「とりあえず藤丸君が23かどうかは置いといて」
「いや置いとくんですか」
「早速特異点の攻略、と言いたい所だけど、まだ設備が十分に復旧していない。主要設備の立ち上げと検査にはまだ時間がかかるから、まずは彼を紹介するよ」
僕の年齢についてはスルーされ……スルーされちゃったよ。後できちんと説明して分かってもらわねば。
ドクターが紹介してきたのは青や赤の派手な服装、左腕はガントレットになっていてその手でステッキを持った女性。FGOでお馴染みあの人物、レオナルド・ダ・ヴィンチだった。
「彼がカルデア技術部門のトップ、レオナルド氏だ」
「よろしく。藤丸一捷君」
「あ、はい。……藤丸一捷です。よろしくお願いしす」
「……驚くかもしれないけど。彼はサーヴァントで、そして『男』だ」
「……男」
「モナ・リザは知ってるよね? かの万能の発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた名画だ。……で、彼がそのレオナルド・ダ・ヴィンチだ」
モナ・リザが好きすぎて、自分の姿をモナ・リザにしてしまった。
それが目の前にいる彼、いや彼女? どっちで呼べばいんだ? ……まあいいや。目の前の人がモナ・リザになったダ・ヴィンチ。うーん改めて聞くと凄い話。
間近で見ると女の人にしか見えない。
「ようするに生粋の変態だ」
「酷い言い様だねロマニ。キミはそんな風に思わないよね? むしろ驚きを隠せないはずだろう?」
「…………へー」
「「いや反応薄くない?」」
おぉドクターとダ・ヴィンチのダブルツッコミ。息ピッタリだ。
「いや男の人が女の人になってるなんてよくあることですし」
「よくある事!?」
「それにモナ・リザが好きでなったっていう話も、他で例えるならゲームでアバター作って、それになってるみたいだなぁと思いましたが」
「……えぇ。そんな反応されたの初めてなんだが……」
「よく流せるねキミ……」
「いやぁそれ程でもないですよぉ」
「いや誉めてないから」
実際FGOやってたらこれくらいで驚いてられないというか、大抵のことになんか耐性がついちゃった気がする。多分。
でも驚かないのを言ったらドクター達に引かれてしまった。なんでじゃ。
でもとりあえず、だ。
スタッフさんと一通り顔合わせをして、まずはカルデア復旧の仕事に取りかかることに。
といっても僕は専門的なことは出来ないので、瓦礫をどかしたり資材を運んだりと専ら力仕事だ。スタッフさん達と管制室に残っていた瓦礫を片付ける頃には機材をなんとか直ってきたそうで、次にキリエライトさん、アルトリアさんと一緒に召喚ルームへと案内される。
「冬木と同じだね中は。……うっ、吐き気が」
「あの先輩、吐くのでしたら向こうにお手洗いがありますので」
「ごめんなさい一回吐いてくるわ」
惨状を思いだしてしまったので、出せるもん出してから召喚ルームに戻った。ちょっとスッキリ。
「あのマスター、大丈夫なのですか。私を召喚した際も同様だったと聞きましたが」
「ここは皆の希望と絶望と欲望でできているのでそれに影響されたんです」
「「何を言ってるんですか貴方は」」
「はいはい、そろそろ説明するけどいいね? やり方は知ってるだろうけど、マシュの盾に聖晶石を砕いて、ばらまいてくれ。それで召喚が行える。回収した聖晶石は用意してあるね?」
ダ・ヴィンチちゃんの確認に持ってきた石を出して頷く。冬木での戦いで、エネミーやサーヴァントを倒す度に落ちてた。あんな風に出るのね実際。
「触媒や聖遺物があれば召喚するサーヴァントを絞ることが可能だけど今回は無しで。もし手に入るような事があったら是非試してみるといいよ」
聖遺物ねぇ。そんな簡単に出てきやしないだろうけど、あったらいいなぁと思う。そんなことを考えつつ石を砕いて盾へ撒く。
カルデアでの初めての召喚。さて、誰が来てくれるのだろうか。
……実を言えば怖いんだよね。僕が本物じゃないから、誰も応えてくれないんじゃないかと。
12個の光が盾から浮き上がり回転、召喚が開始される。
現れるのは一本線、これは概念礼装だ。さてさて何が出るやら……
