へっぽこマスターが物申す   作:剣聖龍

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やっと完成……お待たせしました。

二ヶ月空いてしまい、すみませんでした。

では、どうぞ。


22話

 ▶️《目の前に飛び込んで女の子を助けに行く》

 

 

「――だあぁぁぁぁぁりゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 気づいた瞬間、僕は全力ダッシュで駆け出していた。ワイバーンが噛み砕こうとした女の子へ覆い被さり抱え込む、だが勢いあまってゴロゴロと石畳を転がり、壁にぶつかってようやく止まる。

 

 ぶつかったせいで全身が痛い、けどそんなものは気にしないとばかりに声を張り上げた。

 

 

「キリエライトさんはそのワイバーンを倒せ!! アルトリアさんは近づいてくる個体を攻撃、エミヤさんは弓で上空のワイバーンを撃ち落として少しでも数を減らしてくれ!」

 

「……はい!」

 

 

 女の子を食おうとしたワイバーンを盾で殴り飛ばすキリエライトさん。頷いてくれたアルトリアさん、エミヤさんがワイバーンを剣でワイバーンを斬り、上空の群れに矢を放つ。

 

 僕はワイバーンから逃げながら、胸の中に収まった女の子の様子を確認。……良かった、ざっと見た感じだけど怪我はしていない様子だ。

 

 

「大丈夫だよ……! きっと、きっと助けてあげるから」

 

「う、うん」

 

 

 そこで再び鳴る通信機。聞こえてきたのダ・ヴィンチちゃんの声。

 

 

『……キミ、人の話聞いてた? 自分の命の重さ、分かってる?』

 

「それくらい分かってますよ、僕だって死にたくなんかありません……!」

 

 

 少し呆れたような言い方だった。……確かに、あのままワイバーンに殺されていたかもしれないし、他のワイバーンに囲まれて八つ裂きにされていたかもしれない。今だって手足が震えてめちゃくちゃ怖い……。

 

 それでも、体が勝手に動いてしまっていた。真っ白になった頭で飛び出していた。

 

 キャスターのギルガメッシュが言っていた真実。特異点で死んだ人間は修復されても生き返らない。人に殺されたのなら獣に殺されたと原因が変わるだけで辻褄合わせがされる。そのことを知っていたからでもあった。

 

 けど……!

 

 

「目の前の一人すら助けれないで、世界なんか救えるわけないだろう……!」

 

 

 ただ理不尽に命が奪われるのが嫌だった。それだけなのかもしれない。

 

 一般人の僕が言ったって全く重みのない台詞吐いてる自覚だってある。

  

 でも自分に出来ることなら、その出来ることをやるしかない。そう言ったのだからせめてそれくらいはしなければと、ワイバーンから遠ざかるために必死で走る。

 

 そう言えば皆の、キリエライトさん達の様子はどうなってる!?

 

 

「やあぁぁぁっ!」

 

 

 建物の壁を蹴って飛び上がったキリエライトさんが盾でワイバーンの頭を殴りつける。生物の弱点である部分をサーヴァントの力+武器で殴ったにも関わらず、相手のワイバーンは死ななかった。それどころか火を吐いて反撃しようとしてくる、咄嗟にキリエライトさんは頭を蹴って叩き落とし、アルトリアさんが首を切り落としたことでようやく倒される。

 

 エミヤさんが建物の上から矢でワイバーンを狙撃しているが、一発二発矢が刺さったくらいではワイバーンは死なず、常に群れで襲いかかってくる。

 

 これが本当の敵。本当の生き物。本当の敵……! 

 

 ゲームじゃスカディや孔明のバフかけまくって全体宝具アサシンとかで一掃しまくってたがそんなこと現実じゃ有り得ない。

 

 せめて遠距離攻撃の出来る鯖がもう一人、それか全体攻撃持ちの鯖がいれば……それかクー・フーリンさんに変わってもらった方が良かったか!? ゲイボルクで撃ち落とすとか……!

