誰もが踏み分けようとしない山々、果てしなく連なる山脈が雲や霧に見え隠れする、そんな山頂の一角。
晴れた日ならば下界を見下ろすことも出来るが、生憎とその日は朝から空はその青さを覗かそうとしなかった。
とはいえ雲の薄くなった切れ間から金色の太陽の光だけが山を照らす。
そんな空を眺めるように上を向き、この山で唯一の水場に向かう少女がいた。
とてもじゃないが人が住める環境ではないソコで、こなれたようにスキップしながらまだ雪が残る岩肌を悠々と飛び跳ねるように歩く。
少女の名前はレレ。
レレはこの山に住む唯一の人間だ。だが、その風貌は少女と言うにはあまりにも異様だった。
伸ばし放題の緑の髪は足まで届きながら自由奔放に飛び跳ねており、髪と同じ色をした瞳は宝石のように爛々と輝き、小さなその体を包むのは山に住む白山羊の毛皮。
靴など履いていないのに、いきり立った山を危なげなく飛び回る。彼女にとってこの山は自分の庭のようなものだった。
レレはいつものように、水の湧き出る小さな水溜りを見つけると、そばに近寄り頭を突っ込んだ。
小さいけれどレレにとっては充分すぎる深さの水中で目を開ける、ぶくぶくと口や鼻から気泡が飛び出していくのを見るのがレレは好きだった。
貴重な水を飲みながらも、面白がって何度も繰り返す。
だが、ふとレレは顔を上げ固まる。
そのままの体勢で数秒だけ静止し、背後を振り向くと、物陰から二匹の狼が現れた。
「まーた来たのか」
彼らはこの水を求めて来たのだろう。
ここの水場以外となると、かなり山を下るか、少し特別な場所に行くしかない。
必然的にここら辺に住む生き物は集まってくる。
もっとも、ここで生きる生物と言えば、この季節にのぼってくるこの狼のような、ごく少数の動物達、そしてレレとその母親くらいだ。
レレはニカッと笑うと狼達に襲い掛かった。本来、レレよりも狼のほうが生き物としての格が上、食べられてしまうのが正しい弱肉強食の世の中だ。だが、レレは狼の首にじゃれつくように首に手を回す。
じゃれつかれた狼は鬱陶しそうになんとか抜け出そうとするが、面倒そうに吠えると、そのまま引きずって水場まで向かう。
他の狼達も同様に、レレなど気にした様子もなくトコトコと水場に並びだす。
「こーらー。無視するなー」
狼達は仕方なくといったようにレレにまとわり付く。
彼らはレレにとって親戚の弟や妹のような存在で、彼らが生まれた時から見知った友達のようなものだ。昔からよくこの時期にのぼってきた狼達と遊ぶのはレレにとって数少ない楽しみの一つだった。
レレはしばらく狼達とじゃれあったり駆け回る、昼を過ぎたあたりから小腹がすきこの辺りに実る木の実を取りに行く。
垂直に近い崖を飛び降り、木にしがみついた。木の先のほうから、丸い手のひらサイズのオレンジ色をした木の実をもぎ取り、丸かじりにする。甘い果汁が水に溶けるように、ほんのりとした酸味が口の中で広がっていく。
一通り味わうと、崖の上にいる狼達に木の実を投げ渡す。ここらへんに生息する狼は肉以外にも木の実を食べ、足りない水分を補充する傾向があった。
レレにとってのおやつのような木の実をすべて食べてしまう訳にはいかないのでいくつかを残して崖をよじ登っていく。一つ間違えれば真っ逆さまに落ちて行きそうな崖をレレは危なげなくのぼっていく。
崖を上りきると今度は鬼ごっこのように狼達と駆け回る。レレは太陽が沈むまで泥だらけになりながら遊びつくした。
やがて狼達が群れに戻るとレレは一人になり、家に帰る。
いつものように走って家へと向かう。レレの家はこの山のもっとも山頂に近い部分にある。
その家には玄関などあろうはずもなく、ただのほら穴と言っても過言ではない。
「かー。レレ、帰ったぞ!」
ほら穴を通り抜け、やがて大きく開けた場所に出る。そこは山の山頂とは思えぬほど美しい自然に囲まれていた。
