へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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20話

「……こちらは異常なし。ダ・ヴィンチちゃん、そっちは?」

 

「全てまるっと問題なし。いつでもいけるよ」

 

「よし。準備完了だよ、藤丸君」

 

「分かりました」

 

 

 自分でも体や精神に問題がないことを確認。これだけで三回目になるが念には念を入れ、本当に何もないのを確認して、右腕を翳す。左手は右肘を握る。

 

 目の前には盾と鎧で武装したキリエライトさん、銀の鎧と剣を構えたアルトリアさん、弓を装備したエミヤさん。

 

 契約している彼女らと繋がっている感覚を辿り、力を与えるイメージで、纏っているカルデアの白い制服――魔術礼装の力を発動させる。

 

 

「――瞬間強化ぁっ!!」

 

 

 ゲーム上の効果は1ターンの間、単体の味方鯖の攻撃力を50%アップさせる。このカルデア制服が内蔵したスキルその1だ。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「ダメかぁ!」

 

 

 現在その白い制服を着た僕は、何も起こらない結果に両膝と手をついて嘆く。嘆かずにはいられかった。

 

 特異点攻略を前に僕は、いきなり壁にぶち当たることとなったのだから。

 

 しかも、結構まずい内容で。

 

 

「……礼装のスキルがぁ! 発動できねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 最初の一日が過ぎて次の日。最初の特異点であるフランスへのレイシフトは三日後に決まった。

 

 はじめに言っておくが、当然僕には魔術の心得なんぞ無いし、戦いに関してもズブの素人である。人理修復の為に僕が、マスターとしてやるべきことは山積みだ。体力作りに始まり、戦術の勉強、魔術の鍛練、サーヴァントとのシミュレーション、お馴染み素材と種火とQP集め等々……。

 

 だが早速問題が発生してしまった。

 

 ……二回目になるけど、魔術礼装のスキルが、一切発動できないのである。

 

 

「これといって、藤丸君の体、魔術回路に異常はなし。魔術礼装にも異常がある訳でもない。確かに魔力が流れているのも確認できるんだけども……」

 

「瞬間強化ぁ!!」

 

 

 ……反応なし。

 

 

「緊急回避ぃ!!」

 

 

 ……何も変わらず。

 

 

「応急手当てぇ!!」

 

 

 ……三度やれども結果は同じ。

 

 

「ダメだぁ……ウンともスンとも言わない。この礼装壊れてたりしません?」

 

「何度もチェックしたよ。けど着ている魔術礼装にも異常は無し、もちろんキミにもだ」

 

「……これで全部のスキルが発動しないことになっちまったぁ……」

 

 

 このカルデアだけじゃない。冬木で着ていた魔術協会制服。オダチェンとガンドで猛威を震うカルデア戦闘服。無敵を付けれて状態異常を解除できるアトラス院制服。そしてこのカルデア制服。魔術礼装の調整ということで、朝からシミュレーションルームで一通り試したが、どれもこれもスキルが発動しない。なんでじゃ。

 

 というかこれ、非常に不味くないか? いや不味い、というかヤバい。素人で偽物でもマスターの僕が礼装のスキルすら使えないって……。ゲームと全く同じに、とは言わないけどせめて礼装でのサポートくらいは……と考えていたのだけれど。それすらできないってへこむわぁ……。

 

 元からあるかどうかすら分かんないけど、僕には魔術の才能は無いってことかよ……。

 

 

「ドクター、どうすればいいんでしょこの場合……」

 

「う~ん……。とりあえず、礼装については一度置いておこう、何か他に原因があるかもしれない。もう一度詳しく調べておくよ。差し当たっては、魔術協会の制服を使ってくれ」

 

 

 ということで、制服の上に黒いローブを着ると訓練再開。

 

 指導してくれるのはエミヤさん、ドクターとキリエライトさんも一緒である。

 

 

「ではマスター。まずは魔術回路の起動と、令呪の使用だ。マスターとしてこの二つを、問題なく行使出来るようにしてもらう」

 

「お願いします!」

 

「気合いは十分の様だな。では早速始めるとしよう」

 

 

