へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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15話

《……信じてみる》

 

 

 …………どう考えても、僕じゃサーヴァントには敵わない。斬り殺されるのがオチだ。袈裟斬りで胸をズバッと。

 

 ……けどもし。もしだ。コイツの力でどうにかできる可能性が、あるとしたら。

 

 信じてみても、いいんじゃないか?

 

 

「……お前なら、あのオルタに勝てるのか」

 

「お。それは信じてくれると捉えていいのかな?」

 

「そうじゃねーよ、僕がサーヴァントに勝てると思うか? 無理だわそんなん」

 

「だろうね」

 

 

 だけどこいつは言った、力を与えてくれると。その力で、オルタをどうにかできるとしたら……。

 

 

「それは私を信じてくれるなら、だけどね」

 

「…………分かった」

 

 

 普通ならサーヴァント相手に勝てる確率なんてゼロだ。即逃げるか隠れるしかない。でもコイツの言う通り、不本意だけど、今は戦う以外にはやるべきことなんて……ない。

 

 確率が1%でも、0.1でも、いやゼロのままでも方法があるなら。

 

 アルトリア・オルタを倒せるなら……いや、僕の願いは飯を食うこと。元の世界に帰るためだったらやってやる、やってやるさ……! 

 

 

「アンタを信じるよ。だから、力ってやつを貸してくれ」

 

「OK。ではこれを」

 

 

 アイツは頷くと何かを僕に渡してきた。

 

 石だ。僕が拾ったあの石。大きさは手の中に収まるくらいで黒いメダルみたいに丸い形をしている。

 

 その石がぼんやり赤く光ると、形が変わり、光の中から白い短剣が出てきた。上から下まで真っ白なおもちゃみたいな剣だ。

 

 ……なんかこれどっかで見たことのある形してるぞ、某ウルトラマンに出てきたような。

 

 

「これがキミの武器だ。無くすんじゃないぞ」

 

「僕の、武器……」

 

 

 短剣を手にとり握りしめる。オルタのエクスカリバーに比べれば遥かに短い、小さな武器。

 

 これであの状態に勝てるのか。不安がないわけじゃないけど……こいつだけが頼りのようだ、今は。

 

 それでどうすればいいのかと聞こうとした、するとだ。周りがなんかギシギシいい始めて、あいつは僕に手を翳す。

 

 

「おっと……そろそろ時止めの限界だ。悪いが直ぐに君をあの場に送り返す」

 

「はぁっ!? ちょっ、待って! どうすりゃいいのさ!?」

 

「向こうで伝える! いいか、今はやるべきことだけに集中しろ。いいね!!」

 

 

 そう言いきって、あいつの手が赤く光り。

 

 それに飲み込まれるようにして、僕の意識は消えていった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

(こ、ここはっ……!)

 

 

 一捷が気づくとそこは真っ白な謎の空間ではなく、洞窟の中だった。

 

 大聖杯から溢れた濃い魔力が含まれた空気。ズボン越しに伝わる石の冷たさ。

 

 そして何より、視界いっぱいの黒。

 

 目前の黒い大剣が、ここが何処なのかを一捷へ分からせた。

 

 

「死ぬがイイ」

 

 

 黒いエクスカリバーをかわす暇はない。一捷はほぼ無意識に左手を顔の前へ持って来て、右手で支えた。

 

 握られているのは白い短剣。

 

 魔力を纏わせた黒いエクスカリバーに対し魔力も何もない白い短剣、ぶつかる前から結果など分かりきっている武器と武器が激突する。

 

 がきり。発せられたのは鈍い金属音。

 

 

「ぐっっぅ!? ~~っ!! うぅぅぅっ……!」

 

「何ッ……!?」

 

 

 防いでいた! エクスカリバーと比べればちっぽけな短剣世界で一番有名であろう聖剣の一撃を耐えきっていたのだ!

 

 とはいえ攻撃を防いだだけで衝撃は一捷に響いており、これでもかと歯を食い縛り耐えていた。

 

 だが、それで十分だった。

 

 

 

「今の、感触……ヌッ!」

 

「マスターーッ!!」

 

「チィッ」

 

 

 防いだことと、アルトリア・オルタが剣を引いたことで一瞬の隙が生まれ、アルトリアが切り込む隙が生まれた。攻撃を避けるため、アルトリア・オルタはその場から大きく飛び退き、アルトリアが一捷の前へと陣取る。

 

 

「邪魔が、入ったカ」

 

 

 風を纏ったアルトリアは再びアルトリア・オルタへと斬りかかっていく。クー・フーリン、オルガマリーが魔術を放ちながら戻ってきて、最後にマシュが一捷の前へ立つ。

 

 一度はバラバラにされたメンバーが集まり、カルデア側はどうにか持ち直すことができた。

 

 オルタの元から戻ったアルトリアがエクスカリバーを構え牽制しつつ、一捷の状態を確認する。

 

 

「マスター、よくご無事で。あの一撃を防いでいなければ私は間に合いませんでした」

 

「……そうか。そう、だよね。防いだんだよね、僕は。生きてるんだよね。うん……うん」

 

