へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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遅くなってすみません!

まずはBAD ENDの方から、長くなりますので分けます。

そして自分でも思うくらい、ネタを色々ぶっこみました。

勘のいい人なら、マオーやその力の正体が分かるかもしれません。

そして主人公一捷がやらかします。

それらを踏まえ、構わないと言う方は、どうぞ!




BAD ENDルート前編

▶️《言わせてしまった『自分』を否定する》

 

 

 

 ……僕だ。間違っているのは、僕、なんだ。

 

 僕が情けないから、悪いから、ここにいていい存在じゃあないから。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……じゃあ、やらないと。

 

 そのために、僕は、ここにいてはいけない。人理を修復するために、逃げる僕はいらない。情けない僕は、消えなければならない。

 

 この人に、ロマニ・アーキマンに償いをさせようとした存在なんて、あってはいけないんだ。そうだ、そうなんだ。

 

 例え、僕がどうなろうとも、この命をかけてでも、やらなきゃ。

 

 世界を救うために。

 

 僕は。

 

 …………藤丸立香にならないと、いけないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう決めた、“僕”は、ドクターへ頷いて人理修復を引き受けた。

 

 キリエライトさんやアルトリア、スタッフの人達へ謝り、許してもらった。皆いい人達だ。

 

 そんな人達を、世界を、救わないといけない。

 

 どんな困難、どんな戦い、どんな敵が来たとしても。

 

 “僕”は、やらなければならない。

 

 だって、“僕”は……藤丸立香なのだから。

 

 

 

 

 第一の特異点フランス。

 

 ジャンヌ・ダルク達と共に、竜の魔女ジャンヌ・オルタ達と戦った。

 

 ワイバーンや敵サーヴァントの攻撃で、たくさんの人が死んだ。ゲームで死ななかったような人達を、死なせてしまった。

 

 ダメだ。これではダメだ。

 

 藤丸立香はそんなことさせなかった。

 

 もっと、頑張らないと。

 

 ワイバーンに胸を裂かれ死にかけた。胸に大きな傷が残った。……このくらい、大丈夫だ。気にしない。 

 

 

 

 

 第二の特異点セプテム。

 

 皇帝ネロのローマ帝国対連合帝国。

 

 下手くそな指示で、味方へ原作にない被害を出してしまった。“僕”のせいだ。

 

 間違えたらいけない。こんなところでつまづいてはいけないのだ。

 

 藤丸立香ならもっと的確に指示できた。

 

 もっと、もっと、頑張らないと。

 

 敵の兵士に狙われ左足を切られた。少し歩きづらくなった。けどこれくらい、大丈夫。気にしない。

 

 

 

 

 第三の特異点オケアノス。

 

 ドレイク船長の海賊船に乗り込み、黒髭の海賊船、イアソンのアルゴー船と砲火を交えた。

 

 激しい戦いの中でエウリュアレやダビデ、オリオンや海賊の人達に余計な傷を負わせてしまった。“僕”が上手くできなかったから。

 

 いけない、いけない、いけない。

 

 藤丸立香なら味方をこんなに傷つけなかった。

 

 もっと、もっと、もっと、頑張らないと。

 

 ヘクトールに狙われ槍の投擲で左手の半分をもってかれた。キリエライトさんは泣いていた、アルトリアも同じだった。守れなくてごめんなさいと。大丈夫。まだ右手があるし、半分残ってるじゃあないか。そういったら怖がられた。どうしてだろうか。僕は、気にしない。

 

 

 

 

 あぁ、ダメだ、“僕”は、ダメだ、こんなでは、いけないんだ。

 

 第四の特異点、ロンドンにて思い知った。

 

 モードレッドと共に魔の霧に包まれたロンドンを進んだ。モードレッドはアルトリアがいるせいか、最初はよく絡んできたけど、戦いを進めていたら途中からなくなった。どうしてだろうか。

 

 これも藤丸立香なら上手くやれていたはすなのに。“僕”はダメだなぁ。

 

 ニコラ・テスラ、ランサーのアルトリア・オルタを倒すと、特異点の最後にあいつが、『魔術王』が現れた。

 

 特異点で出会ったサーヴァント達は次々と殺された。アルトリアやキリエライトさんはボロボロにされた。

 

 そして“僕”は、左腕を、なくした。

 

 一瞬で焼かれた。熱さと痛みが体を駆け抜け、無力だという事実を叩きつけられた。

 

 ……ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだ! もっと、もっともっともっと、頑張らなければ、頑張らなければ、頑張らなければ、頑張らなければ!!

 

 無力ではいけないんだ。良い指揮をしなければならないんだ。皆に信頼されなくてはいけないんだ。

 

 藤丸立香のように。彼のように。主人公のように。

 

 だから“僕”は、手にいれようとした。アイツは、マオーは拒んけど、必要だった。

 

 だから、奪った。

 

 ――力を。

 

 

 

 

 それからは、すごかった。

 

 第五の特異点イ・プルーリバル・ウナム。第六の特異点キャメロット、第七の特異点バビロニア。

 

 これまでの弱さが嘘のようだった。“僕”は力を手にいれたことで、戦えるようにもなったんだ。指示だって上手く出せるようになった。

 

 敵を倒した。世界を救うため、殺した。たくさん、たくさん、殺した。

 

 その度に、強くなっていった。

 

 機械化歩兵を、ケルト兵を、粛正騎士を、魔獣達を殺した。

 

 サーヴァントが相手でも、魔神柱でも、ギフトを貰った円卓の騎士でも、神霊が相手でも戦えた。

 

 左腕がなくたって大丈夫。動きづらかった足も動くようになって大丈夫。何度も殺されたかけた。死にかけた。でも世界を守るためなんだ。どうなっても、止まることなく、進み続けた。

 