 冬木で令呪を使った時は血を吐いて動けなくなってしまった。この先、令呪を使う度にそんな状態になっていたら、生き延びるなんてことは出来やしない。

 

 まず最初は令呪を問題なく使えるようになること。これが最初の課題だ。キリエライトさんとキャスターのクー・フーリンさんの時はほぼ無我夢中だったからできたようなもので、どんな時でも発動できるようにならないといけない。

 

 その為に魔術回路の説明を受ける。魔術回路は魔術師が魔術を使うための疑似神経、魔術を使うた為の臓器。既に令呪を使ったので回路は「開いて」おり、オンとオフの切り替えをマスターせねばならない。

 

 

「成る程成る程……切り替えですか」

 

 

 用意したメモ帳にボールペンで説明を書き込んでいく。後で見返せるようにしないとね。

 

 ……そういや今更だけど、どーして現実世界で生まれた僕に魔術回路があるのだろうか。だってもしあるとしたら、向こうの世界にも魔術がある、ということになってしまう。もちろん無いけど。

 

 だとすれば、この回路は一体誰のもので、何故あるのか? 後でマオーにでも聞いておこう、一番あいつが知ってそうだし。

  

 

「では早速、魔術回路の起動を行ってもらう。最初に言っておくが、集中を切らさないように。魔力が暴発する危険がある。最悪の場合、体が弾け飛びかねん」

 

「……それはつまり、死ぬと?」

 

「あぁ。死ぬぞ」

 

「死ぬよ」

 

「死にます」

 

 

 この場の全員から断言されてしまった……マジでか。

 

 …………いや、衛宮士郎の鍛練は命がけだって言われていた。これは間違ってるのもあるが。

 

 神秘や魔力なんてものに関わるんだ、危険が無い訳がない。

 

 

「なのでマスター、気を引き締めるように」

 

「肝に命じます!!」

 

「いや敬礼はしなくていいって」

 

 

 つい反射的にやってしまった、申し訳ないです。

 

 

「回路の起動、すなわちオンとオフの切り替えだ。オンにすることで、魔術回路が起動する。これはイメージによって行うのだが、人によってその内容は変わってくる。……例えばある人物は、銃の撃鉄を上げるイメージだ」

 

(あなたですやんそれ)

 

 

 思わず心の中でツッコミつつ、回路をオンにするイメージを考える。

 

 どんなものが良いのだろうか?

 

 

「これは君自身が見つけるしかない。中々に難しいかもしれないが、いいな? マスター」

 

「……分かりました。やります」

 

 

 こうしてまずは、魔術回路をオンにする為のイメージを固めることから始まるのだった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「だぁぁぁぁ……つっかれたぁぁぁぁ……」

 

 

 今日一日の訓練を終え、夕食後の食堂で机に突っ伏す僕。

 

 魔術回路をオンにするイメージを掴むべく、ひたすら回路の起動とイメージを繰り返した。最初の結果は……とにかく疲れた。

 

 エミヤさんも言ったことだが、雑念が混じれば魔力が暴走し、術者を傷つけてしまう。今日だけでも手や腕が少し切れたり、指の先や爪が割れたり裂けたりで血塗れになった。なので指全てには包帯がぐるぐる巻き。傷としては小さいけど少ない訳じゃないし、地味に痛い。

 

 令呪を使った時の痛みを改めて思い出す。

 

 ……最初だけど痛感した。魔術を使うって言うのは、とんでもないことなのだと。

 

 

「お疲れ様です。先輩」

 

「あ……キリエライトさんかぁ。お茶どーも」

 

 

 声がして首だけ横を向ければ、キリエライトさんがお茶の入ったコップを二つ持ってきて一つを側に置いてくれた。突っ伏したままは失礼なので、体を起こしお礼を言ってお茶をすする。

 

 疲れと痛みで沈んでいた気持ちが少し楽になった、ありがとねキリエライトさん。

 

 

「どういたしまして。初めての訓練でしたが、いかがでしたか?」

 

「どえらい疲れた。そしてすげー痛かったよ」

 

「そ、そうでしたか……」

 

 

