へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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17話

「……ここは」

 

 

 一捷が目が覚ますと映ったのは見慣れた天井だった。

 

 寝ている体を起こす。自分の部屋だ。いつも過ごしている家。我が家。

 

 時間帯は明け方だろうか。カーテンが閉められ、薄暗い。

 

 

「夢、だったのか」

 

 

 FGOの世界にぶちこまれ、戦いに身を投じる。大好きな作品であるし、ゲームだったらいいが、現実だったら笑えない内容だった。

 

 現実的に考えてみれば、いきなりゲームの世界に行くなんてありえない。きっと悪い夢でも見たのだ。

 

 苦笑いしながらそう思うことにし、慣れた感触のベッドで再び眠ろうとして、

 

 

「違う。貴方のがいるべき場所は、ここじゃない」

 

 

 鼓膜を震えると呼吸が止まりそうになるのを一捷は感じた。止まっていたかもしれなかった。

 

 家族ではない誰か、聞き慣れていない声。

 

 ……いや、ある意味聞きなれていた。『作品』の中で。

 

 黒い髪に青緑の瞳、白いカルデアの制服を着た青年が、こちらを真っ直ぐ見つめていた。

 

 

「藤丸、立香」

 

「そう。貴方は『藤丸立香(おれ)』なんだ」

 

 

 周囲が一変していく。

 

 いつの間にか、自分の部屋は燃える街に変わっていた。

 

 

「だって」

 

 

 アルトリア・オルタが、エミヤが、シャドウサーヴァント達が現れる。

 

 いつの間にか、格好はカルデアの制服となっていた。

 

 

「『藤丸立香(おれ)』は」

 

 

 マシュが、アルトリアが現れる。

 

 いつの間にか、右手には令呪が現れていた。

 

 

「――世界を救わなければならないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぁぁぁぁぁっ!」

 

「先輩!」

 

 

 慌てて飛び起きた一捷へ、側についていたマシュが駆け寄った。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あ……あぁ……キリエライト、さん」

 

「フォーウ!」

 

「フォウ君も……じゃあ、ここは」

 

「はい、カルデアです」

 

 

 真っ白な壁に天井。机やベッドといった最低限の道具。最初にロマニと出会ったあの部屋だ。

 

 曰く、あの黒い騎士とレフが姿を消すと特異点Fの崩壊が始まった。一捷は気を失っていたがロマニの指示でレイシフトを敢行。なんとかマシュ、アルトリアと共にカルデアへ帰還した。気を失ったままほ一捷は最低限のメディカルチェックをされたあと、この部屋に運ばれ今に至る……ということだ。

 

 

「……所長は。所長は、どうなったんだ?」

 

「……オルガマリー所長の帰還は、確認されていません」

 

「じゃあ、本当に、死んじまったのか」

 

「……はい」

 

 

 それを聞き一捷はずしりと体が重くなるのを感じた。あれが事実なのだと。オルガマリーの死が体にのしかかったようだった。

 

 俯きその場に立ち尽くす。

 

 マシュは声をかけるべきか迷ったが、ひとまずロマニからの連絡を伝えた。

 

 

「……管制室に?」

 

「はい。ドクターがお待ちです。アルトリアさんもそちらにいらっしゃいます」

 

「………………ちょっとだけ、ここにいさせて。そうしたら、行くから」

 

「分かりました。では、三十分程でよろしいですか?」

 

 

 一捷は静かに頷く。「それではまた、呼びに来ます」とマシュはフォウと一緒に部屋から退室。一捷だけとなった。

 

 

「……………………何やってんだ」

 

 

 唇が切れそうなほど噛みしめ、爪が食い込んで血が出そうなほど手を握る。

 

 体を震わせ、膝をついた。

 

 両手で思い切り、力任せに、床を叩く。

 

 そして、耐えきれなくなった思いで……慟哭した。 

 

 

「……何やってんだ僕はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 大粒の涙を流し床を何度も何度も何度も叩きながらひたすら叫んだ。喉が裂けそうな程、声が枯れそうな程喚いた。

 

 魂からの叫びだった。

 

 何もかも知っていたのに、何もできなかった自分への不甲斐なさ、情けなさ。

 

 すぐ側にい人が死んだということの悲しみ。

 

 自分のことばかりを考えていたことへの怒り。

 

 そして何より、無責任な言葉を放ってしまった後悔。

 

 

『どうして言ってくれないのよ! 私を誉めてくれたのなら、言ってよ!! 私が大丈夫だって……言ってよぉ……』

 

 

 何故あんなことを言ってしまった? 何故大丈夫だなんて言えた?