 “僕”が捨てれるもの、払えるものは全てつぎ込んで、力に変えた。

 

 そんな“僕”に、流石のフローレンス婦長も驚いていた。獅子王はなんだか哀しそうだった。ギルガメッシュ王は何も言わなかった。

 

 でもドクターは、マオーは、アルトリアは、キリエライトさんは最後まで“僕”を止めようとしていた。

 

 何故そんなことをするのか、分からなかった。僕は皆のために、世界を救おうとしているだけのに。何故、それがいけないのだろうか。

 

 最後まで、分からなかった。

 

 分からないまま、最後の戦いへ赴いた。

 

 創世神ティアマト、第二の人類悪。

 

 その頃には“僕”の力はとても大きくなっていて、サーヴァントがいなくても大丈夫だった。

 

 一人で、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、戦った。

 

 そして倒した。ティアマトの力を殺して、倒したのだ。

 

 そのまま時間神殿へ乗り込み、戦って、戦って、戦って。

 

 戦いの果てに、第一の人類悪、魔術王ゲーティアも殺した。

 

 これで、終わった。

 

 人理を焼却した魔術王を倒した。よって人理は修復された。

 

 世界は、救われたのだ。

 

 やった、やった、やった。

 

 うん。これで、大丈夫だ。

 

 

 

 

 

「……~♪」

 

 

 岩に腰かけた“一捷”は鼻歌を歌いながら空を見上げていた。

 

 今いる場所はカルデアの外、辺り一面に雪が積もった銀世界。空は分厚い雲に覆われてはいるが、いつも吹き荒れていた吹雪は収まり、曇天の空が広がっていた。

 

 人理修復が成されると吹雪が止んだそうで、“一捷”はなら外はどうなっているのか、自分が救った世界はどんなものだと見に来ていた。

 

 後方より、ざく、ざくと雪を踏む音。

 

 

「……先輩」

 

「ン? あぁーキリエライトさんか。アルトリアも」

 

 

 振り返ればマシュとアルトリアがそこにいた。わざわざ見なくても、今の“一捷”は気配と魔力で分かっていたが。

 

 二人は悲しげな目つきで“一捷”を見る。

 

 それに構わず“一捷”は語り出した。何を言われようが止まらず戦い続けた今までのように。

 

 

「今ね、自分が救ったっていう世界を見てたのよ。天気が曇りなのが残念なんだけどねぇ。でもさっき、ちっちゃな切れ日から日が差してて。その前はさ、もう少し大きいとこもあってさ」

 

「先輩……」

 

「多分近い内に晴れるんじゃないかなー。そうしたらさ、見に行こうよキリエライトさん。約束したよね」

 

「……いいんです。先輩、もう」

 

「マスター、話を聞いて下さい。あなたは……」

 

「あとは山と雪ばっか。でも銀世界ってやつがこう、ばーっと広がってるんだ、向こうまで。こっから見るとなかなか壮大だよ」

 

「マスター……!」

 

「もう少し向こうなら海も見えるかなぁ。もう世界は救われたんだし、あとは」

 

「やめて下さい!!!!」

 

 

 “一捷”は話してはいるが、ただ言いたいことを言っているだけで、相手の話は全く聞いていなかった。

 

 耐えきれなくなったマシュがこれまでにないくらい声量で叫んだ。それには“一捷”も思わず語るのを止め、体を向けたことで、ようやく彼女らに目をやった。

 

 

「もう……いいんです。先輩。やめて下さい」

 

「……何を?」

 

「もう先輩は、戦わなくていいんです。人理は、修復されましたから……」

 

「じゃあそれで良いじゃないの。平和になったんだから。ハッピーエンドだ!」

 

「……そんなはずがないでしょう。マスター」

 

「アン? なんでよ」

 

「あなたが! マスターが救われていないからです!」

 

 

 マシュは泣いていた。アルトリアも泣いていた。泣きながら変わり果てた自分の主……“一捷”へ悲しみの涙を流す。

 

 

「今のあなたはもう、人ではなくなってしまっている……っ!」

 

 

 髪の毛は色素が抜けて濁った白一色。瞳は血のように真っ赤に染まっている。身体中は自分を顧みない無茶苦茶な戦いによる裂傷に殴打、魔術による傷痕だらけ。一番酷いのが右腕であり、赤黒い装甲のようなものが腕の所々を覆い、または組織が死んでいて黒ずんでいる。手の甲には令呪一画が禍々しく輝き、不気味に鼓動を放つ。その反対である左腕は焼かれて存在しない。

 

 ただ人理を修復するために、主人公と同じように世界を救わなければならないと、自分を犠牲にし続け、“人ならざる異形”と化した存在。

 

 それが今、この世界にいる“藤丸一捷”という“なにか”であった。

 

 

「……人間じゃない、ね。“僕”が。確かに、そうだ」

 

 

 これまでの自分。そして今の自分。人間ではなくなっていった今までを思い浮かべ、“一捷”は少しだけ、悲しそうに呟いた。

 

 ……しかし。

 

 

「でもさぁ」

 

 

 直後、その表情から悲しみが消えて、

 

 

「それって、何がいけないんだ?」

 

 

 その言葉にアルトリアにマシュをはじめ彼女らを介しモニターしているカルデアは、戦慄するしかなかった。

 

 首を傾げ本当に分からない。生徒が先生へ分からない部分を聞く、そのような返答だった。

 

 

「だって、世界を救うんだよ。皆の未来を守るためなんだよ。とんでもない大事だ。なら人間くらい止めないと、力が足りないじゃあないの」

 

「そんなことを誰も望んでいないでしょう!? なぜ私達を頼らないんですか! あなた一人が、人を捨ててまで、こんなことを……!」

 

「アンタがそれを言うのかい。“選定の剣”を抜いたアンタが」

 

 

