リセット   作:エイ

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行く人、待つ人

 さすがだ、と息をついたのはほとんど無意識だった。

 治療はほぼ終盤だった。床に膝をついているカミュから雄大な小宇宙が立ちのぼり、密度を高めベッドの氷河の身体を包んでいく。

 俺の視線をぶしつけに感じたか、カミュがこちらに顔を向け、ふっと目元を和ませた。

 

「そう気にするな。セブンセンシズに目覚めていたのが幸いしたな。さして時間もかからずに動けるようになるだろう。内臓はそれなりに無事だ。砕けた骨の再生に多少手間がかかろうがな」

「なんで分かるんだ?」

「お前とて、聖域で治療術くらい学んでおろう」

 

 あっさりと言ってのけると、カミュは立ち上がって隣室に消えた。

 そりゃ、俺だってそれくらいは習ってるよ。ただ、それは応急処置の類だぜ? そんな診断ができるようなもんじゃない。せいぜいできて骨接ぎくらいのもんだろう。それも単純骨折に限る。

 余談だが、カミュの骨接ぎは容赦がなかった。氷河が哀れに思えるくらいだ。見てるこっちまで痛い。ありゃ人間の身体というより、モノに対する扱いだぜ。適切ではあるんだが、作業としか言いようがない。あれが慣れってもんなのか。

 おまけに、カミュときたら、容態はほぼ小宇宙を探って察したらしい。すげえ。

 俺だって、敵意の有無なら分かるし、どれだけの強さかなんてことなら計れるが、怪我の程度なんか分からない。ところが、カミュときたら、こともなげに、お前はできないのか、とでも言ってくれそうな様子だった。

 できるなら訊くか、と反発の一つも湧いてきそうなもんだが、浮かんできたのは純粋な感動、と表現しても差し支えない感情だった。

 この男にとってはできて当たり前なのだ。そんなものは。

 俺にはできない。どうやっていいのか、その方法、いや感覚そのものが掴めない。

 俺に小宇宙のそういった細かな制御(コントロール)は不可能だ。少なくとも今はな。手加減が下手くそという事実だけで、それは証明されている。そんなものを自在になしうるならば、テレポーテーションで海に落っこちたりなどするもんか。思い出すだに忌々しい。

 黄金聖闘士の黄金聖闘士たる所以ってのは、こういうところなんだろうか。

 素直に認めよう。すごい、と俺は思った。見せつける意図はないんだろうが、いや、ないからこそカミュのすごさが分かる。

 殺し合いなら勝てる自信はある。だけど、そんな次元の問題じゃない。大雑把にも程がある比喩になるが、俺にあるのはアクセルだけで、カミュには高性能のハンドルとブレーキもあるんだと思えばいい。どれだけアクセルの出力で上回っていても、総合的にどちらが優れているのかは問うまでもないだろ。

 カミュと俺が殺り合えば生き残るのは俺だろう。それでも、俺はカミュよりも優れてはいない。それを明確に思い知った。爽快な気分だ。

 これが、氷河の師たる水と氷の魔術師カミュ。女神(アテナ)の神殿を守る最強の黄金聖闘士の技量か。

 氷河、よく前回、勝てたな。正直な感想で悪いが、今のお前では背中すら見えてないと思うぞ。道は長い。

 

 隣室の扉が開き、聖衣から着替えたカミュが出てきた。手先だけで招かれたので、首をかしげながらも従って移動した。

 居間で、椅子に掛けるよう手振りで示されるが、あのな、俺とあんたの立場の差を考えてくれ。黄金聖闘士と昇格したばかりの青銅聖闘士だぞ。あんたを立たせたまま座れると思うか。

 そんなことを切々と訴えたが、聞いちゃいない。いいから座れと椅子を引かれたら、断るほうが失礼だよな。でも多分、魔鈴さんに見られたら怒られるんだろう。不可抗力だと言い訳したい。

