へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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1話

 プシュッと圧縮空気が抜ける音。斜めに噛み合う自動ドアが開放される。

 

 こういう自動ドアカッコいいよね秘密基地みたいで。

 

 

 早速入室ー。

 

 

「………………」

 

 

 部屋の中に、ズボンはきかけの男一人。

 

 

「誰だキミは!? ここはボクのサボリ場だぞ!!」

 

「いや、ここに来るよう言われたのですが」

 

 

 ここに来るまでのことを目の前の男性……ロマニ・アーキマンに一通り説明する。

 

 

「……成る程。君が最後のマスター適性者だったのか」

 

 

 ちーっとファスナーを上げてズボンを履いたロマニこと○○○○が右手を差し出してくる。

 

 

「はじめまして。ボクはカルデア医療部門のトップ。ロマニ・アーキマンだ」

 

「ご丁寧にどうも。平沢一捷です」

 

「みんなからはDr.ロマンと略されていてね。君も気楽に呼んでくれていいよ」

 

「うーん、それはお断りします」

 

「えっ」

 

「初対面でしょう、僕達は。まだそんな風に親しくする仲ではないですから」

 

「そ、それもそうだね。ゴメン」

 

 

 ロマニは直ぐに笑顔になると、僕にポンポンと椅子に座るよう促し「今お茶淹れるからね」と備え付けのお茶とお菓子を用意し始めた。

 

 とりあえず椅子に座る。

 

 

「おっとその前に……」

 

「?」

 

「その格好じゃ肌寒いだろう。ちょっと待って」

 

 

 そう言えば上着を剥ぎ取られてたんだった。

 

 ロマニはロッカーから黒いローブのような服を取り出し渡してくれた。

 

 これは……魔術協会の制服か。

 

 

「魔力の扱いに長けた礼装だ。カルデアの制服も同じ礼装だけど、こちらの方がキミには合ってると思う」

 

 

 確かに。NPチャージで周回にはお世話になった。凸カレスコ持ってなかったから狂スロットにカレスコつけてのスカスカシステムとかでね。ちょうどNPが貯まるんだよねー。

 

 しっかりとしたローブに袖を通す。すると心なしか、体が少し温かくなった感じがする。魔力に優れているからだろうか? なんとなく安心する。

 

 でもなんにしろ、今僕は本物の礼装を着ている。コスプレじゃない本物をだ。FGOプレイヤーとして、嬉しくない筈がない……! 誰もいなかったらひゃっほーい! ってはしゃいでたな、間違いなく。

 

 

「はいお茶。お饅頭もあるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 暖かい湯気が上がる湯のみを受け取る。お茶うけの饅頭を一口。よく冷ましてからお茶を啜る。

 

 うん、美味しい。お茶と和菓子はよく合う。

 

 

「じゃあ平沢君。気になってたんだけど、その頬の跡は……」

 

 

 頬の紅葉で察したロマニへ、「おそらく予想通りです」と頷く。所長にぶっ叩かれたことも話したからね、最初に。

 

 苦笑いを浮かべるロマニ。

 

 

「それは災難だったねぇ。所長のカミナリは怖いから」

 

「全くもって」

 

 

 本当に、怒鳴られた時の所長の剣幕は凄まじかった。うっすら涙さえ浮かべていた顔を忘れることは出来ない……。

 

 

「不安だろう、平沢君。こんな訳の分からないとこに連れてこられて」

 

「全くです、知らない間にこんなとこにいてさ。訳が分からない」

 

「……すまない」

 

「家に帰ったらラインバレル読もうと思ってたのに……全くもう」

 

「ほぉ。それは漫画か何かかい?」

 

「えぇ。正義の味方を目指す主人公が、人型ロボットに乗って戦うお話です」

 

 

 どうやらロマニはラインバレルが気になったよう。この世界にはないとか?

 

 正義の味方と言えば、Fateだとまずエミヤを思い出す。 

 

 ……ちょこちょこ共通点ないだろうかラインバレルと。正義の味方とか二刀流とか結末とか。いや結末は違うか……?