月明かりが湧き出す湖を照らし、草木が生い茂り、果物や食べれそうな野菜が幾つも見当たる。レレはまた果物をもぎ取り、一気に全部口の中に放り込み、ほっぺを膨らませ芯ごと食べてしまう。
しかし、ふと思い出したように口をモゾモゾと動かし、れろーと舌を出して種を手に取り出す。そして、「てい」と言う掛け声とともに地面に人差し指と中指に挟んで地面に突き刺した。
これでよし、と言うふうに頷くと、放任主義の母親を大声で呼びに行く。
「かー! レレ、帰ったぞー!!」
叫んでもまだ寝ている母親に憤慨したレレは両手でぽかぽかと岩盤を叩く。
すると、岩盤が割れ、その間からギョロリと目が見開かれた。
突然のお目覚めにレレはおおっと驚くが嬉しそうに岩盤に張り付いた。否、岩盤に見えたのは強靭な鱗、その全てを圧倒するような瞳でレレを見つめる、それがレレの母親。
彼女は巨大な竜だった。
"かー"つまり母親と呼ばれた竜は首を重たく持ち上げると、クンクンとレレの匂いを嗅ぐ。
そして、顔を離すと尻尾の先で薙ぎ払うようにレレを吹き飛ばした。突然の家庭内暴力に成す術なく宙をまい、湖に飛び込まされたレレ。
湖の中で大雑把に体を洗って、顔を半分だけ水面から出したレレがスイーっと泳いでいく。
"かー"のこの行動の意味するところをレレは良く知っている、最近ずっと体を洗ってなかったのが気に触ったのだろう。レレの顔は痛みを訴えるものとは正反対の嬉しそうな顔だった。
「もっかい! もっかい! ビューンってやって!」
"かー"はレレを一瞥するがそのまま寝てしまう、その日レレが寝ようとする時まで"かー"が反応することはなかった。
レレは日が完全に暮れたのを確認すると"かー"のそばに近づく。そして、いつも自分が寝ている一番温かい場所に陣取り寝ることにした。
「─────」
最近の"かー"は冷たい、思い出すとレレは寝床の中で「むー」と頬を膨らます。レレにとっては"かー"は唯一の家族だ、"かー"に冷たくあしらわれるのはレレにはなによりもショックなのだ。
だが、以前はそうでなかった。レレが湖に入ると"かー"も一緒に入り水遊びをしてくれた。寝る前にいつも歌うような静かな声をだして寝かしつけてくれた。冬の寒い日には"かー"の体温で温めてくれた。
なのに、最近では寝床ですら別にするようにレレを避け、一定の距離を保とうとしている。
たった数メートル、レレにとってそれがどんな崖よりも深く感じられた。
種族、単純に言ってしまえば、人間と竜。
レレは自分が"かー"と違うことは自覚している。だが、ソレは『"かー"は大きくて凄い』とその程度のもの。
互いに口を開けば何をしたいかは自ずと理解できるが、言語を用いた会話が成立したことなどない。
それは、生体器官が人と竜では違いすぎ、出せる音の周波数があまりにも違うのが原因なのだが、レレがそれを理解できるはずも無い。
成長するにつれて、レレは"かー"のようにはなれないことを薄々と理解させられていくのだ。
それでも、レレはその時、自分が"かー"から生まれてきたのだと信じていたし、"かー"のような立派な竜になることがレレの夢だった。
*
朝日が差し込むとレレは自然と体が目を覚ます。もそもそと枯れ草でできた寝床から這い出ると、眠気まなこの顔を冷たい湖につける。
早朝の湖は冷たくレレの全身に鳥肌を立たせ意識をはっきりさせた。
巣の中を見渡すと"かー"はまだ眠っていた、どうせ目を覚ますのは期待できない、最近では一日中寝てることもある。レレは黙って外に出ることにした。
その日は久しぶりの快晴だった。空には雲ひとつない青空が広がり、大地には壮大な山々が連なり、その先には緑の森が続いていた。
見るものが見れば感動に打ちひしがれるような光景でも、レレに取っては何気ない朝の一つにしかすぎない。
