【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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Without friends no one would choose to live, though he had all other goods.

友人がいなければ、誰も生きることを選ばないだろう。たとえ、他のあらゆるものが手に入っても。



 ~古代ギリシアの哲学者 アリストテレスの言葉~



【 急の章 『後悔と激昂と喪失の三重奏(トリオ)』 】

―――― Side Darjeeling

 

 その【空気】に気づいたのが、練習試合の際だった時点で、既に状況は最悪に近いものになっていたのだろう―――。

 

 西住まほの妹が車長を担うⅣ号と、逸見エリカでしたか?あの気の強い娘が車長となったティーガーⅡの乗員たち以外の生徒たちの空気が明らかに違う。

 

 

 ―――いいえ違う。 孤立しているのだ―――彼女が

 

 

 その日の試合に於いて、西住まほが指揮する戦列に乱れはなかった。

撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れ無しという言葉通り、一糸乱れぬ隊列と感心するものだった。

 

 ―――それでも、言い知れない違和感を、盤面から感じた。

 

 定石で固められた盤上に、浮き駒が存在するような違和感を―――。

 

鉄壁布陣に僅かな綻びが見える。そのたびにそこを繕うようにティーガーⅡが、ティーガーⅡの不自然な動きを護るようにⅣ号が動き、盤面は変わっていないように見える。

 けれど気づくものは気づくだろう。そこを衝くことができる者ならばそこを突き崩す。僅かな綻びが出る限り絶対などない。少なくともそれができる人間を二人、私は知っている。

 

 

 天翔エミとⅣ号の活躍が映えることがない場所にⅣ号が配置されている点も違和感しかない。あの娘の高速装填は高等部でも変わらずトップクラスの速度を誇る。

その装填速度から来る即応性、連射性を生かした布陣にすべきなのに、後方に置かれたⅣ号はその性能を活かせないまま模擬試合を勝利で終えるまで後方で燻っていた―――。

 

 

―――苛々する。

 

 

降車する彼女の顔に精彩はない。

 

 

―――苛々する。

 

 

他の乗員たちも皆思うところがあるが何も言えない空気で、車長の西住まほの妹も俯いて何も言えないような雰囲気のまま降車していく

 

 

 

 

―――ああ、苛々する―――!!

 

 

文句の一つも言ってやろうと天翔エミのチームテントへ向かう。その途中で―――

 

 

「―――何なのあのザマは」

 

そんな、声が、耳に届いた。

 

 

 

 

  「俺はただみほエリが見たかっただけなのに 三次 」

 

  【 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ・急の章 】

 

 

 

 

「―――何なの?あのザマは。装填しか能がないのに後方支援もロクに行えないの?真面目にやる気がないの?―――答えなさいよ」

 

 強い語気で、まるで怒鳴りつけるような声の主は黒森峰の上級生だろうか?

対する天翔エミは何も答えない。ただジッと罵声を受け続け、耐えている。

 

 ―――実にふざけた話だ。”射線を塞いでいたのは味方の戦車だろうに”

 

試合を観戦していた人の中でも戦術眼のある人ならば理解しているはずだ。前線で乱戦を行っている車輛がⅣ号の前にごちゃごちゃと溢れていて、後方支援などできる状況ではなかった。

 それを自分たちの失敗など理解もしないでただ責めるだけ―――程度が知れる。

 

「―――天翔エミさん。よろしいかしら?」

 

 サクリサクリとちらほら落ちている落ち葉をわざと踏んで音を立てながら、優雅な姿勢で歩く。相手に威圧感を与えながらも気品を感じさせる貴族の歩き方。その効果は絶大で、黒森峰の上級生たちは怯む様にたたらを踏み、その隙間に割り込む様にして私は天翔エミの手を取り引っ張る。

 

 「さ、色々とお話もありますし―――あちらで一杯いかがかしら?」

 「―――ああ、そうだな。馳走になるよ、フッド」

 

少しだけ安心したような、柔らかい笑みで追従してくれたことに安堵し―――

 

 「―――あら?聖グロリアーナと密会のご相談?余裕があるのね。それとも、黒森峰の情報を手土産に聖グロリアーナに寝返るつもりかしら?」

 

 ―――背中からかかった上級生の言葉にはっきりとした悪意と敵意を感じた。

 

 言い返すことなく先を急ぐ様に手を引く天翔エミをやんわりと止めて、振り返り、生徒Aの方へ微笑みかける。微笑みを向けられた生徒Aが怪訝そうな顔をした。

 