 回路を切り替えるイメージ。最初はそんなことくらい、簡単に出来んるんじゃないかと思っていた。……思っていたよ、僕は。そんで、なんて甘い考えしてんだバカ野郎、と思い知ったよ。

 

 体の中にある魔術回路。魔術を使うための部分。今まで使ってなかったものを認識し、イメージする。体内を走る電気の回路。この集中だけで凄く体力と精神力を使う。

 

 イメージしていくと、段々と何か、自分の中にある『異物』に気づく。多分これが魔力だと思う。

 

 今日出来たのはそこまで。回路をイメージし魔力に触れるか触れないかの所までだ。

 

 ここに行くまでに集中を切らしてはいけない。少しでも別のことを考えたり、集中が切れると、体が傷つく。身をもって体験した。

 

 回路をオンにするイメージを浮かべる暇なんてなかった。それが今の、僕というマスターの現状。基礎の基礎の、もう一個基礎があるくらいの段階。……それが知れただけでも、良しだと思いたい。うん……思いたい。

 

 

「あまりご自分を卑下なさらないで下さい。まだ最初なんです。これから一つずつ、覚えていけばいいんですよ」

 

「……そう言ってくれるだけで嬉しいですよキリエライトさん。ありがとう。あんまりそんな風に言われたことないからさ」

 

 

 何事もそんな簡単にはいかない。当たり前だ。

 

 腰のポケットからメモ帳を取り出し、今日の内容を思い返す。

 

 

「参考までに聞きたいんだけど。キリエライトさんは魔術回路オンのイメージって、どんな風なの?」

 

「私のイメージは……そうですね。自分を全て鋼鉄で覆う、といった感じです。中身まで。固定する、あるいは鋼鉄そのものになる、とも表現出来るかもしれません」

 

「体を鋼鉄で覆うか固定、ね。……うん、分かったありがとう」

 

 

 その日は部屋に戻ってからもメモしたこと、訓練の内容、原作の知識も思い出して、回路をオンにするイメージトレーニングを寝る時間まで続けた。

 

 例えば原作キャラクターのイメージ。衛宮士郎はエミヤさんの言う通り銃の撃鉄を上げる、遠坂凛は心臓にナイフを刺す等がある。

 

 とりあえず、思い付いたイメージは片っ端から試してみた。

 

 衛宮士郎の撃鉄を上げるのはズキリと痛みを感じた。失敗だ。

 

 遠坂凛のナイフを刺すのは吐血。失敗です。

 

 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの心臓を貴石に変えて砕くのは、胸をドスンと殴られた衝撃を感じ少し血を吐いた。またまた失敗。……この二つは死ぬかと思ったのでダメ。

 

 ロード・エルメロイⅡ世の事件簿に登場する傭兵フリューのイメージ、喉の渇きを感じるのは喉がヒリヒリしただけ。失敗。

 

 キリエライトさんの鋼鉄で覆うイメージも試した。何もなかったけど。

 

 他にも性的興奮、自傷行為などでしか開かない場合もあるとか。幅広すぎじゃねと思いつつ試した。……どっちも反応なし。

 

 結果から言うと全部合わなかった。まぁよく考えれば、他人のイメージなんだからそりゃそうだって最後に気づいたよ……。

 

 

『躊躇いなく中々とんでもない事するねキミ』

 

「え、何が?」

 

 

 二日目の朝。朝飯の後、マイルームで午前の訓練が始まるまでの空き時間でイメージを探っていると、マオーが驚いた感じで話しかけてきた。

 

 ……あぁ、色々試しまくってることね。そりゃ自分でもマシな方法ないの? って思うよ。なんでか何回か死んだ気がするし。

 

 でも今やるべきこと、やらなければならないのは、僕が令呪をちゃんと使えるようになることだ。

 

 まず覚えろと言われたことは、ひたすら覚える。出来るようにしなければいけないことは、出来るようにする。その為の努力を今はやるだけ。それからのことは、出来るようになってから考える。

 

 世界を救うのと、僕の願いの為に。

 

 

『真面目な性格してるね、一捷君』

 

「そうかなぁ。やることやってるだけなんだけど」

 

(……ちと極端なのはここからだったかな)