朝日を浴びて大きく伸びをしたレレは、久しぶりにかなり下まで降りてみることにした。
昼を過ぎた辺りだろうか、昔はここまで探検しにくるのに丸三日かけ、帰り道がわからず迷った挙句、助けにきた"かー"に絞られた嫌な思い出があった。
それでも、つい来てしまうのだ。
レレは崖の上からひょっこり顔を見せる、その一つ離れた山向こうには小さな集落が存在した。
山肌に作られた村、木製の家々が立ち並ぶ間を小さな点のような人が動いている、それを見ると嬉しくなってレレは耳を澄ます。
小さな子供たちが村の真ん中に集まってキャッキャッと遊んでいる声が微かに耳に届く。レレはそれを嬉しそうに眺めるが、すぐに羨ましそうな顔に変わり、そこから動くことは無かった。
数年も通えばレレには彼らの言葉がそれなりに理解でき、口にすることもできるようになった。
レレは昔、普段は無口な上に言葉の通じない"かー"も彼らの言葉なら通じると思っていた。尤も、その結果は徒労に終わったわけだが。
レレにとって"かー"との会話はとても重要な課題で、今でもその課題は継続している。
どれほど、そこにいただろうか、レレは子供たちが帰っていくのを見ると、自分も山を登り始めた。
いつものように手際よくレレは登っていき。レレは少し日が暮れてから巣についた。
レレは中に入ると目を見開いた、珍しく"かー"が起きている。
差し込んだ月明かりに包まれるように、直立不動でレレを見ていた。
「かー!」
嬉しそうにレレは"かー"に近寄っていく。
それを見た"かー"は尻尾をレレの前に出す。レレは嬉しそうにソレに馬乗りになる。だが、"かー"は一向に動かそうとしない。
「どうした? かー?」
レレが首を傾げると"かー"は何かに反応し、レレをそっと顔に近づけた。
レレの身長と同じくらいの大きな瞳が、美しい鏡のようにレレを映しだす。
どこまでも澄んだ水のごとくレレを見つめていた。
思わずレレはその瞳に見惚れてしまった。
どれほどたっただろうか、"かー"は目を閉じ小さく呟く。
「レレ」
短く、竜の口でも発する事ができる二文字の音。
「──────」
そして寝る前にいつも言うあのよく分からない言葉。
レレは”かー”が何を言いたいのか理解できなかった。それでも、いつもと違う、という事は理解できた。
だからこそ。
いきなりレレを投げ飛ばす。突然、湖に飛ばされた。レレはどうして"かー"がそんな行動に出たのか理解できなかった。
いつもと違い、容赦なく突き落とされた水の中でレレはもがき苦しみ、なんとか泳いで水辺にたどり着く。
「かぁ……ッ!?」
いきなりのことで憤慨したレレは"かー"に問い詰めるように振り向いた。
だが、そのままレレは固まってしまう。
獰猛な獣の瞳。
明らかな敵意。
ありえないはずの殺意。
レレの喉から出るはずの声がかすれ、震えていた。
「……か……ぁ?」
レレの全身が凍りついたように動かなくなる。
圧倒的な"かー"の巨体がレレを見下ろすように睨んでいた。
今まで見たことも無かった"かー"の姿に、レレは心臓を鷲掴みにされたように息が苦しくなる。
そして、"かー"はレレの目の前で凄まじい咆哮をあげた。
全身が痙攣し、鼓膜が破れるのではないかと言うほどの大音量が大気を振動させる。その余波で湖は波打ち、岩盤は揺れ動く。
「ヒッ……!?」
あまりのことで理解できず腰をついたまま、後ろに下がろうとしたレレは突然、左の腕が熱くなるのを感じた。
それが理解できず、レレはすぐ近くにある"かー"の牙に右手で触れる。何故かそこからは赤い液体が漏れ出している。
右手の手のひらを見ると、少し粘り気の薄く赤い液体がべっとりとついていた。
「……っぁ? ……ぁあああ」
意識もしていないのに漏れ出す自分の声。
何が起こっているのか、どうしようもなく理解できない。
───何故?
