【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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>>> Side Emi

 ―――行く当てがあったわけではなかった。

ただ、そう―――ただ漠然と「次の行動(プランB)を起こさなければ」と感じていただけだったのだ。運の悪いことに、決勝戦で長雨に撃たれていた俺とまぽりんはともに風邪をこじらせて倒れてしまい、暫く二人とも絶対安静として面会謝絶となっていた。俺は結局、まぽりんに別れを告げることもできなかった。置手紙だけを残して部屋を飛び出して、ただ突き動かされるまま“大洗”へと向けて学園艦をも飛び出していた。


「――――何やってんだよぉ俺はさぁ……」


 そうして正気に戻った俺は行く当てが完全に行方不明状態で一人ぽつーんとリストラリーマンのおっちゃんよろしくブランコに腰かけている。
時期はまさに先日高校生大会決勝が終わった後、季節はまだ―――秋口にもなっていない。


 お分かりだろうか……?“まだ原作が始まっていない”ということを。


 脊髄反射にも程があったわ……しかも戻ろうにももう学園艦は駿河港を出て沖合に出ているころであろう。戻ろうにも戻れない、かといって行く当てもない。何で俺はこんな中途半端な時期に学園を飛び出してしまったのか……

「―――もうそろそろ日が暮れるけれど、迷子かしら?おまわりさん、呼ぶ?」
「あ、いいえ、大丈夫ですんで――――」

 キィキィとブランコを揺らして黄昏れていた俺に声が掛けられた。どうも小学生か何かと勘違いされたようで、適当に返してどっか野宿のアテでも探しつつ大洗近辺で職探して食いつなごうか などと考えて顔を上げた俺は―――

「……あら?“虎の翼”じゃない?もしかして、学園艦に乗り損ねたの?」
「―――あー、えっと……すいませんけど、何も言わずにそちらの学園艦に暫く置かせてもらえませんか?行く当てが、ないんです―――」

 ―――ここが“神奈川県”(聖グロのホームグラウンド)だったことを、目の前の女性(アールグレイパイセン)の存在で漸く気づくことができたのだった。




【 まほルート 第八話 「渦巻く“答え”(SPIRAL ANSWER)・後」 】

天翔エミ(おれ)決勝戦後(あれ)から大洗(ここ)まで 』

 

 

******* JC → JK

 

 

 

―――戦車道高校生大会準決勝   黒森峰女学園 対 聖グロリアーナ女学院

 

 

 

「こういう時、どんな顔で相対したものかと……ずっと考えておりましたわ」

「―――そうか」*1

 

 相対するのは黒森峰の隊長、西住まほと、聖グロリアーナ隊長、ダージリン。

 

「よもや“貴女だけの黒森峰”と戦うことになろうとは思いませんでした」

「―――そうか」*2

 

 まほの返事は変わらない。同じ言葉を、同じ抑揚で繰り返すように。

けれどダージリンはこらえきれない様子でくすくすと笑い始める。怪訝そうな顔をするオレンジペコと、まほの隣の逸見エリカを気にすることもなく、耐えきれなくなったかのように紅茶のカップをオレンジペコに預け、身体をくの字に折り曲げるようにしてくつくつと笑っていた。

 

「……はぁ、失礼……お見苦しいところをお見せ致しました」

「―――構わない」*3

 

 まほの短い返事に少しの時間をおいて、また「くっ」と噴き出す手前のモーションに陥ったダージリンは必死に耐え、平静を装ってその場に立つ。

 

「本当に……あの子の言ったとおりね。理解できると楽しいものだわ」

「―――そうか」*4

 

 先ほどまでと同じやり取りだが、まほの声のトーンが若干下がった。ニコニコと笑顔のダージリンは、まほではなく隣のエリカへと視線を向ける。

 

「貴女が新しい副隊長ね?隊長さんの言うことは、しっかりと聞いて居ないといけませんわよ?」

「―――そんなの!余所者のアンタに言われる筋合いはないわよ!!」

 

 声を荒げるエリカを手で制して、まほが顔を上げた。その視線がダージリンを射抜くように真剣味を帯びる。

 

「……親切心からの忠告ですのに……ああ、これは所謂余計なお世話、というものかしら?」

「―――だろうな」*5

 