 

「何か言った?」

 

『いーや。それよりそろそろ、午前の訓練が始まるんじゃないかい?』

 

「お、ホントだ。あんがと」

 

 

 スマホで時間を確認。シミュレーションルームに向かいキリエライトさん達と合流し訓練を受ける。筋力トレーニングから始まり魔術の訓練。

 

 

「ぬぅぅぅ~~……ハァッ!! はぁ……はぁ……」

 

 

 魔術回路を開くイメージを繰り返す。体内の異物――魔力までは確認できるようになった。後は回路を開くイメージを固めるのみ。

 

 指と手と腕と首と足と頬の、細かい傷から血を流しながら訓練を続け、お昼過ぎに気づいたのはドクターの制止だった。

 

 

「藤丸君、そこで一旦ストップ。もうお昼だよ」

 

「え、もうそんな時間……あ、ホントだ」

 

 

 ドクターが見せてくれたタブレットで時刻を確認すると、集中が切れてその場に座り込む。お腹も空いたなぁ……。

 

 昼御飯に行こうとしたけど、その前に細かい傷の治療が先と言われ、医務室で手当てを受けることに。

 

 

「随分集中してみたいだね。それはそれとしていい事だけど、体に気を付けてね。傷だらけじゃないか」

 

「すみません。あいてて……」

 

 

 包帯を巻いてもらい、絆創膏を貼ってもらう。ここで傷の多さに気付いた、昨日と似たり寄ったりでこりゃ酷いわ。

 

 朝からの訓練でこんなになってたのか……。

 

 

「それで、訓練はどう? 魔術回路を開くイメージは掴めた?」

 

「いや、まだです……。位置は大体分かったんですけど」

 

「位置?」

 

「はい、お腹です」

 

 

 シャツを捲ってお腹を指差す。体に傷ができているのに、そこには傷がない。

 

 何度も繰り返して、生まれた考察をドクターに話してみる。

 

 

「多分なんですけど、毎回この部分からパワーがみなぎるを感じました。だから腹に関係したイメージで開くんじゃないかと考えてまして」

 

「成る程、じゃあもう少しだね。あ、お腹閉まってね。冷えるといけないから。それと……」

 

 

 そう言われシャツを戻すと、朝から着ていたカルデア制服を脱ぐよう言われる。代わりに渡されたのは魔術協会制服だ。

 

 

「特異点Fでの戦闘記録と、今の藤丸君のデータを合わせて調整してみた。早速午後の訓練で試してくれ」

 

「あっ……ありがとうございます!」

 

「どういたしまして。サポートがボクらの仕事だからね」

 

 

 カルデア制服と魔術協会制服をチェンジ。前と比べて、なんだかフィットするというか、合っている感じがする。

 

 嬉しいなぁ……これなら力になること間違いなし。戦いではない今でもそう思えた。

 

 

「問題は無さそうだね。その礼装、普通とはちょっと違う風になってるんだ」

 

「それは一体?」

 

「訓練と一緒に説明するよ。まずはお昼を食べておいで、しっかりね。なにせ午後の訓練内容は、初めてのエネミーとの戦闘訓練だ」

 

「……っ!」

 

 

 そこで朝のブリーフィングで聞かされていた訓練内容を思い出し、受かれていた気持ちがビシッと引き締まる気がした。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 この世界の元となっているFGOには曜日クエストというものがある。サーヴァントの経験値となる種火が出る種火クエスト。再臨やスキル強化に必要なピース・素材の修練場。お金やポイント代わりとなるQPの宝物庫。ゲームのFGOで、スマホをポチポチしながら、日々金林檎をかじって周回しまくってた。

 

 今話した種火、修練場、宝物庫の曜日クエストが、この世界ではシミュレーターとしてある。ゲームと同じように種火をサーヴァントに与えて強くし、素材とQPを消費して再臨させる。まだ見たことは無いけど聖杯も多分同じなんだろう。レベル上限を上げて霊基を拡張できるのだと思う。ドクターとダ・ヴィンチちゃん曰く、体力を使うので回復アイテムもあるとか。林檎だね。

 

