胸の圧力によってジャージのチャックがはじけ飛ぶことである!
――出展:『ディーふらぐ!』より
(意訳:久方ぶりの更新の上、進展なくてすみません)
……木場が吹っ切れて、周りを頼るようになった。まぁ、みんなの良く知るイケメン貴公子に戻ったというべきだろう。――で、そんな木場の成長と復帰を祝って……まぁ、緊急時だとはいえ小規模なパーティを開こうということに。
俺としては大いに賛成したいところだが……問題が一つ二つ。
「ねぇ、部長さん? なんたって俺の家でやるんでしょうか?」
「その、ちょっと気になることがあって……」
「……どうせ碌でもないんでしょうけど聞いてあげます」
「小猫がどんな家で生活してるのか……気になるじゃない…?」
首をかしげて可愛らしく訪ねてくる赤髪の持ち主に一言。
「はぁ……バカか、アンタは」
「……え、酷くない?!」
時すでに遅し。既に俺の家の前――玄関先である。部長を筆頭に副部長、二年生組が後ろから顔をのぞかせているのだ。
あー! もー! 家の中では基本的に人型で過ごしてる黒歌がいるっていうのに!
一応猫に戻ってもらってるけど困るんだよ! こっちとしては!
……とまぁ、そんな心境の俺。ただしそれを顔に出すわけにもいかないので、あくまで表情は平常に。
「……普通に考えて、だ。主だの、王と下僕のスキンシップだとか言う建前は抜きにして。小猫ちゃんと俺をストーキングしてくる必要はなかった。これが一つ。……二つ目。既にオフに切り替えてた俺もだし、小猫ちゃんもラフな格好に着替えている。……連絡の一つでも入れてくれれば良かったんじゃ御座いませんか、部長殿?」
「……ごめんなさい」
「素直でよろしい。……後ろの連中もだからな」
後で朱乃さんに聞いた話によると、説教してた俺の目から光が消えて非常に怖かったらしい。怒られてた本人によれば義姉さんに怒られているときの気分になったとか。
……これに懲りたら突撃隣の晩御飯は控えていただきたいところだ。
――……で。
『……』
「……わかったから。お前らそんな目で見るなよ……食材があるんだったら作ってやるから」
結局上げてしまうことになりました、まる
ガッツポーズした部長のおでこにチョップした俺は悪くない。
リビングに皆を上げて座らせておく。
来い、と尻尾を振っていた黒猫についていけば黒歌に怒られる。ただ理由は教えてくれなかったのだけど……まぁ、なんとなく察しはついたのでほっこり。大方テリトリー的な物を侵されたとかなんとかで怒ってるのだろう。……ニヤニヤしたら頬を染めて軽く殴られて抱き付かれた。
「リクトのバカ……じゃあ私は今日出て行っちゃだめなの?」
「うーん……顔を隠してなら大丈夫だとは思うけど……とりあえず人間って認識に
「うん、お願い。……ちょっと顔隠せるもの取ってくるね」
黒猫の姿になって黒歌が去っていく。
「……お義兄さん」
「!?」
「こんな時にイチャつく人がいますか……」
……白音ちゃん。そんな家政婦じゃあるまいし廊下の角から覗かないで。心臓に悪い……。
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「どうも。……この家に同居させてもらってる……えっと、リクトの親戚の――
兵頭一誠は驚愕した。それは顔に猫のお面をつけていることに対してではない。
何故驚愕したのか、何故彼だけが驚いたのかは簡単な話。
――そこにBastがあったからだ。胸があったからだ。谷間があったからだ。
「……あの」
「あぁ、このお面については触れないでください……ちょっと昔にやけどしちゃってて見せられるものじゃないので」
「そ、そう……」
部のみんなが彼女の付けているお面について聞いているがそんなことは知らない。……それよりも一誠は別の物を見ていた。
――胸の大きさ故に上がりきらないジャージのチャックがあった。
きっとあれを上げればあのたわわな胸が強調されるのだろう。
全部あげてしまうものならきっと「チャックボーン」を起こすのだろう。
そんな『きっと』を夢想し、思わず生唾を飲む。……隣でチラチラと一誠の様子を見る天野夕麻が気づいて自分の胸を強調し始めたのだが一誠は気づいていない。
「えー、あの、今日は宴会? パーティ? だとリクトが言うので手伝おうかと。……あの、ちょっと……」
「イッセー! 何やって――」
我らが部長リアス・グレモリーに声をかけられて正気に戻る。
そしてズァッ! という音と共に気づいた。……俺はやったのだ、と。チャックを上まで上げたのだ、と。
――そして弾けるジャージ。飛来する留め具――。
そこからしばらく、兵頭一誠という男に記憶はない。
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顔を見せる時用の偽名である、奏音を名乗る黒歌のジャージを一つ駄目にした犯人。彼は現在、眉間に受けたダメージをアーシアによって回復され、ソファーの上に横になっている。
人が料理を作っていた時に何をやっているのか。明日はもっとハードな特訓をつけてやろうと決意をしつつ、洗い物をしていく。
「……ねぇ、リクト? なんで治してあげないの?」
「治してますよ、そりゃあ。――でも頑なに面は取りたがらないんです。……美人さんなんですけど、長い間ただれた顔だったもので現実感がわかないんだとか。……俺にはどうしようもないんですわ」
「へぇ……」
急に押しかけてきたのだから洗い物はくらい手伝う、と部長さんが言うので手伝ってもらうことに。案の定、猫俣さんについて治していないのかを聞かれたので、不備がないよう取り繕う。
