなあの感覚。
アレは自分だったのだろうか。
あの声は自分のものだったのか。
誤魔化してはいけない。
誤魔化せばきっと分からないままだ。
知らないといけない。
知らないときっと後悔する。
ただ、コワイ。
知るのがコワイ。
アレは人ではない。ヒトでもない。
ただ、アレは……自分だ。
つまり、自分は――
「何でも無い」
あの言葉の通り『
"ゆめ" と "うつつ"。
無いが有って、有るが無い。
夢想は現実に。現実が夢想に。
無限と夢幻の二匹の龍のように。
自分はそう。
遍く全ての理の一つから生まれた "揺らぎ" が体現されたモノ。
「此処に居るべきではないモノ……」
「そんな事ねーよ」
部屋に声が響く。
声の元を辿り、後ろに振り返って見ると枕元には奴良リクオが座っていた。
……いや、先ほどまで見ていた姿とは違う。
奴良鯉伴とぬらりひょんとよく似た、銀と黒の長い髪を持っている。
背も少し長くなっている。
「もう一度言うぞ。んなこと言うな。ヒトの心に勝手に入り込む妖怪としてお前の心を見させてもらったが……陸人。お前は此処に居れば良い。……お前は俺の娘とアイツとの子だ」
「……ならわかるはずだ。俺は俺であって俺じゃない。……揺らぎで夢現だ。例えアンタの孫でも。例えあの二人から生まれたとしても……違うんだ」
ユラリと手が揺らいでいた。
手から腕へ。腕から体へ。
徐々に自分の身体が揺らいでゆく。
試しに合わせた両手は互いに肘まですり抜けた。
まるで何も無いかのように。
今の俺の体は実体であり虚像だ。
あぁ、揺らいでいる。
心も体も……どっちつかずで決まらない。
「……本当に
「夢現か。……オレやオヤジ、ジジイよりもよっぽど "ぬらりひょん" らしいな。……とりあえず人に戻れ、陸人。お前は生まれて泣き、立花の乳を吸って育ち、己の足で生きてきた俺の孫でヒトの子だ。今はそれで良い」
「……それでいいのかな」
「あぁ、いいさ……逆に何の問題があるってんだよ。……もう一眠りしな、爺ちゃんが見ててやっから」
「……うん」
祖父が懐からだしたキセルを咥えた。
口から吐き出された煙が部屋に充満する。
……その香りを浴びていると、段々と眠くなり……。
――そうして俺は目を閉じる。
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……暁前。
奴良組の武家屋敷、その縁側で髪の長い二人が酒を飲みつつ昇る朝日を待っていた。
『あぁ、なんとも良き日であった』と曾孫であり孫娘あるのが帰省したのを喜び、二人で日本酒を空け、飲み交わす。
とは言えもう二人とも眠い事には変わり無い。……現に黒髪の色男、400年近く奴良組を纏めてきた奴良鯉伴は通路でもある縁側で欠伸をしながら横になっていた。
対してその父である、初代奴良組総大将ぬらりひょんは少し酒気で顔を紅くさせながらも、胡坐をかいて眠気覚ましにキセルでタバコを吸っている。
其処にもう一人。
二人によく似た者がやってきた。
「オヤジにジジイ、こんな時間までなにしてんだ」
「んぁ? なんだリクオか……若菜かと思ったよ。てっきり化けて出てきてくれたのかと」
「んな訳ねーだろうが。……オヤジ、オレにもその酒一杯くれ」
「鯉伴よ、もうボケたのか? 若菜さんは四年前に死んだじゃろうて。……それに化けて出てくるにしてもまだまだじゃわい」
その来た人物。
三人の中で一番年下のぬらりひょんの孫、現総大将の奴良リクオ。
彼はどさりと祖父の空いている隣に座り自分の父親に勺をさせる。
鯉伴は何時もの事だと思って居るので気にしない。
何時もの如く無礼講らしかった。
「……でも親父は良いよな。母さんもう直ぐ現代復活出来るらしいから。……式神でらしいけどさ」
「秀元の奴には感謝感謝。……安倍ん所の延命の秘術を改良して不老になった時は驚いたもんじゃがな」
「親父、あれホントに人間か? もう俺、アイツのほうがぬらりひょんじゃないかって思うんだけど」
ぬらりひょんが盃の酒をぐいっと飲んだ。
「あ、そうだ。ぬらりひょんで思い出した。――陸人の奴、人間じゃねーぞ」
「何、妖怪変化でもしたか?」
「そりゃ目出度いのう。――や、待て。リクオ、何があった」
転がっていた鯉伴は起き上がり、足を外に出す。
酒気も少し収まったようで、顔も若干引き締まっている。
「いや、覗いてきたんだが……人でも妖でもなかった」
「……どういうことじゃ、ソレは」
「 "ぬらりひょん" より "ぬらりひょん" らしい『人外』だ。まさしく
「夢現か。読みようによってはあの二匹の龍と同じか……」
「うーむ、最近あっとらんのぉ。最後に蛇の奴と『かふぇ』したのは何時じゃったか……。……いや、そんな事はどうでも良いか。京都行っても大丈夫なのか、あやつ」
ぬらりひょんが煙を吹かす。
紫煙が宙に舞った。
「大丈夫だと思う。……下手したらボク達よりも強いかもしれな……あ」
「お、昼間の姿か。……さて、夜も空けたし寝よ寝よ。お父さんはもう寝みーんだって……また起きてからにするわ」
リクオの姿が昼間の姿になり、
ふわぁああ、と欠伸をしながら鯉伴はその場から去っていた。
「はぁ。……とりあえずゆらちゃん所に電話しとく。もし何か有ったらいけないからさ」
「おう、そうせい。とりあえずあの二人にも今日話すぞ。にしても
「……だね」
孫と祖父もその場から離れてく。
縁側には酒器と空いた酒瓶が残っていただけだった。
はて、それはともかく。
「あ、アナタ! お早うございます。昨日は……」
「あ、つらら。コレからボク寝るから……添い寝してくれないかな」
「え、ちょっと!? ……あぁ、もう! これから朝食の準備があるのに……」
「いいのいいの。雪麗さんには僕から説明しとくから、ね」
「むぅ……お母様怒ったら怖いのに、もう。――若のバカ」
――さて、と白雪を抱いて桜は一眠り。
穏やかに眠りについた二人の姿。
聞けば、何処かの孫が羨み望む姿がそこにあった。
リクオと氷麗はやっぱりいちゃいちゃしてるのが一番だと思う。
……というわけで伝わりにくいであろう冒頭の部分が主人公についての真実でした。
次回補足と言うかそんな感じの話になるかと。
多分次回で間章は一応終了。
……修学旅行の話はHSDDの修学旅行時に回想も含めてやろうと思います。あ、でも要るかな?
ではでは、また次回。