 俺を座らせると、カミュは何やら水音を立てて用意している様子だ。

 何か用事だろうか。だが、いいチャンスだ。 俺は、俺の聖闘士たる理由を果たすためにここにいる。

 すなわち、俺と兄弟達のため。聖域のため。地上のため。平和のため。

 そして、女神(アテナ)のために。

 言うべきことがある。問うべきことがある。説くべきことがある。請うべきことがある。

 女神(アテナ)の聖闘士として。

 

「カミュ、話がある」

「……片手間にはできぬ話のようだな。少し待つがいい」

 

 俺の声音から何を読み取ったのか、カミュの視線が俺に固定される。静かな目線だった。探っているのか伝えているのかどちらとも判然とせぬ謎めいた目つきだ。

 そらさずに見返す。語るのはカミュじゃない。俺だ。

 

 ほんの少しカミュの口角が上がり、酒盃に琥珀色の液体がそそがれる。濃い酒の香が広がった。

 話を聞いてくれる気はあるようだ。だがしかし、なあ、カミュ、その前に言ってもいいか。

 流れるように俺の前にもそれがおかれるのはどういった理由だ?

 そんなものを呑ませて、真面目に話ができると思うのか? 聞く気はあっても話させる気はありませんとか言うんじゃないだろうな。俺は呑まない。呑まないんだからな!

 

 

 ■■■■■■

 

 

 

 俺が日本に帰ったのは、ほぼ二日後だった。

 なぜかと責めてくれるな、お嬢さん。俺だって予想外だ。いろんな意味でな。

 どうしてか知らんが、カミュが熱心に引き止めてくれたんだ。これがシベリア流のもてなしなんだろうか。いいのか、聖域への待機命令とやらはどうしたよと尋ねたくなるくらいだった。

 氷河の怪我があるから、どうしたってまだ帰れない故の退屈からだとは思うが、食事といい何といい大盤振る舞いだった。若干くどいというか、いかにも男の手料理って感じだったが、城戸家より居心地いいかもしれない。

 だけど、シベリアでまで修行なんかしたくないぞ。寒いんだから剥こうとするのは勘弁してくれ。寒中水泳なんか真っ平御免だ。食事くらい俺が作る。立場の違いってもんを理解してくれ。毎度毎度、普通に酒の相手をさせようとするのもやめてほしいところだ。あんたが呑んでるのは、ひと舐めしただけでも咳き込むぞ。

 酒類を聖域で一切口にしなかったと言えば嘘になるが、ここで出される酒とは度数が違う。多分、その目的も違う。

 言っとくが酔う目的は、どっちにもない。……ない、はずだ。魔鈴さんは呑んでも変わらず横暴だし、カミュも呑もうが呑むまいが話をちっとも聞いてくれないし、聞いてくれたら聞いてくれたで危険だし……ああ、思い出すだけで目に熱いものがこみ上げてくるのはなぜなんだろう……。

 

 そうして苦労して、結局どこまで話せたかというと、結局のところ、13年前の真実までしか話せていない。

 重要な三点。

 ―――アイオロスは無実。

 ―――聖域にはびこる邪悪。

 ―――女神(アテナ)の存在。

 空気的にそれ以上は話しづらかったのだ。話せば話すほどいつ戦闘に突入してもおかしくない空気になったんでな。あんな張り詰めた空気の中、話し続けられるほど俺の肝は太くない。

 それに、ぶっちゃけ本当には信じてもらえてないだろう。どう考えてもな。

 残念ながら俺は聖闘士に成り立てのヒヨコで、あっちはベテランの黄金聖闘士だ。十年以上も前から教皇は入れ替わっていたなんて話、なんで信じられるよ。思いっきり反逆じゃないか。

 だが、逆に言えば、それでも俺を裏切り者と一刀両断しなかったところに見込みを感じた。おそらくカミュも聖域に、あるいは教皇に何かしらの不信を感じた瞬間があるんだろう。