 

 頭の中でいくつも考えが巡るが、どれもが良いとは思えず、結局それどころじゃないと思考を無理矢理切り替えた。今は女の子を逃がすのが第一だ。

 

 目的地は人々が逃げている先、砦の出入り口付近。馬車が何台も停まっており逃げてきた人が達が乗っている最中だった。兵士達が避難誘導を行っており、僕は兵士さんの一人へ抱えていた女の子を預ける。

 

 

「馬車には老人・子供を優先させろ!」

 

「ラ・シャリテまで落ち延びれば安全だ!!」

 

「この子をお願いします! 親とはぐれたみたいで……!」

 

「あぁ、分かった!」

 

 

 女の子を預けると改めて周囲を確認する。

 

 ワイバーンの襲撃で砦は完全に混乱しパニック状態になっていた。キリエライトさん達サーヴァントと兵士達が抵抗し、避難活動を行っているが混乱が大きすぎて上手くいってない。

 

 人手も戦力も足りてないんだ、こんな状況じゃ……。

 

 そんな中で、誰かの叫びが響き渡る。

 

 

「これは当然の報いだ!!」

 

 

 声の主は一人の兵士。道のど真ん中で両手を広げ喚き散らしていた。

 

 

「オレ達が聖女様を見捨てたせいだ! あの方は竜の魔女となってオレ達を、この国を根絶やしにするつもりなんだ!!」

 

「な、なんなんですかあの人……この状況が分からないんですか……?」

 

「放っておけ。いるんだ、ああいう手合いがな」

 

「いいんですか? あのままで……」

 

「こっちだって今はワイバーンから市民を逃がすので手一杯なんだ。……まだあの『トサカ』どもがいないだけマシだよ」

 

「……トサカ?」

 

 

 気になる単語を聞いた僕は、女の子を馬車へ乗せ終えた兵士さんから可能な限りの情報を聞いた。

 

 ただそんなに長いこと聞くのは不可能、直ぐにまたワイバーンが襲ってきたからだ。

 

 皆の元へ戻ろうと振り返る。その時だ。バシン、という乾いた音。騒いでいたあの兵士が、誰かに叩かれていた。

 

 

「いいっ!?」

 

 

 僕は思わず声を出してしまう。隣にいた兵士さんも口をあんぐりと開けていて、叩かれた兵士は何が起こったのか分からないのか無反応のままでいる。

 

 

「どれほどあの子を知っているかわかりませんが、人の“娘”のことを好き勝手言わないで……!!」

 

(娘……?)

 

「あの子は、ジャネットは決して! こんなことをする人間じゃないわ!!」

 

 

 頭巾を被った金髪の女性だった。顔はよく見えないけど頭巾から出た金色の前髪には見覚えがあり、ジャネットという名前はジャンヌ・ダルクの幼名。

 

 ……まさか、この人。Apocryphaのアニメにも出ていたジャンヌのお母さん!? 

 

 なんでそんな人が、ゲームにはいなかった筈だと思ったが、叩かれた兵士がここにきて逆上し殴り返さんと腕を振りかぶる。

 

 

「テメエ、ふざけんなよこのババァ――」

 

 

 だがその兵士がジャンヌのお母さんを殴ることはなかった。

 

 それよりも先に飛来したワイバーンに首を噛みちぎられ、背骨ごと引きずり出さたのだ。噴き出した血がジャンヌのお母さんにかかり、絶叫。

 

 しかもワイバーンはそのままお母さんを食い殺さんと口を開き、頭を噛み砕こうとする――!

 

 

「や、やめろーーーーっ!」

 

『行ってはダメだ! 死んでしまうぞ!』

 

「だからってぇ!」

 

 

 見過ごせるものか、せめて攻撃を妨害できればと飛び出した僕は、ポケットにしまっていた白い短剣を抜き放つ。

 

 冬木では最後に血を吐いたがエクスカリバーすら受け止めた剣だ。ワイバーンくらいなら、ダメージを与えられるはず!

