「っく……私は、一体……」
「あら、目を覚ましたようね」
「っ!? リアス、グレモリー! そうだ、私は――!」
紅髪の悪魔。そしてその眷属。目を覚ましたバルパー・ガリレイが目にしたのはリアス・グレモリー以下眷属だった。
バルパーはリアスの『兵士』である奴良リクトに気絶させられ、結界の外に放り投げられた。彼は現在進行形でロープで縛られ、身動きが取れない状態で居る。隣にはぐったりとした様子で、同じく縛られているまだ目を覚ましていないコカビエルもいた。
「エクスカリバーっ! 私のエクスカリバーは何処へ行ったッ! 私が半生をかけて研究してきた聖剣は――」
「やぁ、バルパー・ガリレイ。コレのことか?」
聖剣の残骸を持ってくるのは、気絶から復帰したゼノヴィアだった。
「――くっ!」
「貴方の最高傑作は私の『騎士』が壊させてもらったわ」
「悪魔どもめっ……こんなことが許されるとでも思って――!」
「――黙れッ!」
「っ……!」
縛られ、激昂するバルパーの首元に剣先が添えられる。木場のエクスカリバーだ。
「……お前の半生を費やした研究なんて知らない。知りたくもない。――ただお前には言いたいことがあるッ!」
「ふ、ふん……お前のような悪魔にわかるわけがない――私がどんな思いでエクスカリバーの研究をしてきたのか――」
「……覚えていないのか、僕の事を。いや、憶えていないのも当たり前か。……所詮僕たちはお前のモルモットだったからなッッ!!」
剣先が喉に喰い込み、木場の持つ剣に血が一筋流れる。バルパーの顔にそれに対する動揺の色はない。
「そうか、お前はあの時一人逃げ出した……」
「あの時の名は捨てた。僕は今、木場裕斗だ」
「ふ、ふはははは! なんということだっ! あの時子供たちを見殺しにして逃げたお前が仲間たちの敵討ちか! そうかそうか!」
「黙れっっ……!!」
血の流れは勢いを失うことなく、決壊しかけのダムのように傷口から流れ出る。
「……それにしてもこの剣……聖なる力も、魔の力も感じる。それに――エクスカリバーだと……?」
「っあぁ、そうさ。……これは聖魔剣エクスカリバー! お前の成し遂げなかった七本の聖剣を組み上げたあるべき姿のエクスカリバーさ……!」
「そうか、なるほど……魔王だけでなく神も……。聖と魔のバランスが崩れて――いや、今更これを言っても仕方ないな。……それにしてもエクスカリバーか、そうか」
「何を言っている……?」
「……いや、なんて皮肉だろうか、と思ってな」
止めどなく血は流れる。しかし剣先は首元から離れていた。
「――私が焦がれ、自らが振るいたいと思っていた聖剣が扱えないと知ったときの絶望。そして自らが扱える術を見つけ、行った聖剣の因子の蒐集。全て終わったときにはもう聖剣を振るって退魔を為す体力もなかった。……それがどうだ!? 因子のためだけに集めた子供たちの中にいたのだ! 始末し損ねた子供に因子が行き渡り、そして私の望む結果を為したお前という存在が! そして私に恨みを持ち、エクスカリバーで一薙ぎにして私を殺そうとしている――ッ!」
「……っ」
バルパーは半狂乱に笑う。自らを嗤い、そして泣いていた。――始めは憧れだった。エクスカリバーには劣るものの、聖剣を振るって悪い存在を浄化するエクソシストの姿。自分もなりたいと思った。
――悪しき存在に、正義の鉄槌を。
正義という名実の元に殺すことが出来る存在がいるということ。そして男子なら一度は抱くであろう、剣を振るい勧善懲悪を為すという夢。成長する過程で迫られる、一を殺し、その他大勢を救うという取捨選択。それが聖剣計画という人工の聖剣使いを生み出す研究だった。……バルパーもまた正義という名の悪魔にとりつかれただけなのかもしれないが、悪徳を働いたことに違いはない。
「さぁ、殺すがいい。そうしたかったのではないか? もう、私にはこの世に未練もなにもない……」
「そうか。なら僕が――ッ!」
「――いいえ、私が許さないわ」