『激辛麻婆豆腐』
「うぉい」
でん、と盾の真ん中に出てきたのは、見るからに辛いとわかる真っ赤な麻婆豆腐、某神父が食べてたやつね。最初の召喚が麻婆とか何よこれ。せめて龍脈とかゼルレッチ出てきてくれよ。
麻婆をどかして二回目の召喚。今度は何が……
『激辛麻婆豆腐』
『激辛麻婆豆腐』
『激辛麻婆豆腐』
『激辛麻婆豆腐』
『優雅たれ』
『アゾット剣』
『アゾット剣』
『アゾット剣』
『アゾット剣』
『アゾット剣』
「うわひっでぇ!!!?」
なぁにこれぇ。遊戯王じゃないけどなぁにこれぇ。
二回だけじゃなくもっと言いたい、なんだよこれ。
どんな組み合わせだよ。礼装だけで悪意しかない組み合わせでしかも最低保証。
酷い。これは酷すぎる。時臣さんの心臓が穴だらけになっちゃう。
流石にドクター達も予想外だったのか固まってる。うん、僕も同じです。
「……もっかい回していいですかねコレ」
「……うん。流石に酷いのは分かるよ」
でも石が少なかったので、代わりにドクターから渡されたのは金色のお札こと呼符だ。それが三枚。まとめて投入する。
まず一枚目。線は三本線、サーヴァントだ。
左上に弓を構えた弓兵のカード、アーチャーのクラスで色は金。赤い外套を纏った白い髪、浅黒い肌で二刀流のあの人。
続いて二枚目も線は三本。サーヴァント。
銀色で帽子をかぶり槍を持つ男のカード、ランサーのクラスだ。実体化するのは青いタイツを着て赤い槍を持つあの人その2。
そして三枚目。流石にサーヴァントはもう来ないと思ったら三本線。
銅色のカードで両手に短刀を持つ髑髏、アサシンのクラス。
……え、アサシン? 誰?
「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」
「よう。サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上した。ま、気楽にやろうやマスター!」
「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。ここに参上つかまつった」
「何故に!?」
「む? どうされた」
「い、いえ、何も……」
佐々木小次郎!? なんでここで? 冬木だから無関係じゃあないけど、どうして? 面識ないから縁は無いはず……。
不思議に思ってるとアルトリアさんが話しかけにいった。そういえば全員ステイナイトの人だわ。
「アーチャー、ランサー、それにアサシン……! まさか、こんなところで会うなんて」
「セイバーか。それにこれは……何やら見覚えのある顔ばかり揃っているな」
「そりゃこっちのセリフだ、弓兵。なんで召喚されてすぐおめぇの面見なきゃいけねぇんだよ」
「はっはっは、まあ良いではないか。こうして我らが揃うのも何かの縁というものではないか?」
皆懐かしげというか、それぞれの違う反応だけど、再会したことに驚きを隠せずにいるようだった。
目の前にいるのはいつも画面の向こうにいた人達。……本当に、召喚できたんだ。僕が、サーヴァントを。英霊を。応えてくれたんだ。僕に。
目の前の光景に、事実に、胸が熱くなるような。いや目が熱くなるような感覚がこみ上げてくる。
「なんでしょう、召喚された皆さんとアルトリアさん。親しげに会話を交わしています」
「顔見知りみたいだけど、もしや何処かで会っていたのかなぁ。だとすれば凄い確率で再会したことになるね」
「まあこちらも色々あったのでな。それで、そこの少年がマスターで間違いないか?」
「……はいぃ。ぼぐが、まずだーでず」
確認されたので前に出たけど……なんでかドン引きしてる皆さん。どうじだいっだい。
「藤丸君!? なんで泣いてるのさ!」
「え゛……ないでますかぁ」
「めっちゃ泣いてるから! 鼻水とかスッゴい出て顔凄いことになってるよ!?」
「いや、その……だれもきてくれないかとおもっで。こうしてみなざんがぎてくれたごどが、うれじぐで……」
「先輩……」
「……ぼぐになんがにごだえてぐれでよがっだよぉぉ~~~!!」
((……このマスター大丈夫か?))