 

 自分がやったことは無責任な希望を持たせ、それによって大きな、大きな絶望を与えた。そのあと、どうなるか知っていたはずなのに、自分のこと、生き残ることばかりを考えて、見殺しにした。

 

 人として最低、最悪の行為以外の、なにものでもなかった。

 

 

「…………あ」

 

 

 不意に感じた違和感。ズボンのポケット、そこに硬いなにかが入っているのを感じた。

 

 取り出してみる。

 

 スマホだった。使い慣れた自分のもの。

 

 パスを入力し画面を開けば見慣れた待ち受けが表示される。時刻をはじめ、インストールしたアプリが並べられる画面。

 

 その中で見つけた。見つけてしまった。

 

 FGO。Fate/Grand Orderのアプリ。毎日欠かさずプレイしていたから一番目につく場所に移動してある。

 

 当然、そこには特異点Fの内容も入っている。

 

 ……『原作』は、すぐ近くにあったのだ。

 

 

「……ぐぅぅぅぅっ……!」

 

 

 思わずスマホを叩きつけそうになった。

 

 こんな、こんな近くにあったのにそれすら気づかなかったなんて……!

 

 情けない、情けない、情けない。

 

 ……すんでのところで、どうにか叩きつけるのだけは止めた。壊しても仕方ないと分かっていた。

 

 ただ感情の方は止めようがなかった。胸の中で負の感情が渦巻く。こんな自分が許せない。嫌いだ。消し去ってしまいたいとさえ思った。

 

 この感情に従っていたら舌を噛みきるなり、頭を壁に叩きつけ割るなり、鋭いなにかで首を切るなりして本当に自分を抹殺していたかもしれない。

 

 そうしなかったのは、何故かは分からないが体が拒否するように重く感じたこと。例え自分が死んだとしても他人は生き返ったりしないという当たり前のことが頭によぎり、意味なんかないと思い留まったからだ。

 

 

「……先輩、よろしいですか?」

 

「………………アァ」

 

 

 マシュの声が出入口近くに据え付けられているパネルから聞こえてきた。いつの間にか三十分経っていたらしい。

 

 とりあえず返事をして管制室へ向かう

 

 向かいたいわけではなかった。ただこの部屋にいて、何もせずにいるよりましだっただけだ。

 

 こうすれば、それでも、前に進んでいるはず。そう思わなければ本当に自分を殺してしまいそうだった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「来たね、藤丸君」

 

 

 ふらふらと管制室に着くと、呼び出したロマニを始め、カルデアのスタッフ達、鎧を解除したアルトリアが待っていた。

 

 まだ瓦礫がそこかしこに残っていたり、壊れたコフィンや機械が散らばっている、レフの起こした被害の大きさがそれだけでよく分かった。

 

 ……そのせいで、所長は……。

 

 

「とりあえず、生還おめでとう。藤丸君、マシュ。そしてファースト・オーダーの達成、お疲れ様」

 

「……いえ」

 

「なし崩し的に全てを押し付けてしまったけど、君達は冬木の特異点を消滅させ、そして無事に戻ってきてくれた。そのことに心からの尊敬と感謝を送るよ」

 

 

 でもその為の犠牲は多いし、大きい。誉められているはずなのに素直に喜べなかった。

 

 所長を始めカルデア職員の七割が死亡。

 

 マスター候補は一人を除いた全員が生きてはいるが再起不能の状態。

 

 カルデアはこの管制室をはじめ主要設備はなんとか復旧したが完全とは言い難い状態……死に体といってよかった。

 