 召喚ルームではガチャと同じよう聖晶石を使ってサーヴァントと礼装を召喚する。

 

 こんな風にゲームと同じ部分もあれば、違う部分もある。

 

 同じ召喚でも、フレンドポイント召喚は無い。正確にゲームじゃないからフレンドの概念なんざ無い。代わりにただのポイント召喚というのになっていて、使うポイントがエネミーを倒すことで手に入るようになっている。出てくる中身はフレポと一緒、名前を変えただけだ。何回か回してみたけど、星1や2、少ないが3の礼装が出た。サーヴァントは出るのか分かんないけど。

 

 ……と、ここまでは前置き。

 

 何より一番違う所……といったら、それは一つしかない。

 

 僕が本当に『戦場に出て、指揮を行い、相手と戦う』ということ、だ。

 

 

『――時間だ。藤丸君、準備はいいかい?』

 

「……はい」

 

『ではシミュレーターを起動。内容はTGーSーBを選択。……これより、戦闘訓練を始める!』

 

 

 ドクターの確認に準備は出来たと頷く。

 

 場所はシミュレータールームその1、真っ白な壁と天井に覆われた広大な空間。そこに青白い電気の光が駆け巡る。すると白一色だった周囲が光を放って一変――シミュレーターが起動し、訓練を行う為の戦場へと早変わりした。

 

 まるでそこは無人島の浜辺。太陽は水平線に沈みかけた夕方。右横方面に見えるのは打ち寄せてくる波、夕方でオレンジに染まった広大な海で、反対方向はジャングル。二つの光景に挟まれるように、僕とサーヴァント三人だけが砂浜にいる。

 

 初めての戦闘訓練となる今回。内容はゲームでいう剣の修練場・初級だ。僕らの正面、数十メートル離れた位置に青い光が三つ輝き、中から現れる仮想敵。鎧と兜を身につけ剣と盾で武装した兵士。鉈を分厚くしたような剣を持つ小型ロボ、ヘルタースケルターが二体。……ゲームと同じだな、ここは。

 

 

「敵三体を視認。先輩、よろしいですね?」

 

「……うん。じゃあ皆さん、お願いします!」

 

 

 敵を確認して味方のサーヴァントが僕の前へ出る。

 

 選んだメンバーはアルトリアさん、エミヤさん、キリエライトさん。最初なのでバランスを重視して選択したつもりだ。

 

 そのサーヴァント達と僕に、ヘルタースケルター二体とその後ろを兵士が追う形で向かってくる。

 

 訓練だが決して気を抜けない戦いの始まり。静かに一度、深く息を吸ってから吐いて、サーヴァントへ指示を出した。

 

 

「アルトリアさんは前衛を。相手を迎え撃って下さい」

 

「はい」

 

「エミヤさんは後方から援護。兵士を優先して狙って下さい」

 

「いいだろう」

 

「キリエライトさんはアルトリアさんの後方で待機。僕の護衛と、状況によってアルトリアさん達の防御をお願いします」

 

「了解です」

 

 

 指示を受け、サーヴァント三人が素早く動き出す。

 

 ただ距離を詰め剣を振りかぶるヘルタースケルター。振り下ろされる剣を、アルトリアさんは軽々と回避し、エクスカリバーで二回斬りつける。

 

 もう一体をエミヤさんが矢で牽制。後方の兵士をアルトリアさんに接近させないよう狙撃する。

 

 

「やぁぁぁっ!」

 

 

 上段からの一撃。ヘルタースケルターが縦に真っ二つとなり、黒い光となって消える。よし、一体撃破だ。

 

 そのままアルトリアさんが、攻撃しようとした二体目のヘルタースケルターの剣を弾き、横に切り裂く。二体目、撃破。

 

 残る兵士は盾で矢を防いでいたが、アルトリアさんを向かわせエクスカリバーでの一撃で怯ませ、そこを突いて頭を矢が貫く。兵士も撃破。第一陣はこれで終わりだ。

 

 再び三つの青い光が輝く。

 

 第一陣が倒されたことで第二陣、ゲームでいう2waveの敵が出てくる。

 