「………………」
◆◆◆
「お見苦しいところをお見せしました。改めまして、マスターをやっています藤丸一捷と申します。どうぞよろしくお願いします」
場所は代わり食堂、召喚したサーヴァント三騎へ頭を下げ挨拶する一捷。
今は顔合わせを兼ねた昼食の最中で、真っ先に一捷へ答えたのはクー・フーリンだった。
「さっきは驚いたが、意外と礼儀正しいじゃねぇか。よろしく頼むぜ、イッカ」
「これでも23歳なのでね」
「……いきなりおもしれぇ冗談言うな、おめぇ」
「違いますよ!? 実年齢です!」
「いやその体と顔は23には見えねぇよ。いいところで20だろ」
「な、ならば……エミヤさん、小次郎さん! 僕何歳に見えますか!?」
「何故いきなり私に振るのかね。まあ見たところ15、6といったところか」
「ふむ、そうさな。十……八がいいところではないか?」
「違う!!!! なんで皆さん23歳って信じてくれないんだよぉぉぉぉ!!」
うわぁぁぁぁと叫ぶ一捷。泣いたり騒いだりと大忙し。
呼ばれたサーヴァント三騎だけでなく食事中のマシュ、アルトリア、ロマニ、ダ・ヴィンチも大丈夫かと心配せずにはいられなかった。
ちなみに食事を作ったのはエミヤ。サーヴァントだけでなくカルデアの面々にも好評であり、早速厨房を任せられることとなった。エミヤ食堂は本日より開店である。
そのエミヤに、あまりにもうるさいので拳骨を落とされ、一捷は大人しく席につくのだった。
「こうなったら……! これから会う人全員に23歳か確かめてやるぞぉ! うぉー!!」
「食事中だ。静かにしたまえマスター」
「……すみません」
そうして大人しく食事を摂ると、エミヤ達にカルデアと人理修復についての説明が行われる。
その後は管制室を始め、スタッフの尽力で立ち上がったシミュレータールームや資料室、各々のマイルームを案内すると一同は食堂に戻ってくる。
戻ってくるなり、ロマニがあることを一捷へ尋ねた。
「そういえば藤丸君、あの剣についてなんだけど」
「あの件? ……令呪と魔術礼装についてですか?」
「いやそれもやらないとだけど。じゃなくて、剣。短剣だよ、敵のセイバーを受け止めた白い剣について、説明して貰わないと」
そう言われて一捷も思い出した。何処にあるかと服を探ると、いつの間にかズボンのポケットに入っており、真っ白な短剣を皆に見せる。
アルトリア・オルタ暴走とそれにまつわる黒い短剣、白い短剣については事前に説明済みであり、先ずダ・ヴィンチが短剣を手に取り、じっくりと観察する。
「一応聞いてるけど、これがサーヴァントを受け止めただって? 礼装や宝具でもなさそうだけど」
「実を言うと僕もよく分からないんです、これについては。あの時は、コイツに言われた通り動いただけで。なぁマオー、お前から説明してくれよ、知ってることをさ」
『あーゴメン。それ無理だわ』
「えぇ? なんでよ、そっちが説明してくれないことにはなんにも……うん?」
そこで皆から向けられている視線に気づいて一捷は言葉を切った。
皆の自分に向けられている視線がまるで、理解できない何かを見るかのような、恐怖の眼差しであったからだ。
簡単に言ってしまうと、うわなんだこいつヤベェ……みたいな感じである。
「あの、何か」
「藤丸君……誰と喋ってるの?」
「誰って、この剣ですけど。マオーっていうんですコレ」
『よろしくー』
「ほら、今よろしくーって言ってますよ」
「「「………………」」」
ロマニ達が固まっていた時間、約十秒。
やがて弾かれたように、ロマニの指示で、サーヴァントやその場にいたスタッフが『仕事』に取りかかりにいった。
まずがっし、とスタッフ二名が一捷の両腕を挟んで拘束。
「へ?」
次にロマニはダ・ヴィンチ、マシュに指示を出し医務室の状況を確認。
「至急医務室の用意をお願い。レントゲンとMRIと、他にも一通りやるからそのつもりで。マシュは補助を頼む。ダ・ヴィンチちゃん、魔術方面の検査もするからそっちは任せる」
「オッケー。隅々までくまなくやっちゃうよ~!」
「……あの、何をするつもりで?」
「ごめんよ藤丸君。君がそこまで負担を感じていたなんて、気づけなかった……」
「――大丈夫! 例えどんな魔術や呪いがかかっていようと、ボクらが絶対に治してみせる!!」
「なんでじゃ!!!? いや喋るってコレ、意思ありますから!!」