 アルトリアに右腕を向ける。隻腕となった“一捷”のそれは武器だ。皆を救うために、形を変え、あらゆる敵を葬ってきた武器。“一捷”が手にいれた、刃。

 

 

「救うため、たくさんの笑顔のため、人間でなくなると分かって、アンタは抜いたはずだ。岩に刺さったあの剣を。そうじゃないのかよアルトリア・ペンドラゴン」

 

「っ!?」

 

「もっとも僕なんかとじゃ比べるまでもないし、だからやったって訳じゃあないけど」

 

 

 アルトリアの言う通りなのだ。

 

 正しいのは彼女達。間違っているのは“一捷”の方。

 

 最初から分かっていた。分かりきっていた。その上で、主人公になることを選んだ。 

 

 

「……だとしても。だとしてもです! 今の貴方を、放っておくことはできません……!」

 

「じゃあどうするっていうのさ」

 

 

 アルトリアとマシュの返答。それは魔力の鎧を纏いエクスカリバーを構えること、同じく鎧姿となりギャラハッドの盾を出現させことであった。

 

 同時に、周囲の魔力が高まっていき召喚の光が瞬く。

 

 まるでそれは、地上に降りた星々が輝きを放つように。

 

 光の中から、サーヴァント達が現れる。次々と、次々と。古今東西、あらゆる英霊達が武器や宝具を構えていた。

 

 その壮大な光景の意味を、“一捷”は理解している。サーヴァント達が現れたことが、どういうことを意味するのか。 

 

 タイミングを計ったように、カルデアからの通信が“一捷”の前に表示される。

 

 

『……藤丸君』

 

「やぁドクター。ずいぶんとまあ皆さん、“僕”一人に張り切ったお出迎えをしてくれるようで」

 

『分かっているようだからこれだけ言うよ。……何もせず、こちらに来てくれ』

 

 

 世界を救うためとはいえ、特異点で暴れまわり、終いには二体の人類悪を倒した。倒してしまった“一捷”。

 

 そんな“一捷”をこの世界の意志……『抑止力』ことカウンターガーディアンが放置しておくはずがなかったのだ。

 

 

「命がけで世界を救ったものは、その救った世界に殺される……か。ハッ、まるでアニメや小説の世界みたいだ。笑うしかないや、こりゃ」

 

 

 やっぱりそうなるかと自嘲し“一捷”は笑った。狂ったように、壊れたように。言葉の通り笑うしか思いつかなかった。自分自身を、サーヴァントを、救った世界に、ひたすら笑う。

 

 笑う、笑う、笑う。

 

 それは嘲笑であり、悲しみからくるものでもあり、そして……怒りでもあった。 

 

 無論カルデアは“一捷”が討伐されるのをよしとせず、できる限りで彼を守るつもりでいる。ロマニの言葉がそうだ。

 

 白銀の大地にて、英霊達に囲まれ笑っていた“一捷”は少しずつ笑うのをやめていくと、ひとり語りはじめた。

 

 

「この世界で“僕”が戦ったのは、救うため。そして、生きるためだ」

 

 

 腰をあげ立ち上がる。カルデア、サーヴァントと対面。自分が命をかけ救った人達。共に戦った英雄達。

 

 

「カルデアの皆を。世界を。未来を。人理を。頼まれたのもある、でも“僕”がやらないとって思った。“僕”しかいなかったから。皆が生きるために、僕が生き残るために」

 

 

 そのために、自分を偽った。主人公に、藤丸立香にならなければ、救えないと本気で思い、実行した。

 

 それが間違った選択であることは最初から理解していた。

 

 自分は藤丸立香ではなく、■■■■一捷であり、彼でない。主人公ではないのだから。

 

 

(……そういえば、“僕”って本当は、なんて言うんだっけ。………………まあいいや、今は)

 

 

 自分の名前を思い出そうとして、なぜか思い出せないが、気にしなかった。

 

 藤丸立香のやるように、藤丸立香が選択するように、藤丸立香として戦い続けた。

 

 その選択の果てが、今だった。

 

 藤丸立香のようになろうとして、でも結局は他人になるなんてことはできず。自分一人で悩み、苦しんで。奪った力に溺れ、敵を倒して倒して倒して、その身は人ではなくなった。

 

 たった一人で世界を救える訳がないのに、一人で全部やろうとして、行き着くところまで来てしまった。

 

 その結果、最後にこうなるのも分かって、進み続けた。

 

 

「たくさんの人が、敵が、サーヴァントが、“僕”を殺そうとした。それでも皆のためになるならって、戦って。

 

 戦って。

 

 戦って。

 

 ……戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って! 戦い続けた!!

 

 そうして世界を救った!

 

 皆を守ったんだ!

 

 人理を修復したんだ! “僕”は!!」

 

 

 語る中で昂っていく感情は叫びとなって吐き出され、二つの赤い瞳は目の前のカルデアとサーヴァントを睨み付ける。最初の、否定したあの時のように。

 

 その中でしかし生じる、だが、という否定の思い。

 

 ……あぁ、やっぱり。やっぱりダメなんだと。藤丸立香には、主人公のようにはなれないのだと痛感する。

 

 

「……それなのに」

 

 

 所詮、自分は『間違えた』、『偽物』。

 

 

「それなのに、それなのに、それなのに」

 

 

 ここにいては、いけない存在。

 

 

「――それなのに!!!!」

 

 

 『よけいもの』、なのだと。

 

 

「最後は!! 皆まで“僕”を殺すっていうのか!!!!」

 

 

 カルデアへ、七つの特異点を巡ってきたサーヴァント達へ、“一捷”の魂からの叫びが叩きつけられた。叫ばずにはいられなかった。いくら世界のため皆のため未来のためにと思おうが、自分の心だけは捨てられない。そういう、ごく普通の、人間だった。

 