「大丈夫かよ坊主。生憎だが戦いはまだ続いてんだ、気をしっかり持ってくれ」

 

「分かって、ます」

 

 

 無我夢中だった一捷は、防いだことをまだ信じられずにいる。半信半疑。荒く息をし、あやふやにだがなんとか答えていた。

 

 しかしまだ戦いの最中、あやふやではいられない。

 

 首を振り回してなんとか一捷は集中。そこで話ができると見て、オルガマリーが一番気になっていることについて尋ねた。 

 

 

「それにしても藤丸。あなた魔術に関わりがないのに、聖剣を防ぐなんて……。一体何をしたの?」

 

「……これを、使っただけです」

 

「……? 先輩、その剣は?」

 

「礼装……いえ、違う?」

 

 

 一捷が白い短剣を見せる。見た目はおもちゃのようなそれにマシュやオルガマリーは礼装の一種かと考えたが、違うようでなんなのかと不審に思う。

 

 

(なんだ、この感じは。あの剣は……一体?)

 

「おめえ、そいつは」

 

 

 二人と違う反応をしたのはサーヴァントのアルトリアとクー・フーリンだ。特にクー・フーリンは目を見開いて短剣とそれを持つ一捷を凝視しており、アルトリアも短剣へ何かを感じ、じっと見つめていた。

 

 

「……話は後です。今はやるべきことを、やらないと」

 

 

 一捷は視線を集める短剣の柄をしっかり握りしめると、マシュの横を通り抜けアルトリア・オルタへ向かおうとし、それを慌ててアルトリア達が止める。

 

 

「待ってくださいマスター! 前に出てはいけません!」

 

「セイバーの言う通りよ、貴方がやられたら終わりなのよサーヴァントは!」

 

「下がって下さい、先輩!」

 

「……ダメだ。アイツを、黒いセイバーを倒さないと」

 

「無茶言うんじゃないわよ! 貴方がどうやってサーヴァントに勝つっていうの!? 第一、向こうはなんだか強化されてるみたいだし、カルデアとも通信が繋がらないし……」

 

「大丈夫、です。 手は……あります」

 

 

 当たり前だが止めるオルガマリー達へ一捷は短剣を突き出して見せた。

 

 やるべきことを、自分がやらなければならないことを、彼は伝える。

 

 

「この剣を使う。コイツで切れば、鞘のシールドとバーサーカーみたいな状態を、解除、できる……」

 

『――いいか? お前さんのやることは一つ。剣で黒い騎士王の鞘を切るんだ。一撃でも決まれば、あの状態を解除することができる』

 

 

 一捷の頭の中に響くマオーの指示。一緒に剣の使い方、解除のやり方かぶちこまれてくる。情報の多さに頭痛が走り、それに顔をしかめながらも、一捷は伝えきった。

 

 だがいきなり根拠のない方法を提案しても、他のメンバーが納得できる訳がなかった。

 

 

「待ちなさい。それって結局、貴方がサーヴァントと戦うってことじゃない。無茶よ、殺されるわ!」

 

「相手はアーサー王です。……ここは私達に任せて下さい、先輩」

  

「それにマスター、その剣は一体なんなのですか? この状況でどんなものか分からないものを使うのは危険すぎます。マスターは下がって……」

 

「だったら他にやることがあるのか!!!!」

 

 

 その場の空気を震わせるほどの大声が一捷より放たれた。思わぬ返しに全員が、アルトリアすら怯んで何も言えなくなった。反射的に、聞かなければならない、何故かそう思ったからだ。

 

 

「敵のセイバーを倒さなきゃこの特異点は終わらないんだ、確かに相手はわけのわかんないバーサーカーの状態で僕だってどうなってんのか分からないよ。でもこの剣ならアイツの盾をどうにかできる、手があるんだよ。だったら、やるだけだ」

 

「で、ですが……それでは先輩が」

 

「……坊主、本当にそいつを使えば、セイバーをどうにかできるんだな?」

 

「キャスター!? 貴方何を言って」

 

 

 アルトリアが声をあげる。クー・フーリンの言葉は一捷へ賛成するようで、マスターを危険に晒すような真似をサーヴァントがさせていいのかと抗議するが、

 

 

「俺達はあの黒いセイバーを討ちに来たんだ。正気だろが、狂ってようが、戦うことに変わりはねぇ。それに逃げたところで、この聖杯戦争は終わらねぇだろう」

 

「それは、確かにそうですが」

 

「なあセイバーよ。お前のマスターがやるって言ってんだぜ。おめえそんな物分かりの悪いサーヴァントかよ」

 

 

 クー・フーリンへそう言われると、アルトリアは少しの間思案して、「……わかりました」とゆっくり頷いた。

 

 

「せ、セイバーまで! 本気なの!?」

 

「……懸念は分かります、オルガマリー。ですが、キャスターの言う通りでもあります。あの黒い私を、アーサー王を倒さなければ、聖杯戦争は終わりません。マスターの言う手段でこの状況を打開できるというのなら、実行するほかないと」

 

「セイバーさん……」

 

 

 アルトリアの説明で、不安な表情を浮かべていたマシュも一捷をことを信じると決め、大きく頷いた。

 

