へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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始めに言っておきます。

今回、かなり詰め込みましたと、自覚しております。

なんだこりゃと思われるかもしれません。

特異点F、終結の回です。

どうぞ。


16話

▶️《前に出る》

 

 

「っ!!!!」

 

 

 気が付いたとき、一捷の体は前に出ていた。

 

 自分を殺そうとする剣が近づいているのに、自らそれに向かうよう飛び込んでいた。

 

 理由は一捷にも分からなかった。ただ、目の前の相手に立ち向かえと、退いてはならないと、全身の細胞が吠えていた。考えよりも先に体が一捷を動かしていた。

 

 背を向けるな。相手から目を逸らすな。逃げるな。

 

 何故か?

 

 そんなものはただ一つ。

 

 ――自分自身の願いのため、だけだ!

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 

 腹の底から叫びながら思いきり岩を蹴飛ばし、アルトリア・オルタ目掛け一捷が飛ぶ。渾身の力を込めての突撃。

 

 それは一捷が放ったサーヴァントへの最初の攻撃。

 

 アルトリア・オルタへの頭突きだ!

 

 

「ヌウッ!? なっ……にぃ!」

 

 

 それには駆け引きも作戦もなにもない、感情むき出しの行動であった。同時に、一捷という人間そのものでぶつかった、まさに渾身の体当たりであった。

 

 アルトリア・オルタにしてみれば、あまりにもバカらしい、しかし予想外の攻撃。頭突きが首と胸の間へ綺麗に叩き込まれたことで怯んでしまい、それだけでなくアルトリア・オルタ自身へ衝撃を与えていた。

 

 コイツは、そこまで、そうまでして足掻くのかと!

 

 よろめくアルトリア・オルタ、その隙に一捷は方向転換し今度こそ相手から遠ざかるよう走った。

 

 直後、横からアルトリア・オルタを襲う盾の一撃!

 

 

「やぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「グッ!?」

 

「坊主、こいつを!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 車輪のルーン、ルドによってスピードの強化を受けたマシュだ。高速でぶつかるとアルトリア・オルタをそのまま盾で押さえつけ、引きずるように一捷から離していった。

 

 一捷の方はクー・フーリンの風のルーンによって運ばれた白い短剣を受け取る。もう離すまいと、力いっぱい柄を握りしめる。

 

 視線を戦場に戻すとマシュがはじき飛ばされるのが目に入った。一捷が叫ぶより早く、クー・フーリンが火球を撃ちこんでアルトリア・オルタを足止め。連続で火球を撃ち最後に一際大きな炎を放つと、一捷へ目を合わせた。

 

 

「令呪だ! 力をくれ!」

 

「……はい! 令呪を以て命ずる! クー・フーリンに力を!!」

 

 

 二画目の令呪発動。

 

 一画目を発動したときの痛みを一捷は忘れたわけではない。口からは血を流れ、体の中で何かが裂ける。痛み、熱さが全身を駆け巡って目尻に涙が溜まる。だけども今は倒れるわけにも、何もしないわけにもいかなかった。一捷にはやらなければならないことがあるから。

 

 痛みを堪え生み出された魔力がクー・フーリンへ満ち、必殺の一撃が解放される。

 

 

「キャスターァァ……!」

 

「とっておきをくれてやる。焼き尽くせ木々の巨人――‘灼き尽くす炎の檻 (ウィッカーマン)’!」

 

 

 喚び出されるはシャドウアサシンを分身ごと焼き払った木の巨人。大木のごとき太い腕でアルトリア・オルタを掴み、胸の檻へ放り込んで、閉じ込める。炎を纏い黒の騎士王を焼き尽くす対軍宝具。

 

 

「小癪ナァ……!」

 

 

 怒りを乗せた黒の大剣が内部から巨人を突き破った。めちゃくちゃに振るわれた剣がウィッカーマンをバラバラに切り刻み、アルトリア・オルタは脱出する。だがその全身はいたるところが焼け、火傷を負い、確実にダメージを負っていた。

 

 上手く動けずにいるそこへアルトリアが追撃をかける。

 

 

「でぇぇぇあっ!!」

 

「グッ……!」

 

 

 袈裟斬りからの逆袈裟がアルトリア・オルタの両肩から生えたトゲを砕き、三撃目の切り上げが胸を切り裂く。

 