 カルデアの誰もが、英霊の誰もが、その叫びに答えられなかった。分かっているからだ、自分達がそうさせたのだと。

 

 “一捷”も分かっていた。これは所詮、八つ当たりに過ぎないと。自分からこうなったのだと。

 

 

「改めて聞きますよ、ドクター。それにカルデア。そしてサーヴァントども。アンタら、なんなんだよ、本当に。なんなんだよ、一体」

 

『…………すまない』

 

 

 返ってきたのは予想通り、それもど真ん中の返事であった。

 

 “一捷”は短い言葉に込められたロマニの優しさを感じとり、同時に少しではあるが呆れもして、ため息を一つついた。

 

 

「……そうだ。あなたはそういう人だ。それでいいんですよ、ドクター」

 

 

 吐き終わるのを境に“一捷”は思考を切り替える。

 

 そういう風に皆で世界を守る、そこに自分はいない、自分は『間違い』だから。

 

 彼らはそれでいいのだ。

 

 ――だからこそ。

 

 

「では“僕”も、最後までやるべきことを、やらせてもらいます」

 

 

 たとえ『間違い』であっても、“一捷”はまだ止まらない。止まってはいけない。間違えた意味があるからこそ止まれない。

 

 世界を救ってなお“一捷”を動かすものものがある。人ではなくなったその身を稼働させ、まだ失ってない人の心を突き動かすものが、“一捷”にはある。

 

 

「『間違い』でも。『よけいもの』だとしても。“僕”は戦う、戦い続ける、最後の最後まで」

 

 

 それは『意地』であり『使命』だ。何があってもゆずれないもの。壊れないもの。“藤丸一捷”という存在を形作るオリジン。

 

 がきり、と。翳した右手の甲――装甲となっている部分――にあるピンを噛んで引き抜く。

 

 それがトリガーとなって、『変貌』が始まった。

 

 “一捷”の中にある力や魔力が増幅され、装甲より生じた赤黒い光が網目状に膨れ上がる。ドームのように広がったそれは直ぐに萎み、“一捷”の全身に絡み付いて、強大なパワーを振るうためのパーツへ変化していった。

 

 その存在を一言で現すとしたら、それは“異形”であった。

 

 皮膚は黒く染まり、生気を感じさせない。 

 

 体の至るところを黒みがかった赤色……血が変色したような色でゴツゴツとしたアーマーが覆っている。

 

 敵を睨みつける目は更にどす黒く赤い、まるで血溜まり池。目の下から頬にかけては赤い線があり、血の涙を流しているかのようだ。 

 

 何より一番特徴的なのは右腕。真っ赤な装甲に覆われ本人と同じか、あるいはそれ以上に膨れ上がり、ドクン、ドクンと蠢いて相当な力を秘めているのが分かる。あらゆる部分から鋭い刃、尖った槍、硬い鋲が飛び出し、腕だけが別の生命体じみていた。ありとあらゆるものを壊し、殺してきた“一捷”の武器。

 

 反対の左腕は、右腕を止めるもう一つの腕はなく。

 

 背中の左側からは白鳥の翼が生え。

 

 頭部右側からは牡牛の角が飛び出し。

 

 胸は反転した乙女座の紋章がある曲線的な鎧に覆われ。

 

 額にはゴツゴツとした硬いパーツに覆われ歪んだ冠のよう。

 

 右指の爪は狼のように長く鋭い。

 

 そして全身からは絶えず赤黒い血が流れ、足下には血溜まりが出来ていた。

 

 それは一人の人間の末路。血を吐き、血を流し、傷つき、壊れても進み続け、全ての敵を殺して世界を救った男の成れの果て。

 

 血をぶちまけ、血で出来た鎧を纏う“異形”。

 

 世界を救おうとして。それでも自分も生きようとして。“結果的に”世界を救ったことで、その世界に殺される男。

 

 

「覚えておけ英雄。“僕”は、“藤丸一捷”。

 

 世界を救ったもの。救っただけのもの。貴方達の敵であり。

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 

 

 ――生きるために戦うものだ!!」

 

 

 『この世界』の、最後の戦い。

 

 例え相手を倒しても、勝利者なんていない。

 

 そんな悲しい戦いが、始まる。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 異形の“一捷”は、相手へ向けゆっくりと歩みだす。流れ落ちる赤い血が白い雪を溶かしながら、血溜まりの中を進む。

 

 巨大化した右腕は地につくほどの大きさであり体のバランスは崩れている。右へ傾いた体で、右腕を雪に擦り付けながら何歩か歩むと、掌を大地につけ魔力を送り込む。

 

 

「立て、巨人よ」

 

 

 “一捷”の両横にそびえ立つはとてつもなく巨大な白と黒の巨人。目に当たる点を八つ光らせ、体は影が伸びたように薄い。それでいて内に秘めた魔力は絶大で、サーヴァントすら圧倒するパワーを秘めている。それは違う世界での聖杯戦争、聖杯大戦にて出現した巨人に似ていた。

 

 サーヴァント達が巨人に気をとられた瞬間――“一捷”は雪の大地を蹴った。

 

 

「――らああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 加速。一瞬にして達する、肉眼では捉えられないほどの速度! サーヴァントに迫るスピードで、真っ先に狙うはファーストサーヴァント『だった』、シールダー、マシュ・キリエライト。

 

 足を狙い異形の右腕を振るう。

 

 

「ぐぅぅぅっ!?」「ヌゥゥゥァァ!」「くっ……!」

 

 

 最初の一撃は、割り込んできたブーディカ、レオニダス、ゲオルギウスといった守りを得意とするサーヴァント達に防がれた。

 

 同時に危機を感じた“一捷”は反撃される前に離脱。このまま近接戦にと思っていたがその未来を即座に捨てた。周りにはあらゆるサーヴァントがいる、少しでも止まれば袋叩きにされてしまうだろう。