 だから、言い募った俺の勢いと、その内容の信憑性を考え、聖域を疑ってみてもいいかと判断したに違いない。

『―――俺の小宇宙で証にならぬというならば、日本へ。直接女神(アテナ)にお会いするがいい。もともと俺はそのためにここに来たんだ』

 俺の言葉に応え、カミュは日本に来ると言ってくれたのだ。女神(アテナ)に会うと。

 やれやれ、順番が逆だぜ。氷河を説得して、カミュを説得するはずだったのに、氷河にはまだ何の説明もしてない。その責任の半分くらいは俺のせいだと認めるが、もう半分はあいつ自身とカミュのせいだと主張するぜ。氷河を動かせる状態になってから会いに来てくれるらしいが、氷河に説明はしてくれるんだろうか。頼んどけばよかった。

 責任は一気に重くなった。カミュがお嬢さんを女神(アテナ)と認め膝をつけば、氷河は説得するまでもない。しかし、逆であれば……。

 心配はほとんどしてないけどな。お嬢さんは女神(アテナ)だ。これは説得だとか納得だとかそんな問題じゃなく真実なんだから。

 ただ、俺は何かを忘れている、いや、何かを見落としている気がしてならない。

 

 俺はわざわざ空港まで迎えにやってきたご大層な車の中で、軽く息を吐き出した。

 いや、違うか。俺は氷河に説明したかったのだ。カミュがどれだけ偉大で黄金の聖衣をまとうに相応しい人物であっても、俺にとっちゃずっと一緒に戦ってきた仲間である氷河こそ主であって、カミュの説得は氷河に任せるつもりだった。言い方は悪いが、おまけみたいなもんだ。

 面倒を押し付ける意図を欠片も持ってないとは言わんが、俺にとっては氷河こそがメインであって、カミュじゃない。

 過去形にすべきところだな。カミュじゃなかった。

 

 もしかしたら、俺は落ち込んでいるのか。

 もたれていたため寝てしまった髪に手をつっこんで、かりかりとかいた。何もまだ終わってやしない。だから、あいにくと、こんなところで落ち込んでいる暇はない。そんなことは分かってるんだが。

 窓の外では、俺の懊悩など知らぬ様子で人と車が通り過ぎていく。

 見るともなしに眺めるのにも飽きて、背もたれにもたれ、頭を天井に向ける。

 うとうととした感覚に意識が少しずつ沈んでいって、とうとう俺は体重をほとんど背に預けてしまった。静かな振動が気持ちよく眠気を誘う。

 ―――無意識下の警告は唐突だった。重たくなっていた頭をガバっとあげる。

 

「止まれっ!」

「はい? っ!?」

 

 運転手が、疑問を返した瞬間、空気を引き裂くブレーキ音とともに衝撃が襲ってきた。

 車の前には、青いボールを抱え込んで転がった七、八歳ほどの男の子が、目を見開いたまま車を凝視している。頭にちらついたのはこれか。

 どうやら驚いて転んだらしいが、怪我はなさそうだ。さすが、城戸家お抱え。いい反射神経をしている。俺の声と同時にブレーキを踏み込んでなけりゃ転ぶだけじゃ済まなかっただろう。後ろに車がいなくて良かったぜ。

 慌てた様子で一声断って運転手が車を降りた。倒れた少年の引き起こし、全身をはたいて無事を確かめて安心したように肩から力を抜いた。おもむろにいかめしい顔つきになって何やら話しだすが、威圧感はない。急に飛び出してきた子供に、怒りはあっても苛立ちはなさそうなのは子供好きなんだろうな。

 ―――懐かしい。

 俺の育った教会には神父さまがいて、普段は優しかったが、時と場合によってはあんな風に説教されたっけな。例えば、落石防止網に登りながら足の引っ張り合いをしたり、遮断機の降りた踏切を度胸試しと称して突っ走ったりとかだ。落石防止網は高さ二十メートルほどまで行ったところで見つかり、踏切は三度目の勝負で真っ青な顔で怒鳴られた。

