へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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10話

▶️《もう一度、令呪を使う》

 

 

 今のキリエライトさんはまだ宝具が使えない。ギャラハットの盾だけじゃ、いくら偽物のエクスカリバーでも防ぎきれるとは思えない。

 

 僕にはマスターとして、キリエライトさんへ力を与えることが出来る。この、右手に輝く三画の令呪で。

 

 ……令呪を見た瞬間、甦るあの痛み。

 

 内側をこじ開けられ、切り裂かれるような物凄い痛さだった……思い出すだけで脂汗がダラダラ流れてくるし、寒気がして、息も荒くなる。

 

 体や心があの痛みを拒否しているんだ……。またあんなのを味わうのか、耐えきれるのか、と警告しているんだ。

 

 痛いのは嫌だし、怖い。出来れば避けたい。

 

 ……だけども。

 

 やらなきゃ死ぬだけだ。防いだとしても、エミヤの壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)がエクスカリバーを爆発させて、消し飛ばされて皆まとめて死ぬ。

 

 それは……もっと嫌だ。

 

 意を決し僕は右手を突き出す。神経を集中させる。

 

 

「……令呪を持って、命ずる」

 

 

 ――再び、体がこじ開けられる激痛。

 

 

「ぐううぅぅぅぅ!?」

 

 

 痛い……! 熱い……っ! 体の至るところから血が噴き出す、血が込み上げて口からぼたぼたと地面へ流れ落ちる。気持ち悪い。鉄の味。咳き込みでもっと血が零れていく。

 

 

「マスター!? いけない!」

 

「おい坊主! 無茶すんな!!」

 

 

 痛みに負けそうになる。手が下がっていく。

 

 アルトリアやキャスニキもこう言っている、と気持ちが揺らいでしまう……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 ――それがなんだ!?

 

 

「――令呪を持って命ずるッ!!」

 

 

 ここで死んだら……夕飯が食えない! 

 

 それに戦っているキリエライトさんは、もっと怖い思いをしているんだ! 力があるんなら、力になってやらなくてどうする!

 

 下がりかけた右手を左手で支える。

 

 キリエライトさんへ、守ってくれている盾の英霊へ力を送る為に。

 

 僕は……今出来ることをやるだけだ!

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 初めて会った時。私は、“その人”に私は叱られた。

 

 そんなに大したことはないと、謙遜したつもりで『先輩』へ返事をした。けど『先輩』からは、質問に答えろと。何故先輩と呼ぶのかと叱責されてしまった。

 

 もしかして凄く怖い人なのだろうか……。思わずそう思ってしまった。

 

 けどそれはただの思い違い。

 

 『先輩』は偶然レイシフトした特異点で逃げ惑い、敵に怯えていた。デミ・サーヴァントとなった私に恐怖したとも言った。

 

 ……私は何を勘違いしていたのだろう。

 

 ただ叱責されただけで『先輩』が怖い……いや強い人などと思ったか。ただ私の同年代の方から叱責されたり、指摘されたことが無かっただけ。

 

 『先輩』は“普通”の人なんだ。魔術や命のやり取りに関わっていない、英霊へ立ち向かえる力などない、ごく普通の一般人。

 

 それでも『先輩』は英霊召喚でかのアーサー王ことアルトリアさんを召喚し、特異点での戦いで傷を負いながらもどうにか乗り越え、ここまで来た。

 

 

投影開始(トレースオン)

 

 

 敵のアーチャーが魔術を使い攻撃態勢に入る。

 

 手元に現れたのは……黄金の剣。

 

 それを一目見た瞬間、霊基(からだ)が震えた。あれは、あの聖剣は、不味い。食らえば一瞬で蒸発するほどの力を秘めている。そう警告していた。  

 

 でも恐怖を振り払い、私は前へ出て防御態勢をとった。

 

 後ろにはアルトリアさんやクー・フーリンさん、所長、そして『先輩』がいて、やらせる訳にはいかない。

 

 まだ宝具は使えない。例え盾だけでも、防がなければ……!