 それでも、血を流しながらもまだ倒れないアルトリア・オルタは大剣を振り上げアルトリアを両断しようとした。直後、その両手足がリングの形をした拘束魔術によって固定され、この隙にアルトリアは離脱。

 

 

「私だって……! これくらいできるのよ!」

 

「所長!」

 

「行きなさい藤丸!」

 

「先輩!」

 

「坊主、今度こそ決めろぉ!!」

 

「マスター!」

 

「……あぁ!!」

 

 

 各々が力を尽くして、一捷へとバトンを渡した。

 

 再びのチャンス。今度こそはと残る力全てを使い、左手を後ろに引いて、一捷は駆け出した。

 

 見計らったように聞こえてくる『アイツ』の声。

 

 

『どうにか持ち直したようだね。ならこれで決めるんだ。剣の柄にあるトリガーを押せ!』

 

「トリガー……!?」

 

 

 言われるがまま柄にあるトリガー、あるいはボタンらしきものを押すと、短剣の刃が光に包まれる。

 

 桃色の光だ。魔力とは違う力。小さな、それでいて強く、優しい光。

 

 それはまるで暗闇に煌めく灯火のように。今立ち向かうことを決めた一捷を現すかのように、この世界に灯された。 

 

 光の剣を携え駆け抜ける一捷。ダメージもあってアルトリア・オルタはまだ拘束から抜けられていない。ここで絶対に決めるのだと、一捷はより足に力を込めて岩を蹴る。

 

 

「うらぁぁぁぁぁっ!!」

 

「悪足掻き、ヲッ……!」

 

 

 だが相手の方もむざむざやられるつもりなど毛頭ない。力ずくで右腕の拘束を砕き、動けずとも一捷を切り伏せるつもりでいる。

 

 振るわれる大剣。巨大な刃が一捷に触れる……直前、剣を持つ右腕を押さえつける、何か。

 

 

「それ、は……!」

 

「拾っておいて、正解……!」

 

 

 刺又だった。

 

 切断された先端部分を、一捷は何かに役立つかもしれないと、走り出す前にあらかじめ拾っていた。左手で突き出し、刺又の先端でアルトリア・オルタの右腕を押さえていたのだ。

 

 無論サーヴァントの筋力を人間が押さえれるわけではない。直ぐにはじき飛ばされる刺又。それでも僅かに生まれた数瞬の隙が、一捷を深く踏み込ませる。

 

 一歩、更にもう一歩。

 

 辿り着く。アルトリア・オルタの目の前。

 

 狙いは左腕、黒いアヴァロンへと光の刃を突き入れる――!

 

 

「オノレェッ……!!」

 

 

 刃を阻むよう防御シールドが展開される。アルトリアすら軽々と跳ね返した魔の盾。あんなちっぽけな剣では簡単に防がれてしまう、周りの誰もがそう思った。

 

 

「だぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

 

 その白い短剣を握る一捷は、無我夢中で短剣を押し込んだ。

 

 刃がシールドと激突。火花が飛び散って、岩肌を照らす。

 

 剣と盾がぶつかりあい、拮抗し、そして。

 

 ……ぱきり。

 

 ヒビの入る音が、やけに大きく響いた。シールドの方だ。一人を除いた全員がそれを聞いて目を疑った。

 

 一捷は短剣を押し込み続ける。刻まれたヒビが広がり、端まで到達。

 

 そして、ガラスが砕けるように……黒いシールドは粉々に砕け散った。

 

 

「……!!」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 

 そのまま短剣は突き進み、黒い鞘を切り裂いた。

 

 勢いあまって一捷は倒れてしまう。相手はサーヴァント、直ぐに逃げなければ! 直ぐに立ち上がろうとしたときだった。

 

 

「ぐ、が、うぁぁぁっ!! がぁ……!」

 

「どわぁぁぁっ!?」

 

 

 突然アルトリア・オルタが苦しみだして絶叫、同時に放たれた衝撃で一捷は派手に吹き飛ばされてしまう。

 

 岩で何度も何度も体を打ち付けながら転がっていき、どすんと誰かに受け止められた。

 

 

「やったじゃねぇか、坊主」

 

「く、クー・フーリンさん……」

 

「こっちの勝ちだ。奴さんは魔力が暴走して動けねぇ。もう戦えねぇだろうよ」

 

 

 そうクー・フーリンが言った先、アルトリア・オルタに変化が起き始めた。

 