 

 そう思ったところで、ピーッとロマニの腕時計端末が鳴る。

 

 

『ロマニ、良いかな。あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』

 

「分かったよレフ。ちょっと麻酔をかけに行くよ」

 

『ああ急いでくれ。医務室からなら、2分で到着できるはずだ』

 

 

 ぷつり。

 

 通信が切れる。

 

 さーっと青ざめていくロマニの表情。

 

 

「どうしよう……ここからじゃ五分はかかる……」

 

「サボってるからでしょーに」

 

 

 最初の台詞忘れたか。ボケてねーよな○○○○。

 

 

「お喋りに付き合ってくれてありがとうね。落ち着いたら医務室に来てくれ、今度は美味しいケーキをご馳走するから――」

 

 

 ブツン……

 

 

「電気が……消えた?」

 

「おかしいな。明かりが消えるなんて何が――」

 

 

 ドンッッッッッ!!!!

 

 

 轟音。振動。

 

 部屋全体が揺すられる程の凄まじい衝撃。

 

 ……レフがやったんだな、爆弾を。

 

 

「モニター! 管制室を映してくれ」

 

 

 壁に埋め込まれたモニターへロマニが指示すると管制室の様子が映される。

 

 ……ひび割れ崩れた床に壁、たくさんの瓦礫にまみれ、火の海となった管制室。

 

 隣でロマニの息を呑む音が聞こえた。

 

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから待避して下さい。繰り返します、中央発電所及び中央――』

 

「……平沢君は直ぐに避難してくれ。ボクは管制室に向かう」

 

「避難って」

 

「もうじき隔壁が閉鎖される。その前に、キミだけだも外に出るんだ。いいね!?」

 

 

 そう言いロマニは駆け出していった。

 

 さて避難しろと言われたが、そもそもこのカルデアの構図が分からない。案内されっぱなしだったから。

 

 ……このまここにいたほうがいいんじゃないか?

 

 ふとそんなことを思う。

 

 ワケわかんないこの状況。主人公じゃない僕が行ってもどうにかなると思えない。

 

 そうだ、そうしy

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウデハナイテショウ?

 

アナタ(藤丸立香)ハ、イカナクテハナラナイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………うん。

 

 行き先は一つ。

 

 唯一行き方の分かる『あの場所』。そしてこれから物語が始まるあそこのみ。

 

 

「管制室に、行かないと……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この時の選択を、僕はずっと後悔し続けることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ!? 熱気が……!」

 

 

 火の海と化した管制室はとんでもなく熱く、熱された空気は呼吸するだけでも苦しい。

 

 数メートル先に、先に到着していたロマニを見つけた。

 

 

「平沢君!? どうしてここに……避難しなかったのかい!?」

 

「すみません……! それより、ここにいた人達は!?」

 

「……分からない。無事だと分かるのはそこに浮かぶ《カルデアス》ぐらいだ……」

 

 

 上空に浮かぶ幾つものリングに囲まれた球体を見上げたロマニは、この場で何があったのかと辺りを見回している。

 

 

「恐らくこれは事故じゃない……人為的な破壊工作だ……!」

 

 

 この場合人かどうかは疑問だけど。

 

 

「発電量が不足している。悪いがボクは地下の発電所に行く。平沢君は、急いで来た道を戻るんだ。いいね!? 絶対に寄り道はするんじゃないぞ!!」

 

 

 会話する間もなくロマニは走り去っていく。

 

 逃げるよう言われた、だけど。

 

 ここにはまだ彼女がいる……!

 

 

「フォウ! フォーウ!」

 

「フォウ君の鳴き声……! あっちか!」

 

 

 鳴き声が聞こえた場所へ走る。瓦礫の一つにフォウ君がいて、その近く。

 

 そこにある筈だ、もっと大きな瓦礫の下敷きになった彼女の姿が――。

 

 

「えっ……?」

 

 

 なかった。

 

 そこにあったのは下敷きにされたのではなく。

 

 尖った破片に腹を貫かれ、夥しい血を流しているキリエライトの姿……!!

 

 

「な、なんだよこれ……。どうして」

 

 

 ゲームと状況が違うのに戸惑う。

 

 ただ一つ言えるのは、傷が深くてこのままだと助からない……ということ。

 

 

「おい、おいっ!! 聞こえるか、キリエライトさん!」

 

「せん……ぱい」

 

 

 いてもたってもいられず呼び掛けると、かろうじて反応してくれる彼女。

 

 

「クソッ、この傷じゃ……」

 

「……はい。ご理解が、早くて助かります……。だから……藤丸さんも、早く逃げないと……」

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました』

 

 

 急なアナウンスにハッとなり見上げる。

 

 

『《シバ》による近未来観測データを書き換えます。近未来、百年までの地球において、人類の“痕跡”は発見できません』

 