「あ、もしかしてあの人がリクトの好きな人?」
「そうですが何か? だから小猫ちゃんじゃないって何度も言ったじゃないですか」
「……そんな堂々と言われたらからかう気がなくなっちゃうわね……」
ドヤ顔で返すと肩を竦められた。
「……ねぇ。リクトは小猫の事、知ってるのよね」
しばらく無言で洗い物をしていたら部長さんが話しかけてきた。
「勿論。……小猫ちゃん、いや白音ちゃんからはぐれ悪魔になって逃げた姉についても聞きましたし、彼女の出生まで聞きましたよ。それが何か?」
「っ……そう……」
「……えぇ」
苦虫をつぶしたような顔をしている。
きっと部長にとって妹のような存在になっている白音ちゃん。
彼女を捨てた黒歌が恨めしいとでも思っているのだろうか。
「……部長、はぐれ悪魔を嫌うのはわかりますけど、……でも彼らには彼らなりに『はぐれ』になった理由があると俺、思うんですよね」
「……別に私は」
「ならそれでいいんですけど……でも一つだけ聞いてください。優しかった彼女の姉が、仙術の力に溺れたからといって主人殺しを行って白音ちゃんを置いて逃げた。……本当にそれだけだと思いますか?」
「え……」
「悪魔である前に一体の知性ある生き物として……それこそ情愛の深いグレモリーである貴女なら分かる筈です。……誰かを愛する心は、時として害を為す誰かを殺すことすら是とするんですよ」
「ちょ、ちょっとまって! ……リクト、貴方は何を知っているの?」
ガタン、と部長がシンクの中に洗い物を落とした。
「何をって……――そりゃ全てですよ。彼女の姉の黒歌がどうして主殺しをしたか、なぜ白音ちゃんを置いて一人ではぐれ悪魔になったか。知りたいですか? 知らない方が良かったって思えること、その全てを……知りたいですか?」
「……っ……」
「もう、白音ちゃんの姉が殺した悪魔について調べてないんでしょう? もう一度、ちゃんと調べた方がいいんじゃないですか? 例えその悪魔の他の眷属が別の物の所で上級悪魔になり、彼女の姉に恨みを持って殺すよう願っていたとしても……」
「……わかったわ」
幸いなことに割れていなかった皿を拾い上げ、部長は皿の洗剤を流す。
部長の表情は暗かった。……ちょっと言い過ぎたか。
「ごめんなさい、言い過ぎました。ちょっと頭に血が上ってました」
「……いえ、いいの。……私がこの話題を出したのが悪かったのだから……ごめんなさい。……貴方は本当に優しいのね」
「さぁ、どうなんでしょう。……自覚は無いんですがね」
「……きっとそうよ」
カウンターから覗けるリビングを見る。
見えるのは――オカルト研究部の面々に交じって楽しそうにトランプをする姉妹の姿。
そうして片づけが終わり、オカルト研究部の皆様は帰って行った。
「お義兄さん」
「……ん? 何、小猫ちゃん。あ、いや、白音ちゃん」
入浴も全員終わり、これから寝ようかという時。
「……お義兄さんは、……これから何をしようというのですか?」
「何って……べ、別に疚しいことなんて、ただ一緒に添い寝して「いえ、そうではなくて」……んん?」
黒歌が先に寝室に入って行くのと同時に白音ちゃんに呼び止められた。
今抱えている問題がなくなるまでは黒歌とは致さないつもりですけども……はて?
「んー…白音ちゃんは何が知りたいの?」
「お義兄さんがしようとしている事です。お姉ちゃんのことですか?」
「……あぁ、なるほどね。把握。――絶対に言わない?」
「それは姉にですか? ……それともオカルト研究部の」
「オカルト研究部。……あの人たちに言わない?」
「っ……言えば……」
「言っても何にもならないよ。……ただ、みんなはそんな事が無かったかのように振る舞うだけ」
ただ、皆の記憶から『ずらして』抹消するだけの事。
……そして二度と白音ちゃんは部の皆に言おうとは思わなくなる。
それが分かったのかジッと考え込み、白音ちゃんは顔を上げた。
「……言いません。だから教えてください」
「うん。じゃあ白音ちゃんには言っとこうか。小猫ちゃんには言ってないからそこんとこ留意すること。……コカビエルは天使側からエクスカリバーを盗み出し、それを持って悪魔側の魔王の妹……グレモリーとシトリーの領地に侵入してきた」
「……はい」
「つまりコカビエルという『堕天使』が『天使』の物を盗み出し、『悪魔』の住処に持ってきた訳だ。……大局的に見れば堕天使が天使と悪魔に喧嘩を売ったように見える」
うん、と白音ちゃんは頷く。
「此処でだ。……まず有りえないけれど、リアス・グレモリーかソーナ・シトリーの両名のどちらか、若しくは二人が殺されるとしよう。……それがエクスカリバーのような悪魔に対する劇物で殺されたのならば……おそらく、魔王の二人が黙っちゃあいない――戦争でも起こす勢いで堕天使と天使に宣戦布告でもするだろうさ。聞けばあの二人の兄と姉はシスコンらしいから」
一呼吸おいて。
「……さて、これを未然に防いだとする。それが其処に有るだけで影響力を及ぼすような神器持ち。若しくは二天龍の片割れであったのなら……それ相応に戦争を未然に防いだことに対する礼を考えなければならない」
「……それじゃお義兄さんは……」
得心がいったようで何より。
「わかったならもういいかな。――盗み聞きしてるわるーい猫がいるから」
「……姉さま」
後ろのドアの隙間から覗く黒い猫耳。それがピクリと動いて部屋の奥に消えていく。
白音ちゃんはハァ、とため息を漏らした。
この後滅茶苦茶モフモフした。