「おーおーおー。集まってる集まってる……」
一捷達がジャンヌと出会った砦より避難した市民が落ち延びた街『ラ・シャリテ』。
その街を上空にて見下ろすものがいた。全身にローブを纏い背中の翼で滞空している存在……『エース』だ。
エースの背後には無数のワイバーンと漆黒の巨竜『ファヴニール』が控えている。更にその周囲にはエースが“生み出した”頭にトサカのついた人型の存在――一捷が兵士より聞いたトサカの奴ら――が多数滞空しており、主からの命令を待っていた。
「さーて、あの竜の魔女サマどもが気づかない内にやっちゃいますかぁー」
トサカの存在はエースが力によって生み出したものでエースの命令しか聞かない。
だがこのワイバーンとファヴニールは違う。この特異点において、復活したジャンヌ・ダルクにひとまず協力しているエースが無断で、『ある手段』で強引に操り連れてきたのだ。
全てはエースのある目的達成のために。
「テコ入れいとかないとなぁ。こんなところで諦めてもらっちゃあ、かなわねえ」
だが黙って竜を動かしたことが黒い聖女や配下の狂人にでもバレたら色々うるさいし、そろそろバレてしまうだろうと考えたエースは、さっさとやりたいことをやることにした。
右手を高く上げる。
それが合図となり、見たァヴニールが口を開き魔力を溜め込む。口から真っ黒い炎が溢れ、準備完了。
「やれ」
ファヴニールの口から炎のブレスが空高く放たれラ・シャリテの街へと落下。
一撃で、一瞬で、街は火の玉に包まれた。吹き荒れる炎。轟音が響いて衝撃波がやってくる。
煙が晴れれば、市民と街を焼き払われ瓦礫の山と化したラ・シャリテ、だった場所が広がっている。だがこれで終わりではない、次の指示をエースが下そうとしたその時、脳内に念話が届く。
『やっと捉えましたよ……どういうつもりですか貴方は! 無断でワイバーンとファヴニールを持ち出したと思えば、何をしているのですか!!』
『何って、フランスへの攻撃だよ。奴らが避難させた避難民の始末。お前が作ったお人形さんの手伝いをしてやったもんなんだから感謝してほしいなぁー』
『その竜は我が聖女のために呼び出したもの! 貴様のごとき匹夫めが触れていいものでは……!』
『――
『がぁぁ!?』
無断でワイバーンを動かしたのを指摘されたのに苛立ったエースがそう言うと、右腕が黒く光った。途端、念話の相手であるキャスターはそれ以上何も言えなくなる。
『対して役に立てねぇ癖に俺に意見してんじゃねーよ矮小が。それよりオルタと鯖どもを起こしとけ。こっち、喚ぶからよ』
『き、貴様ァァァア――』
黙らせておいて、こちらからは言うだけ言って、エースは念話を無理やり切断。
滞空しているトサカの存在を一つ呼び出し、次なる指示を下す。
「アルファー班とブラボー班は今焼いた街へ降下。アルファーは『目標』以外の生存者の始末、一人も逃すな。ブラボーは『目標』の探索、確保をしとけ」
『了解シマシタ』
グポーン。特徴的な音で目を光らせ、機械音声で返答するトサカの存在×8。背中の翼型スラスターと脚部スラスターを使い、ラ・シャリテの跡地へ降下していく。
続いて振り向いたエースは、眼下の森よりカルデアの奴らこと一捷達が出てきたのを確認すると、右手を突きだし『命令』を下す。
「
五騎のサーヴァントを一捷らの周囲に無理矢理呼び出される。エースはワイバーン、ファヴニールを引き連れて黒いジャンヌの後方へ降り立ち、頭のローブを外した。
「――まさか、こんなことが起こるなんてねぇ。はじめまして、になるなかなぁ。カルデアの皆さん」
◆◆◆
「さ、サーヴァントが、五騎……!?」
一捷達の様子をモニタリングしているカルデアの指令室で、ロマニは早くも訪れた危機的状況に困惑しながらも、どうにか打開策はないかと頭をフル回転させていた。
「うち一騎はジャンヌ・ダルクと酷似した霊基パターンです!」
「加えてワイバーン多数に、巨大な生命反応……! 更にサーヴァントではない、未確認の敵性生命体らしき存在を複数確認! 司令官!!」
「令呪の使用許可を先行して発令! 強制退去の準備もだ、早く!! ……同時に、敵性生命体の登録と、情報収集を開始してくれ!」
(彼我戦力差は絶望的……! だが、こんなところで終わるわけにはいかない……!!)