「―――あぁ、失礼――――どちらさまでしたかしら?」

「―――なっ―――」

 

言葉に詰まったタイミングを逃さず、追撃に移る。

 

「―――あぁ、黒森峰の方ですわよね。わかりますとも、天翔エミと同じPJを着ておられますから。ですが失礼ながら、わたくし、貴女のお名前を存じ上げませんの」

「な、何でどこの誰かもわからない聖グロの小娘に名乗らなきゃいけないのよ!」

 

―――頭に脳がちゃんとついてるのだろうか?そんな感想が脳裏をよぎった。

 私の名前も顔もそれなりに有名であるし、昨年は一年生ながらグロリアーナの隊長である【疾風】アールグレイ様の部隊でともに戦場を駆けた姿を見かけたこともあるはずなのだが……いやはや

 

「―――こんな格言をご存知?勉学は光であり、無学は闇である。」

「ソクラテスだな」

 

私の格言に即座にサポートを入れる天翔エミに「よくできました」と返す。と、黒森峰生徒Aは怒り心頭か地面を踏み鳴らしながら詰め寄ってきた。

 

「―――馬鹿にしてるの!?人に名乗らせる前にアンタが名乗りなさいよ!」

 

はぁ、とため息を一つ。―――ここまで待ってあげたというのに、馬鹿ばかり

私は天翔エミの手を離し、黒森峰生徒Aに向き直った。

 

「―――これはこれは申し遅れました。わたくし、聖グロリアーナ女学院で隊長を務めております。ダージリンと申します。よもや黒森峰の方々が我がグロリアーナの隊長の名前すら知らない無学の徒だとは知り得ませんで、ええ」

 

丁寧に挨拶を行い優雅にカーテシーのポーズをとる。案の定、生徒Aがぽかんとしているうちにさらに畳みかける―――

 

「ところで―――先ほどわたくしのことを”小娘”と呼称されましたわね?あら困りました。これは正式に黒森峰の隊長ないしは責任者の方に厳重に抗議を行わなければなりませんわね。ええ、ことが当学院の沽券にかかわることですので」

 

ころころと微笑む私と対照的に生徒Aの顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「―――では御機嫌よう。私も忙しい身ですので」

「―――ちょ……待っ―――」

 

追いすがろうとする生徒Aを手で制して、最後に最高の微笑みをひとつ

 

 

 

「―――申し訳ありませんけれど、ご遠慮願えませんこと?わたくし、忙しい身なので、これ以上邪魔をされるとあることないこと口にしてしまいそうですの」

 

 

 

 何も言えなくなった生徒Aを尻目に天翔エミの手を再び取って颯爽と去っていく。優雅に華麗にを意識した歩き方で―――

 

「―――やっぱお前えげつないわ」

「ええ、ありがとう」

 

笑顔で返す私に「褒めてねぇよ」「あら残念」と言ったやり取りをしながら私たちはその場を去ったのだった。

 

 

 

****

 

 

 

「―――まぁ、助かったよ」

 

そう答える天翔エミの様子はやや元気がなさそうに感じられた。

 

「一体何があったんですの?」

 

私の質問にいつもの軽い調子で話し始めた天翔エミだったのだが―――聞いた私の方が気を使わなければならない内容をあっさりと話していくのはどういう了見なのかと問い詰めたくなった。

 水没した車両を救おうと濁流に飛び込んだ結果、フラッグ車が撃破されて大会十連覇を逃した原因としてほぼ村八分になっている。簡単にかいつまむとそういう話なのだそうだ。

 

 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。

 

 人道に従い人命を第一に救助した少女に敗北の責任を押し付けて他の面々は我が罪に非ずと来た。

 

「まぁ、エリカもみほもいる。まだ大丈夫さ」

 

屈託なく笑う彼女の表情に―――

 

「―――いいと思いますわよ?全部投げ出して、全部捨てて、どこかに逃げても―――例えば……グロリアーナにもまだまだ戦車道選手は貴重ですし―――」

 

そんな言葉が私の口をついて出ていた……

その言葉に天翔エミは―――

 

「え?いや、断るよ」

 

 

―――即答だった。きっぱりはっきりとお断りしてくれやがりました。

 

 

「私って言う叩きやすい的がいるから私一人で事が済んでるんだ。私が居なくなったら滑落した戦車の乗員やみほ、うちのチームのメンバーにも累が及ぶ」

「―――~~!!だから貴女は傷ついても平気だというのですか?!ふざけないで!」

 

 感情のまま吐き出すように怒鳴りつける。この娘にとっては己という存在が路傍の石程度の価値しかないのだろうか?翻って考えると先の生徒Aの叱責も、反論しなかったのは自身が反論することで別の対象へ罵倒叱責が飛び火するのを恐れてという事なのだろうか?