 ……同じだ。ゲームと。ボロボロのカルデア。

 

 

「レフ一人に酷い有り様だ。……でも。だからこそ、ボクら死んでいった彼女達に代わって、人類を守る」

 

「……守る」

 

「そうだ」

 

 

 ここも、そう、同じ。カルデアは抗う。冬木の特異点が消えてもカルデアスに文明の光が途絶えたまま。原因は冬木じゃない。

 

 

「これを見てほしい。復旧したシバで過去の地球を改めてスキャンした」

 

 

 カルデアスの前に投影されたのは世界地図。地図には七つの黒い点がある。

 

 特異点だ。聖杯によって歪められた場所、時代。

 

 オルレアン。

 

 セプテム。

 

 オケアノス。

 

 ロンドン。

 

 イ・プルーリバス・ウナム。

 

 キャメロット。

 

 そしてバビロニア。

 

 これらは人類の歴史での重要な選択点、ターニングポイント。聖杯の力で改竄されたことで人類史は土台から崩された。それによって人類の滅亡が決まってしまった。

 

 それを止める方法は、ただ一つ。 

 

 

「レイシフトだ。冬木と同じよう、それぞれの特異点にレイシフトし歴史を正しいカタチに戻せば、その特異点は消滅する。それが人類を救う唯一の方法だ」

 

 

 …………同じ。だから。

 

 

「だが……レイシフトできるのは君だけだ。藤丸君」

 

 

 こう来るのは、分かって、いる。

 

 レイシフトには適性がいるから。でも他のマスターは全て再起不能、無事なのは僕だけ。いや、主人公……藤丸立香だけ。レイシフトできるのは、主人公と、そのサーヴァントだけだ。

 

 

「……この状況で君に話すのは強制に近い。それでもボクは、こう言うしかない」

 

 

 僕らは冬木にレイシフトし、聖杯を奪還して、歴史を戻した。

 

 もし人類を救いたいのなら、2016年から先の未来を救いたいのなら、それと同じことを『七度』。別の国、時代で繰り返すしかない。

 

 “たった一人で”で、七つの人類史と、戦わなければならない。

 

 

「――マスター適性者48番、藤丸一捷。その覚悟は、あるか?」

 

 

 ……あぁ、あぁ、あぁ。

 

 

「君にカルデアの……人類の未来を背負う力はあるか?」

 

 

 同じだ。同じ、同じ、同じ。

 

 同じなんだ、何もかも、ここまでも、今も、そしてこれからも。

 

 知っている、分かっている、ゲーム通りだ。

 

 だから、僕が、やらなければならないんだ。ここにいるんだ。そのために。

 

 ロマニの、カルデアのスタッフ達の、アルトリアの、そしてキリエライトさんの目が全部、僕に向けられている。

 

 皆の目が、言っている。

 

『なんとかしてくれ』『君しかいない』『人類の未来がかかってる』

 

 期待の、目。

 

 答えを待っている、僕の、藤丸立香の、答えを。

 

 答えなきゃ。答えなければ。答えなければいけない。

 

 息はまたいつの間にか荒くなっていて汗が滲んでいる。

 

 声を出さないと。

 

 僕には、全てが、皆の運命が、かかってるようだから。

 

 だから、世界を、世界を救わなければ……

 

 

《もちろんです。》

 

《……自分に出来る事なら》

 

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ちがう

 

 

「なにをいってるんだ、アンタ達は」

 

「……え?」

 

 

 戸惑いが聞こえた、ロマニだろうか。でもそんなのどうだっていい。

 

 

「カルデアの、人類の未来? 背負う? 覚悟? なにを、いってるんだ」

 

 

 僕は、ここにいるべき人間じゃない。

 

 ここにいていい、存在じゃない。

 

 間違い。違う。僕は、僕は、藤丸立香じゃない。

 

 

「いきなりここにいて、わけわかんないまま戦いに巻き込まれて、所長が死んで、それなのに、人類を救え? 覚悟があるか、だって?」

 