 

 そうなっては、『目的』を果たすことができない。

 

 

「上等。――かかってこいやぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 叫びと共に、“一捷”は自らサーヴァント達へ突撃をかけ、戦いに飛び込んでいった。

 

 呼び出した白と黒の巨人は各々狙いをつけたサーヴァントへ攻撃を開始する。魔力のレーザーや巨大な腕による薙ぎ払いに叩きつけ。巨大な体から重い一撃が次々と放たれる。加えて巨人二体は魔力を生成・譲渡する力を備えており、白は防御と回復の力を、黒は攻撃の力を“一捷”へ渡す強化装置でもあった。

 

 そして異形となった“一捷”自身は、自分の望むように装甲やパーツを変化させ、あらゆる武器や力、属性を扱うことができた。無数の力を駆使し、歴戦の英雄達と戦いを繰り広げる。

 

 節目の特異点でのサーヴァント達が、現れる。白鳥の翼より放つ羽の弾幕で火縄銃や魔術砲撃を迎撃する。白と黒の渡り鳥を囮にし暗殺を、高速の剣技を回避する。超高速回転しながらの体当たりで鬼の怪力を跳ね返し、同時に羽や渡り鳥を撃ちまくってサーヴァントを近づけさせない。

 

 ウルクのサーヴァント達が、迫る。降り注ぐ光矢や槍、地面から飛び出す骨の怪物を回避しながら、槍・ボウガン・ハンマーを持つ骨の悪霊をアナ、弁慶、牛若丸に放つ。アーチャーとキャスターのギルガメッシュ、エルキドゥ、ケツァルコアトルによる宝具射出、鎖、関節技といった総攻撃を、歪な冠から放つ雷で相殺する。

 

 キャメロットのサーヴァント達が、立ち塞がる。無数の狼を生み出し円卓の騎士に向かわせる。狼の爪による縦や横の斬撃でハサン達を近づけさせず、矢を撃ち落とし、拳を切り裂く。ロンゴミニアドを携えるランサーアルトリアへは爪による連続斬撃で宝具解放を許さず、鎧や肌にいくつもの傷を刻みこんだ。

 

 アメリカのサーヴァント達が、取り囲む。全身に炎を纏うと、剛腕をクー・フーリン・オルタやナイチンゲールに叩きつける。地面を殴りつけて火柱を立たせ、銃弾や魔術を融解させる。炎の突進で繰り出される無数の槍や剣を弾き、誰一人にも直撃しなかったが、いくつかの武器と手足を砕いた。

 

 ロンドンのサーヴァント達が、襲撃する。降り注ぐ雷、メイス、斧。“一捷”は水の壁で近接攻撃を弾き返し、雷には純水で作り上げた巨龍をぶつける。サポートを行う玉藻の前らキャスター陣には集中豪雨を降らせ閉じ込める。続けて日本刀を生み出し、斬りかかってきた騎士の一撃を受ける。

 

 

「アンタかい、モードレッド」

 

「テメエ! こんのバカ野郎がぁ!!」

 

 

 アルトリアに迫る魔力を乗せ、赤雷を散らしてクラレントが振るわれる。

 

 “一捷”は周囲を警戒、牽制しながら日本刀で受け流し、かわし、反撃。つばぜり合いに持ち込む。

 

 

「お前が! お前がそんなもん扱える筈がなかったんだ! それなのに……っ! さっさと手放しちまえば良かったんだよ、このバカマスターが!!」

 

「バカで結構。承知の上。理解されなくたって、相応しくなくたって、やらなきゃいけないことがあるんだよ」

 

「カッコつけてんじゃ、ねぇぇぇぇっ!!」

 

 

 袈裟斬り、一閃!

 

 筋力と魔力で無理矢理押しきったモードレッドの剛剣が、日本刀を砕きそのまま“一捷”の身を深々と切り裂いた。吹き出る血。骨や内臓にまで斬撃は届いており、そのまま“一捷”は後ろへ倒れてゆく――かに思われた。

 

 だん、と踏ん張る左足。

 

 

「……ラァァァッ!!」

 

「がっ!?」

 

 

 倒れかけていた態勢から、上半身を勢いよく起こしての頭突き! 鼻面へ食らいたたらを踏むモードレッドを右腕で掴み、後方から迫っていた砲撃の中へ投げ込んだ。

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 盾とされ集中砲火を浴びるモードレッド。彼女の落下地点へ一捷”は移動済みであり、右腕を地面に打ち込むと軸とし、モードレッドが目の前へ落ちてくるタイミングでサイドボレーよろしく思いきり蹴っ飛ばす!

 

 

「シャァァァァォォォーーラァッッッ!!!!」

 

「がぁ……っ!」

 

 

 体がくの字に曲がり、モードレッドは何度も地面に叩きつけられて、アーチャー、キャスターのサーヴァントへぶつけられ、遠距離攻撃、魔術発動の妨害となった。

 

 

「相手に相手をぶつけるのは効果的だなぁ。…………グッ」

 

 

 吐血する“一捷”。その色は赤黒い。体の傷は巨人からの魔力で再生していくが、完全には回復されていないことに舌打ちする。

 

 

(ティアマトとゲーティアんときのツケか……。もう少しってところで……っ!)