 苦しむアルトリア・オルタの体から黒い靄のようなものが出てくると、黒い雷を撒き散らし、血を吐いた。すると狂戦士のごとく変化していた鎧や剣、ドレス、黒いアヴァロンが青い光となって消えていき、元のセイバーのアルトリア・オルタへと戻っていく。その胸から黒い光が飛び出し、光はアルトリア・オルタの心臓に刺さった黒い短剣になると、刃が左右に開いた状態で一捷の側へ落ちてきた。

 

 

「シメだ。その黒い剣の開いてる刃を閉じな」

 

「……こう?」

 

 

 クー・フーリンにそう言われ一捷は黒い短剣を拾うと開いている刃を握り閉じた。バチリと赤い火花が散り、黒い短剣も青い光になって消えていった。

 

 ……これで、勝ちなのか?

 

 一捷の頭によぎる疑問。マオー、クー・フーリン達の言った通りになるように、勝つために動いた。そして今この瞬間、それをやりきったのだという。

 

 でもそこには勝利のBGMは流れないし、『BATTLE FINISH』の文字が表示されたりしない。相変わらずの息苦しい空気と、大聖杯が稼働する重い音だけが、洞窟内には満ちていた。勝ったという実感が沸いてこなかった。

 

 

「後は俺達の仕事だ。行くぞセイバー」

 

「はい。マスターはここに、マシュとオルガマリーは護衛をお願いします」

 

 

 そう言い相手の元へ向かったアルトリアとクー・フーリンに、一捷はただ頷くことしかできなかった。まだ頭がうまく回らなくて、動かした体に酸素を送るため、ただ呼吸を繰り返す。

 

 我に返ったのは、途絶えていたカルデアからの通信を知らせる、電子音であった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「……己が執着に拘った末路がこの有り様か。こんな私を嗤うか、キャスター」

 

「んなこたぁしねぇよ。俺はただのトドメ役だ」

 

 

 血を流した口で自嘲の笑みを浮かべるアルトリア・オルタへ杖を突きつけるクー・フーリン。直ぐ後ろにはアルトリアがエクスカリバーを構えて控えている。

 

 アルトリア・オルタが変化する異常事態は終わったが、彼女はまだ残っている。サーヴァントが最後の一騎になるまで聖杯戦争は終わらない。

 

 クー・フーリンの杖の先端にはルーンが仕込んであり、命じれば流体化した魔力が超高圧で放たれる。止めを刺す準備は完了している。

 

 対しアルトリア・オルタは魔力を使いきり、黒い短剣による変化とそれが解けたことで大きくダメージを負っていた。戦闘は不可能。

 

 勝負はついた。最後にアルトリア・オルタはクー・フーリンと向こうにいる一捷に目をやった。

 

 彼自身とその傍らにある白い短剣。二つを注視するとクー・フーリンへ問いかける。

 

 その顔から先程までの、自嘲の笑みを消して。

 

 

「アーチャーを倒したのなら解るだろうが……本当に先へ進ませるつもりか。キャスター」

 

「当たり前だ。そのつもりで、お前を倒すのに力を貸した」

 

「……“奴”の思い通りになるのだぞ」

 

「知ってるさ」

 

「いずれ絶望とともに“奴”は現れる。だから私は、私達は、ここにいた」

 

「坊主のため……だろ? 分かってるよ、お前とアーチャーの野郎の考えも。……だがな。どこまでいこうとそいつは俺達の考えだ。あいつのじゃねぇ。ここはひとまず身を退くとしようや」

 

「……ならば、もう言うことはない。好きにしなさい」

 

「…………じゃあな、セイバー」

 

 

 ――その心臓、貰い受ける

 

 ルーンが射出されアルトリア・オルタの胸を貫いた。黒の騎士王は何も言うことなく静かに消えていった。

 

 アルトリア・オルタのいた場所には虹色の結晶体が残った。所持していた聖杯だ。

 

 クー・フーリンがそれを拾い上げると、近くにある血溜まりに目をやる。変化が解けたときアルトリア・オルタから吐かれたものだ。

 

 赤黒い血の中で、青虫のようなものがいくつも蠢いている。

 

 

「………………」

 

 

 クー・フーリンはそれらを睨み付けながら、躊躇いなく踏み潰した。確実に死ぬよう、何度も、何度も。最後はルーンで焼き払う念の入れようだった。

 

 ことを終えると、やっとクー・フーリンはいつもの笑みでセイバーへ振り返った。

 