 

 にらみつける。目の前の、カルデアを。

 

 

「いきなり、何を言うんだよ。アンタら、なんなんだよ。何をさせようって言うんだよ、僕に。なんなんだよ、一体、なぁ、なぁ、おい」

 

「せ、先輩。少し、落ち着いてくださ――「触るなぁッ!!」っ!?」

 

 

 払いのける、近づこうとしたカルデアの人間を。

 

 後ずさり、全員を睨んで威嚇。あぁ、いま泣いてるだろうな、僕。みっともない。

 

 そうだよ、みっともないんだ、情けないんだ、僕ってやつは。

 

 

「ま、マスター! どうか落ち着いて、まずは話を」

 

「うるさいよ……! 僕なんかに、人類の未来を背負う? できるわけないだろう」

 

 

 だから僕には、人理修復なんて、無理だ。

 

 

「覚悟だって? あるわけないだろう」

 

 

 だって……藤丸立香じゃ、ないんだから。

 

 

「嘘でも……こんな……自分にできることなら、なんて、言えるわけないだろうがぁっ!!!!」

 

 

 だから、僕は、

 

 

「僕は…………帰る!!」

 

 

 カルデアに、そこにいる人間に、サーヴァントに、この世界に。

 

 全てに背を向け……逃げた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 結論から言うと、一捷は逃げられなかった。

 

 目の前で背を向け逃げ出した一捷。慌ててスタッフ達が追いかけたが、感情が昂りすぎて体がリミッターを外したようで一捷は逃走を続け、正面ゲートまで辿り着き隔壁を開けようとまでした。そこで追いつかれスタッフに捕まったが、それでも暴れまわって抵抗。

 

 

「チクショウがぁ! 離せぇ! 離せよっ!! 僕は、僕は帰るんだよ家にぃ!!」

 

 

 凄まじい力だった。大人数人がかりでもひたすら手足をばたつかせ、噛みつき、抵抗しまくった。

 

 

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたくない! 死にたくないぃぃ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 涙と鼻水を流し、喚き散らしまでした。

 

 結局最後はアルトリアが鳩尾を殴り付け、力ずくで黙らせた。

 

 部屋から出たのに、一時間足らずでベッドへ戻ることになってしまった。

 

 

「先輩……私、私は……」

 

 

 マシュは拒絶されたことにショックを受けており、フォローのためにアルトリアは側についた。

 

 

「やっぱり、一人に人類の未来を背負わせるなんて、無茶なことだ」

 

「彼の気持ちは最も、ああなったとしてもおかしくはない」

 

「それでも逃げるなんて。辛いのは彼一人だけじゃないんだ、無責任すぎる」

 

 

 カルデアスタッフ達の意見は様々、こんなのは無茶だと問うもの、一捷のことを察しフォローするもの、非難するもの……。

 

 全員が不安だった、カルデアにいる全ての人、全てが。

 

 それは現在のカルデアのトップ、ロマニ・アーキマンも、同じことだった。

 

 

「……藤丸君」

 

 

 ベッドで眠る一捷。今回その側についているのはマシュではなくロマニだ。

 

 マシュは管制室でのことでそれどころではない。

 

 ロマニも同じようなもので、管制室での話を切り出したのは彼であり、話せばまた拒否されると予想していた。だがそれでも、今カルデアで一捷へ話すことができるのはロマニしかいないのが、事実であった。

 

 ちなみに復旧作業の指示は『技術顧問』に任せてある。彼、いや彼女ならきっとうまくやっているだろう。

 

 

「……うぅ」

 

「藤丸君、大丈夫かい?」

 

「っ!?」

 

 

 うめき声を上げる一捷。この部屋で、今日二回目の目覚め。

 

 ぼんやりしていたが、側にいるのがロマニだと気づくなり、飛び起きて睨み付けてきた。

 

 

(……そう、なるよね)

 

 

 再び拒絶されるだろうと分かって、ロマニは再び、一捷へ話を切り出した。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「……さっきの話の続きなら、答えは変わりませんよ」

 