 こんな思い出話なら他にもあるが、そのたびに、他人に迷惑をかけるのはもちろんだが、それ以上に俺達が死ぬかもしれない、と声を震わせて叱られたものだった。

 無力は忌避すべきものだ。昔から力のない自分が悔しかったし、今だってそう思っている。無力を悪だとは思わないが、それに安住しようとは思わない。だけれども、あんな風に守られている時があったのだ。俺にも。それを自覚さえせずに守られていた時間が、確かにあった。姉さんだったり、あの神父さまだったり、星の子学園のシスターだったり。

 魔鈴さんは……あの人は俺を鍛え育ててはくれたが、守られるより殺されかけた回数のほうが多いからな。縛られた足に重石を吊り下げて高さ二十メートルどころか二百メートルの崖を手だけで昇り降りさせられたり、海の中に放り込まれて十五分は出てくるなと命じられたり。

 うん、本当に除外したい。だが、本当に死ぬ寸前には、何とか素っ気なくも手を差し伸べてくれていたのだ。だから俺は生きている。それらすべてを血肉として、ここにいられる。

 思い出の甘さに口元が緩んで、自然と足が動いた。

 そんな風に懐かしい時間があるからこそ、今、誰かを守りたいと思い、女神(アテナ)のためにすべてをかけて戦える。

 車から降りた俺を見て慌てる運転手に、先に帰ってくれと怒鳴って走り出す。

 行きたいところがあった。俺がまだ守られる非力な存在だった思い出のある場所。星の子学園。

 あそこに行っても姉さんの行方は分からないと知ってる。もはやそれを求めているわけでもない。だけど思い出は消えない。あそこで結んだ縁だってある。

 憂鬱な報告をする前に、ちょっと羽を伸ばしてくるだけさ。大して時間をかけるわけじゃない。俺にだって、郷愁にふける時間があってもいいだろう。

 

 

 ■■■■■■

 

 

 

「せ、星矢ちゃん、星矢ちゃんなの!?」

「そうだよ。久しぶりだね。美穂ちゃん」

「本当に、星矢ちゃん……!」

「泣かないでくれよ。美穂ちゃん」

「だって、すごいお金持ちの家にもらわれたって聞かされたから……。訪ねてくるなんて、驚いたの」

 

 涙ぐむ美穂ちゃんは、相変わらずだ。記憶している姿と何も変わらない。

 それが嬉しくて手を伸ばして指で涙をぬぐったら、恥ずかしそうにうつむいた。二つに分けたお下げも。素直な表情も。俺の覚えている美穂ちゃんだ。

 さっきまで美穂ちゃんにまつわりついていた子達が、泣いた美穂ちゃんをびっくりしたように眺めている。

 もしかして、俺は仕事の邪魔をしているのか。悪いことした。仕事中だもんな。考えもせずにきてしまったが、特に用事はないんだし、挨拶だけして今日は帰るか。

 思い至って反省した俺は、元気そうでよかった。忙しそうだからまた、と告げて踵きびすをかえした。 一歩踏み出そうとしたところで、驚いた様子で美穂ちゃんが腕を掴んだ。なんだ?

 

「ま、待って! 星矢ちゃん、……えっと、その、……えと、お姉さんのことなんだけど」

「姉さんのことなら知ってる。いなくなったんだろ?」

「エッ、ああうん、そうなの。そのことを話そうと思ったんだけど、知って、たの……? どこにいるの?」

「どこにいるかは知らないけど、きっと元気でやってると信じてる。いつか探しに行くんだ」

「そうなの。ごめんなさい。手がかりとか分からないの」

「いいんだ。今日は、美穂ちゃんに会いに来ただけだから。元気そうでよかった」

 