 

「先輩!」

 

「ここで貴女かよ」

 

 

 血と一緒に後輩のことを吐き捨てる。動きが鈍ったのを見て前に出てきたところか。

 

 彼女の他に、ドレイクとオケアノスのサーヴァント達。ネロとローマのサーヴァント達。フランスのサーヴァント達。そしてランサーのクー・フーリン、赤の外套を纏うエミヤ、そしてセイバーのアルトリア・ペンドラゴン。“一捷”と戦ったサーヴァント達はアルトリア達と入れ替わるよう下がり、巨人と戦っていた。

 

 まだ消耗していない第二陣、“一捷”は全く怯むことなく突っ込んでいく。

 

 ドレイクの銃撃、砲撃へ無数のミサイルで対抗する。

 

 華麗な身のこなしで迫るネロへ、無骨な黒い柱を降らし、地面から生やして攻撃する。

 

 ゲイボルクの刺突に無数のキックで対抗し、エクスカリバーとギャラハッドの盾、援護の矢を巨大化させた右腕でのパンチ×2でまとめて薙ぎ払う。

 

 何度も攻撃を食らいながらも回復し、その間に魔力を溜め込んでいく“一捷”。魔力と呪いを圧縮した錆色の球体を右手に生み出す。アルトリアとクー・フーリンを突進にて抜け、狙いを定めるは盾のサーヴァント。

 

 

「ハァァァァァッ……」

 

「先輩……っ!」

 

 

 悲痛な表情がはっきりと見えた。戦いたくなんかないという意志がみてとれた。

 

 それも『間違えた』自分には意味がないが。

 

 魔力を解放――特大の一撃を撃ち放つ。

 

 

「――落ちろぉぉぉぉっ!!」

 

 

 血色の雷を纏った漆黒の砲撃。浴びた相手を原子分解すると同時、特大の呪いをかける閃光が迸る。

 

 咄嗟に盾を構え宝具を発動させようとさせるマシュ。

 

 だが、それよりも早く。

 

 射線に何者かが割り込み、その者が持つ純白の旗が翻った。

 

 

「――主の御業をここに。我が旗よ、我が同胞を守りたまえ――“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”!」

 

 

 漆黒の砲撃を遮断するは白き聖域。EXランクの対魔力による、物理的・霊的・宝具、あらゆる攻撃に対し守りの力を発揮する結界宝具。

 

 それは常に、戦場にて兵士の行く先に立ち、鼓舞し続けた伝説のように。

 

 ルーラーのサーヴァント、聖女ジャンヌ・ダルクが、“一捷”の前へ立ち塞がった。

 

 

「チィ……ジャンヌ・ダルクゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

 異形の右腕を振りかぶる“一捷”。ジャンヌは旗でその一撃を受け止める。

 

 

「もうお止めさなさい。貴方とて分かっているはずです、こんなことをしても、勝ち目はないのだと」

 

「んなこたぁ知ってらぁ! “僕”が勝つためにやってるわけじゃねぇっ!!」

 

 

 爪、刃、槍、鋲での連続攻撃を、ジャンヌは難なく捌いていく。

 

 その途中、ガクン、と“一捷”は体から力が抜けるのを感じた。

 

 

「巨人が、やられたかっ……!」

 

 

 その通りであった。

 

 白の巨人はハロウィンエリザベート達キャスターによってステータスを下げられるだけ下げられ、カルナやスカサハに貫かれ消えてゆく。

 

 黒の巨人もランスロット、ガウェイン、トリスタン、ベディヴィエールに滅多切りにされ、アルトリア・オルタ・ランサーのロンゴミニアドに穿たれ、最後はオジマンディアスの宝具によって潰され、白い方の後を負った。

 

 強化の力が抜けたことでなんとか戦えていた状況が一気に崩れる。

 

 かわせていたはずの攻撃を食らい、防ぎきれず、反応がついていかず、回復が追い付かない。

 

 集中砲火によって、瞬く間にボロボロにされてしまう。

 

 

「くそったれ……! まだ、まだ、まだなんだ……」

 

 

 ヘラクレス、呂布、ジークフリードが飛びかかってくる。

 

 血塗れの“一捷”は一歩も退くことなく、迷わず前に出る。

 

 

「まだぁ!! 終わってたまるかァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 ――その言葉に応えるよう、“一捷”がマオーより奪った力……『魔』の力は、彼を更なる高みへと飛翔させる。

 

 背中から翼が広がり、襲いかかろうとしたサーヴァント達をことごとく吹き飛ばした。

 

 七枚の翼、剣から翼を生やしたような形状。

 

 それは異なる世界、異なる聖杯戦争において発現した令呪のカタチ――マスター階梯、第一位・燐天使の令呪。

 

 漆黒のそれを羽ばたかせ、“一捷”は天空へと舞い上がる。

 

 異形の右腕と相まって、その姿はまるで悪魔のようであった。

 

 更に高みへと上り詰めた“一捷”。その行く先、彼の『使命』が果たされる場所は、目と鼻の先まで来ていた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 戦いが繰り広げられる中、その戦闘へ参加しないサーヴァント達もいた。

 

 彼ら彼女らは戦いが一望できる位置にて、行く末をただ眺めている。

 

 

「……やはりこうなってしまうのか。あの馬鹿者め、一人でどうにかできると思っているのか」

 

「私を倒した際は多少期待をしたが……貴様の見込み違いではないのか。キャスター」

 

「そう言うな。……って言いてえとこだが、なぁマオーよぉ。本当にこれしかなかったのかよ」 

 

『残念ながらね。他にも手段を探したが、ここはやはり“彼”に頑張ってもらうしかないんだよ』

 

 

 そこにいるのは特異点Fでのサーヴァント――エミヤ、アルトリア・オルタ、そしてキャスターのクー・フーリンだ。クー・フーリンは杖とは別に三ツ又で灰色の槍を持っており、それに話しかけていた。この槍とは実はマオーであり、“一捷”が力を奪った際、マオーとその一部が分離したものであった。

 

 三人以外にも何人かサーヴァントがいる。召喚されたが“一捷”の討伐に疑問を抱き、戦いに加わらなかった者達だ。

 

 

「難儀な星の元よの。世界を救う枠に組まれ、戦うだけ戦わされ、排除され。尚も果たさねばならぬことがあるとは」

 