 

 

『いや待て! 今の君では、そいつに私を使っても……!』

 

「このぉっっ――どわぁぁっ!?」

 

 

 なんて思っていたが、そんな甘い考えと一緒に僕の体は文字通り跳ね返されてしまった。石畳へも叩きつけられる。ワイバーンの硬さは想像以上で、ガヅンとまるで岩に自分からぶつかったような感触。傷すら付けられなかった。

 

 しかも悪いことに、今のでワイバーンの注意が……僕に向いてしまった。

 

 

「グァァァァッ!」

 

「あ……」

 

「先輩っ!」

 

 

 兵士を殺したワイバーンが、今度はこちらを獲物とし大口を開けて迫る、動け僕の体隣にジャンヌのお母さんだっていてでも僕じゃワイバーンに勝てない殺されてしまう死んでしまう嫌だ嫌だ嫌だ動け動け動け――

 

 

「――伏せなさい!」

 

 

 何処かよりの声。反射的に伏せた瞬間、襲いかかろうとしていたワイバーンが粉々になった。

 

 

「ギ、ェェェ……!」

 

 

 まるで大砲かビームにでも貫かれかのように、体の真ん中にでっかい穴が空き、残った頭や翼がバラバラになって飛び散った。

 

 アルトリアさん達でも中々倒せなかったワイバーンを、一撃で。

 

 手にした棒……いや『旗』の一撃で、目の前に現れた存在は僕らを救ってくれた。

 

 ボロボロのローブを纏った謎の人間。

 

 けど正体が誰なのか。何故ここにいるのか。

 

 未だ何が起きたのか整理しきれず、ただ腰を抜かしている僕だったが、原作の知識とローブから僅かに見えた金髪、手にした旗。

 

 それらからローブの人物……彼女が誰かなのだけは、理解して口に出していた。

 

 

「ジャンヌ……ダルク……」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 その後の戦いはジャンヌが戦いに加わり的確に指示を出してくれたことで、どうにか避難していた人達や砦を守り切ることができた。

 

 でも戦いの後、砦の兵士達が彼女を見て騒ぎ始め、混乱を避けるために僕らはひとまず砦から出てそのまま郊外の森へ移動。道中に現れたスケルトンやはぐれワイバーンをジャンヌと共に蹴散らしていく。

 

 

「ここまで来れば安全でしょう。すみません、言うがまま付いてきていただいて」

 

「いえ……」

 

 

 ある程度、森の奥まで進むとジャンヌが足を止め、頭のローブを外すと顔を見せて自己紹介してくる。

 

 

「あらためて自己紹介を。私は“裁定者(ルーラー)”のサーヴァント、ジャンヌ・ダルクです」

 

「っ! ジャンヌ・ダルク……!?」

 

(やっぱりか……)

 

「お待ち下さい! 構えるのは当然ですが……話を聞いてもらえないでしょうか」

 

 

 名前を聞くなりキリエライトさんは驚きながら盾を、アルトリアさんはエクスカリバー、エミヤさんは干将・莫耶を構えたが、ジャンヌはそれを予測していたようでまずは対話を求めてきた。

 

 

「キリエライトさん達は武器を下ろして。とりあえずこの方の話を聞きましょう。今は少しでも情報が欲しいし、この人がジャンヌ・ダルクだとしても、フランスを襲ってたようには見えない」

 

「……マスターがそう言うならば」

 

 

 僕がそれに応じて話を聞くように言うとアルトリアさん達は指示に従ってくれた。開いた場所で丸谷に腰掛け相手の事情を聞く。

 

 

「ジャンヌ・ダルクがもう一人、ですか?」

 

「恐らくは。私の現界……この時代に現れたのは数時間前です。なのでフランスを襲う竜の魔女たりえませんし、もちろんそんな記憶もありません」

 

 

 内容はゲーム通り。自分とは違うジャンヌ・ダルクがいること。ジャンヌが現れたのは数時間前でフランスを襲うことなんて不可能なこと。霊基が不安定で記憶が曖昧であり本来の知識やスキルが使えない、ということだった。

 

 直接話したキリエライトさんはもちろん、見張りをしながらアルトリアさんやエミヤさんも聞いているから、このジャンヌが復活したジャンヌ(オルタ)とは違うってことは分かってくれただろう。

 

 

「ではジャンヌ・ダルク。復活したジャンヌ・ダルクと貴女が違う存在だとして、貴女はこれからどうするつもりなのだ?」

 

 

 そう尋ねたのはエミヤさんだ。

 

 

「……それだけは決まっています。再びオルレアンを解放し竜の魔女であるジャンヌ・ダルクを排除する。啓示は無く、手段も見えず、ただ一人であろうとも。ここで目を背けることはできませんから」