───何故自分の左腕が"かー"によって噛み砕かれているのか。
「ぁぁああぁぁっぁあッあああああああ!!!」
殺される。
レレの中にある生存本能が急激に脳内を埋め尽くし、震える体を動かしていた。
叫びながら走る。
失禁しそうになるのをこらえ。見慣れた"家"から逃げ出す。
岩肌を転げ落ちるように下った、痛みが収まらない無くなった左手の傷口を右手で抑えながら。
「……かー!! どうっ……して!?」
そこにはいない母親に対して叫んだ。
理不尽な暴力に対しての憤りを、理解できない不満を、強烈な痛みに対しての絶望を。
やがて血を失いレレは動けなくなった。
うつ伏せになりながら涙を流し、嗚咽と共に呻く。
だが、血を流していたはずの傷口は燃えるように熱を発し、右手を近づけさせようとせず、まるで傷口が体内に侵食するかのような痛みがレレを襲う。
「かー……っ……痛いよ! ……苦しい! ……助けてよ……っかぁぁあああああああああ!!!」
必死に母親に助けを求めるが、ソレに答えてくれる相手は何処にもいない。
いつも、ピンチになれば飛んできてくれる"かー"。
優しく包み込むような温もりを与えてくれた"かー"。
だからこそ、"かー"が与えたこの激痛はレレにとって、精神的にも肉体的にも強烈な痛みを与えた。
"かー"は自分の左腕を食べた。
自分は"かー"にとって不要になったのかもしれない。
───裏切られた。
言葉は知らないがレレは初めてそういう行為があることを察し、絶望した。
もはや流す涙が絶え、叫ぶ声も枯れた頃、
レレの意識は闇へと落ちていった。
*
それを夢だと理解していた。
幼いレレと"かー"、夢の中で二人は楽しそうに遊んでいる。
太陽のように優しく温かい"かー"。彼女はレレの全てだった。
誰よりも信頼し、愛していた。だからこそ、"かー"のようになりたかった。
いつまでも続いて欲しかった夢、だが、それも終わりが近づいている。
"かー"がレレの顔に近寄り、口を開く。
「─────」
夢の中ですらその言葉を理解できなかった。でも、いつも寝る前に"かー"の言う言葉。
まどろみの中、レレは自分の意識が覚醒したのを感じる。誰かが頬を舐めていた、それは知っている感触だった。
あの狼達の舌だ。
だが、レレは目を覚ましたくは無かった。
夢の中なら"かー"は優しくしてくれるかもしれない、そんな安易な希望がレレの心を支配していた。
それでも、狼たちは執拗にレレの頬を舐めて起こそうとする、鬱陶しくなりレレは"左腕"で狼の顔を離す。
レレは飛び起きた。
今までのはずっと夢だったのかもしれない。
何故ならそこに失ったはずの手の感触があった。
しかし、レレは目を開けて自分の左腕を見た瞬間に愕然としてしまう。
そこにあったのは鱗に包まれた腕、尖った爪、それはまるで竜のような左腕だった。
戸惑いながらもレレは辺りを見回し、そして目の前に広がる光景に息をするのを忘れてしまう。
狼を始め、鹿、兎、ヤギ、鳥それ以外にもこの辺には見慣れないはずの生き物達。
空は夕暮れになり、彼らの影を長く伸ばしていた。
本来、交わるはずの無い草食動物と肉食動物がそろって一心不乱に山を登っていく。レレを起こした狼たちもレレが起きたのを確認するとその中に溶け込んだ。
幻想的な風景に目をとらわれるも。いったいどういう事かレレにはわからなかった。
だが動物たちが向かうその先、それはレレの家がある方向。理解すると同時にレレは駆け出した。
足を必死に動かして"かー"の元に。
家の前で動物達は止まり、頭を下げていた。
走る足の一歩一歩に岩が乗ったように重く、レレは感じた。