「……マスター。きっとその剣には呪術もしくはその類いがかけられているのです。どうか気をしっかり持って。自分を見失わないで下さい」
「あーっ!? 皆信じてない!? アルトリアさんまで信じてない!? 自分見失ってないからぁ! 正気だからぁぁぁぁ!!」
「……先輩」
ロマニ、ダ・ヴィンチ、アルトリア。誰も信じてない中で、後輩マシュだけは信じてくれるのでは一捷は最後の希望を託した。
静かに彼女は、こう言った。
「――知っていますか? 正気ではない人間ほど、正気だと主張するものなのですよ」
「ノーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!」
「……なぁセイバー。バカにしてる訳じゃあねぇが、マジで大丈夫なのか。あのマスターは」
「私も同意見だぞ。……正気か、あれは? 玩具の剣に向かって語りかけていたぞ」
「だ……大丈夫だと、思います。……恐らくは」
(あの剣から感じたもの……気のせいだったのかもしれません……)
「……って事があってさー。やべぇよ藤丸。相当にやられてるわアレ」
「そ、そんな精神状態になっていたなんて」
「……後で謝っておかねぇとな。無責任なんて言っちまったわ俺」
この件が若手スタッフのムニエルから他のメンバーに伝わり、サポートを全力で行うこと、体だけでなく特に精神を心配するようになったとか。
◆◆◆
「ま、全く……酷い目にあった……」
夜。マイルームのベッドに(精神的な理由による)疲労困憊でぶっ倒れる一捷。
あれから医務室へ連行され、ひたすら検査、検査、検査、検査のオンパレード。
血を抜かれ、体や頭の中をスキャンされ、魔術関係も徹底的に調べられた。
体は健康そのものなので問題は出なかった。それはいい。冬木で何かダメージがあったかもしれないと思っていたからだ。
……ただ、どう説明しても、何度話しても、マオーについては結局信じてもらえなかった。
人類最後のマスターのプレッシャーで頭がおかしくなった狂人。それが今の、カルデアから一捷に対する認識であった。まだ特異点攻略すら始まっていないのに酷い状況である。
「なぁんで人理修復引き受けたのにかわいそうな目で見られんだよぉぉ~……」
『災難だったねぇ、一捷君』
「他人事みたいに言うんじゃあないよ!? お前が説明してりゃこうはならなかったわ!」
『すまない。誤解させてしまったのは私のせいだ、すまないと思っている。……ただそれには理由があるんだ、聞いてくれ』
思わず怒りをぶつけるが、マオーがきちんと説明するといい、それならばと一捷は不満はあるものの、ひとまず聞くことを決める。
ベッドに座り、向かいにマオーを設置。人と話すように見立て、話へ耳を傾ける。
『説明ができないといったが、その理由は一つ。彼らには私の声が届かないからだ。私が喋ったとしても、今は君にしか聞こえないんだ』
「じゃあ、こうして話してるのも他の人には聞こえないってことか。……それってつまり、さっき僕がマオーに話しかけてた光景って、ドクター達には……」
『ウルトラマンギンガのギンガスパークに話しかけてるやべーやつに見えてる訳だ』
「結局僕が誤解されてんじゃねぇーか!! んも~なんでこうなんのよぉ……もう、いやっ!!」
『なんか口調とキャラ迷子なってるぞ』
「バカでも言ってなきゃやってられないよぉ……。あ~~もぉ~~!!」
ベッドに倒れて右に左に転がり、頭をかきむしり、どうしてこうなったどうすりゃいいんだ僕はと疑問が一捷の頭の中でぐるぐる渦巻いて止まらない。
やっと人理修復に向き合おうと立ち上がったのに、引っかけられ転ばされたような感覚だった。
それを見て状況を理解しつつ、マオーは話すのを続ける。
『……お詫びに、と言ったら変だけど。私が話せるだけのことは話そう。そのままで良いから聞いててくれ』
「……どーぞ」
半分不貞腐れた返事をする一捷。だがそんな態度は、マオーの語る内容を聞いていく内になくなってしまうのだった。
その内容とは、冬木にて現れた黒い騎士。黒い短剣。そして、マオー自身についてのものだった。
『結論から言えば、私はこの世界の存在ではない。君やこの世界とは違う異世界で作られた存在だ。私はあの黒い騎士を、『エース』を追って、この世界にやって来た』