 第一陣と同じく、兵士が一体。巨大なハサミを持つオオヤドカリ。そして片刃の大剣を持った青い骸骨、竜の牙から作られた使い魔の竜牙兵だ。

 

 迫る三体の敵。エミヤさんには第一陣の時と同じく、援護と兵士の撃破を優先。盾持ちを先に早く潰す。

 

 アルトリアさんには今の位置から竜牙兵の相手をしてもらい、残るオオヤドカリがこちらへ飛びかかってくる。

 

 

「シュウゥゥゥゥ」

 

「キリエライトさん! 跳ね返して!」

 

「はいっ!」

 

 

 前に出たキリエライトさんが、十字盾で鋏攻撃を防ぎ、弾き飛ばした。ひっくり返ったオオヤドカリヘ追撃を指示。見るからに殻や甲殻は固そうで、剣や弓より打撃が効くと思った。

 

 

「やぁぁぁっ!」

 

「シャアッ!?」

 

 

 盾で何度も叩き、ジャンプしてからの叩きつけが決まって、オオヤドカリは砕けて消えた。

 

 

「はあぁっ!」

 

「そこだ」

 

 

 アルトリアさんとエミヤさんの方も、兵士を撃ち抜き、竜牙兵を切り裂いて倒していた。第二陣もこれで撃破だ。

 

 ゲーム通りならあと一つ。

 

 最初の訓練、緊張していたけどどうにか、問題なく敵を倒せていった。

 

 ……そのことが僕を、油断させてしまった。自分ではそんなつもりは無かったが、それでもこの時は敵を倒したことで浮かれ、気を抜いてしまったのだ。

 

 自分でもやれるのではないかと、この先もいけるのではないかと。

 

 それが思い上がりだと思い知ったのは、他ならぬ、現れた第三陣との戦いの中だった。

 

 

「カカカカ」

 

「―――」

 

 

 敵は二体。カトラスを持つ片腕のスケルトンと、黒い靄に覆われた細い両刃剣の剣士。シャドウサーヴァントだ。初級に出てくるのは確かセイバー・リリィだった筈。そのシャドウってことか?

 

 数では有利。キリエライトさんに守り、エミヤさんに援護、アルトリアさんに攻撃を指示する。ここまで来たのだからシャドウサーヴァントでも大丈夫、と思ったのだが。

 

 

「ハァァァッ!」

 

「どぉあっ!?」

 

 

 セイバー・リリィ(だと思われる)のシャドウサーヴァント……シャドウセイバー? シャドウリリィ? いやどっちでもいい、相手の一撃が僕の側へ撃ち込まれる。

 

 当たりはしなかった。けど直ぐ隣の浜辺は焼け焦げ、小さなクレーターが……いや人だったら多分死んでる威力の攻撃だった。

 

 ……甘かった。仮想でもシャドウでも、相手はサーヴァント。ほぼ突撃するだけのエネミーとは違う。素早い身のこなし。矢を回避し、剣から光を放ち、殆ど見えない速さで剣を振るいアルトリアさんと斬り合う。

 

 ただ迎え撃てばいいわけじゃない、相手の隙を突かなければ……この敵には、勝てない!

 

 

「キリエライトさん、前に出て敵サーヴァントを攻撃! 引き付けてくれ! アルトリアさんはスケルトンの相手を!」

 

「は、はい!」

 

「分かりました!」

 

 

 まずキリエライトさんにシャドウサーヴァントを防いでもらい、残るスケルトンをアルトリアさんに任せる。

 

 相手はサーヴァントともう一体。なら時間をかけるのではなく、反撃される前に、一気に倒す!

