連載版 ハイスクールD×D ~タイコの戦士、異世界に現る~ 作:アゲイン
フラグは立った、強制イベントってやつだ。
兵藤から協力を乞われた、その日の夜。
拠点としている一軒家のリビングで、テーブルに着きながら俺は手に持つそれについて少しばかり頭を悩ませていた。
特に危険ではないものの、特別感が漂うそれはどうみても厄介事を招くこと確実だろう。
「……何つうか、機先を制されたって感じだな、こりゃ」
あいつと面合わせて何もないとは思ってなかったが、こうも直接的な手に出てくるとは。
「しかしなぁ……」
戸惑いというか、こうもあからさまとなるとどう扱っていいものか判断がつけられないな。絶対罠だろうし、じゃなけりゃ俺を招く意図がわからん。
「とりあえず読んでみるしかないか、この手紙」
何はともあれこの危険物を処理しなければ事態が進まんのだ、それならこのやけに高級そうな封筒を開く以外に選択肢はないだろう。
できれば見たくはないが、やらなければもっと面倒なことになりそうだしもうやるっきゃないよ。本当は嫌だけど。
封をしてある蝋、火の鳥のような紋様をしたそれを丁寧に剥がし、三つ折りにされた中身を取り出して内容に目を通していく。
「ええっと……、はあ……うん? ああ……えぇ……マジで?」
やっぱだったわ、クソ面倒なやつだったわ。
「『婚約発表の場に余興として参加してください』って……頭沸いてんじゃねぇかあの野郎」
手紙の内容は色々と長ったらしい表現で綴ってあったが、要約するとそういうことになる。
近々フェニックス家とグレモリー家、両家が交わしていたライザー・フェニックスとリアス・グレモリーとの婚約を公式のものとして発表するのだという。
俺にはその場にて行われる余興に是非とも参加していただきたいとかなんとか、何とも笑わしてくれるご要望が書面にて記されていた。
「こんなもん誰が行くかっての」
「おや、そんなことおっしゃらないでくださいまし」
―――っ!!
背後から声、聞き覚えのないそれを耳にした瞬間思わず飛び上がりテーブルを越えて相手に向き直る。
あまりにも唐突に現れたその存在に、警戒心が一気に上昇する。この拠点には師匠仕込みのそれなりに感度の高い結界を張っている。侵入者がいれば一発で俺に分かるようなやつをだ。にも関わらずこいつはそれに一切引っ掛かることなく、喋り出すまでこれっぽっちも気配を感じさせないで俺の背後に現れてみせた。
「……やってくれるな、こいつはいよいよ腹括るべきか?」
「まあ、そのように警戒なさらないでくださいませ。私はお兄様から出席の念押しをしておくようにと言われただけで、あなた様に危害を加えることはございませんから」
そういうと目の前の少女はスカートの裾を掴み優雅に挨拶をしてみせる。
「フェニックス家が末子、ライザー・フェニックスの妹にして眷属、レイヴェル・フェニックスと申しますわ。レーティング・ゲームでは『僧侶』を担っておりますの」
―――どうぞお見知りおきを。
因縁の相手とも言えるライザーからの使者。
奴の血縁者を名乗る少女はその容姿と言動とは裏腹に、肉食獣のように獰猛な笑みを浮かべ瞳には爛々とした光が宿っている。
姿勢を正した彼女に促され、俺は近くの席へと座り直した。
彼女はその場に立ったまま楽しげな様子で話をし出す。
「あなた様に出席を願う余興とは、言うまでもないことですが、我が兄との因縁の解消でございます。
御兄様が現魔王の妹リアス・グレモリーとの婚姻を結ぶに当たって、拭わねばならない唯一の汚点。あなた様と戦い、痛み分けるという悪魔貴族として無視できない事実。
―――それをそそぐために御兄様が望むのは、完全なる勝利です。
婚姻発表の場には多くの貴族が来られます。その場にて力を証明できれば誰も文句の付けようがなくなる。御兄様にとって願ってもいないこの機会、逃すわけにはいきません」