 姉さんとの思い出を共有している人間は少ない。こんな風に心配してくれるのも真剣に思いやってくれるのも美穂ちゃんだけだ。幼いころを分かち合った大事な幼馴染。

 血で血を洗う戦いや世界の命運なんかとは、ずっと無縁でいてほしい。

 安心させるようにニコッと笑いかけた。

 ぱっと頬を染めた美穂ちゃんが、じわじわと俺の腕を掴む力を強くする。美穂ちゃん程度の力じゃ痛くも痒くもないけどさ。

 

「そ、そうなの。わたしも会いたかった。あの、せっかく来てくれたんだし、お茶くらい出すわ!」

「エッ? いや、でも」

「お願い。だって、六年ぶりなんだもの。久しぶりでしょう」

 

 六年ぶり? 何だって?

 一瞬、聞き返しかけてハッと口を閉ざした。いかんいかん油断大敵。

 そうか、美穂ちゃんには六年ぶりなんだよな。美穂ちゃんだけじゃない。俺にとってなじみ深い相手も気をつけないと。

 

 中に案内されれば、子供が目を輝かせてまつわりついてきた。美穂ちゃんが俺のことを前にここにいたと話したからか、気軽に飛びついてくる。

 片手で受け止めて持ち上げたら、大げさに喜ばれたので、調子に乗って振り回してやったら悲鳴を上げて目を回してしまった。

 美穂ちゃんには怒られたが、ほどなく気がついた子供はさらに目をきらきらさせて尊敬してくれた。危ないからやめてと美穂ちゃんが泣きそうに頼むので、もうやらないが。

 そうすると、他の子達から文句を言われたので、かわりに何人か肩や腕に抱き抱えて、ジェットコースターのように屋根の上に走りのぼって飛び降りてみた。すると、今度は美穂ちゃんが卒倒した。子供は喜んでたし、落ちても落ちきる前に受けとめられると分かってたからやってたんだが、どうも見ていて恐いらしい。

 分かった分かった。ごめん、もうやらない。と恐慌状態の美穂ちゃんをなだめて、出してもらったお茶を飲む。コップに浮かんだ氷が涼しげだ。

 ああ、普通の飲み物が出てくるっていいな。

 思うんだが、聖闘士って、位が高ければ高いほどまともな感覚ってものが欠けてくるんじゃないか? 誰とは言わないが、黄金の誰かとか誰かとか。ああ、思いだせば目がうつろになるというか、遠いところを見つめたくなるというか、いや何も言うまい。

 そこを思うと、美穂ちゃんの反応は普通なんだろう。少しばかり心外ではあるが―――。

 

「まさか気絶するとはなぁ」

「星矢ちゃんのバカ! 本当に恐かったのに」

「ごめんって。多分、またしばらく来られないんだから機嫌直してくれよ」

「……え? 来られないって」

 

 心配そうに美穂ちゃんが表情を硬くした。しまった失敗したな。説明しないとまずいか?

 嘘をつく理由などないが、巻き込みたくもない。

 どうしたもんかと迷った俺は、お嬢さんのために悪い奴らをぶっとばしてくるんだよという簡略にも程がある説明で済ませてしまった。 納得してくれた様子ではなかったが、美穂ちゃんはそれ以上訊かなかった。

 悪いな。でも、これ以上、恐がらせたくないんだよ。

 

 園の出口にまで見送りに来てくれた美穂ちゃんに、さよならと手を振ろうと振り返ると、美穂ちゃんと目があった。

 思いつめた目だった。ひどく悲しそうな目だった。柔らかく手を握られる。

 こんな目の美穂ちゃんを俺は今までに見たことがあったっけ。心ならずも短かった前の人生で、こんな目で見つめられたことがあったろうか。覚えていない。

 何を言えばいいかと半端に口を開いて迷う俺に、笑顔と呼ぶには頼りない、だが口角を上げた優しい表情が向けられる。

 

「星矢ちゃん、星矢ちゃんがどんな力を持っているとしても、何のための力だとしても、私はここで待ってる。だから……また来てね。何があったとしても、ここで待ってるから―――帰ってきて」




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