黒歌が可愛くてつい始めた話。   作:楯樰

38 / 42
思い出した日

 忘れている。

 繰り返したことを。

 

 忘れていた。

 繰り返していることを。

 

 何度廻っただろうか。

 何度繰り返しただろうか。

 過ちの度にやり直し、いつもどこかで失敗していた。

 

 始めは無かったことにした。――好意を己に向けさせ、好きあう仲になった。虚しいだけだった。彼女の瞳に輝きを感じられなかった。次は止めようと決意した。

 

 次は原因を根絶やしにした。――人外という人外を殺し尽くし、追手を消した。勢い余り、彼女の妹を手にかけた。……怒りに染まった顔でこちらを見ていた。次からは救える限り救おうと決意した。

 

 次は彼女のみならず、他も救った。――救ったのはいいが、彼女を一番に大切にできなかった。――私は必要ないでしょう――と振られてしまった。次は取捨選択をするよう決意した。

 

 次は悲しくなった。此方を警戒する彼女の瞳が。前の彼女の瞳が自分の存在を否定しているようで。自暴自棄となり、世界を一つ無かったことにした。……次は覚えていない。

 

 争いを消せば、世界は停滞する。

 発展させれば、世界は崩れていく。

 

 ずらせば一つは解決する。ずらせば何処かで破綻が起きる。

 

 ――……今は手の届く範囲を救っている。後輩を導き、同輩を諌め。彼女と彼女の妹を救う。出来る限りずらさずに。人間として、妖怪として。ただの『揺らぎ』に変質してしまったなら猶の事。……らしくありたかった。人間らしく、妖怪らしく。父と母の子供として。

 

 だから。

 故に。

 ……一番近い、上の世界の自分にずらした。ずらしたから忘れてしまった。過去の過ちを。

 

 ――どうか忘れるな。過去未来現在、三千世界の全ての己が犯した過ちを。

 

 

 

 

「――……あれ……?」

 

 目が覚めると泣いていた。米神に向かって目から生暖かい液体が伝っている。……自分が悪魔天使堕天使を殺しまわっていたり、ハーレムを無自覚に作っていたりする夢を見ていたような気がする。まず有りえない話だが、しかし現実に起きたことのように鮮明に記憶に残っていた。

 

「うーん……おはよう……うーん? リクトなんで泣いてるの?」

「あぁ、うん。おはよう。……自分でもわからない――」

 

 俺の上で寝ていた黒歌が涙を拭ってくれる。

 

「嫌な夢でも見たの?」

「……良い夢ではなかったかな」

「そっか……どんな夢?」

 

 拭った涙をぺろりと黒歌は舐めた。

 

「……黒歌が傍に居なくて、自分が失敗を繰り返している夢。黒歌を助けて好きになって貰おうって打算で動いて……それで、失敗して……。ごめん、変な事聞かせた」

「……打算かぁ……」

「今も少し心当たりがあるから辛い。……初めて会った時もちょっと打算で動いてたから……どうしたら家に留まってくれるかな、って」

「……その割には結構強引だったけど? 態々隠してる能力までばらして。お風呂にまで入れさせてくれて」

「それは……反省してます」

 

 小さく黒歌は笑う。

 

「いいよ。今はよかったって思ってるし。……リクトに感情まで弄られてたらなんにも言えないけど」

「っ! それはしてない!」

「うん、リクトはそんな事しない……白音の好意を友愛にずらしてるのは些か言いたいことがありますけど!」

「……。……受け止められそうにないんだ。他に好きな人が出来たら、そっちの方が白音ちゃんにはいいかなってさ」

「……私が居るから?」

「どうしても2番目になってしまいそうだから。……そんなの、駄目だ」

「……分からないでもないけど」

 

 黒歌は納得できない様子。妹のために犯罪者になったのだから、納得できないのも仕方ない。

 

「……物語のハーレム系主人公じゃないからさ。中世の王族みたいに自分を殺して後宮を作ることも出来ない。大切な人を増やして、一番大事な人を失くすくらいなら……ハーレムなんてしたくない」