今更だろうがマシュと、本来は違うという一捷に人理修復を押し付けてしまったことをロマニは後悔していた。どんな理由や大義があったとしても、部外者一人に任せてはいけないことを押し付けてしまったことを、ロマニは絶対に忘れてはならないと心に刻みつけた。
だけども人理修復はまだ始まったばかり。これから一捷達にはこの先、襲い来るであろう厳しい戦いや状況を乗り越えてもらわねばならない。世界を救うために。
そのために、ロマニは彼らがこの状況を打破できる方法を思案し続けていた。
(マシュ……そして藤丸君! 何としてでも、そこから生き延びてくれ……!)
◆◆◆
(い、一体何が……どうなってんだ!?)
もはやその言葉を何度繰り返したか分からないくらい、僕の頭は混乱しまくっていた。
叩き起こされたと思えば、キリエライトさんに背負われて森を出て、上空のワイバーンとでっかい黒竜ことファヴニールの姿を見たと思ったら、街が焼かれるのを目撃した。
いきなりなんなんだ? あの街はどうなった? なんで焼かれた? あそこにいたであろう人達はとうなったんだ?
そう思う間もなく敵に周りを囲まれた。
サーヴァントが五人。シュヴァリエ・デオンにヴラド三世、マルタ、カーミラ、ジャンヌ・オルタ。空にはワイバーンとファヴニール、そして……僕の頭を混乱の渦に叩き込んだ元凶。
何故か藤丸立香の顔をし、背中にはあの翼を生やしたローブの男だ。
(……奴だ。一捷君、奴がエースだ! 私から力を奪い、冬木で君に立ち塞がった黒い騎士だ!!)
マオーにそう言われるなり、僕はローブの男を凝視していた。
……あいつが、エース。あいつが、敵。あいつが、あいつが所長を殺した、張本人……!
冬木での行いに怒りが沸きあがる……! もしもあいつ一人ならば殴りかかっていたかもしれなかった。
そして僕が睨んでいるのに気付いたのか、向こうの方から口を開いてきた。
「なんだその顔は? 俺を睨んでるのか? ハッ、おかしすぎて笑っちまうよ。あまりにも弱いから、睨んでるとすら分からなかった」
「な、なんだとっ……!」
「マスター、落ち着いて下さい。敵の言葉に惑わされないで!」
「そーそー。こんなんでキレてたらこの先命がいくつあっても足りねぇぞー? 雑魚マスターが」
「おっ……お前ぇっ!!」
『藤丸君落ち着け! ……聞こえているだろうか。ボクはカルデアの司令代理、ロマニ・アーキマンだ。そちらのローブの君に聞きたい。君は、一体何者なんだ』
いきなり面と向かって弱いだの雑だザコの言われ言い返してやりたがったが、ここでキレて殴りかかったとしてもどうにもならない。周りのサーヴァントに殺されるだけだ……。
代わりにドクターが通信を繋げエースに何者なのか問う。カルデアにいるドクター達もこれで、冬木に現れた黒い騎士ことエースの存在を確認したことになる。
「俺は………………エース。彼女に、復活したジャンヌ・ダルクに協力している、そっちのとは違う強い、つよぉぉぉいマスターだよ」
『マスターだって!? それにそれは、令呪!』
皆の驚く声、息を飲む声が聞こえてくる。エースがこちらにかざした右手の甲には黒色をしているが、カルデアのと同じ形をした令呪があったからだ。
……その時、上に向けているから腕のローブが少しずれて、腕にも黒い模様が見えた……気がした。
「……エースと仰いましたか。貴方に聞きたいことがあります」
「なんだよ聖女様?」
「貴方がそのジャンヌの、もう一人の私のマスターだと言うのなら聞きたい。彼女は本当に、私なのですか?」
次にエースへ言葉を投げかけたのはジャンヌさんだ。僕とキリエライトさんの前に出て旗を構えながら、もう一人のジャンヌは何故こんなことをするのか。マスターならば知っているはずだと問いかける。
「呆れたねぇ。そんなことも分からない? 聖女だのなんだの言われてても、所詮は田舎の小娘かぁ」
それにエースは僕に言ったように、冬木のときのように。見下した態度でジャンヌさんへ答えていく。
「簡単なことさ。このフランスはジャンヌ・ダルクを裏切った。国を救った彼女を助けず唾を吐いた。だから滅ぼす。それだけのハナシ! 人類主という悪しき種を根元から刈り取りフランスを黙する死者の国へと作り替えること! それが彼女の、竜の魔女サマとなったジャンヌ・ダルクの救国方法なのさ!!」
「そんな……本当にそうなのですか!? 貴女は、本当に復讐を望んでいるのですか!」
「………………」
ジャンヌさんの叫びに当の本人であるジャンヌ・オルタは何も答えない。
ただこちらを見て、ため息を一つつく。
「……問答は終わりでよいでしょう。何せこの者が、私の言うべき言葉をほとんど言ってしまいましたから」
「そーゆーこと。てな訳でこっからは、バトルの時間だぜカルデア」
これから戦うことをわざわざ宣言。それに反応しアルトリアさん達がそれぞれの武器を構え戦闘態勢をとる。
相手のサーヴァントも同様に各々が得物を取り出す。上空にはワイバーンとファヴニールが待機していて、いつ襲ってきてもおかしくない。
「コイツの試運転も兼ねてやるよ。雑魚でも少しはもたせろよな」
エースも武器と思われる灰色のメカニカルな銃を取り出すと何かを呟く。すると奴の体はローブの姿から茶色のアーマーに覆われた姿へと変化した……冬木とは違う姿? 別の戦闘形態があるのか!?