 

「……待たせたな、セイバー」

 

「一つ良いだろうか。キャスター」

 

「なんだ」

 

「黒い私と交わしていた話、あれはどういう意味か。アーチャーのときもそうだったが、まるで何かを知っているような口ぶりだ。それに、マスターのことも」

 

「………………」

 

「何かを隠しているのか? 貴方は」

 

「……悪りぃな。そいつには答えられん」

 

 

 肯定でもない、否定でもない答え。それはつまり何かあるということだ。だがそれ以上、クー・フーリンは何を聞かれても答えなかった。

 

 ひたすらはぐらかし続け、最後にこれだけ言った。

 

 

「ま、今はそのときじゃあねぇって奴よ。いずれ分かるさ。いずれな」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 アルトリア・オルタを倒したアルトリアとクー・フーリンが戻ってきた。回収した聖杯をキリエライトさんへと渡す。

 

 

「聖杯を確認、回収しました。ドクター」

 

『こちらでも確認したよ。いやぁ通信が切れたときはどうなるかと思ったけど……皆、お疲れ様。これでミッションは終了だ』

 

「お、終わったんですか。……はぁぁ」

 

「大丈夫ですか、先輩!?」

 

「あー、うん。大丈夫大丈夫……」

 

 

 目的達成を聞くと、僕はその場にどさりと座り込んだ。ここで集中が切れたみたいで疲れがどっと押し寄せてくる。体は石みたいに重い。全身は汗でびっしょりだ。どれだけ体力と気力を使ったのかなんて分からない。本当に終わったのか半信半疑だし。

 

 ……でも、これで終わったんだ。

 

 おかしな状態になったアルトリア・オルタはどうにかできたし、倒した。聖杯も回収した。とりあえず、あとは来るであろうレフに気をつけないと。

 

 でも所長もいる。アルトリアもいる。なんとかなるだろう……ここまで来たんだから。

 

 

「………………」

 

 

 その所長はなんだか浮かない顔を浮かべている。……余計なお世話かもしれない、でもなんだか気になって、尋ねてみることにした。

 

 ……尋ねて、しまったのだ。僕は。

 

 

 

「どうしました所長。そんな暗い顔して」

 

「……なんでもないわ。ただ、自分が嫌になっただけよ」

 

「え、なんでですか」

 

「だってそうでしょう? 貴方は一般人なのに、セイバーへ立ち向かった。倒すための活路を開いた。対して私はどう? ここに来てから喚いてばかり。ほとんど役に立ててなんかなかった」  

 

 

 俯いて所長は自己嫌悪を呟いていく。

 

 ……いやいやいや、それはない。絶対に。クー・フーリンに協力を提案したのは所長だし、魔術で援護だってしてくれた。エミヤと戦ってたときも発破をかけてくれた。それで役に経ってないなんてのは流石に……

 

 

「勝手なこと言わないで! 貴方に何が分かるっていうのよ!!」

 

 

 と思ってたらいきなり胸倉を掴まれる。目の前には涙を浮かべて怒りをぶつけてくる所長の顔が。なんだいきなり!?

 

 困って周りを見るとキリエライトさんや通信越しのロマニが変な表情してる。なにその、やっちゃったなぁ、みたいな顔は。

 

 

「先輩。言い方というものがあるかと……」

 

『ストレート過ぎるよ、君』

 

 

 二人からの言葉と、所長が怒ってる理由。

 

 ……もしやさっきの、声に出てた?

 

 …………あかん。だとしたら何やってんだ僕は!? 

 

 思ったことすぐ言ったのか、僕はまた……。

 

 

「私は所長なのよ。アニムスフィアの当主で、父の作り上げたカルデアの! 私なんかに務まらないのは分かってた、スタッフが嫌っているのも知っていた、でもやるしかなった! そんな私を、レフは支えてくれたのに、彼までいなくなって……! そして今はこのザマ! これで本当に、役に立ったなんて言えるのかしら!?」

 

「……言えますよ、もちろん」

 

 

 胸倉を揺さぶりながら叫んでいく所長に、僕は一言、返した。

 

 呆気にとられる所長。所長の剣幕に押されていたはずなのに、自分でも驚くくらいすっと言葉が出てきて、そのまま所長に伝えていく。

 

 