「所詮、人などそんなもの。いつの時代も、その身勝手さは変わることがない」

 

「まっ、だから俺はアイツについたんだがな。おもしれえ奴だし」

 

「ヒィーハハハ! そのとおりそのとおりそのとおぉぉぉりぃ。全くもってあの方はぁ。意外にも私と似ているのではあぁりませんかぁ?」

 

「ハッ。奴の恩讐は正当なものだ。奪われたものを奪い返そうとしているだけなのだから。見せてもらうぞ、貴様の恩讐の化身を!」

 

 

 紺色の陣羽織を羽織る男。

 

 蛇の胴体に尻尾、鋭い爪を持つ巨体の女。

 

 影のような青年。

 

 鋏を持ったピエロのようなド派手な男。

 

 ポークハイハットと呼ばれる帽子を被りコートを纏う青年。

 

 彼らとは別に、竜をあしらった旗を持ち、銀の長髪、色白の肌、黒い鎧に身を包んだ少女が戦いと“一捷”を見ていた。

 

 

「……ホント、バカよ。アイツ。底無しのバカ」

 

 

 呟きは呆れと哀れみを含んでいた。こんな戦いになるまで一人で抱え込んだことに。それなのに殺されなければいけない運命に。

 

 ぎり、と唇を噛む。少女は怒りを抱く、彼にそんなことをさせる世界に対して。

 

 

「そんなバカにどうして、なんでもかんでも背負わせるのよ……!」

 

 

 誰もその言葉に答えなかった。

 

 理由は分かっていても、何も言えなかった。

 

 少女――ジャンヌ・オルタの先で、“一捷”とサーヴァントの戦いは更に激しさを増していく。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ハァァァァァッ! シャアァァォォラァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 翼を得たことで、空中よりミサイルや羽、炎、水龍、雷を繰り出しサーヴァント達を圧倒する。

 

 対しサーヴァント達は、飛行手段を持つ者――ある者は乗り物に乗り、ある者は乗り物に同乗し、ある者は自ら飛んで“一捷”を追う。持たない者は地上から援護攻撃をしたり、バフをかけたり、回復を行ったりとサポートを行う。

 

 攻撃や魔術の雨あられを、“一捷”はジグザグに飛び回り、バレルロールや急転換で潜り抜け、ときに叩き落とす。

 

 

「だァァァァッ! がっ、はっ、あァァァ……!!」

 

 

 だが戦いは終わりに向かおうとしていた。

 

 回復がなくなったことでダメージの蓄積、形態変化の連続使用、全力攻撃の数々、そして空中へ逃れるための翼。

 

 異形と化した肉体とてベースはただの人間、遂に無理が出てきて、限界に達してしまったのだ。

 

 呼吸の度に血が混じり、体はひび割れたり、裂け、組織が完全に死んでいく。

 

 魔力も尽きてきて、飛行速度がみるみる内に落ちていき、一撃を食らったのを皮切りに、集中攻撃へ晒される。

 

 爆煙の中から出てきた瞬間、鉄塊に叩きつけられたような衝撃が全身を突き抜けた。

 

 

「ガッ……あ……!」

 

「ほう、既の所で防ぎおったか。ならばその翼ごと砕けよ。雑種」

 

 

 ギルガメッシュが搭乗する、インド神話に登場する空飛ぶ乗り物ヴィマーナによる激突。翼で体を覆い直撃だけはなんとか防いだ。

 

 が、それまでだ。

 

 圧倒的質量と加速力の前に、七枚の翼は数秒持ちこたえたが、徐々に割れていき、とうとう砕け散る。そのままヴィマーナの直撃を食らい、翼の破片を撒き散らしながら、“一捷”は雪の大地へ落下していった。

 

 真っ白な雪が流れ落ちた血で真っ赤に染め、身体中血塗れになってもなお、“一捷”はその身を無理矢理動かし、立ち上がった。

 

 

「ハァーッ……ハァーッ……ま、だ、だ……まだ……」

 

 

 動くどころか息をするだけで体の各所から血が吹き出る。装甲は殆どが割れ落ちた。翼はもげ、角と爪は折れ、鎧と冠は砕けてしまっていた。

 

 誰がどうみても満身創痍。

 

 そんな状態でもまだ、まだ“一捷”はカルデアに対し立ち続けている。

 

 

「まだ……まだ……まだっ……!」

 

「先輩……もう止めてください。それ以上、戦わないで。カルデアに……帰ってきてください」

 

「……帰る、だって? カルデアに?」

 

「はい。ドクターや皆さんのいる、カルデアに戻ってください。そうすれば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うよ。僕が帰るのは、そこじゃあない」

 

 

 

 

 

 

 

 息も絶え絶えだったのに、その言葉はやけにはっきりと全員の耳へと届く。

 

 明確な否定の意思。そうではないという思いを赤の瞳に込められていた。

 

 

「それに“僕”にはそんなもの、ありはしない。帰る場所なんかない。“僕”にあるのは……辿り着くべき場所だけだ」

 

「そんな……そんなこと、ありません!」

 

「そんなことあるから言っているんだよマシュ・キリエライト!! “僕”にはやらねばならない『使命』がある。そのためにこの命をかける。最後の瞬間まで、生きるために――“僕”は、『間違い』としてありつづける!!」

 

 

 “一捷”は最後の力を振り絞り、体に残ったありったけの内部魔力、外部から取り込んだ魔力を合わせる。作り上げたのは魔力の塊。それを自らの心臓へ、埋め込む!