「先輩、下がって!」
「来ます!」
「さぁー始めようかぁ。ゲーム開始だ」
強力で、圧倒的多数で、極めつけに元凶の敵。
無数の力という敵が、混乱している僕を殺そうと雪崩れこんできた。
◆◆◆
「来なさい、“私”。そんな残り滓のような霊基でも戦うというのなら、受けて立ちましょう」
「貴女は!」
戦闘開始。カルデア側のサーヴァントとエースが無理矢理呼び出したサーヴァントが激突する。
ジャンヌの相手はジャンヌ・オルタ。放たれる黒い炎を旗でかき消し、旗同士をぶつけ合う。
アルトリアはデオン、ヴラド三世と剣を交え、槍を切り払う。
エミヤが後方より弓矢で支援。時折飛来するワイバーンを撃ち落とし敵サーヴァントを合流させぬよう矢で行く手を遮る。
マシュは流れ弾がマスターの一捷に当たらぬよう盾でガードしつつ、マルタとカーミラの猛攻を防いでいる。
「ちょっとはやるじゃねーか。なら……俺も行くかぁー」
特に指示を出すわけでもなく眺めていたエースはそろそろ戦ってやるかと左手を翳し、ある言葉を呟く。
「オーダーチェンジ」
「っ、なに……!?」
「オラッ、邪魔だどけぇ!」
「ぬっ!?」「何!?」
「なっ、なんだぁ!?」
アルトリアと戦っていたデオンの姿がいきなり消えて後方に現れ、デオンのいた位置には代わりにエースが出現。鍔迫り合いをしていたアルトリアを、近くにいたヴラド三世ごと腕でなぎ払う。
瞬間移動、いやデオンとエースの位置が入れ替わった。あり得ない現象に大声を上げてしまい思考を止めてしまう一捷。
「おめぇらも下がれや。邪魔だ」
同じようにオーダーチェンジ、とエースが発すると、今度はマルタとカーミラの二騎が後方へ移動し代わりにワイバーン二体が前へ出てくる。
「皆さん!」
「余所見してる暇、あるのかしらっ!」
それを見たジャンヌが加勢しようとするも、相手のジャンヌ・オルタは黒炎で二人の周囲を囲い、邪魔が入らないようにしてしまう。竜が描かれた旗を自身の旗でジャンヌは防ぐが、その場に押さえ込まれてしまい助けに行けずにいる。
一方、最初にマスターと名乗ったにも関わらずわざわざ前に出てきたエース。ワイバーンを操ってエミヤとマシュの相手をさせながら、エース自身も戦闘を開始した。
相手は冬木で戦ったアルトリアである。
「食らえっ、アシッドブラスター!」
右手のメカニカルな銃『アシッドブラスター』から黒いビームを、続けて左手を振り抜き冬木でマシュを倒した三つの衝撃波『サイドスプレッド』を放つ。
ビームと衝撃波をアルトリアは避けながら間合いを詰めエクスカリバーを振るい、エースは左手の装甲で受け止め、鍔迫り合いの形となる。
その態勢でアシッドブラスターを構えるエース。その瞬間、直感で危険を察知したアルトリアは直ぐ様離脱を選び、エースを蹴ってその反動で距離を取った。
「チッ、勘のいい鯖だぜ」
アシッドブラスターの銃口からは黒色をしたビームの剣が展開されており、その場にいたら貫かれていただろう、とアルトリアは感じていた。エクスカリバーを握り直しエースと向かい合う。
「流石は英雄ってか? その銀ピカ鎧を貫いてやろうと思ったのに」
「舐めてもらっては困る。以前は不覚をとったが、そう易々と私を倒せるとは思わないことだ」
「ハッ! 冬木じゃあ盾女ともどもフェザーシックルとサイドスプレッドで沈んでたクセによく言うよ」