 

 

「先へ進むと言うなら、これくらいは越える覚悟を見せてみろ」

 

 

 剣が放たれる。剣と同じ黄金の光を纏い、一筋の閃光が駆け抜けてくる。

 

 

「――うぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 盾で受け止める。全力でなんとか、一先ずは止めることは成功。

 

 しかし聖剣から拡散光が辺りに降り注ぎ、聖剣本体は凄まじい威力で盾を突き抜けようとする。

 

 固定していた足が徐々に後退していく。

 

 一瞬でも気を抜けば、即破られてしまいそうな程の聖剣(ちから)

 

 無論、私も今の全力で抗う。

 

 ――けど、押し込まれていく。

 

 

(支えきれない……! このまままじゃ……っ!)

 

 

 防がなければならないのに。盾が重い。やられてしまう。

 

 振り払った筈の恐怖がまとわりついてくる。怖い。怖い。怖い……最初に戦った時からずっと。

 

 やはり、ダメなのだろうか。

 

 宝具も使えない、半人前の英霊などでは。

 

 皆を、『先輩』を守ることなんて――

 

 

 

 

「――令呪を持って命ずるッ!!」

 

 

 

 

「先輩……!?」

 

 

 背後からの叫び。『先輩』の声が聞こえた。思わず横目で確認する。

 

 『先輩』が、右手を構えていた。血を流しながら。

 

 

『キリエライトさんは、サーヴァントとして役に立ってる』

 

『キチンと、シールダーのサーヴァントとして、力になってるよ』

 

 

 

 

 

「負けるな!! シールダー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 それは、『先輩』がくれたもの。

 

 シールド……盾を持つ英霊としてのクラス名。

 

 体に力が、魔力が送られてくる。令呪の力だ。

 

 『先輩』はこんな私に、力をくれた。血塗れになりながら。

 

 英霊でなくても、勇敢でなくても、自分に出来ることをやってくれたのだ。

 

 

(……だったら、私もやらないと)

 

 

 怖くても、立ち向かわなければ。立ち上がらなくては。

 

 例えこの身が英雄じゃなくても、私は『先輩』のサーヴァントなのだから。

 

 だから今、この聖剣を防がなければ。後方の『先輩』達を守らなければならない。

 

 この聖剣から守る為に、宝具を使わなければ、みんなが消えてしまう。

 

 偽物でもいい。

 

 今だけでもいい。

 

 私がちゃんと、使わなければ!

 

 

 

 

 ――盾の英霊(シールダー)として!!!! 

 

 

 

 

「はあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

 

 

 

 

 十字盾が輝く。力が膨らむ。魔方陣を大きくしたような虹色のバリアが聖剣の光を一瞬で遮った。

 

 仮想宝具、疑似展開。

 

 発動したその宝具(ちから)は、周りに降り注いでいた光すらも通さない防壁となり剣本体をも押し返す。

 

 

「何……!? まさか、宝具が!」

 

「この力は……!」

 

「ハッ。この土壇場で一皮向けるか。嬢ちゃんに坊主よ」

 

 

 盾より放たれたのは紛れもなく宝具。

 

 まさかとエミヤは驚愕する。

 

 アルトリアはその力に感じるものがあって盾を凝視した。

 

 そしてクー・フーリンはマシュが宝具を使ったこと・一捷がサポートしたことにニヤリと笑っていた。

 

 彼の場合、まるでそれは、弟子の成長を喜ぶ師匠のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

「花の魔術師め……! そんな仕掛けまで施していたか!」

 

 

 宝具によって完全に防がれた聖剣は、魔力を散らしながら光となって消えていった。

 

 同時にバリアも消滅。令呪のサポートがあったとはいえ、宝具使用の反動でマシュは肩で息をするほど消耗していた。

 

 対しエミヤも似たり寄ったり。無理矢理エクスカリバーを投影した代償で、体の半分が既に消えかけていた。完全消滅も時間の問題だ。

 

 だが。

 

 歯を食い縛り下唇を噛む。

 

 そこまで、そこまでして抗うか! 