 

 目が覚めたところは僕の部屋……じゃなく、カルデアの部屋だった。

 

 ……逃げられなかったんだ。そんで捕まって連れ戻された。

 

 そんなことはわかっていた。カルデアから出たって、世界が滅んでいたらどうしようもない。かといって、帰る方法も分からない。僕のやったことは周りに迷惑をかけただけだ。

 

 ……でも、それでもあれは僕の、藤丸立香じゃない、僕自身の答えだ。喚き散らしてるのに答えもへったくれないだろうけどね……。

 

 横向きで胡座をかく。ロマニの方は見なかった、あの目を、期待の目を見たくなかった。

 

 

「……繰り返しになるが、ボクはこう言うしかないんだ。……カルデアを、世界を救うために力を貸してくれないか?」

 

「そんなのはアンタらの事情だろうが! やるこっちはどうなんだよ、またあんなことを、冬木みたいことを繰り返せっていうのか」

 

「……そういうことになる」

 

「だったら! 冬木がどうなっていたのか、分からないわけじゃあないでしょう!? ……死んでるんですよ、皆、人が死んでるんだよ! 目の前で!!」

 

 

 今になって甦ってくる、人だったものの数々。

 

 黒焦げになった人、押し潰されぐちゃぐちゃになった人、手足がちぎれた人、腹が裂かれて内臓がはみ出ている人、バラバラになって一部だけになった人、叫び声

すら上げれず消えた人……。

 

 それだけじゃなく、モンスターや、サーヴァントもいた。

 

 死んだ、殺した、皆。そうさせたのは、僕だ。生き残るために。

 

 ……耐えられなかった。あんな、同じ人が、ものみたいに死んでいるのなんて見たくなかった。

 

 死にたくない。殺したくなんかない。……家に帰りたい。

 

 あんな地獄に、誰が行きたいもんか……!

 

 

「それも分かっている。分かった上で言っているんだ。でなければ、ここにいる皆も死んでしまう」

 

「……脅すんですか、そういって」

 

「どう受けとるかはお任せするよ。……ボクのことを嫌ってもいい、憎んでくれたって構わない。なんなら気の済むまで殴ってくれたっていい。だから……」

 

 

 ロマニはそういって頭を下げてきた。きっちり九十度、腰を折り曲げ頼み込んでくる。

 

 ………………だから、脅しだっていうんだよ。

 

 人にこんなに頼まれて、断るなんて……普通だったらしないよ。困ってるんだったら助けたい。見過ごせない。

 

 ……でも、ダメだ。たくさんの人の命が、世界の未来がかかっているとしたら。

 

 一人すら救えなかった、オルガマリー所長を殺した僕に、そんなことができるわけ……ないんだ。

 

 僕は、偽物みたいなものなんだから……。

 

 

「……もうやめて下さいよ。そんなことされたって僕は」

 

「頼む!! 君の力を貸してくれ。ボクにできることならなんだってする。『償い』ならいくらでも……」

 

「…………償い?」

 

 

 償い? 償いだって?

 

 ……何を、何を償うっていうんだ、あなたが。ロマニ・アーキマンが。

 

 償うことなんて、ないじゃあないか。

 

 なぜ?

 

 なんでだよ。あなたは、あなたはそんなことを言う必要はないんだ。

 

 あなたは、誰よりも世界を救おうとしているんだから。

 

 ……違う、言わせたんだ、言わせてしまったんだ。僕が。

 

 情けない僕が、逃げてしまったから。

 

 ダメだ、ダメだ、ダメだダメだダメだ。

 

 否定しないと、否定しない、否定しないと!

 

 この人にこんなことを言わせちゃいけないんだ。

 

 否定するんだ。

 

 ……何を?

 

 

《ロマニの『言葉』を否定する》

 

《言わせてしまった『自分』を否定する》

 

 




……はい。主人公がヘタレな回でした。

自分も書いていて「うわぁ」と思っちゃいました。

そして今回の選択肢。タイガー道場での通り、片方はバッドに……。

では、次回もお楽しみに。
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