そう見下すエースへ今度はそうはいかないと、ビームを切り払ったアルトリアが鋭い横一閃の斬撃を放つ。エースは飛び退いて剣自体はかわすも、風王結界の風によって体は大きく吹き飛ばされた。空中で一回転して着地するエース。アシッドブラスターを肩に担ぎ、少しは満足したと笑う。
「だがまあーそうじゃなきゃおもしろくねえ。この力を使う意味がないってモンだ」
「おもしろいだと? そのように力を振るうことが、貴様はおもしろいと、楽しいとでもいうつもりか」
「アァ! 楽しいねえ!」
当然だと言わんばかりの即答だった。同時にエースは腕で殴り足で踏み潰す動きを大げさに行う。
「デケェ力で群がる敵を蹴散らす。生意気なヤツを黙らせる。言うこと聞かない無能を意のままにできる。思い通りにならねぇ周囲をなんとでもできる。そして俺の気にいらないバカどもをブッ殺せることができるんだ。こんな楽しいことが他にあるかよ!」
恍惚とした表情で言い切るエース。藤丸立香の顔をしたその男は力に酔いしれていた。力という魔力に囚われていた。力こそが全てであり、それによってなんでも思いのままにできるのだと。力で他の存在を従わせ、叩き潰すことが楽しいと本気で語る。エースはそう信じて疑わない。何故ならここに至るまで、自らの力によって反抗するもの全てをなぎ倒してきたから。これからもそうするつもりでいるのだから。
「呆れたな貴様。力に囚われ、まともな思考を失ったと見る」
「戦いが楽しいだと? そのような理由で戦う貴様に、これ以上遅れをとる訳にはいかぬ」
「そんな……力があるのに、自らの欲望のためだけに振るうなんて」
(……しかも何故、その顔で言葉を聞く度に、違和感を感じるのでしょうか……?)
「ほーう。お前らはまだ俺の力が分かってないと。ならー……少しは力出してやらなきゃあなぁ」
「「「ッ!」」」
エースがそう言うと、体より凄まじい闘気が発せられてアルトリア達を圧倒。
続いて今度は、一捷を驚かせる単語を発する。
「――リブラ、エレメント解放!」
「な、エレメント!?」
アシッドブラスターを光に変え収納したエースの体より緑、青、赤、黄。四色の光があふれ出し、その身に膨大なエネルギーを蓄える。
そして右腕には燃え盛る炎を、左腕には水の塊を纏わせ、周囲には突風が渦を巻き始める。
「行くぜぇー騎士王ッッッ!!」
その次の瞬間。エースがアルトリアの目前に出現する。
炎を纏う右腕を振りかざして、だ!
「なっ――」
「モエリング3。焼けろぉぉぉ!!」
「がぁぁぁぁっ!?」
放たれるのは炎のリング。だがアルトリア本体を狙ったのではなく、透明になっているエクスカリバーの方。正確には風王結界の風だ。風によって炎は一気に燃え上がり、アルトリアは炎に包まれてしまう。
彼女はサーヴァント、英霊だ。普通の兵器や武器などまず効きはしない。当然普通の炎などまともなダメージとはならない。
だが、その炎は普通ではなかった。
強力! まるで地獄から漏れでた業火のように凄まじい火力!!
火だるまになったアルトリアをエースは左ヤクザキックで蹴り飛ばす。
「あ、アルトリアさん!」
「今度は貴様だ、盾女ァ!!」
炎の球体を複数形成し、時間差でマシュへと発射する。球体はシールドで防がれるがマシュはその場に釘付けになる。
最後の球体を防いだ瞬間、マシュの背後に現れるエース!