木場が振り上げたエクスカリバーを下ろそうとしたとき、リアスが腕をつかみ、止めに入った。
「ただ殺すことなんて――なんて甘え」
「なに……?」
「部長何を言って……」
「貴方に出会わなければ祐斗はずっと人間でいられた。確かに私にとっては可愛い弟のような存在が出来たから良かったのかもしれない。……でも祐斗は違う! 貴方、一体何人の人生を無駄にしてきたと思っているの? 『もう未練はない』『はいそうですか』それで殺されて……それで罪が拭えるとでも思っているのかしら? ――ふざけないでッッ!!」
「リアス! 落ち着いて!」
「そうです部長!」
一喝と共にリアスの体からドス黒い滅びの魔力が迸る。その迸る滅びの魔力は少しずつ地面を抉り、空気すらも消滅させて真空状態を生み、一種の引力の様な物が発生していた。副部長で『王』の側近ともいえる『女王』の朱乃は思わず立場を忘れてリアスを諌める。続いて『兵士』のイッセーも声を上げた。
「ごめんなさい、二人とも。……いいかしら。貴方は生きてその罪を背負い、一生悔やみながら生きていくの。即死罪なんて私が許さない。死罪にするとしても、その時は私自ら出向いて身体の端から少しずつ削って殺してあげる……」
「……ふふふ……悪魔が生きて罪を償えという。まるで優しく厳しい聖母マリアの様だな。益々この世界のバランスは崩れているようだ……」
「私は、ただ貴方がしたことを許せないだけよ……それにあなたの口から聖母だなんて反吐が出るわね」
「――神は死んだ」
その一言で場が凍った。教会の戦士であるゼノヴィアと、今尚信心深い元シスターであるアーシア。そして一応は信徒であった木場が凍り付く。
バルパーの言葉は奴良リクトの居た世界ではニーチェが言った言葉だ。無論それは信仰的な意味で。だが、この場では違う。この世界では意味が違う。神は実在していた――神話が世界の裏の歴史でもあり、聖書はその歴史書なのだ。その神が死んだ。
「もう一度言うぞ。神は死んでいる。気づかないのか? 相反する聖と魔が一つの剣に宿り、それを世界が受容する事が。魔王と神が生きていなければ有りえないのだよ。神が生きていれば、その信仰を退魔の聖なる光に変えるシステム上。魔力が相反する明確な敵の力である光力を受け入れる事が」
「バルパー貴様、出鱈目を言うなッ!!」
「嘘ですっ! 神様は生きて――!」
「元聖女のアーシアと教会の戦士か。なら聞くぞ。生きているならば、地上に出て活動する悪魔を見逃しているだろうか? 悪魔が人間に混じり、学園生活を送ることができるとでも思うか? 悪魔召喚の魔法陣の書いてあるビラを配れるとでも?」
「そ、そんな――神様は、もう死んでっ……?」
「アーシア!」
アーシアが崩れ落ちた。天野は彼女を受け止め支える。イッセーも傍に駆け寄るが、震えるアーシアへどうすればいいか戸惑っていた。アーシアと同じくゼノヴィアもうわ言のように嘘だ嘘だと呟いている。
この中で動揺を示さないのが二人。リクトと天野夕麻――元堕天使であり、大昔の戦争を経験した、レイナーレであった彼女は苦い表情をしている。リクトはしまったな、という表情をしていた。
「知っていたのね。夕麻、リクト」
「……えぇ。予め教えておけば良かった」
「まぁな。……黙っててすまない」
知ってしまったとはいえ、どうするか。
どうしようもない、というのがリアスのその場での判断だった。魔王という役職についている以上、兄は知っているはず。直接聞くのが一番という結論になった。これ以上は付き合ってられない、と再度バルパーはリクトに気絶させられ眠らされた。
――突如として結界が割れる音がした。
「……なに!?」
『あの堕天使のお迎えらしいぞ。――相棒、白龍皇だ』
駒王学園の敷地に入ってきたのはリクトと同じ光翼を持つ、銀と青の鎧の持ち主。
「……終わっている? 今代の赤龍帝は最弱と聞くが……コカビエルを倒せたのか?」
『いや、ヴァーリ。あの転生悪魔じゃない。――あっちに俺と赤龍帝の気を持った奴がいる』
「お前が俺のライバル……!」