 

 

 迷いなくジャンヌは言い切った。たった一人で、力も弱まっていて、記憶が曖昧なのにだ。自分だったら到底できないだろう、なのにこんなはっきりと決断するなんて……。

 

 ――何があっても、お前は、『一捷(おまえ)』であり続けろ。

 

 そんなジャンヌに冬木でのキャスターのクー・フーリンさんが重なって見えた気がした……と思っていると、ドクターからの通信で我に返る。

 

 

『藤丸君。ここは彼女の、ジャンヌ・ダルクの協力は必須だと僕らは考える。敵もジャンヌ・ダルクだというのなら、今のフランスにおいて彼女ほど強力な味方はいないよ』

 

「……そう、ですね。ならジャンヌさん。今度はこちらの自己紹介を」

 

 

 立ち上がってジャンヌと目を合わせ、自分から順に名乗っていく。

 

 

「僕は藤丸一捷、カルデアのマスターです。隣がマシュ・キリエライトさん、後ろのお二方が僕が契約しているサーヴァントのお二人で」

 

「アルトリア・ペンドラゴン。クラスはセイバーです」

 

「いきなり真名まで明かすのかね。……私はエミヤ、アーチャーのクラスだ」

 

「はじめまして、ジャンヌ・ダルクさん。私はシールダーのデミ・サーヴァント、個体名マシュ・キリエライトといいます」

 

「えっ」

 

「? どうかされましたか先輩」

 

 

 僕、アルトリアさん、エミヤさん、そしてキリエライトさんの順番で自己紹介していったんだが、キリエライトさんの名乗り方に思わず変な声を出してしまった。一瞬何言ってんだこの子と思っちまったよ……。それを他ならぬキリエライトさん本人に聞き返され、他の皆もなんで君が驚くの? と怪訝そうにしている。

 

 いかん、どうにか誤魔化さなければ。

 

 

「い、いえ何でも……」

 

(そうだ。この頃のキリエライトさんはまだ最初だから反応が硬いんだ……)

 

『じゃあ残るはボクらの紹介と、こちらの目的についてだね』

 

「はい、お話を聞かせてくれますか?」

 

 

 ありきたりな対応しか思いつかなかったが、ドクターがカルデアと人理について説明してくれたので、皆の気がそっちに行ってくれ、それ以上僕に突っ込まれることはなかった。ありがとうございますドクター。

 

 ……ただ、なんで僕はこんなことで安心してるんだろうか。

 

 

(僕は……本当にこの先やっていけるのか?)

 

 

 砦のワイバーンとの戦いでさえジャンヌが来なければ危なかった。この先にはサーヴァントやら魔神柱やら人類悪が控えているのに。

 

 今だってキリエライトさんへの対応一つにだって手こずっている。

 

 一体どうすればいいのか、どうすれば良かったのか、ネガティブなことばかりを考えてしまっていた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 ドクターから一通りの説明を聞いたジャンヌは、特異点の修復と聖杯探索に協力してくれる、ということで仲間に加わってくれた。

 

 これで味方の鯖は四騎。彼女とキリエライトさんが揃えば守りを更に固められる。対魔力スキルも高いし呪いを解くことできるから、絡め手を使うアサシンやキャスターなんかが来ても対抗できるだろう。

 

 そのジャンヌさんを加えて今夜はこの場にキャンプを張り、明日の朝一からもう一人のジャンヌ・ダルクを探すことになった。送られてきたレーションで夕飯を済ませた後、設置したテントの中でドクターと情報を整理する。他の皆はというと、キリエライトさんはテントの直ぐ外で待機。アルトリアさんとエミヤさんが交代で周囲の警戒。ジャンヌさんは火の番をしている。

 

 

『色々あったけど、今日は一日お疲れ様、藤丸君。集めた情報はこちらでも調べるから後はゆっくり休んで欲しい』

 

「はい、お願いします」

 

『……と言いたいところだけど。藤丸君、悪いがボクは今から君を叱らなければならない』

 

 

 報告を終えたと思ったが、通信モニターのドクターが険しい表情になりそう言ってきた。

 