 まほへ顔を向けながらそう言ったダージリンへと短く、だがハッキリとした拒絶の意志を見せるまほ。その様子にダージリンは肩をすくめてかぶりを振る。やれやれと言った様子で。

 

「……ダージリン。君には感謝しているが、それとこれとは別の話だ」

「―――ええ、わかってますわ」

 

 互いに握手を交わし、戦意を滾らせた視線をぶつけ合う。

 

「―――決勝で、待たなければならない相手がいる」

「―――決勝で決着を付けなければならない相手がおりますの」

 

2人とも決意を口にして、その場を離れ試合前の礼に入る。

 

 言葉にしてはいなかったが、この場の誰もが感じていた。

 

―――彼女たちが決勝にやって来る事を信じて待っている相手が、同じ人物なのだということを。

 

 

 

******* JK → X-days After

 

 

 

 「ごきげんよう、ダージリン」

「……ごきげんよう、アールグレイ様」

 

 入室してきたアールグレイに若干躊躇いを見せながら答えるダージリンに構わず自分の席へと優雅に座るアールグレイ。ここは聖グロリアーナ学園艦。数日前に荷物の積み下ろし等の補給を終えて神奈川を出航し、今は海洋上を進みながら次の寄港地までの艦上生活の最中であった。そんないつもと変わらぬ状況の中、ダージリンはいつもと変わらぬ飄々とした態度のアールグレイに不満を隠せずにいたのだった。理由は勿論―――アールグレイが「拾ったの」と言って連れて帰ってきた一人の少女のことである。

 

「あの娘を……どうなさるおつもりですか?」

「なぁに?気になっちゃってるの?」

 

 さらりと言葉を返すアールグレイにダージリンは鋭い目を向ける。冗談ではなく張りつめた空気に、お茶の用意をしていた下級生たちが給湯室に引っ込んでしまっていた。

 

「―――私が聞きたい答えはもうお分かりですよね?でしたら、きちんとお答えを戴きたいのですわ」

「きちんとと言われてもねぇ……私は何も強制しないわ。あの子が事情を話さない以上は無理に聞き出すつもりはないし関わらない」

「しかし―――」

 

 アールグレイの言葉に反論しようとしたダージリンを手で制して、アールグレイは紅茶のカップを傾ける。カップに残っていた紅茶で喉を潤してほうと一息吐いて―――改めてダージリンを睨む様に鋭い目を向ける。

 

「個人的な干渉までは止めないわ。けれど、恩義をかさに虎の尾を踏む行為は優雅ではないわ……前に言ったでしょう?口は禍のもと、よ」

「―――彼女は、一体何をしようとしているのですか?」

 

 ダージリンは呟くように問いかける。アールグレイはその問いに答えない。

 

「……私は、あの子の才能が活かされない今の状況が、どうしようもなく嫌なのです……」

 

 吐き捨てるように漏らした言葉は誰に向けたモノでもない。ダージリンはそのままフラフラと紅茶の園を退室していった。後に残されたアールグレイは空のカップを傾けて、後から中身が入っていないことに気付いて顔を僅かに顰めて天井を見上げる。

 

「―――それでも、相手の意志を無視した押し付けは……余計なお世話にしかならないのよ、ダージリン……」

 

 アールグレイの言葉はその場にいないダージリンに届くことはないし、アールグレイ自身、ダージリンの成長のために自身で気づくべきものだと思っている。

 それでも、居たたまれない気分にただ呟かずにはいられなかった。

 

 

 

******

 

 

 

 聖グロリアーナの学生寮。その一室で、俺こと天翔エミはただ何をするでもなくぼーっと天井を見上げていた。

 やることがないわけじゃあない。日々部屋の中でトレーニングは続けているし、己へのセルフピロシキとしてここに来て数日は指を対象にピロシキを敢行していたくらいだ。まぁ、セルフピロシキに関してはアールグレイパイセンが「次そういうことやったら四六時中私の部屋かダージリンの部屋で監視付きで過ごしてもらうから」と割とマジな調子で脅されたので封印されているのだが……

 