 

「……分かりました。私も信じます、先輩のことを」

 

「マシュまで!? ……あぁもう!! 分かったわよ、貴方の方法に従ってあげるわ藤丸! その代わり、失敗は許しませんからね! 不都合が起きたら、直ぐに下がるのよ!! 良いわね!?」

 

「……ありがとう、皆さん。あと所長」

 

「ついでみたいに言うんじゃないわよっ!!」

 

 

 こうしてどうにか全員の賛成を得ることができた一捷。彼を中心に一つのチームとして、この特異点最後の戦いの幕が、今……上がる。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

「作戦会議は、終わった、カ?」

 

「律儀ですね、あなた。わざわざ待っててくれるなんて。ロマンが分かってるとみえる」

 

「戯れ言は、結構ダ。貴様の浅知恵、で、どこまでやれるカ、かかってくるが、イイ」

 

「……じゃあ皆さん。手筈通りで」

 

 

 おう、えぇ、はい、わかったわ、と四人が返してくれる。

 

 

「――お願いします!」

 

 

 僕の掛け声で全員が駆け出す。

 

 アルトリア・オルタを、倒すために!

 

 

「でぇぇあっ!」

 

「フン……」

 

 

 前衛は同じエクスカリバーを持つアルトリア。アルトリア・オルタの黒いエクスカリバーと正面から打ち合えるのは彼女しかいない。

 

 その数メートル後方、キリエライトさんとその盾に隠れる僕。右翼はクー・フーリンさん、左翼をオルガマリー所長が固め、魔術でアルトリアを援護しつつ少しずつアルトリア・オルタへ近づいていく。

 

 作戦は単純。まずアルトリアに戦ってもらいアルトリア・オルタを抑える。そこに僕らが接近していき、十分距離を詰めたところでクー・フーリンさんとオルガマリー所長が魔術で拘束。そこを僕が短剣で切り裂く、というもの。ただし、もし失敗したら直ぐに撤退し態勢を立て直すことになっている。

 

 近づくにつれ、剣がぶつかり合う音が大きくなってくる。肌を突き刺すような感覚。戦いの空気。

 

 本当の戦いを前にして足がすくみそうになる。ああは言ってみたけど、直ぐにでもこの場から逃げ出したい、と思わずにいられない。

 

 ……というか、剣を持ったせいなのかなんなのか、自分でもよくあんな大声が出せたもんだ。あんな状況で皆を相手に。疑問とちょっとの後悔すらある。

 

 

(いや……もう少しなんだ。ここで逃げて、たまるか……!)

 

 

 弱気を無理矢理押さえ込む。前を見て、戦いに集中しなければ……!

 

 

「ヌウァァァァッ!!」

 

「くぅっ!」

 

 

 アルトリア・オルタが全身から赤黒い光を放出させると、エクスカリバーによる大振りを何度も繰り出してアルトリアを圧倒し、援護の魔術ごと切り伏せる。大量の魔力は稲妻となって剣が振られるたび周りに飛び散り、風圧と衝撃で岩が削られる。とんでもない威力だ……!

 

 腕の膨らんだガントレットでエクスカリバーをいなし、肩のトゲでひっかけ、黒アヴァロンのシールドで魔術を防がれる。

 

 まだダメージは与えられていない、でも抑えることはできている。キリエライトさんに防いでもらいながら距離も詰めれてきた。

 

 ……もう少し、もう少し近くまでいけば……!

 

 一歩、一歩、と近づいていく。

 

 …………今!!

 

 

「クー・フーリンさん! 所長!」

 

「任せなぁ!」「でぇい!」

 

「ムッ……!?」

 

 

 十分近づけたところで二人が魔術を発動。アルトリア・オルタの両手を拘束し、動きを封じた。

 

 ――ここだ!

 

 

「いけ、坊主!」

 

「はい! うおぉぉぉぉっ!!」

 

 

 短剣を握りしめオルタへ全力疾走!

 

 いける、動きが止まっている今なら、左手の鞘を狙える。

 

 こんな僕を皆が信じて、作ってくれたチャンス。絶対に無駄にはできない。

 

 鞘目がけて、短剣を突きだす。

 

 相手は拘束されたままだ。勝った、と思った。

 

 ……思って、しまった。

 

 

「フン……遅イ」

 

 

 パリン パリン

 

 

「えっ」

 

 

 アルトリア・オルタはいとも簡単に拘束を砕く。直後、壁にぶつかったような衝撃、視界がぐるんと縦に回る。腕で簡単に薙ぎはらわれ、背中からモロに倒れ込んだ。

 

 失敗。その二文字が頭によぎった。

 

 ……不味い! 逃げなければ。じゃないと、死ぬ。

 

 

「あっ、け、剣……剣は」

 

 

 だがそこで剣がないことに気づいた、はらわれたときに手放してしまった。

 

 数メートルくらい離れた場所に剣はあった。全力で走ればなんとか届きそうな距離。

 

 だが目の前には、既に再び黒いエクスカリバーを振りかぶったアルトリア・オルタが。

 

 僕は――

 

 

《剣を取りに走る》

 

《前に出る》

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