「そっか。リクトの言い分もわかったにゃん。……白音の事はもう言わないけど……今度、ちゃんと白音と話して」

「わかった」

 

 もぞもぞと黒歌が動き出す。

 

「……昨日はホント好き勝手してくれて……髪ボサボサになっちゃった」

「ごめん。……つい出来心で」

「……このスケベ。おっぱい星人。生殺しにしてくれちゃって……」

「いや、黒歌も濡らしてるなら人の事言えな――」

「――うにゃあああああ!!」

 

 お仕置きと称して髪の毛をモフってモフった。そのあとの事は黙秘させてもらおう。ただ、自分の信念のためにも、本番はしてないとだけ起こしに来てくれた白音ちゃんには言っておく。

 

 ――目を覚ました時の陰鬱な空気は、既に無かった。

 

 -------------------------

 

 小猫ちゃんと駄弁りながら登校し、いつものように時間割をこなしていく。

 教室に来た木場に昼食に誘われ、いつものメンツに断りを入れて、今時珍しく解放されている屋上に向かった。

 

「……それじゃ、もう木場の復讐というか、目的? は果たされたわけか」

「えぇ、まぁ……」

「……これからどうすんのさ?」

 

 紙パックのジュースを飲みながら、切って小さくした唐揚げを黒猫の口に運ぶ。

 昨日家に来た後、行き倒れていた教会の二人を見つけたらしい。みすみす見殺しにするわけにいかないので、イッセーの家に皆で寄り、食事を与えて体力を回復させた。二人は一応遠慮はしたらしい。

 食事の後、エクスカリバーの破壊および回収の手伝いを持ち掛け、俺は赤龍帝だという屁理屈のような話で納得させた。……いやいや。赤龍帝は神殺し(ロンギヌス)。しかも神敵である紛いなりにも赤い竜だが……背信行為じゃないのか、という無粋な疑問はあえてしなかった。

 成り行きで昨日の夕方出来なかった木場と紫藤イリナの模擬戦をすることになり、『擬態の聖剣』のコピーもできたらしく。加えて、その途中で乱入してきたフリード・セルゼンが持っていた聖剣のコピーもできたらしい。……それで現在木場が造れるエクスカリバーンの種類は6本ということになった。

 フリードは撃退、盗まれた四本の聖剣は重要な部分を残して破壊され、重要な部分である聖剣の核は昨日の内に二人に返還されたらしい。

 

「……どうしましょうか……」

「どうしましょうかって……うーん、俺には何とも言えそうにねーな」

「……そうですよね」

 

 期待した答えが無かったかのように、木場は備え付けのベンチから立ち上がった。

 

「……。まぁ、一つ言えるのはまだ出来ることがあるんじゃないか、ってことぐらいかな。聞いた話だと魔剣の特性を一つに纏め上げれるんだろ?」

「あ、なるほど……」

「支配が無いから完璧には出来ないけどさ、完璧には近づけるんじゃない?」

「……そうですね。それに無ければ創ればいい」

「お、おう……」

 

 6本纏めればいいって話からずれてきたような……いやいや、俺じゃないんだし。

 

「有難う御座います。今日、放課後やってみます。……では、僕は先に行きますね」

「暴走だけはするなよー」

 

 ちょっと危うい雰囲気を纏わせて木場が屋上から出ていく。

 やばいかな? と黒猫に話しかけて撫でる。みゃー、とよくわからない鳴き声が返ってきた。

 

 

 午後の授業を更けて昼寝をした後。目を覚ましたのは放課後で、太陽はすでに傾いており、部活の始まる時間だった。

 

 急いで部室に行ってみれば、皆深刻そうな顔で座っていた。……教会の二人、紫藤イリナとゼノヴィアがアーシアに治療され、生徒会会長職の二人も壁際に立っていた。

 