 

 真っ黒だったカルデアスが真っ赤に染まる。

 

 まるで業火に焼かれ、“焼却”されてしまったように。

 

 

『人類の“生存”は確認できません。人類の“未来”は保証できません』

 

「カルデアスが、真っ赤に……」

 

 

 それは、完全に人類が滅んだという証。文明の光が消えた、つまり人類が絶滅したということ。

 

 

「それよりも、もう外には……」

 

 

 入ってきた入り口には既に隔壁が下りている。もう、ここからは出られない。

 

 

「すみません……せんぱい。わたしの、せいで」

 

 

 弱々しく彼女が呟くが大丈夫。ここはカルデアスにレイシフトする場所。

 

 だから……。

 

 

『コフィン内、マスターのバイタル、基準値に達していません』

 

 

 そら来た。

 

 

『レイシフト定員に達していません』

 

『該当マスターを検索中……発見しました』

 

『適応番号48《平沢一捷》をマスターとして再設定します』

 

 

 レフの破壊工作で47人のマスターは再起不能状態。特にAチームの7人は。

 

 残る48人目がレイシフトし、人理を修復するための大いなる物語が始まるのだ。

 

 

「あの……せんぱい」

 

「なにさ」

 

「手を……握ってもらっていいですか……?」

 

 

 傷のせいで荒い呼吸をし手を震わせながらも、それでも手を差し出してくる彼女。

 

 あぁ、そうだ。

 

 見ず知らずの自分を先輩と呼ぶ彼女の、この手を握ることで、全ては始まる。

 

 

「……あぁ。わか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ちょっと待て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手を握るのはいい。

 

 力尽きそうな彼女のせめて側にいてあげたい、というのもいい。

 

 だが、その意味は。それがどういうことか、理解しているのか僕は。

 

 これから始まるのはグランドオーダー。

 

 人類の歴史を歪めた七つの特異点に介入し、原因を突き止め、排除して、人理を修復する大仕事。

 

 言葉だけなら簡単だ。

 

 ゲームなら画面の向こうの出来事にか過ぎず、すげぇとか、面白いなーとかだけで済む。

 

 ……けど。

 

 だけども。

 

 今の“コレ”は、現実。理由は分からないが、炎や熱気、五体を通し伝わる感触、接してきた人の感じ……何もかも、現実世界と変わらない。

 

 そして、だ。48番目の適応者にして、人類最後のマスターというのが……。

 

 

「僕……なのか……?」

 

 

 どういう訳か分からないがそのようなのだ。

 

 だが、ちょっと待て。

 

 何故、僕は“彼女の手を握ろうとした”?

 

 何故、わざわざ来るなと言われた“管制室に来た”?

 

 そもそも何故、“僕はここにいる”?

 

 レフが爆弾で吹っ飛ばすことは知っていた。ならば部屋でそのまま待機していた方が安全じゃないか。

 

 所長の説明だって眠気を堪えてれば追い出されなかった。

 

 最悪カルデアから逃げるなり……は出来るからは分からんが、プレイしていて知っていたのだから、他にやりようはあった筈。

 

 にも関わらず。

 

 まるで要所要所でゲーム通りに、特に違和感を抱くことなく、ぐだーずのように動いて、この場にいる僕。

 

 

『アンサモンプログラムスタート。量子変換を開始します』

 

 

 アナウンスにハッ! となる(二回目)。だがこれはマジで不味い。

 

 

「ちょっと、待て」

 

 

 これから始まる人理修復なんて大業は、藤丸立香(主人公)だからできたようなもんだ。

 

 観ているだけだった僕に出来る筈がない。

 

 

『全工程完了』

 

「だから待てって、オイ。待てよ。……待てよッ!!」

 

 

 待て、待て、待て。

 

 本当に待て、待ってくれ!!

 

 僕はそもそもなんでここにいるのか、それすら分からないんだ!

 

 本当にただの一般人なんだ!

 

 ただFGOをプレイしていたユーザーの一人だったんだよ!!!!

 

 

『ファースト・オーダー』

 

「待てよ!!」

 

『実証を』

 

「待てって!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

『開始します』

 

「待ちやがれクソだあけがぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 直後。

 

 世界は燃え盛る管制室から一変。

 

 

「――ハッッッ!!!?」

 

 

 廃墟と化した町の中へ、僕は放り出されていた。

 

 

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