 

 速攻を選択した僕は、援護を行うエミヤさんに作戦を伝える。

 

 

「二人を前に出したか。それで、ここからどう倒すつもりだ? マスター」

 

「令呪を使います。エミヤさんの宝具で、敵を一気に倒してください」

 

「ほう。だがマスター、君のイメージはまだ未完成だった筈。本当に令呪を使用できるのか?」

 

 

 エミヤさんの疑問は最もだ。まだ僕は、魔術回路を発動するイメージを掴みきれていない。訓練でも上手く発動できておらず、やっても失敗して、隙を晒してしまうかもしれない。

 

 冬木で味わった令呪発動の痛み。思い出すだけで体が震える。あんなのはもうやりたくない。味わいたくないと思っている。

 

 ……だとしても。

 

 

「……仰ることは最もです。でもそれでも、どうにかしなきゃいけないんです。この先のことを考えたら、これくらいで、躓いてなんかいられない。不安でもなんでもやるしかない。……怖いですけど、やります。やってみせます!」

 

「…………そうか」

 

 

 今伝えられる思いをぶつける。エミヤさんは戦いの中なのでほんの少しだけ考えると、弓を仕舞って僕の前へ立った。

 

 

「ならばやってみせろマスター。そこまで思うと言うのなら、私にその『決意』を見せてくれ」

 

「……はいっ!」

 

 

 意識を集中させ令呪の発動に入る。

 

 体の中で魔力が蠢く。それは不快感となって身体中を走る。じわりと汗が滲み、皮膚に傷ができていく。

 

 失敗したときの激痛が甦る。怖いという気持ちに負けそうになる。

 

 でも……これくらいは、まず令呪を使えるくらいできなきゃ、偽者でもマスターなんか名乗れない!

 

 恐怖を越え、意識を更に魔力に集中。力を感じた腹の奥……この部分は、丹田か? もしくは七つのチャクラの一つで、丹田から少し下にあるパワーの源か。

 

 魔力と思われる力を感じる。その力を使う為に、体を切り替えるイメージ。

 

 僕のイメージ、ドクターに言った腹から感じるパワー。それに関係したこと。

 

 ……パワーの源。形は球体。回路と思われる、生えた根から全身に力を伝える。

 

 ――イメージは根を伸ばし、体を侵食して、別のものに変化していくような。もしくは、球体が赤く光って全身にパワーを伝えていくイメージ。

 

 ドクン、ドクン、ドクンと魔力を感じて――

 

 

(――今!!)

 

 

 赤い球体が根を伸ばし、パワーを全身に伝えていく。

 

 そうイメージした瞬間、身体中を駆け巡る力。細胞の一つ一つを伝わって力が全身にみなぎり、熱くなったような感覚。

 

 魔術回路の起動に成功した……のか? もしや!?

 

 

「マスター! そのまま魔力を私に!」

 

「は、はい! 令呪を持って命ずる、アーチャーに力を!!」

 

 

 令呪を一画消費、エミヤさんへと魔力が伝わる。

 

 準備は完了、前で戦っているサーヴァント二人へ、僕は下がるよう叫んだ。

 

 

「アルトリアさん、キリエライさん! 下がって! エミヤさんの宝具を使います!」

 

「っ、分かりました!」「はい!」

 

 

 スケルトンとシャドウサーヴァントの剣を防いで跳ね返すと、敵から離れる二人。

 

 ――直後、周囲が一変。

 

 空中に剣の大群が現れて相手二体へと降り注ぎ、第三陣のエネミー全てを撃破したのだった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「お疲れ様、藤丸君。初めての訓練はどうだった?」

 

「……ものっすごい疲れました」

 

「そりゃそうだろうね」

 

 

 訓練終了後。シミュレーションルームの隣に設けてある休憩室で、僕と訓練に参加したサーヴァント、ドクターが集まり反省会を行う。

 

 ……ドクターに言ったようにすごい疲れた。緊張していたこと、令呪も使ったのもあるからだろう。

 

 このままベッドへダイブしてしまいたい、とも思うが、訓練の振り返りを行わねばならない。

 

 だるさを見せないよう背筋を伸ばし、皆の話に耳を傾ける。

 

 訓練の結果は、用意したエネミーは全て撃破。味方のサーヴァントに目立った被害は無し。僕は令呪の使用に成功。アイテムも全て回収済み。

 

 

「細かい指摘は色々あるんだけど、知識や戦術はこれから覚えて貰うから置いておいて。まずはよくやってくれたね。令呪も特に問題なく使えたみたいだったし、用意した礼装も上手く発動してくれた」

 

 

 礼装……そう言えば始める前に、調整されたこの魔術協会制服を渡されたけど、普通のと何が違うんだろう?