「回復系の神器が無ければ危なかったですね」

「えぇ、本当に。……リクト、遅かったわね。携帯にあれだけ連絡入れたのに」

「すみません。寝てました……小猫ちゃん、何があったんだ?」

「はい……」

 

 小猫ちゃんからの情報によると、生徒会室にボロボロに叩きのめされた二人が投げ込まれたらしい。背中には宣戦布告と思われる文句の書かれた紙が貼られており、内容によると今日学校に襲いにくるという。当然のように聖剣の核は奪われた。

 

「……それで、これから生徒会の皆様に結界を張ってもらい、今夜の襲撃に備えることに。……私たちが魔王様たちが来るまでの時間稼ぎを行うことになりました」

「ずいぶんと早いんだな」

「……早いです。ただ、まぁ……」

「「「別に倒してしまっても構わんのだろう?」……ですか?」」

 

 言おうと思っていたことを木場と小猫ちゃんに被せられた。ついていけなかったイッセーは悔しそうにしているが、まぁ知ったこっちゃない。

 

「あ、貴方たち! ふざけてるんですか!?」

「会長! 落ち着いて!」

「そうよ、ソーナ。落ち着いて。……今回はレーディングゲームじゃない。リクト、手加減はしなくていい。皆も慢心は捨てて、全力で今夜の戦闘に臨みなさい」

「了解です。――禁手してもいいですかね?」

「勿論。さ、作戦会議は終了ね。……各自夜に向けて体制を整えておくことそれじゃ、今日は一旦解散」

 

 丁度アーシアの治療が終わる。部長の了解を得たことを再確認し、未だ話があるだろう二人と側近である二名を置いてオカ研メンバーは外に出た。

 

 -------------------------

 

「ちょっと! リアスッ! ……慢心にしても度が過ぎるんじゃないの」

「いいえ、慢心なんてしてないわよ」

 

 ソファーに座ったソーナが声を荒げるも、熱くなっていた自分に気づき、冷静になる。

 対して部長はとして澄ました顔でカップを手に取る。

 

「正直に言うと神話の時代から生きる堕天使に勝てるだなんて思ってない」

「だったら何故っ! ……いえ、その根拠は何かあるの?」

 

 気づけばまた冷静さを欠いていたことに気づき、再度落ち着かせた。

 

「私は知ってるの。イッセーが毎日部活が終わってからリクトと修行をしていることを。祐斗がどれだけ自分の神器と見つめあい、どうすれば全力で力を発揮できるかを。小猫にしろ、アーシアにしろそれぞれの得意なことを伸ばしてきてる。天野さんも上級悪魔に匹敵する魔力と、上級堕天使の光力を持ってるし、それに茣蓙をかいて何もしていないというわけでもない。……無論、私たちもね」

「うふふ……私も自分と、自分に宿る忌々しい力と向き合ってます。ですから倒すことはできないにしろ、時間稼ぎは出来ると確信はしています」

 

 朱乃が笑みを浮かべながら中身のないカップに紅茶を注いでいく。

 

「ありがとう、朱乃。……加えてイッセーとリクトは禁手が使える。神滅具を3つ持っているの。負けることはまずない。主だからという主観を抜きにしてね。勝てる、とリクトが言うのだから負けることはないわ」

「……でも、リアス……彼は怪しいわ。未だ明かしていない神器が彼にはあるのでしょう?」

「それはそうね。何せ一度私たち三大勢力にそれが原因で襲われているらしいから。……だから私の事をまだ信じて話してくれていないのは悲しいことだけれど……でも、彼にも色々と事情があると思うのよ。話したくない気持ちもわかる」

「……貴女らしいといえば貴女らしいけども……悪魔が騙されているだなんて洒落にならないわよ?」

「まぁ、そうね。でも、悪魔ほど契約に忠実な存在は居ないと思うのだけど」

「……。……彼が悪魔であるとは限らないのよ?」

「私はリクトは裏切らない、もし裏切るとしても……それは何か理由あっての事。そう信じてる。……小猫のお姉さんみたいにね」

「……SSランクのはぐれ悪魔の黒歌ですか……一時期話題になりましたね」

「えぇ。同じ猫魈である小猫をグレモリーが匿ったことで、その残された下僕を引き取った悪魔達にも非難されたわ」

「ですが、なぜ今その話を……?」

 