「そりゃ……僕にはカルデアのことや、家の事情とかは正直分かりませんよ。だから分かることだけを言います。所長は役に立てています、物凄く。指針を立てたり、援護してくれたり、声をかけてくれたり。そうじゃなきゃ、きっと僕は死んでたし、ここまで来られなかった。僕は、そう思います」

 

「貴方……」

 

 

 伝え終わると、所長は手を離して僕のことをじっと見ると顔を反らす。

 

 

「……好き勝手言うわね。こっちの気も知らないで」

 

「あっ……すみません」

 

「謝るんじゃないわよ! もう……」

 

 

 目に溜まった涙を袖で拭って、所長は右手を差し出してきた。

 

 良かった。少しは元気が出たみたいだ。

 

 

「……藤丸一捷。とりあえず、何も知らない一般人の割には貢献したと思います。だから認めてあげます、あなたの功績を。……カルデア所長として」

 

「所長……!」

 

 

 その手を取ろうとした、そのときだった。

 

 

 

 

 

「――吐き気が止まらないな」

 

 

 

 

 

 僕らの誰でもない声が洞窟に響き渡って我に返る。

 

 直ぐ様、サーヴァント達が僕らの目の前へ立つ。

 

 

「気をつけて下さい、マスター。何者かがいます」

 

 

 何者? そんなの決まってる。

 

 レフだ。ラスボス、魔術王ゲーティアに仕える魔神柱が一柱。

 

 

「嘘……」

 

「やぁオルガ。無事なようだね」

 

「レフ? レフ・ライノール! よかった、生きていたのね――」

 

「待ってください!」

 

 

 キリエライトさんが遮る。手で所長を制し、レフを警戒している。

 

 

「アレに近づいてはいけません。私達の知る教授とは、何かが違う……!」

 

「な、何を言ってるの、マシュ」

 

『もしもし! こちらカルデア管制室、ロマニ・アーキマンだ。……レフ教授、キミ、生きていたんだな』

 

「ああ、カルデアからの通信か。しかもロマニ、君からか。なるほど、君も生き残ってしまったのか。まったく……」

 

「レフ、いったい何がどうなって」

 

「どいつもこいつも……統率のとれてないクズばかりだ!!」

 

「っ!?」

 

「デミ・サーヴァントとなったマシュ・キリエライト。私の言うことも聞かず生き残ったロマニ・アーキマン。何もできないだろうと放っておいた48番目の適合者……本当に予想外のことばかりで頭にくる。その中でも最も予想外なのはキミだ」

 

 

 

 

 

 ――“自分が死んだこと”にも気づいていない、哀れな哀れなオルガマリー

 

 

 

 

 …………イマ、ナンテイッタ?

 

 所長が……死んでる? 所長へ向けられたはずのその内容が、僕にも、突き刺さってきた。

 

 

「…………え?」

 

「何を呆けている。死んだことで頭の回転が遅くなったか? まぁその不愉快さは変わらないがね」

 

 

 レフが爆弾を仕掛けた。その場所は所長の真下だった。だから所長の体は跡形もなく吹き飛んでもうない。

 

 今、ここにいる所長は残留思念。トリスメギストスが拾い一緒に転移させた存在。本当ならレイシフト適正のない所長では、レイシフトできない。

 

 できるとしたらそれは、肉体がなかったから、ということ。

 

 レフの言葉の数々が、頭の中に入り込んで、考えや、感情を、かき混ぜていく。

 

 残留、思念。所長の体は、とっくにない、死んでいるから。

 

 

「ちがう、ちがうわよ」

 

「だから君は戻れない。カルデアに」

 

「ちがう……」

 

「だって、カルデアに戻った時点で」

 

「ちがう!!」

 

「肉体のない君の意識は! 消滅するしかないんだから!!」

 

 

 そんなこと、知っていた。ゲームで、わかっていた。そのはずだった。

 

 それなのに、それなのに、ぼくは、自分のことばかりで、それを、忘れて……。

 

 

「あっ、あっ……あぁ」

 

 

 からだ、ふるえる。こえが、うまくだせない。

 

 どうして、ぼくは、わすれていたんだ、こんなだいじな、ことを。

 

 

「だがそれではあまりにも君が哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君のために見せてあげよう――今のカルデアスだ」

 

「…………なによ、あれ……カルデアスが、真っ赤になってる……?」

 

「あの星に、人類の生存を示す青色は一片も存在しない。全ては焼却されたのだよ」

 