『マシュ後ろだ!!』
「え――?」
「遅い!!」
ぶおんと振り抜かれる右足。黄色いエネルギーを溜め込み、二回り近く膨らんだ回し蹴りが、マシュの右腰を直撃。声すら上げられずマシュはボールのように何回もバウンドしなから吹っ飛んでいった。
「アルトリアさん! マシュ!」
「クッ……
ジャンヌはオルタに抑えられてままだ。後方のエミヤが一捷の前に出て矢を投影。それをドリル状の剣に変えて弓につがえ、詠唱を行う。
しかし、それよりもエースの対応の方が早かった。
一瞬でエミヤと一捷のいる場所に影が差す。
二人の上空に巨大な分銅が浮かんでいたのだ。
「ヘビーウェイト! 潰れろぉっ!!」
「エミヤさん、上だっ!」
「チィ!」
「……ってどぁぁぁぁっ!?」
『バカかねキミは!? キミ自身が避けなくてどうする!!』
エミヤと一捷は地面にめり込む分銅の直撃だけは避けた。
だが移動したエミヤとは違い、一捷は警告しただけでその場にいたままだった。なので分銅の衝撃で体は人形のように飛ばされてしまう。
(不味い、不味い不味い不味い。早く立たないと。なんとかしないと。せめて、逃げないと……いけないのに)
立ち上がろうとする一捷だが頭を何度も打ったせいで意識が朦朧とする。上手く立てない、起き上がれない。
「俺はこっちだぜぇ? 弓兵よぉぉぉ!」
「おのれ、貴様……!!」
残るエミヤにエースは、ビームソードを発生させたした右手のアシッドブラスターと左手から生えるように展開した水の剣『スイゲツザン』の二刀流で斬りかかる。エミヤも干将・莫耶で対抗。
二刀流対二刀流。
高速で繰り出すエミヤの剣を、エースは難なく捌いていく。
「脆いっ、緋水刃!!」
そしてソードに水で形成した刃を纏わせ一閃。干将・莫耶を砕き、続くスイゲツザンがエミヤの右腰から左上にかけてを切り裂く。
「そしてトドメのぉー、血風惨雨!!」
「ぐっ、おのれぇ……!」
生み出した水の塊より、水の針が無数に放たれる。
咄嗟にエミヤは体をひねり後方へ退いたので直撃だけば食らわなかったが、いくつか針を食らってしまい血だるまに近い状態となってしまう。
アルトリア、エミヤ、そしてマシュ。
フランスにレイシフトしているカルデアのサーヴァント全てはエース一人によって戦闘不能、あるいは傷を負わされて、その光景をカルデアで見ているロマニ達は言葉を失うしかなかった。
『そんな、たった一人にサーヴァントが三騎も……! なんて強さなんだコイツは!?』
「フフフフ。そうとも。この俺は強い! 超強い!! この力の威力、しっかり覚えとけよカルデアァ」
誰も言い返せない。戦えるサーヴァントが今、エースの前にはいない。
そのエースは未だ立てずにいる一捷能古とを見て、失望の表情を浮かべる。
「そしてまぁ全く……期待外れも甚だしいってヤツだ。こんなに弱いなら用はねぇよ。ここでくたばれ、矮小」
エースは残る一捷と倒れて動けないサーヴァントをまとめて始末しようと、ソードを切って四つのエレメントの力をアシッドブラスターにチャージ。
「
トリガーを引くと四色・四つの光が撃ち出さる。
それぞれ、赤はカーミラに。
青はマルタに。
黄はデオンに。
緑はヴラド三世に宿り、彼ら彼女らの攻撃に追加属性を付与する。
四騎と一人が一捷達へ狙いを定める。攻撃を食らえば、彼らの命はない。
『オイマジでやべぇぞ! さっさと俺を向こうに行かせろ、坊主達が死ぬ!!』
『ロマニ殿! 早く『れいしふと』とやらを!』
『分かってる!! あぁでもその前に、このままだと藤丸君達が! 早く、強制退去を――』
「遅ぇんだよ! 死ねやぁぁぁぁぁ!!」
カルデアが強制的に一捷達を戻そうとするが、それより早くエースらの攻撃が解き放たれる。
黒いビーム、赤熱化したアイアンメイデン、水の衝撃波、迸る雷、巨大かつ無数の木の杭。嵐のような攻撃の数々が、一捷達を飲み込む――!