やっとの思いでレレは自分の家に入る。見慣れた家のはずなのに、いつもとはまるで雰囲気が違う。
そこには季節外れの花が咲き乱れ、太陽の光が差し込んだ先に"かー"が寝ていた。
「かー?」
いつものように、寝ていた。
レレは安心して"かー"に近づき怯えながらもそっと触れる。
「……え?」
ぞっとするほど冷たい。
言葉にできない激情がレレを襲った。
"かー"はいつもと違う。そう感じた。
「かー!! 起きてよ! かー!!」
レレに取って彼女は凄く大きくて、凄く強い絶対的なもの。
だからこそ、レレにはすぐに理解できなかった。
「起きて! かぁー──!!!」
彼女が死んだと言う事を……。
血が流れていない生き物がどうなるかレレは知らないわけではない。
理解すると放心したようにレレは尻餅をついてしまう。
見ると動物たちが"かー"に頭を垂れていた。レレには理解できなかった、何もかも。
あまりのショックで"かー"以外のものが目に映らず、入ってくる音が全てなくなったように感じた。
だから、その声が聞こえたのも偶然にすぎない。
「お前が……レレか」
動物の中に"かー"よりも一回り小さい竜が混ざっていたのだ。
驚いたようにレレはその竜に目を向ける。
だが、一目見て”かー”でないと解ると。
すぐに興味を失い"かー"に目を戻してしまう。
竜も気にした様子もなく続けた。
「80の月が欠けるほど会っていなかったが、我は"ソレ"の息子だ」
多少の反応は見せたがレレはすぐに目を戻してしまう。
そして、震えた声がレレから発せられる。
「かー……は? かー……はどうなったの?」
「死んだ」
竜は短くそう言い切った。
レレが取り戻した感情を抑えられたのはそこまでだった。
「どうして!? どうして、かーは死んだの!?」
「……寿命だ。"ソレ"は己の死が近いことを知っていた。お前を育て始めたのも……死期を悟ったが故の道楽みたいなものだったのだろう」
「……嘘」
口では呟いていたが、レレはどこかで納得してしまう。
数年前から、レレは"かー"が飛ぶのを見たことがなかった。
最近ではほとんど動こうとせず、何かをじっと待っているようだった。
レレは唐突に理解してしまう、彼女が待っていたものは死だったのではないかと。
だとしたら昨日、最後に見たアレはなんだったのか。
「その腕は大事にしろ……。"ソレ"の腕だ」
言われるまで、まったく気付かなかったが"かー"の大きな腕が無くなっている。
「我ら水を司る竜の秘術。尤も、我も始めて見たがな。よほど"ソレ"はお前を気に入っていたようだ。自分の寿命を減らして……さらに、己の腕を託すほどに」
「じゃあ………。これは……この手は……かー…の?」
レレの声に、竜は静かに頷いた。
「この声が聞こえるのも、その恩恵のようなものだ」
知っていたのだ。
"かー"はレレが竜になりたいと言うことを。
そして、自分のいなくなった後もレレが生き残れるように。
──でも、
「……違う……違うよ……かー」
レレが竜になりたかったのは、"かー"の言葉を聞きたかったから。
"かー"と話がしたかったから。
「かーがそんなんじゃ……話せ……ないよ」
レレは"かー"に抱きついて泣きじゃくった。
一晩かけて泣き果たしたと思っていた涙はどこまでも止めどなく溢れだしていた。
泣きながらレレは夢を思い出した。
夢の中、最後に聞こえた言葉。
今ならわかる。
寝る前にいつも"かー"が言ってくれたその言葉。
一日中寝ていても、レレが寝る前にはいつも起きて呟くその言葉。
”かー”がレレに一番、伝えたかった言葉。
世界で最も陳腐で、誰もが誰かに伝えようとする言葉。
「──愛している」
それが"かー"からレレに送られ続けていた言葉だった。