「違う!! あんなの虚像よねマシュ、カルデアスがあんな風になっているなんて」

 

「そ、それは……」

 

 

 どうにか、どうにか、しないと。ここまで来たのに、所長が死ぬなんてダメだ。なにか、なにか、なにかないのか。

 

 ……肩を、掴まれる。

 

 

「藤丸……嘘よね。カルデアスが燃えているなんて。私が死んでるなんて」

 

「し、所長」

 

「嘘だって言って? ねぇ。さっき、誉めてくれたじゃない。だから、言って。あんなの……あんなのは嘘だって」

 

 

 からだを揺らされる。

 

 嘘……じゃない。全部、本当のこと。

 

 

「ねぇ、言って、言ってよ。……言いなさいよ!」

 

 

 何度も聞いてくる、何度も、何度も。

 

 ……言えない、ぼくは、それをしっていたのに

 

 

「あ、ぁ、あ」

 

「どうして言ってくれないのよ! 私を誉めてくれたのなら、言ってよ!! 私が大丈夫だって……言ってよぉ……」

 

 

 なにも、いえなかった。

 

 どうしていいのかが、おもいつかなかった。

 

 なのに、どうして、ぼくは、あんなことを、言ってしまったんだ……?

 

 

「ふざけないで……ふざけないでよ!」

 

「い、いけません所長! 戻って下さい!」

 

「私の責任じゃない、私は失敗していない、私は死んでなんかいない!!」

 

『所長、ダメだ!』

 

「なんなのよアンタ! 私の、私のカルデアスに、何をしたっていうのよぉ!!」

 

 

 

 

 

煩い女だ。そろそろ耳障りだよ、お前

  

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 それは、ほんとうに、ほんとうに、一瞬のことだった。

 

 走る所長がいきなり、まるで何かにつまみあげられよう浮いた。

 

 操られるよう、宙を流れていって。

 

 そのまま

 

 真っ赤に燃えている

 

 カルデアスへ

 

 飲み込まれ

 

 きえた

 

 

「……所長?」

 

 

 悲鳴も何もなかった。あの赤いカルデアスの中に所長が消えた。一瞬で。

 

 ………………死んだ。回らないでいた頭を、死んだという三文字が働かせ、いろんなことがわかり始めてしまった。

 

 所長が、死んだ。さっきまでここにいた人が、話していた人が……死んだ。

 

 なんで、どうして。

 

 誰が、何が、おこったんだ?

 

 

「これは我が王。何故この場所に?」

 

「何、ただの気まぐれだ。わざわざ歯向かうものどもがどのようなの存在なのか、気になってな。だがこの様子では徒労に終わるだろうが」

 

 

 カルデアスが消える。それに代わるよう、“なにか”がいた。

 

 

「なんだよ、あいつは」

 

 

 見た瞬間、そいつが異常だと感じた。断言できた。

 

 何かが、分からないけど何かが決定的に違う。だけど、何故か既視感がある人型の、なにか。

 

 ただひとつ、確実にわかるのは。

 

 そいつが、最初のハサンとか、分身とか、戦ってきたサーヴァント達とは全く比べようがない存在。

 

 圧倒的な……“敵”だということだった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 黒い騎士。

 

 突如として現れたのは存在を一言で現すとしたら、それだった。

 

 黒い人の形の上から漆黒の鎧を纏っている。目の部分は赤いバイザーになっており、そこから下の部分、人間の口と肌色があることからそいつが機械や獣ではないことがかろうじて分かる。一番目を引くのは背中から広がる大きな翼だ。背中から生えている一対の、機械の翼。それから放出された黒い光のようなものが光の翼を作っていて、翼が重力制御かなにかでもしてるのか、その体は宙に浮いている。

 

 そして何より、騎士は圧倒的な存在感、プレッシャーとでも言うものを放っていた。現れただけで、その場の全てを支配してしまったかのように、君臨していた。

 

 一捷だけではない、カルデア側の誰もが理解した。

 

 あれは、“敵”なのだと。 

 

 

『……なんだ、なんだこいつは。クラスが観測できない、全てのステータスが、観測不能……!?』

 

「貴様、何者か……!?」

 

「この威圧感……一体、どれほどの……!」

 

「……冗談じゃねえぞ。テメエ、何しに来やがった」

 

「こちらも玉座に座してばかりでは気が参ってしまうんだよ。少しは体を動かそうと思ってねぇ、アイルランドの御子」

 