「――
「……なにぃ?」
その攻撃が一捷達に届く寸前。割って入ってきた衝撃波と重圧がビームと四属性の攻撃にぶつかり、逸れたり弾かれたりして一捷達から外れる。
それらは上空から飛んできたガラスの馬車より放たれたもの。
小柄な少女が三、男が一人。邪魔をした存在をエースは直ぐに分析する。
(新手の鯖ども……槍と術と騎と狂が一騎ずつか)
「あ、あなた方は?」
「説明は後です。逃げるので、早く乗ってさいませ」
「逃げる、だーぁ?」
馬車から衝撃波が放たれ続けてジャンヌ・オルタらをひるませる。その間に、ガラスの馬に乗った着物の少女がジャンヌを馬に乗せ、倒れていた一捷達も回収していく。
「んなことさせとぉ、思ってんのかよっ!!」
アシッドブラスターより緑の竜巻『コガラシ3』で衝撃波を打ち消し、馬車にビームを撃ちまくる。
ビームが撃ち込まれた地点が焼け焦げ黒煙が立ち上る。その煙が晴れた後には何も残っていなかった。
「逃げたか。まぁいい、最低限の目的は果たした。おい、テメーら戻るぞ」
「勝手に命令しないでくれます? ファヴニール達まで勝手に持ち出しておいて全く……」
エースの指示に従う訳ではないが戦う相手がいなくなったので、ワイバーンに乗り退却を始めるジャンヌ・オルタ達。
自分で勝手に喚んだ彼女らを手伝うわけでもなく、エースは一捷達が逃げたであろう方角に視線をやる。
「今は逃げてろ、矮小。嫌でも俺とお前は戦かわなきゃならねーんだ。そのために、これからもっと苦しませてやるよ」
◆◆◆
「うーん、気持ちのいい空気ね」
馬車から降りると一足先に降りて背筋を伸ばしている彼女、ライダーのサーヴァント『マリー・アントワネット』の姿が目に入る。
後でドクターで聞いた話だと、今いるこの森があるのはジュラといい、ジュラ紀の語源にもなった場所で、フランスとスイスにまたがるジュラ山脈がある、とのこと。
……正直テレビや世界史の授業でチラッとしか聞いたことくらいしか覚えてなかったのは言わないでおく。呆れられたくないので。
それはともかく。
敵の攻撃にやられそうだった僕らをマリー・アントワネット達が助けてくれここまで運んでくれた。まずはお礼を言わないと。
「あの……ありがとうございました。助けてくださって」
「どういたしまして。お怪我はないかしら?」
「はい、僕は大して……ほぉっ!?」
「?」
そう言ってらこちらに近づき怪我がないかを確認してくるマリー・アントワネット……うん。めっちゃキレイ。キリエライトさんの時も思ったけどめっさかわいくてキレイ(二回目)。肌白いし髪もなんか光って見える。あと近くに来た時すっげーいい匂いした……。
『オイ、間違っても口に出すなよ。変態だと思われかねないぞ』
「わ、分かってらぁい、そんくらい!」
「いや誰に話しかけてるのさキミは。というかマリーも離れて。初対面の男に軽々しく近寄りすぎだ」
紫の服を着込んだ男――アマデウスが彼女と僕に距離をとらせる。……マオーの声はカルデアの人達と同様、聞こえてないようだ。カルデア以外の人ならあるいは……って思ったけど、やっぱりエレメントを回収しなきゃダメみたい。あと一応言っとくけど僕は変態じゃあないからね、うん。人並みに性欲はあるが。
「それより君達の事情を聞きたいんだけど――」
「ノン。駄目よアマデウス。自己紹介もせずお話なんて失礼です」
今度はマリーの方がアマデウスを遮り、こちらに自己紹介をしてくる。
「はじめまして。わたしは“マリー・アントワネット”、クラスは“ライダー”です」
「マジか、真名とかクラスも明かすのかい? しょうがない、“ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト”、クラスは“キャスター”」
「“エリザベート・バートリー”、クラスはアイド……“ランサー”よ」
「“清姫”と申します。クラスは“バーサーカー”」
「僕は藤丸一捷、カルデアのマスターです」
「ジャンヌ・ダルク。クラスは“ルーラー”です」
合流したのはこのフランスで味方となる鯖四人。こちらからは僕とジャンヌさんが名乗る。
……でもゲームだと最初に加わるのはマリーとアマデウスだけで、清姫とエリザベートが仲間になるのは戦ってるところを止めてからだったはず。
……僕のせいで色々変わってしまったのだろうか、やっぱり。
心の中で落ち込んでいるとドクターからの通信が入る。
『藤丸君、混乱してるだろうけど挨拶がひとまず済んだのなら、まずはマシュ達の治療が先だ。宝具の盾を用意してくれるかい?』
「あ、はい!」
ジャンヌさん達には森の開けた場所にテントを立ててもらい、その間に僕はキリエライトさんの盾を借りて近くの霊脈に移動。地面に寝かせた盾から医薬品や前に僕へ使った治癒のスクロールがたくさん送られてきて、それらを使ってキリエライトさん達の治療を行う。