 

 

「……ガァァァァァァッ! ヌゥンッ!!」

 

「なっ、坊主オメエ、魔力を!」

 

「自ら心臓へ取り込んだ、だと……!?」

 

「グアァァァァァッ……!!」

 

 

 当然、体に取り込まれた膨大な魔力は体内をめちゃくちゃに壊しながら暴れまわる。体は魔術回路ごとズタズタにされ、全身の傷や口より大量に血が流れ出る。

 

 明らかに致死量であり、このまま自滅する、ただの悪あがきだと殆どの者が思った。

 

 ――流れ出た血に魔力が流れ、再び“一捷”へ集まっていこうと、しなければ。

 

 

「アァァァァ……」

 

「な、何が起きてますの!?」

 

「あやつに血が、集まってゆく……!」

 

『魔力反応、秒毎に増大……! こ、これは……ティアマト神に匹敵する規模だって!?』

 

「先輩っ!!」

 

「……見ていろ。これが! “僕”の!! 辿り着くべきその場所だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 

 叫びと一緒に“一捷”は血の中へ取り込まれていった。

 

 血は赤い、山のような形になり、ビシリとヒビが入る。

 

 ……その中から現れた存在を、確認したとき。

 

 

(あれは、まずい)

 

 

 誰かが、誰もがそう感じた。

 

 思考ではない、本能でだ。サーヴァントとして、人間としては関係なく、生き物として。この星に生きるものとして、警報が鳴り響いていた。

 

 

「……そうか。ここまで来てしまったのか、彼は」

 

『マーリン!? キミは分かるのか、藤丸君に何が起こったんだ!?』

 

「あれはもう、君達の知る藤丸一捷ではないよ。魔性の力を取り込み、戦いの中で増幅させ、そして今。彼は『獣』へと堕ちた」

 

 

 その言葉の意味を、カルデアは一つしか知らない。

 

 人理において、人間の獣性より生み出す大災害。七つの災厄の獣。

 

 人が人であるかぎり出てくる悪、人類史に留まる澱みにしてガン細胞。

 

 その名を人類悪。

 

 行き過ぎた人類愛。人類を滅ぼす悪ではなく、人類が滅ぼす悪。

 

 ビーストⅠ、ゲーティアは命が死で終わることを良しとせず、死の存在しない世界を作ろうとした。

 

 ビーストⅡ、ティアマトは母として子を愛するため、地球全ての生態系を塗り替えてすべての母になろうとした。

 

 それらと同じ存在に、“一捷”はなってしまったと言うのだ。

 

 

「彼の本性とは、自分が生きること。自分が生き残る、それだけのために、立ちはだかる全てを排除し生きる」

 

 

 山の中から、『それ』は現れる。

 

 まるで『それ』は、鉄の塊。

 

 

「その愛とは、救うため。世界、未来、皆を。大事なものを救うために。そのために、自らが傷つこうと躊躇いなく犠牲になる。人類を救う愛のために。救えば、自分も生きることができるから」

 

 

 『それ』はもはや、人の形をしていなかった。

 

 鉄のような皮膚。胸と腹を中心に覆われた分厚い装甲。鋭い爪を生やした腕。大木のようにたくましい足。太く長い尻尾。牙が生え揃った大きな顎。そして真っ赤な目。背中にはなんとカルデアの基地を象ったものをそのまま背負っており、そのせいで前屈みとなっている。

 

 一言で言うならば、それは、二足歩行の怪獣。

 

 

「ここに彼のクラスは決定された。その原罪は『生存』。この世界が、僕達が生み出してしまったイレギュラー。七つの人類悪ならざる魔獣」

 

 

 クラス――『EXTRAビースト』

 

 真名――“藤丸一捷”

 

 

 

 

 

 

 

 

人  類  悪  咆  哮

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■ーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 




“藤丸一捷”戦 1ー1 1waveのみ
・“藤丸一捷”:?(相性は全て二倍ダメージ)
LV90
HP800000
チャージ:5(EXアタック、バスター、5HIT、全体攻撃、火傷・呪い付与)
場所:カルデア前、雪原
性別:男
特性:魔性、人、今を生きる人類

固有スキル
・魔力増幅《黒》
黒の影の巨人がいるとき、攻撃力アップ・与ダメージプラス・クリティカル発生率アップ・クリティカル威力アップ(全て1T)、回避(1回)のバフが毎ターンかかる。

・魔力増幅《白》
白の影の巨人がいるとき、防御力アップ・被ダメージカット・HP回復・チャージプラス(全て1T)のバフが毎ターンかかる。

なお両方の魔力増幅があるとき、回避が無敵(1回)に強化。


・黒の影の巨人:狂
LV80
HP80000
チャージ:5(バスター、単体攻撃、攻撃&防御ダウン(3T)のデバフ付与)


・白の影の巨人:術
LV80
HP80000
チャージ:5(アーツ、全体攻撃、味方全員のHP半分の数値分回復、味方の状態異常解除、相手の強化状態解除、強化無効(2回)付与)

二体の巨人の特性:魔性、超巨大


ギミック
黒と白の巨人は、HPが0になっても片方が残っていれば全回復する。また“藤丸一捷”も巨人がいると同様に全回復。二体の巨人の体力を同時に0にすることで巨人を撃破可能。

巨人二体を倒すと“藤丸一捷”の魔力増幅《黒》と《白》が解除され、最大HPが100000となり、チャージが0まで減少、強化状態が解除される。

味方編成はマシュ、アルトリア、ジャンヌで固定。全員LV100、スキルマ、宝具マ。

固定スキル『人理の防人』により攻撃力+100%。

マスタースキルと令呪はなし。

毎ターン、サーヴァントの援護により攻撃力アップ(1T)、防御力アップ(1T)、宝具威力アップ(1T)、HP回復、NP増幅、回避(1回)付与、スター付与(50個)の順にバフがかかる。



“一捷”の戦闘状態のイメージは、ガンダムビルドダイバーズRe:RISEよりガンダムゼルトザーム、またはキルラキルの暴走流子です。
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