 答える前に、副部長に向かって机の上の資料を取るように指示した。朱乃はファイルに纏められた資料を会長の前に置く。

 

「……これは、あの時グレモリーを非難した者たちの資料ですか。あ、そういえば昔リアスが怒ってましたね。『小猫は悪くないのに! 失礼な方たちだわ! 絶対に許してやらないんだから!』……とかなんとか。まさか記録に残すくらい怒ってたなんて」

「んん! ……そんな大昔の事を言わなくてもいいの。それよりもその悪魔たちを引き取ったのはどんな奴らかわかる?」

「どんな奴等とは……あぁ、なるほど。流し見ですが、グレモリーから魔王が出たことを不満に思う旧魔王派の悪魔と」

「その他旧魔王派に密接に関わっている者達ね。……ソーナ、なぜ黒歌が主殺しをしたか知ってる?」

「仙術に呑まれた、と聞いてるけれど……」

「引き取った上級悪魔達が報告してきた情報ではね。殺された主の下僕たち本人からは聞いていないのよ。聞いたとしても改ざんされた情報を流された可能性が高い。――グレモリーを陥れるために」

 

 会話が途切れ、紙が擦れる音だけが部室にこだまする。ソーナは読み終えたように書類をファイルに最初の状態にして仕舞った。

 

「……事実ですか?」

「えぇ、事実よ。といってもリクトから聞いたことの裏付けに調べたことだけどね。……聞かされてから徹夜で調べたけど……矛盾は一切なかった」

 

 リアスの目元には普段しない化粧で隈が隠されていた。

 

「……犯罪は、犯罪です。……殺したことには……」

「変わりない? ……本当に、ソーナはそう思ってるの?」

「でも! ――……どうしようもないじゃないですか。はぐれ悪魔は存在するだけでも危ないんですよ? 大半が力に溺れ、暴走した者達です。……例え、未熟な子供に危険な仙術を強要したとしても……証拠がない以上、弁護しようがない……!」

 

 悲痛な声を上げた会長に副会長が驚く。原因であろう、ソーナの前にあるファイルを見て目を丸くさせた。

 

「私ね、ソーナ。昨日リクトの家で、黒髪の女性を見たの。リクトの親戚らしく、人間以外の気配はしなかった。昔負ったやけどのせいで仮面をしてて顔はわからなかったわ」

「……。……それは、そういうことなのでしょうか」

「仙術には詳しくないけどね。……人を操る術は無かった、と思う。それに明らかに人間であったとしてもリクトの方がSS級はぐれ悪魔より強いことは確か。みすみす操られる事は無いはずよ」

「では彼は――……奴良君は……自分から」

 

 沈黙。

 しばらくしてから口を開いたのは副会長の椿姫だった。

 

「……一介の兵士が、そんな大それたことを企てますか? そちらの兵藤君には失礼にあたると思いますが……」

「ふふふ、そうね。でもきっとリクトならする。イッセーよりも情熱的だと思うわ。彼女のためなら三大勢力を敵に回すぐらいするかも」

「……それは、ちょっと洒落になりませんね」

「そうね。……でもそっちの匙君もそれくらいのことしでかしそうな気はするけど?」

「……そうでしょうか。してくれたら嬉しいですけど」

 

 いつの間にか主二人は恋バナに。イッセーの自慢をしたり、対抗して弟の自慢をするように匙の事を褒めたり。いつの間にかキングたちの会話が友人の会話になっていた事……このままいけばキャットファイトになるだろう、予知に近い予想にクイーンの二人は苦笑した。

 

 ――――そして夜が来る。

 




濡らしている(意味深)

主人公、ループしてたことを忘れてたってことですね、わかりますん。
小猫の感情をずらしてた伏線もなんとなく回収。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。