幸いなことにスクロールってやつは近づけるだけで発動したので難しいことはなかった。大体の傷はスクロールで治すことができ、後はしばらく寝ていれば魔力供給で回復するだろう、ドクターが言ってくれた。
……良かった。本当に良かった。
エースの最後の攻撃。マリーさん達が間に合わなかったら、僕らは今頃あの世に行ってたのは間違いない。
助かったのはマリーさん達のおかげ。治療が終わると深く頭を下げてお礼を言った。
「……本当にありがとうございました。あの時、マリーさん達が来なかったら今頃僕達は……」
「そんなに畏まらなくていいわ。貴方達が竜の魔女や向こうのマスターさんと敵対していたのはあの状況を見れば一目で分かったことですもの」
「はい……って、え? 待ってください、向こうのマスターって、王妃様達はエースのことを知ってるんですか?」
「知ってるも何も、ここに来るまでに戦ったのよアタシ達。そいつらと」
「配下と思われる妙な兵士も一緒にです」
「その辺りも含めて、互いの情報を交換したいんだけど。どうだろうか航海者さん達。いや、漂流者かな?」
『……分かった。では話そう』
ドクターがカルデアと人理崩壊の危機にあること、特異点修復に動いていることを伝える。マリーさん達の方からは、自分達にはマスターがおらず聖杯そのものに喚ばれたサーヴァントであること。竜の魔女とは敵対していて他のサーヴァントを探している最中に向こうのマスターことエース、その配下であろう『トサカの兵隊』に襲われていたことを話してくれた。
「トサカの兵隊……それって一体、どんな敵なんですか?」
「まず名前の通り、頭にトサカみたいな飾りがある。白色のね。そして兵隊と言うように常に複数で行動していた。僕達と戦った兵隊どもは四体。最低でも二体一緒にはいたよ」
「それでとにかく硬いのよアイツらの体! アタシの槍や清姫の火でも傷をつけるのが精一杯だったわ」
「それと空を飛びます。武器としては腰に差した剣と、弾丸を吐き出す遠距離武器を手にしていました」
「あとは変わった兜を被っていることかしら。目の部分がピンク色で、一つしかないの。中からはどのように外が見えているのでしょうね」
特徴をメモに書き込んでいく。白いトサカがあって全身が硬い。武器は剣と弾丸を吐き出す武器、恐らく銃。空を飛んで兵隊のように複数で行動し、目の部分は一つ目でピンク色か。
…………ジンじゃないのこれ? ガンダムSEEDの。
あ、一瞬バカなこと考えてしまった。ナシナシ、今の無し。
話を聞いて考えるに。多分そういう能力や性質のゴーレムとか、魔術で生み出された存在。そういう類いのものだと思う。
そうに違いない。これまでの所々変わってるし、エースみたいな化け物だっているが、まさか場違いな機械の兵士なんかいる訳が絶対に。
そうだ、そうに決まってる。きっとそうだ。うん。
……何をそこまで決めつけたかったのかは、自分でも良く分からなかった。
もし、後からそれが言えるとしたら……それは僕が『逃げていたから』。
『認めたくなかった』だけなのを、この時の僕ほまだ知るよしもなかった。
『とりあえず情報交換は完了だ。では今後の基本方針だけど、アントワネット王妃達のように聖杯自身の力で召喚されたサーヴァントがいる筈だ。アルトリア王達が回復したら、まずはそのサーヴァント達を探すこと。合流して仲間になって貰えればこちらの戦力も増やすことが可能だ』
「分かりました、ドクター」
『……とはいえ、油断はできない。竜の魔女もこのことは承知だろうし、何より……あのエースという存在がいる。彼らが他のサーヴァントを放置しておく筈がない』
エースの名が出た瞬間、悪寒が全身を駆け巡った。
強い。アルトリアさん達でさえ、手も足も出もなかった。もしアイツが現れたら、今度はマリーさん達や今後出会うであろうジークフリートやゲオルギウスもろとも……。
最悪の想像をしかけたけど不安を伝えてはいけない。周りに自分が辛いこと、不安なことを伝えてはいけない。なんとか顔には出さないよう心の中に押し留めた。
『とりあえず今後、あのエースというマスターに関しては正面から戦わないこと。全力で逃げてくれ。可能な限りエースとの戦闘を避けて、こちらへ十分に味方が集まったら決戦だ。オルレアンを……ひいては聖杯を奪還する』
「……はい」
◆◆◆
「……何もできなかったな、僕は」
夜。中々眠れなかった僕は皆を起こさないいよう、静かにテントから出て近くの森にいた。
口からこぼれるのは自分を責める言葉。
……砦の避難民は皆、ラ・シャリテに向かった。でもそのラ・シャリテは黒い竜に、ファヴニールによって跡形もなく焼き尽くされた。
その中には、僕が助けたあの女の子もいたはず……。
――目の前の一人すら助けれないで、世界なんか救えるわけないだろう……!