そこで言葉を切った少女は改めて姿勢を正し、綺麗なお辞儀をしてみせる。
「こんなことを願うのは無礼であることは重々理解しております。ですが、私どもにとってこれほどの好機が今後訪れるとは考えられないほど都合のよい条件が重なっています。
それこそ、これが運命の采配であるかのように。
どうか我ら眷属、そして主たる人の願い。聞き入れて頂けないでしょうか」
頭を下げ、最大限の礼をもって懇願の姿勢を見せる少女。
それほどまでに、彼女がこんな姿してみせるほどに、奴の願いは重いものなのだろう。それを理解しているからこそ、人間ごときにこうまでできるのだろう。
それは傲慢こそ美徳とするような、普通の悪魔の姿ではない。
主のため、何よりも家族のために、どこまでも真っ直ぐな少女の行動は、何よりもその願いを叶えたいという思いからくる誠実さに溢れていた。
その姿はこれまで出会ってきた奴等の中で、仲間と言える者たちに勝るとも劣らない心の輝きがあることを俺は彼女の内に感じている。
それは覚悟の光だ。
この少女はこの一瞬のために自身の全てを擲つという覚悟をしてここにいる。
「……頭を上げてくれ」
―――ならば。
「返答を、いただけますか」
「悪魔の貴族の娘とあっても、こうまでされちゃあ男が廃る」
―――ならばこちらも。
「俺はな、悪魔だとか天使だとか、とにかく聖書に出てくる連中ってのが嫌いだ。あいつら人間の社会ってのをどうしてか軽視してるしよ、滅茶苦茶だ……やってることが。これっぽっちも世界を平和にしちゃあくれない。
傭兵まがいのことをしてるのは、そんな世界をどうにかしたいと思ったからだ。そして依頼を受けてる以上、今の俺はそれを達成できない状態になる可能性を出来るだけ避けなきゃいけない。
―――だがいいだろう、丁度いい機会だ。実に劇的な展開だ。
因縁の相手との戦いに、こうもお膳立てをしてもらって尻込みしてちゃあ、俺は戦士として失格の烙印を師匠に押されることだろうぜ」
―――容赦はすまい。
「その余興に付き合ってやるよ。あの野郎に伝えときな、
―――全力で叩き潰して、完膚なきまでに勝利するのはこの俺のほうだってな」
再戦、望むところ。
溢れる武威を呼気に込め、やり返すかのように圧を発する。
それを受けた少女は驚いたのかややふらついたものの、この俺が兄と戦うに相応しいと認めてくれたのか、それでこそだとでもいうようにまたあの好戦的な表情を浮かべ笑う。
「そのお言葉、確かにお伝えいたしますわ。日取りが決まり次第、追って連絡を致します。
それではまた、次は決戦の場にてお会い致しましょう。ふふ、ふふふ」
優雅な笑い声を響かせながら、足元から生み出した闇に身を投じ消えていく少女。そして来たときと同じ様に物音をさせることなく、闇の幕もまた消えていった。
それを視界に入れながら、俺の思考は既にライザーとの戦いについて目まぐるしく動いていた。
眷属である少女であの力量、ならば主であるライザーの力とは果たしてどれほどのものとなっていることだろうか。
計り知れないその脅威―――しかし、受けて立つと宣ったのだ、俺は。
完全に少女の存在が消え去ったリビングを後にした俺は、今できる最高戦力を整えるため幾ばくもない準備の時間を無駄にしないよう早速行動を始めるのだった。
慌ただしく数日を過ごした後、またもや手紙による通知を受けたのは準備が整ったその日のこと。
レイヴェル・フェニックスに連れられて、冥界へと降り立ち。
―――そして俺は、因縁の相手と対峙した。
読了ありがとうございました。
果たしてライザーはどこまで強くなっているのか。
主人公がそれに対抗する術とは。
はたまた別の展開が待ち受けているのか。