 

 聞いてみるとすごい答えが返ってきた。

 

 

「その礼装はね、本来備わっている三種類の機能を取り除いてあるんだ。代わりに空いた容量は全て防御と魔術補助の機能に回してある特化仕様だ」

 

「うぇぇ!? 全部をですか!」

 

「そう。全部をね」

 

 

 だから令呪発動の際に、体が熱くなったように感じたのだろうか。魔術補助が発動して。

 

 マスタースキル無しの防御&補助ガン振り礼装……すげぇなコレ。

 

 普通ならここまで尖った性能のアイテムなんて、そうそう作らないだろうし、使わないだろうに。ありがとうございますドクター。

 

 お礼を言うと「どういたしまして」と返された。でも良かった……礼装の補助もあったけど、ちゃんと令呪を使えた。マスターとしてまずは一つ、出来るようになったんだ。

 

 これならフランスでも皆の力になれる、そう思っていると。

 

 

「だがマスター、一つ良いだろうか。令呪を使用出来るようになったのはいい。だが最後の場面で、わざわざ貴重な令呪を切る必要はあったのか?」

 

 

 ……え? エミヤさんどうしてそんなことを言うんですか。

 

 

「確かに君の令呪は、日を跨げば一画回復する。だが先の戦いが実際の戦いならば、序盤で令呪を一画消費することとなる。サーヴァントを相手に、一気に勝負を決めようとしたのは分からん訳でもないが、些か早計だったと私は考える」

 

「それは……確かにそうですけど」

 

「マスター。アーチャーの意見は一理あります。わざわざ令呪を使わずとも、敵のサーヴァントは一騎。こちらの戦術によっては、十分対応は可能だったかと」

 

「う……確かに」

 

 

 言われて思い返すと……そう思えてきた。いくらサーヴァント相手でも向こうは一騎、こっちは三騎。戦い方を考えれば、令呪を使わなくても倒せた可能性はある。

 

 ……うーんそう思うと令呪を使っちゃったのがもったいなく思えてきたぞ。

 

 右手には一画減った令呪。回復するといっても、実際の戦いだったらいざという時に令呪切れ、なんていう事態も考えられる。

 

 ……しまったなぁ。敵がサーヴァントなのにビビって令呪に逃げてしまった。

 

 皆へ頭を下げる。

 

 

「すみません……考え足らずでした……」

 

「まあまあ、そこまで。まだ慣れてない所もあるから、それはしょうがない。これからちゃんと覚えてくれればいいよ、藤丸君」

 

 

 ドクターのフォローが優しい……ホントにありがとうございます……。

 

 ……そうだな。令呪が使えるようになっても、戦いの中で活かせないと意味がない。

 

 マスターとして、やらなきゃいけない事はまだまだたくさん。知識や戦術、体力もつけないと。

 

 ……それでも、まずは令呪を使えるようになった。一つはクリアだ。

 

 まだまだの僕だけど、一歩は前進したこと。それを忘れぬようにはして、これからに望んでいこうと、僕は心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今回はここまで。藤丸君達はしっかり休んでね」

 

「マスター。魔術回路を切り替えたイメージは忘れぬようにな。一度回路を開いておけば、そのイメージで切り替えれるように。間違っても、毎回回路を作るような事はするなよ」

 

「やけに実感のこもったアドバイスですね」

 

「んんっ……!? と、とにかくだ。イメージは忘れぬよう、トレーニングは怠るなよ」

 

「はーい」

 

「ところで先輩。そのイメージは、どのようなものになったのですか?」

 

「イメージ? お腹の奥で、パワーが満ちる感じかな。位置的には丹田と、第一チャクラの間で……そこにある球体が根を伸ばして体が侵食されて変わっていくイメージ

 

「「「「いや怖いよそのイメージ」」」」




本当にマスタースキルが使えなかったらマジで絶望すると思う……書いてて思った。

エミヤやアルトリアの口調はこんな感じで良いのかな?もし変でしたら遠慮なくご指摘して下さい。

今年最後の投稿になります。

2020年、ありがとうございました。
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