 ―――まぁ、俺がこうしている理由はただ一つ、自分のこれまでを振り返っているだけである。タイムリミットはみぽりんの行動を確認できるまで。

 

 みぽりんが大洗に向かわないに越したことはない。或いは俺の行動により俺が悪者になってみぽりんへの圧がちょっとでも減ってれば御の字なんだが……それをするなら俺は黒森峰にとどまって悪意をずっと浴び続ける必要があったんだよなぁ……

 

 ……何故俺はあんな無駄な行動を……(ミッチー感)

 

 こうして考えれば考える程思考はデフレスパイラルに沈んでいく。黒森峰を飛び出したこともあるが、何より先の大会中の独断行動―――俺は結局のところ、まぽりんのことも、みぽりんのことも信じていなかった。俺が信用したのは原作で起きたイベントだったのだ。

 実際に、みぽりんの護衛についていた赤星さんの乗ったⅢ号は崖から滑り落ち、フラッグ車はみぽりんが救助に向かった間に討ち取られた。だが、そんなことが起きるなんて誰も思っていなかった。なのに俺は桟道に向かうみぽりんの報告を聞いた瞬間に、もう無理だと考え衝動的にヤークトを飛び出してみぽりんたちの下へと走り出していた―――情けねぇことに俺はみぽりんが桟道に向かったと聞いたタイミングでもうその末路を想定してしまい正気を失っていた。

 みぽりんを護りたかったのならまぽりんとタッグを組まずにみぽりんの護衛にでもおさまっていればよかった。まぽりんを放っておけないなら、みぽりんが桟道に入る前にプラウダを全部蹴散らすつもりでまぽりんと一緒に突撃かませばよかった。なのにそのどっちも選ばなかった、選べなかった結果がこのザマである。ツーラビッツ・ノーラビッツと何度も己に言い聞かせていたというのに、どちらかを見捨てた時点でみぽりんが曇る結果がありありと想像できてしまった時点で俺自身が詰んでいたともいえるのかもしれない。

 あの時点で最善の選択は、事故が起きることを理解してても結果が出るまで無視し、まぽりんと一緒に突撃かまして事故が現実になる前に敵を鏖にしてやる勢いで戦い、そのうえでもしも解決までに事故が起きてそれが原因で敗北してしまったのなら、その後で改めてみぽりんを守護るというものだったのだろう。

 だが時すでに時間切れ……いや本当に何故俺はあんな……(エンドレスエイト)

 

 ―――そんなこんな考えても仕方のない自問自答の半分引きこもりの日々が半年ほど続いたある日のこと……年が明けて正式に紅茶の園を引退したアールグレイパイセンから「黒森峰に動きアリ」という報告が届いた俺は、紅茶の園へとやってきたのだった。

 

「おじゃましゃーす」

「邪魔するのなら帰って、どうぞー」

 

 パイセンの返事に「はーい」と一回扉を閉める、お約束お約束。扉を開けて戻ってきたらダージリンがものすごく何か言いたそうな顔でこちらを睨んでいた。

 長期間顔を合わせる機会に恵まれて初めて分かったことだが、このパイセン随分と素っ頓狂な性格をしている。「何も言わずに学園艦に匿ってくれ」と言ったのは俺ではあるが、それを真っ向からオッケーしてそのまま学園艦までハイエースしてきた上本当に何一つこっちの事情を尋ねることなく、また、他の面々にもそれを徹底してきた。

 

「―――西住流だけど……フラッグ車の車長だった西住みほを放校処分、という方向に舵を切ったようね」

「……やっぱり、そうなっちゃったか」

 

 そうなるんだろうなぁという予感はしていたのでするっと口から言葉が飛び出していた。結局のところ原作の修正力というのは過程がどう転ぼうとそうなるようになっているということなのかもしれない。

 

「まるでそうなるだろうと分かっていたかのようね?」

「まさかだよ。まぁ、いくつか考えてたパターンの中でも最悪ではないにせよ、割と悪いパターンだったけどな」

 

 ダージリンの皮肉めいた物言いにそう返すと少しこっちを見る目が険しくなった件。聖グロで亡命生活()を送っている実に半年以上の間、こいつとは度々ぶつかり合っていた。正直どんどん思考が落ち込んでいく中、適度に思考をぶった切ってくれたという点では感謝してもいいかもしれない。どうしようもない思考の落とし穴で藻掻くよりは幾分かマシと言えただろう。