 理由は分かる……砦で飛び出したことについてだろう。

 

 

『レオナルドから君の行動は聞いている。目の前で死にそうな誰かを助けたかった、という気持ちは分からなくもないし、その女の子を助けることもできた。……でもね、レオナルドが言った通り、全部の人を助けるなんてことはできないんだ。それは分かるよね?』

 

「……はい」

 

 

 頭巾を被ったあの女の子やジャンヌのお母さんは助けることができた。でも、ワイバーンに食い殺された人はたくさんいる。ゲームでただのエネミー扱いだったワイバーンにだ。

 

 そんなやつなら自分でも倒せる、なんて思いもあって、マオーで斬りかかりもした。結果は散々、僕が死にかけただけだ……。ジャンヌさんが来なかったらあのままどうなっていたか。

 

 本当の戦いで、犠牲を出さない、なんてのは無理だ。誰かが傷つき、死んで、何かが壊れるのが当たり前。それを割り切らなければならない、とドクターは言う。

 

 その通りだ。もしも何の犠牲を出さずに戦えるとしたら、それは大勢の協力や、よっぽど強い力が無ければ不可能なことだろう。

 

 ……もっとも、もし一人でそんなことが出来るヤツがいるとしたら、そいつは人間ではく別の『何か』だと僕は思うが。

 

 

『今日のように、命を危険を晒す行動は本当にそうするしかないのか、実行に移す前によく考えてほしい。ここはゲームじゃない、現実なんだ。死んだら、本当に死んでしまうんだよ、キミは』

 

「……えっ!? いやあの、ドクターそれは……」

 

『心配しなくていい。この回線は通常の通信じゃないから、他の皆には聞こえてないし、記録にも残らないから』

 

 

 ゲームじゃないだなんて何も知らない人に聞かれたら不味い言葉が出てきて焦ったけど、すぐに補足してくれるドクター。

 

 なら良かった……いや、喜んでばかりもいられないか。

 

 

『とりあえず、今日はもう遅い。詳しい指摘は帰還してからだ。まずは明日に備えて、ゆっくり休んでくれ』

 

 

 はいと頷くと通信が切れた。

 

 テントに敷いた寝袋に体を投げ出す。途端に、体が石のように重くなった感覚になる。気を張っていたのが切れたんだ、仕事が終わって家に帰ると似たようなことになるから……。

 

 でもそのレベルは桁違いだ……体もそうだし特に精神面へのダメージは尋常じゃあない。できることなら今すぐ逃げ出したいと考えてしまう。

 

 ちくしょう……最初でこんなんとか、カッコ悪すぎだろ……。

 

 

「……あっ、ドクター達にトサカのこと言うの忘れた……。なーにやってんだもう……」

 

『そう落ち込むなよ。生き残っただけ上々じゃないか』

 

 

 大事な情報だったかもしれないのにとぼやくと、答えるようにマオーが言ってきた。

 

 ……そうだ、コイツにも聞かきゃいけないことがあるじゃあないか。

 

 体を起こしマオーを取り出すと正面へ置く。

 

 

『用件は大体察しがついてるよ。何故ワイバーンに攻撃が効かなかったのか……だろう?』

 

 

 そう。冬木ではアルトリア・オルタのエクスカリバーを受け止めることができたマオー。なら普通のエネミーであるワイバーンには十分効くのではと思っていたのだが、鱗に傷すら付けられなかった。

 

 それは何故なのかと尋ねる。

 

 

『理由は二つ。一つは君と私の力不足。二つ目はあのワイバーンが『原作』、つまり『よけいなもの』じゃあないからだ』

 

「……最初のはなんとなく分かるけど、後のはどういうことよ? 『よけいなもの』って何さ」

 

『それについては…………まだ説明してなかったね。ならば今改めて説明をするとしよう。一言で言ってしまえば、私とキミが倒さなければならない、敵だ』

 

「敵?」

 

『そう。『よけいなもの』とはその名の通り、この世界本来の流れには出てこない存在。冬木で対峙した狂戦士の黒い騎士王がそうだ。エースの黒い短剣によって歪められた姿、あれが『よけいなもの』。私の力とはその『よけいなもの』に対抗するカウンターであり、『よけいなもの』を撃破するための力を作る力。エクスカリバーを受け止めたり、黒い鞘を切り裂いて無効化できたのはその『よけいなもの』だったからなんだ』