 

「―――仕方ないさ。ここまでとは思ってなかったが、こういう結果になると思ってなかったわけじゃない。それでももし、仮に事前にこうなるとわかっていたとしても、同じことをしただろうさ。だってあの時私が行かなければみほが同じことをしていただろうからね。

 

   ―――ああ、これはみほにもエリカにも内緒だぜ?」

 

 「ここだけの話ってことで」と、再び屈託なく笑う彼女に献身を見た。彼女にとって西住みほ―――西住まほの妹と逸見エリカ、ことこの二人は別格と言っていいほどの過保護の対象なのだろう。それこそ、自分を矢面に犠牲にしても良いほどに。

 

 

 ―――ああ、苛々する―――!!

 

 

「このままでいいと、本当に思っておりますの?」

「―――良くはないだろうな。でも、現状を打破する手段が何もない」

 

 彼女自身は八方塞がりだ。現状を打開する方法があるとしたら、隊長である西住まほ。或いは、黒森峰のOGを黙らせるしかない―――。

 

「―――今日は帰ります。文句の一つも言ってやろうかと思うほど不甲斐ない戦いでしたが、あの様子を見せられて何か言うほど小者になった覚えもありませんの」

「―――そっか。わざわざ悪かった、助けようとしてくれてあんがとさん、フッド」

 

彼女に背を向けてグロリアーナ学園艦へと戻る私の背中に向けてかかる声に応えることなく、私は一人帰路に就いた。

 

 

“ あの子はイカロスよ。絶対に届かない天空に向かって飛び続けようとする愚かな人類の象徴。その結果、彼女の理想が彼女自身に牙を剥く ”

 

 

いつかアールグレイ様が仰っていた言葉が、ぐるぐると胸の奥で渦を巻いていた。

 

 

 行動を起こすにも遅すぎたかもしれない。

 

 けれど、まだ間に合うかもしれない。

 

 

 聖グロリアーナの学園艦に戻り、紅茶の園には向かわず、自室へと向かう。

自室には私がスカウトした少女が一人、装填手としての腕を見込んで引き上げた一年生だ。

 

「おかえりなさいませ、ダージリン様」

 

 一礼する彼女の肩に手を置いて、「ついてらっしゃい」と背を向け歩く。行き先はもちろん。紅茶の園―――。

 

「―――先に謝っておくわ、ごめんなさい。貴女を巻き込んでしまうことを本当に申し訳ないと思う。

 

  ―――けれど時間がないの」

 

「―――?あの、おっしゃっている意味が、よくわからないのですが―――」

 

彼女の困惑を無視して紅茶の園の扉を開く。サロンのようになっている内部に居並ぶOG会のお歴々の前に彼女の背を推して送り出す。

 

「―――御機嫌よう皆さま。 唐突ですがわたくし、この度この娘に冠名『オレンジペコ』を与え、紅茶の園に参加させたいと思っておりますの。どうか宜しくお引き立てください」

「―――ふぇ!?だ、ダージリン様!?」

 

唐突に過ぎる展開についていけない彼女の肩に手を置いて、「いいからカーテシーで一礼なさい」と耳打ちする。ぎこちない動きだがきちんとできているようで何よりだ。

 冠名の下賜はつつがなく行われ、彼女は『オレンジペコ』になった。

紅茶の園を退室した後で、再び彼女、オレンジペコに頭を下げる。

 

「―――ごめんねオレンジペコ。貴女を味方に引き入れる必要があったの。

 

 ―――あとは、アッサムと……アールグレイ様が後ろ盾になってくださるようなら……」

「―――あの……私は……いえ、ダージリン様はこれから、何をなさろうとしておられるのですか?」

 

恐縮そうに尋ねるオレンジペコに、私は―――彼女が思わず短く悲鳴を上げるような、貴族的な微笑みを浮かべた。

 

 

「―――半年。いいえ、“3ヶ月以内に紅茶の園を掌握するわ”

 

  世論を味方につけるにも、足を引っ張る連中は邪魔でしかないもの」

 

 

 