 

「ちなみに、一番悪い展開は?」

「―――まほが全ての責任を取る形で西住家や黒森峰など周囲の反対を押し切って西住を捨てて逐電する」

 

 ダージリンは絶句して、パイセンは面白そうに口元を歪めた。

 ダージリンの目が「現実的ではない」と言いたげな様子なのだが、ぶっちゃけまぽりんの糞真面目でぶっ飛んだ思考を理解しているなら正直どう転んでもおかしくなかったんで最悪のパターンとして考えていたりする俺である。勿論、本来ならそうならないようにストッパーが存在するのだが……当のストッパーに成りえる役割が何も言わずに消えた俺という有様では暴走の可能性がありありと予想できたんだからしょうがないやん……こっち来て初日に片手の指を残らずあらぬ方向へ圧し曲げても当然の報いだと思うやん……暫く日常生活に微妙に困ったけど。

 

「GI6からの情報によれば……西住みほちゃんの転校先は大洗女子高校。学園艦ではあるけれど、戦車道は廃れてもう存在しないみたいね」

「ありがとうございます。―――それと、これまでありがとうございました」

 

 一礼する俺に「ああ、やっぱりねぇ」とでも言いたげな表情で、でも何も言わないアールグレイパイセンにもう一度頭を下げて退室する。

 

「―――お待ちなさい」

 

 俺を呼び止めたのはダージリンだった。

 

「勝手にやってきて勝手に居座って勝手に出ていく……どこまで無法を働くのですか躾のなってない猿ですかこのゴリラ!」

「―――迷惑かけたな」

 

 強い口調で言葉を浴びせるダージリンへと一度だけ、深く頭を下げる。ダージリンの立ち位置はさっきと変わらない。距離にして1メートル、そこに物理的な壁でもあるかのように踏み込んでは来ない。それ以上の言葉もないダージリンに背を向ける。もう俺がここを出ていくことは決定事項なのだと理解しているから。

 

「既に廃れた戦車道を1から立て直すのは至難の業よ?」

「んな事ぁわかってるさ」

 

 背中越しにかけられた声に、背中を向けたまま答える。「でしょうね」と呆れた様な、諦めた様な声が聞こえる。また必ず戦車道で戦うことになると確信しているのだろうと、何となく理解できた。

 

 

 

―――実はこの後大洗に向かった俺はみぽりんが転校してくるよりも先にたどり着いてしまい、その結果生徒会の面々とひと悶着あったり、廃校問題を先に聞かされたり、廃校問題への対策中にみぽりんが居合わせてしまったりと色々と酷いことになったりもしたが……まぁおおむね本編軸で進んでいったのだ。うん……

 

 

 

 

*1
「“そうか”もしれないが、それはそれ、これはこれ、だ。互いに思う所があろうと良い試合にしたい」

*2
「エミを預かってもらっていたのだし、彼女が黒森峰に戻るだろうと思っていたのならばそれも“そうか”。だが、実際はこうなってしまったんだ。期待に沿えず申し訳ないな」

*3
「不意に笑いがこみあげて来るなどという情緒不安定な動作も、よく見るものだとエミも言っていたので“構わない”」

*4
「“そうか”、エミが教えたことを理解できる人物が多くて素直に羨ましいと思う。が、それはそれとして何だか気恥ずかしいものだな」

*5
「ダージリンには申し訳ないが、エリカが自分で気づいて自分で得るべき答えだ。他所から手を加えてはいけない“だろうな”」




>>> Side Nishizumi

 ――年――月――日

 エミがいなくなった。何も言わず、何も残さず、ただ家具だけがそこに残っていたため、一縷の望みをかけてその部屋にとどまった。
 寮の消灯時間に至り、すとんと腑に落ちるようにして「エミはもういない」のだと理解した。

 ―――涙を流すことなど、何年ぶりだろうか……?