「なら、お望み通りもう座らねえようにしてやるよ」

 

 

 言うなりクー・フーリンは横並びに展開したルーン魔術を一斉発射。牽制などではなく最初から確実に仕留めるつもりで強襲する。その結果を見ることなく、原初のルーン18個を展開し、もうひとつの宝具を発動に入る。

 

 

「ぬるいな」

 

 

 ルーン魔術をまともに食らっているのに、騎士は平然としながら左の翼を軽くはためかせた。

 

 光の翼から羽根が散って、紫の炎を発し纏うと矢となり――次の瞬間、クー・フーリンの胸を貫いていた。

 

 

「クー・フーリンさん!!」

 

 

 血と内臓を撒き散らしてクー・フーリンは膝から崩れ落ちた。一撃、たったの一撃で、展開したルーンごと霊核を破壊されていた。

 

 

「はーい、まずいっこ」

 

 

 アルトリアとマシュはマスターの指示がなくとも攻撃を仕掛けた。オルガマリーとクー・フーリンを殺した存在、躊躇いなく斬りかかり、殴り付ける。

 

 騎士は右の翼で迎え撃った。翼は鎌のような形になり、エクスカリバーより速く、鋭く振るわれてアルトリアの鎧を砕き、左肩から右脇腹にかけて切り裂いた。続いて左の翼から三つの衝撃波が放たれる。シールドの防御を抜けるほどの威力があり、防ぎきれなくてマシュは全身を衝撃波で滅多うちにされ、鎧やスーツをボロボロにされながら吹き飛ばされていった。

 

 

「みっつ。なーんだやっぱり大したことない」

 

 

 マスターである一捷はサーヴァント達の元へ行こうとした。行かなければ、もしく逃げなければならない。

 

 

「あ……あっ」

 

 

 だが、できなかった。何も。

 

 黒い騎士の三回の攻撃。たった三回の攻撃は、一捷を恐怖で支配してしまうのには十分過ぎた。

 

 一歩すら動けない。ガチガチと歯を鳴らし、震え、その場にへたりこむことしかできなかった。

 

 誰かがいるのなら助けてくれとすら思えなかった。

 

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、ただ“敵”に、怯えるしかなかった。

 

 

「はっ……勝手に殺すんじゃねぇよ……」

 

 

 そのときだ、彼の前に英雄が立つ。クー・フーリン。伝説にある通りのしぶとさで死んではいなかった。

 

 それでももう長くはない。傷が大きすぎる、じきに消えてしまう。

 

 だが、その姿。片腕はなく、胸には大穴が空き、血塗れの姿。

 

 

(どうして、どうして、そこまできるんだ。この人は)

 

 

 それでも敵と向かい合う姿。その大きな背中に一捷は、不謹慎にも、『美しい』と感じた。

 

 ボロボロになってまでなお立つ英雄に、恐怖と、それ以上の『思い』を感じていた。

 

 

「そんなもん、俺がサーヴァントだからだ。使い手のために、命を張るのが、俺達なんだよ」

 

「でも、ぼくは……ぼくは」

 

「……まぁ、今すぐ分かれとは言わねえよ。だから、これだけ、言っとくぜ」

 

 

 

 

 

 

「――何があっても、お前は、『一捷』でいつづけろ」

 

 

 

 

 

 

 英雄(クー・フーリン)は最後まで笑っていた。最後にそう残して消滅していった。戦ったエミヤのように。アルトリア・オルタのように。

 

 一捷を思いながら、死んでいった。

 

 

「はぁぁぁ。下らない」

 

 

 それを見ていた黒い騎士は心底つまらなさそうに、大袈裟にため息をついた。見たくもないものがやっと終わったとでもいうかのようだった。

 

 

「何が英雄だよ、死人どもが出しゃばっちゃってさ。全くもって下らない」

 

「……なんだと」

 

 

 消えたクー・フーリンをバカにした言葉を、一捷は恐怖の中にいても無視できなかった。

 

 こんな自分を守るために戦ってくれた人を下らないと言われ、我慢がならなかった。それにコイツは所長を、オルガマリーを殺した。白い短剣を握り一捷は立ち上がる。

 

 

「お前……ふざけんな……!」

 

 

 怒りだ! オルガマリーを殺し、クー・フーリンを殺した騎士への怒りの感情が、恐怖で染まっていた一捷の体を無理矢理立ち上がらせる。

 