―――どうかできれば早まらないで欲しい。私の手があなたに届くまで

 

 

 

 

******

 

 

 

―――Side Emi

 

 

──月──日

 

あの日以来黒森峰に俺の居場所は無くなってしまった。

方々から怒鳴り散らされ生徒たちからは非難の眼差しを向けられる。

親しかった友達も大半は離れた。この状況に陥って俺が思ったこと

 

―――原作大洗(第一話)でのあのみぽりんの闇がクッソ深い言動とか病んだ目とかこれが原因だろ確実に。

 

心からみぽりんを助けられたことをよかったと思える。そのくらい周囲のやり口が陰険で陰湿に過ぎる。

 

 

──月──日

 

 明日は聖グロとの練習試合がある。が、事前の布陣を見ると俺とみぽりんのチームは本来の部隊を解かれ、後方支援側に配属されていた。割り当ても端っこの端っこで、砲手の子も遠距離を狙う砲撃なんかはやったことがないし、これはちょっとないわ。と思ったが、まほ隊長が何も考えずにこんな編成を組むとは思えない。

おそらくは他の有象無象の声を無視できない事情からしばらく大人しくさせて置こうという配慮を含んでいるのだろう。

 

 

──月──日

 

 大 乱 戦 スマッシュパンツァーズ 開 幕 !

もうね、前線が一丸となって突撃する電撃作戦を真正面から受け止める浸透強襲戦術の前に、後方支援?なにそれおいしいの?状態である。

そもそも支援砲撃などやったことがないのがチームみぽりん。だってみぽりんもエリカも潜伏思考か突撃思考で支援とかそういうの考えないんだもの。

一先ず友軍が側面から奇襲とか受けないように動いてフォローはしてみるが、前線の連中こっちの射線とか全く考えないで動いてやがる、なんなのこいつらふざけてるの?後ろから撃っていいの?エリカが同じ戦車に乗っててしかもキレてたら撃ってたよ?(多分)

 

 試合はまほ隊長が敵フラッグを撃破し勝利。―――したのだが、試合の後でまほ隊長の取り巻き気取ってるパイセンに絡まれる俺イベント発生。ひょっとしたら原作でみぽりんが同じ目に遇ってた可能性があるかもしれない。俺GJ

 とりあえずこの場はなぁなぁで済ませないと砲手の子とかに飛び火すると思ったので黙って聞いてたらダージリンが割り込んできた。―――と思ったら今度はパイセンがダージリンに絡んでいた。

 

  ―――なんで?(焦り)

 

 え?パイセンその人知らないの?ダージリンだよダージリン。聖グロの隊長に就任してたよね?チャーチルに乗り換えた時これでもかってくらい目立って車上で優雅にティータイムしてる姿とか月刊戦車道に載ってたよね?

ダージリンも「こいつは何を言ってるの?」って顔で俺を見てきてるし。

 

「―――こんな格言をご存知?勉学は光であり、無学は闇である。」

「ソクラテスだな」

 

思わずペコったよ!(ペコる:オレンジペコの役割に立ってダージリンの格言に対して発言者の名前を説明で入れるリアクションを取ることを指す動詞)案の定パイセンがキレたよ!

 

オイオイオイ、死んだわパイセン(確信)

 

 そこから先はもう蹂躙劇だった。正式なご挨拶から入り相手がリアクション取れないでいる間に畳みかけるように責任問題になりますよ宣言。そして俺の手をひいてその場をさっさと離れようとし、追いすがる相手を一蹴。ついでに死体蹴り。

 

「―――やっぱお前えげつないわ」

「ええ、ありがとう」

 

―――褒めてねぇから(迫真)

 

 

・追記

 ダージリンに色々説明したところ「逃げてもいいんだよ?」と優し気な声をかけられた。だがすまんなダージリン。俺はまだみほエリを為しえているとは言えない。ここで逃げるわけにはいかないんだ(キリッ)

 実際問題、ここで俺が逃げを打ったらみぽりんに被害が及ぶ、確実に。

それだけは避けなくてはいけない。俺が消えるとしたらその辺の根回しをエリカとまほ隊長にやってからだ。

 去り際のダージリンの思いつめた表情に嫌な予感がした。余計なことはしないで欲しいんだがなぁ……下手な介入をするとバタフライエフェクトでなにが起きるか想像もつかん。

 




急の章はあと2話くらい?

クオリティを維持し続けるのは難しいと本気で思うであります(未熟
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