 

 

 それはつまり、マオーはその『よけいなもの』なるものに対する薬のようなもの。『よけいなもの』にメタを張る、対抗手段を作ることが可能だと。

 

 

『そういうこと』

 

「じゃあそこまで力があるならなんで……」

 

 

 ワイバーンを倒せなかったんだと考えたが、途中であることに気づいた。

 

 『よけいなもの』だったから、魔の力で歪んでいたから、マオーでエクスカリバーを防げたり黒いアヴァロンを無効化できた。

 

 それは逆に言えば。歪んでいないもの、普通の敵には、効果がないということでは? 

 

 

『その通り。以外と早くそこに気づいたね。ワイバーンを倒せなかったのは『よけいなもの』ではない本来の存在、いわば『原作』だからだ。だから今後襲い来るであろう、この世界の敵対存在には私を使っても意味がないってこと』

 

「え゛っ――えぇぇ」

 

『おいバカ声がでかい! 敵に気付かれでもしたらどうする!!』

 

「ご、ごめん……」

 

 

 大声で驚きそうになったがマオーに厳しく言われ反射的に謝る。どうにか大声は出さずに済んだ、けど。

 

 ガヅン、と巨大ハンマーやら鉄血メイスで頭をぶん殴られたかのような感覚に襲われる……殴られことないけど。

 

 でもそこまで、本当に、それくらいの衝撃だった。

 

 僕はアルトリア・オルタに対抗できたのだから、白い短剣をこれからの特異点でサーヴァントや魔神柱への対抗手段にと考えていたけど……甘かった。

 

 よく考えてみれば、そんな都合のいい力を何もなしに使える訳がない。

 

 しかもここ思い出せよ、ここFGO、型月世界だぞ僕!? 力に関してはどえらい厳しい世界だったわ!! 

 

 

『まー私は型月世界で作られた訳じゃないけど』

 

「良いのか分かんないけど情報ありがとう!!」 

 

『ともかくだ。この先現れる本来の敵には、今の君が使ってもダメージは与えられない。効くのは『よけいなもの』にのみ。これは覚えておいて』

 

 

 そこまで聞いて、再び寝袋に倒れる。甘い考えを砕かれそんな自分に嫌気がさしトドメに体と精神の疲労。

 

 色んなマイナス要素がごっちゃになって、重くなった頭では何も考えられない。集中ができない。自然と瞼が落ちてくる。

 

 

(……このまま目が覚めたら、自分の部屋にいたらいいのに)

 

 

 直前までネガティブな内容を考えたまま、フランスでの最初の一日が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、目が覚めたら。

 

 

「な……なんだあれ」

 

 

 キリエライトさんに叩き起こされ、訳も分からぬまま森を走り、抜けた先で。

 

 空に浮かぶ、巨大な……黒い竜。その周りを飛ぶ無数のワイバーン。

 

 そして更に。

 

 中に混じっている、『トサカ』のついた存在がちらほら。

 

 黒い巨竜は口から火の玉を打ち上げ……その先の町へと落下。

 

 押し寄せる爆風。熱気。衝撃。

 

 何があった、どうなった?

 

 被害を確認する間もなく、僕らの周りに出現する、敵。

 

 

『気付いてくれ藤丸君! 敵がすぐそこまで来ている!!』

 

「――まさか、こんなことが起こるなんてねぇ」

 

 

 降り注ぐように聞こえる上からの声。周囲には五騎のサーヴァント。内一騎は黒いジャンヌ・ダルク。

 

 そして彼女の背後へ降り立つのは、ローブで全身を隠し、()()()()()()()()()()()()()()()存在。

 

 

「はじめまして、になるかなぁ。カルデアの皆さん」

 

 

 フードを外し、顔を露にして謎の存在は名乗る。

 

 

「お、お前は……!!」

 

 

 その顔に僕は驚愕し釘付けにされた。

 

 何故ならそいつの顔とは()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原作の男主人公――『藤丸立香』のものだったのだから……!

 

 

 

 

 

 

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