『エースと私は同じ存在。選んだ人間をマスターとし、力を与える武器だ。だが突如、エースが暴走を起こし姿を消した。私は奴を追い、止める為に戦いを挑んだのだが……』
『……奴の凄まじい力の前に、私は敗北してしまった。その際、力の源である四つの『エレメント』を奪われてしまった。それでもなんとか逃げ出した私は、一捷君に契約を持ちかけ、今に至るという訳だよ』
『エースが何故暴走したのか。何を目的としているのか。この世界に何故やって来たのか。それは分からない。私の一部でもあるエレメントを奪われたことで、奴に関する記録も一緒に失ってしまったからだ。だが逆に言えば、エレメントを取り戻す事ができれば、記録と力を復活させ、奴に対抗する事も可能だ。力が戻れば、私の声だってカルデアの方々に届くようになるだろう』
「マジか!!」
そうすれば誤解も解けるかもしれない。希望が見えた一捷は跳ね上がるように勢いよく体を起こした。
「じゃあ、あの黒い短剣や紫の雷はなんなんだ?」
『雷については……すまない、記録がないから説明ができない。黒い短剣は、奴の『魔』の力が込められた分身だ。その力が黒いアーサー王を暴走させたのだ』
「魔の力……。魔力じゃあないのか?」
『似て非なるものだ。魔の力はまず『虫』となって宿主に寄生する。そして感情、強い思いに反応し、パワーを増幅させ凄まじい威力を発揮する。ほら、黒いアーサー王が血と一緒に虫を吐いたのを見ただろう? あれがそうだ。君だって二回目の使用時に同じ事をしている』
「刻印虫かよ……」
だがそう言われると、確かにあの時吐いた血の中にそんなものがあったと思い出す。
「つまりまとめると、あの黒いのからエレメントっていうのを取り返して、マオーに返せばいいんだな? そうすれば力も戻るし、情報も手に入ると」
『そうだ。四つ全てを取り返せば、きっと奴に対抗できる。君の誤解も解ける事だろう。……ただ、それは人理修復と平行して行わねばならないが』
「うっ……!? そう、だった……」
黒い騎士もそうだが、今の一捷の役目は人理修復だ。特異点を巡り、戦い、聖杯を探し出して修復せねばならない。
ロマニ達には引き受けると言った。それは本当だ。だがいざ考えてみると、ゲームでとはいえ知っている分、その過酷さに心が折れそうだった。
(本当に……僕なんかにできるのか? あれだけの困難を、サーヴァント達を相手にして、歴史に抗うことが。最後まで、ゲーティアの元に辿り着くことが……)
これからの戦いを想像し、不安と緊張で弱気になってしまう一捷。
それを察したマオーは、
『――大丈夫だよ。君が、君を見失わなければ、きっと大丈夫さ。私が保証する』
そう言って一捷を励ました。確信があった。何かは分からない、それでも何故か大丈夫だと思える何かがある。一捷はそう感じとった。
『まあカルデアの皆さんに誤解されてしまってのは悪いけど。……でも、君はこれから彼らと向き合わなければならない。カルデアと、サーヴァントと、歴史と。君が考え、選択し、絆を紡ぎ、そして進む』
「僕が、やること」
『そう。あるんだろう? 君の目的が。絶対に果たさなければならない、譲れない思いが』
「……あぁ、ある。この世界を救って、家に帰ること。夕飯を食べることだ」
『ならばその願い、忘れないことだ。しっかりと胸に刻み付けておくんだ。一人の人間だということを、覚えているんだ。それが君の、“自分に対するオリジン”だ』
「原点、ってやつだね」
『私はその願いの為に、力を貸す。故に一つ忠告を。――例えどんな力を手に入れたとしても、その力に変えられてはいけないよ』
不吉な言葉だった。力。それはマオーを指すのだろうが、果たして自分はどうなってしまうのか。
マオーの言った魔の力とやらで、人間ではなくなってしまうのか?
サーヴァントにでもなるのか?
あるいは、もっととんでもない存在へとなってしまうのか?
どれにもなりたくないと思い、同時に、どれにもなるような気がした。
ただ少なくとも。“今”の自分は大丈夫だ。世界と自分の為にやってやると、今ある精一杯の思いをかき集め、決意として固めた。
(やってやる。僕は必ず……飯を食うんだ。絶対に……!)
そうしてやっと、本物ではないマスターこと一捷の、カルデア最初の一日は、終わりを迎えるのだった。