砦での言葉が頭の中で反響する。その度に胸が締め付けられるように痛む。
助けられなかった。
自分が言っても重みのない台詞を吐いていると自覚していた……しているつもりだったが、それすら間違っていたんじゃないかと考えてしまう。
『そんなことはないだろう。何もキミの行動全てが、間違ってたなんてことはない。必要以上に自分を責めるな』
「でも……じゃあ僕に何ができるって言うんだよ。敵の一匹すら倒せない僕なんかに、何が……」
ぶつぶつと呟きながら前を歩いていく。けど途中で右足が木の根に引っかかったのかそれとも滑ったのか、バランスを崩して転びそうになってやばい倒れる――!
「危ない!」
「おぉっ……おぉぉ。……ジャンヌさんと、それに清姫さん?」
支えてくれたのはジャンヌさんで、後ろには清姫さんもいた。
「不用心ですよ。こんな夜更けに一人で出歩くなんて。刺客がいたのなら貴方、命を差し出しているようなものですわよ」
「……ごめんなさい」
「ところで藤丸、今誰かと喋っていたのですか。何か話されていたようでしたが」
「そいつはその……なんでもないです。ハイ。独り言とか妄想です」
(いや、それは少し怖いんですけど……)
「………………」
マオーに関しては、今話してもドクター達みたいな反応される可能性が大と見ていた。なのでジャンヌさん達には悪いが誤魔化しておく。ややこしいことになりそうだからな……。
「そう言えば、お二人はどうしてここに?」
「私は、藤丸と同じように眠れなくて。外に出たら清姫と会い、そこで森へ入っていく貴方を見たので、追いかけたんです」
ジャンヌさんが、眠れなかった? ……もしやお母さんのことか。あの避難民の中にはジャンヌさんのお母さんもいたから。
そのことを尋ねることは……しない方がいいと思った。僕は。ただの勘だから違ってるかもしれない、本当だとしたも軽々と踏み込んでいい話じゃないと思った。特に家族や、生死に関わることは。
「……テントに戻りましょうか。あんまり離れてるとドクター達が心配するでしょうから」
「……そうですね」
ここで話を切り上げ、深夜だし戻ろうとしたときだった。
「その前に。一つよろしいですか」
そう言って清姫さんが僕とジャンヌさんを引き止める。
なんでも僕に伝えたいことがあるそうで。
ジャンヌさんには用件を伝えたら戻るので先に戻ってもらって構わないと、一足先にキャンプへ戻ってもらう。
残されたのは僕と清姫さんだけ。
なんだろうか、伝えたいことって。ドクターからの指令か? それかキリエライトさん達か、マリーさん達からの伝言?
「………………」
「…………あのー、清姫さん? 僕に伝えたいことって、一体?」
何故かその清姫さんは中々話そうとしない。黙ったままだ。
それにしても、こんな夜深くに二人きりとは。しかも女の人と。
なんか緊張してしまうというかなんというか……。
『キミねぇ……何を浮かれてるんだよ。さっき清姫に言われてたこと忘れたか』
(う、浮かれてなんかないよ、僕は。ただこんな状況で緊張しないのが無理って奴でさぁ……)
「そうですね。それは――」
だん、と。
体が浮き、背中からぶつかる。
…………何? 何が起こった?
『ッ!! 不味い、殺気だッッ!!!!』
殺気? 何処から? 誰がそんなものを出して……
「単刀直入に聞きます。どうして、
その言葉だけで、全身が凍りつくのを感じた。
なんで? なんで? 何がどうして?
分からない……けど何か言わないと、死ぬ。
僕は、なんて答える?
《この世界を救い人理修復をするためだ、と答える》
《……答えられない。今の僕には、分からない》
今回登場した能力
使用者:エース
流星のロックマンシリーズより、
バトルカード
・モエリング3
・コガラシ3
・スイゲツザン
ボス
・リブラ・バランスの技
・アシッド・エースの武器と技
ノイズ変身
・リブラノイズの姿と能力
落第騎士の英雄譚より、
黒鉄珠雫の技
・緋水刃
・血風惨風