 

「怒ったか。ではそのちっぽけな剣で、俺に挑むかい?」

 

「そうしてやるさ! コイツさえあればお前なんか……!」

 

 

 細かいことは頭になかった。怒りで全部とんでいた。サーヴァントは皆やられた、なら僕がやるしかない。今の一捷は本気で、アルトリア達を倒した騎士をやっつけてやるとさえ思っていた。

 

 トリガーを押す。桃色の光が刃を包む。

 

 こいつで真っ二つにしてやると一捷は駆け出そうとした。……したのだが。

 

 ぶは、と。

 

 先程とは違い、いきなり血を――虫が混じったものを吐き出し、倒れた。

 

 そしてその体を、禍々しいものに、蹂躙された。

 

 

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あぁ、がぁぁあーーーーっ!!」

 

 

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い、痛い!!

 

 一捷はあまりの痛みに絶叫しながら手足をばたつかせ転げ回った、令呪の使ったときは比べものならない、それほどの激痛だった。

 

 なんで? どうして? さっきはうまくいったのに?

 

 怒りの感情は痛みにかき消された。あるのは疑問と、この身を痛め付ける痛みだけだった。

 

 

「やっぱりこうなるか。つくづく愚かな奴だよ、君は」

 

 

 騎士はそんな一捷を嗤う。明らかに相手を見下していた嫌な嗤いだった。

 

 

「我が王。もうよいでしょうそのようなカス。直に特異点の崩壊が始まります」

 

「タイムアップか。名残惜しいが、戻るとするぞ」

 

『ま、待てレフ教授! 君は一体なんだ、何をした!』

 

「ドクター・ロマニ。共に魔道を研究した学友として最後の忠告をしてやる。カルデアは、用済みになった」

 

 

 未来は見えないまま。

 

 外部とは通信が不可。

 

 カルデアの外へ様子を見に行った職員は戻ってこない。

 

 結末は確定した、レフは冷たく告げる。

 

 

「お前達人類は、この時点で滅んでいる」

 

『…………っ!』

 

 

 言い終えると洞窟が大きく揺れた。

 

 ヒビが入り洞窟が崩れ始める、アルトリア・オルタが消えたことで特異点の崩壊が始まったのだ。

 

 

「ぐ……」

 

「では失礼させてもらうよ、カルデアのマスター。生きたいのであれば、精々足掻くといい」

 

「……なんだ、なんなんだよ……なんだってんだ、お前は」

 

 

 絞り出すように一捷は問うた。お前はなんだ?

 

 こんなやつはいなかった、存在しなかったはずだ、ゲームの中には。

 

 黒い騎士は、レフに王と呼ばれた存在は、左手を差し出してこう言った。

 

 

 

 

「――俺は、救世主。『キミ』を救いにやってきた、『えいゆう』だよ」

 

 

 

 

 その言葉を最後に、特異点Fでの一捷の意識は、完全に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




アルトリア・オルタ戦 1ー3 1waveのみ
アルトリア・オルタ:狂
LV25
HP50000
チャージ:5(EXアタック、バスター、3HIT、全体攻撃)
場所:大聖杯前

付与特性:魔性

固有スキル『???』
特定の特定を持たない攻撃、宝具、状態異常でHPが0になったとき、HP全回復。

サポート
・クー・フーリン:術
LV20

マスタースキル『白い短剣の一撃』
クールタイム:99
1の固定ダメージ。相手のHPが半分以下で、特定のスキルと特性を持つとき、固定スキル『???』を解除する。

ギミック
毎ターン、オルガマリーの魔術で500ダメージ。もしくは確率でスタン(1T)付与

『???』の解除時、‘魔力暴走’が発動。魔性特性がなくなり、チャージが0まで減(毎T)、攻撃・防御・宝具威力DOWNのデバフ(3T)、スタン(1T)がかかり、通常攻撃などで撃破可能。



黒い騎士戦 1ー4 1waveのみ
黒い騎士:?(クラス相性は全て等倍)
LV90
HP1500000
チャージ:3(EXアタック、5HIT、全体攻撃)
場所:大聖杯前

性別:?

特性:魔性

固有スキル『???』
特定の特定を持たない攻撃、宝具、状態異常を無効化。

サポート
・クー・フーリン:術
LV20

ギミック
3ターンの間何もしない。EXアタックで固定999999ダメージ、強制敗北となる。


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