リクトが銀色の鎧――ヴァーリと呼ばれた者に睨まれ、イッセーがヴァーリを睨む。
しまっていたイッセーの篭手が出現し、宝玉が輝き声を発した。
『俺の事は無視か、白いの』
『嗚呼、赤いの。起きていたのか。アイツはなんだ。俺とお前が――いや、何故そもそも二つ存在する?』
『可能性世界から来たらしいからな。――お前は雌だそうだ、白いの』
『……冗談でも勘弁してもらいたいな……』
『知ったときは笑わせてもらった……ククク』
『…………ヴァーリ。赤いのを殺そう』
まぁまぁ、と鎧に宿る龍を諌めるヴァーリが苦笑しているのは鎧の上からでもわかった。イッセーのドライグはクツクツと笑って、イッセーに微妙に呆れられている。
『――
『そういってやるな……俺も信じたくない』
『ただ、ドライグよりかは美形に決まってる。……浮気してもいいかなぁー、ねぇ、ドライグー?』
『……すまん。ホントスマン。悪かったと思ってる。だから勘弁してくれぇ……修羅場は嫌だぁああ!』
『どうしよっかなー……』
リクトの持つ光翼、篭手からも声が流れた。夫婦漫才をしているかのようで、同じ神器でも決定的に違う部分にリクトが苦笑いした。
『ドライグ、お前も尻に敷かれているじゃないか。――どうだ? 違うとはいえ、俺に負けた気分は?』
『……うるさいぞ、アルビオン。アレと俺は別だ。だから違う。俺たちの戦いはこれからだ』
『……その言い方は不味くないか? まるで永遠に終わらないような――』
『……。……それもそうだな』
――二天龍が知ってるのかよと、ヴァーリ側のアルビオンの発言理由がわかる若干名は心の中でツッコミを入れた。
「――和気藹々としている中すまない。……その二人を引き渡してもらえないか? アザゼルに頼まれて二人を捕えに来たんだが……」
「……二人目の白龍皇ね。コカビエルとバルパー・ガリレイの引き渡しには応じられないわね」
「二人目、というのが少々気に障るが。そうか……――では、実力行使になるが?」
「……! そう、ね。――リクトにイッセー……二人ともやれそう?」
「禁手はまだ使えますが……俺は無理っぽいです。勝てそうな気がしません」
「……やろうと思えば今にでも無力化出来るけど、それやったら色々と問題起きそうな気がする。ここは大人しく引き渡すのが最善、と進言するよ」
イッセーは力量の差で。リクトは無用な問題を減らすため。二人は争いを避けた。
「そう。……いいわ、引き渡しに応じる。名前は――」
「ヴァーリだ。少々暴れたかったが、まぁいい。どうやらその二天を従える男だけでなく、お前も禁手が使えるようだ。――戦う楽しみが増えた」
「……ッ!」
ぞくり、とコカビエルとバルパーを担いだヴァーリが言った言葉にイッセーは怖気を催す。そのセリフは戦闘狂の台詞。あんなのと戦わなければいけないのか、とイッセーは戦慄した。ヴァーリが振り返る。
「……あぁ、そうそう。名前を聞いておこう。スケベ顔のお前と二天のお前は?」
「……兵頭一誠だ」
「奴良陸人」
「ふっ……そうか。よし、覚えた。ではまた会おう二人とも」
『ではな、尻に敷かれていたドライグ』
『あぁ、女の子になってたアルビオン』
『『ああ?』』
精神のみとなった状態でメンチを切る二匹をスルーし、首謀者二名を担いたヴァーリは去って行った。
「――大丈夫ですか皆さん!」
結界を張っていたソーナ・シトリーが飛んでくる。
それを見て、オカルト研究部の気が抜けた。コカビエルを遥かに凌ぐ、まだ勝てないだろう唐突に出会った相手。向けられたプレッシャー凄まじく、リクトを除く全員が気を張り詰めていた。
――ともかく一段落。
疲れた様子の悪魔たちは自らの家へ。ゼノヴィアもまた、木場に付き添われながら未だ目を覚まさない紫藤イリナの元へと帰って行った。
▶ 二天龍 の 決着 が 付かない フラグ が 建った !
女体化した自分が宿敵といちゃつく姿を晒して、尚且つ今代の赤龍帝はおっぱいおっぱい叫んでるという現実。
アルビオンに救いはない。