 

 汚染された影響なのか、それとも単に認めなくなかっただけか、エミヤは一捷に対し激しい“怒り”を抱き、ボロボロの体を無理に働かせる。

 

 万が一を考え投影しておいた最後の矢。

 

 向こうは防ぎきったと油断しておりマスターとサーヴァント共々反動で動けずにいる。 

 

 

「あっ……!?」

 

 

 向こうのマスターが気付くが一瞬遅い。この距離なら眉間を撃ち抜ける。

 

 崩れながら矢をつがえようとし――弓を持つ左腕が、火球によって消し飛ばされた。

 

 

「キャスター……ッ! 貴様ァ!!」

 

「テメエの負けだ、アーチャー。こいつらは先に進むんだよ、大人しく消えやがれ」

 

 

 弓を失い、もう一度も投影する力すらエミヤには残っていない。

 

 ただ消えていくだけの状況……だがエミヤはそれでも、このままやられるのをよしとしなかった。

 

 とにかくエミヤは一捷を行かせないと、ヒビだらけの体で、最後の突撃をかけたのだ!

 

 

「行かせんぞ……! 貴様だけは! この先には!!」

 

「ま、まだ来るのか!?」

 

「テメエ、しつけぇぞ!」

 

 

 クー・フーリンが放つルーン魔術にエミヤは滅多うちにされる。焼かれ貫かれ崩れていくボロボロの体、それでも尚、エミヤは最後の矢で貫かんと一捷を睨みつけ迫る!

 

 

「ぬぉぉぉぉあぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!」

 

「ひっ……!?」

 

 

 鬼のような顔つきで殺そうとしてくるエミヤ。それに一捷は恐怖し、同時に訳が分からなかった。令呪使用の痛みがあるが分からなくなるくらいに。

 

 何故このエミヤはそこまでしてこちらを殺しに来るのか。消えかけの体で。矢だけで突っ込んでくるなんていう普通なら絶対やらないことまでして。

 

 原作でも敵ではあった、しかしここまでの殺意はなかった筈だ。そこまでさせる理由が、“今”の一捷にはどうしても分からなかった。

 

 

「ま、マスター……!」

 

「嬢ちゃんは下がれ! おいセイバー!」

 

「分かっています!!」

 

 

 ふらつきながら守ろうとするマシュを制して、クー・フーリンが叫ぶ。答えるように飛び出したアルトリアが横一閃。満身創痍のエミヤには防ぐこともかわすこともできず、真っ二つに切り裂かれた。

 

 

「…………あぁ。君もいたな、セイバー。全く、こんな雑な攻撃を仕掛けるようでは、敗北も当然だ」

 

 

 完全にやられたエミヤ。だがこんな時でもいつもの皮肉な笑みを浮かべている。

 

 何故なら、まだセイバーが残っているからだ。

 

 聖杯を守るセイバーと、“力”がある限り、この特異点は終わらない。

 

 最後にあいつを、全力で行く手を阻んだ自分を乗り越えた一捷へと視線をやる。

 

 

「ここまでやったのだ。まあこれからも精々足掻くのだな、カルデアのマスター」

 

「え……」

 

 

 

 

 

「――貴様を救ってやれるのは、貴様だけだ」

 

 

 

 

 

『……敵アーチャーの霊基、消滅を確認』

 

 

 カルデアからの通信だけが静か、に響く。

 

 敵サーヴァント、アーチャーをなんとか撃破。ただ皆消耗し、とても今すぐ喜べる状況ではないが……。

 

 それでも、これで残る敵サーヴァントは一騎。

 

 大聖杯を守るセイバーのサーヴァント――黒の騎士王のみ。

 

 

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