 ――年――月――日

 エミの部屋で朝を迎えた。一夜が明けるとより一層確信を覚えて心が沈む。
 だが、落ち込んでもいられない。私は西住まほ、黒森峰を支える隊長で、西住流を背負わねばならない身だ。弱さなど見せていられない。
 そうして立ち上がって、ふと気づいた。陸の学校だったころは一人で戦うことが基本だったが、学園艦にやってきてからはずっとエミと一緒だった。

 西住流における自身の戦車道が、たちまちに揺らいでいくような錯覚を覚えた。

―――私はいつから「エミありき」の戦術に頼っていたのだろうか?


 ――年――月――日

 人の口に戸は建てられない。エミがいなくなった噂はすぐに広まった。
訓練でも練習試合でも、些細なところで齟齬が生まれ隊列に乱れが出る。悪循環を感じずにいられない。
 エミがいなくなった弊害がそこかしこに現れる。私はどれだけエミに依存して生きていたというのだろうか……?



 ―――私はどれだけ、彼女に負担を強いていたのだろうか?




 ――年――月――日

 みほがいない。エミがいない。中核を支えるべき屋台骨が消失した黒森峰を支えてくれたのは―――みほが助けた赤星小梅という生徒と、中等部からその優秀さを見せていた逸見エリカだった。
 エミと一緒にヤークトティーガーに搭乗していたメンバーがエミの代わりに糾弾されるかもしれないため、私はエミの話題を強く自制し胸の内にとどめた。結果、エミのことを話題にする生徒は居なくなった。少しでも彼女たちの負担が減らせていればいいのだが……



 ――年――月――日

 一度黒森峰に寄港して、実家で謹慎状態だったみほと対面する。
エミがいなくなったことは―――言えなかった。
 母にエミのことを相談し、その上でもう一度母に頭を下げる。

「どうか私に、もう一度西住流としての指導をお願いします」と。



 ――年――月――日

 補給が終わり、出航の日。黒森峰の皆を集める。
皆に私の考えがきちんと伝わってくれているかどうかなどわからない。私にはこの生き方しかなかった。それを皆に分かるように仲介してくれていたエミはもういない。けれどもう、自身を矯正することもできそうにない。
 『黒森峰の戦術を見直し、変革を行うべきかもしれない』と、提案をする。
 『だが、私は西住流の人間だ。これ以外の戦術は邪魔になるし、これ以外の戦術は無駄と切り捨ててきた。皆が違う戦術を知りえるのならば、それを私に提唱するのならば、どうか教えて欲しい。努力は惜しまない』と強く訴えた。
「隊長は隊長です。私たちはそれについていくだけです」
と、逸見は言った。周囲も、これまでの黒森峰で、西住流の黒森峰で行くべきだと賛同しているようだった。

 皆が支えてくれるのならば、私はこの道(西住流)を征こうと思った。

もしもこの道が間違っているとすればきっと―――――きっとエミは―――(この先はぐちゃぐちゃに塗りつぶされている)




******



「―――変革を、すべきかもしれない」

 西住まほの言葉にザワザワとざわめく周囲を手で制して「静まりなさい」と声を上げたのは逸見エリカだった。静まった周囲を確認して、視線で次を促すエリカに軽くうなずきを返すまほ。

「だが私は西住流だ」

 しんと静まりかえったその場に、淡々とまほの言葉だけが響く。

「これ以外を知らない。これ以外できない」

 何かに苦悩するように顔を歪めるまほ。苦悶の表情にも思えるそれを、エリカも周囲の皆も、天翔エミを想ってのことだと思った。
 皆が何も言えない中、エリカが一歩前に出た。

「―――隊長は隊長です。私たちはそれについていくだけです」

 ―――エリカのその言葉に呼応するように、「私もです」「私も」と声が上がる。それはいつの間にか歓声となって周囲を包んでいた。




 ――年――月――日

 黒森峰を西住流で纏め上げる。規律で縛り統率する。そうすることでしか今の学園の戦車道の質を保てない自分の無能さに嫌気が差す。
 こんな時エミならばどうするだろうか?
そんな考えばかりが脳裏に過ぎる。削ぎ落し、研ぎ澄まさなければならない。

 以前は連絡を取り合っていたものだが、あの日以来疎遠になってしまった千代美からは音信がない。彼女も元気でやっているだろうか……?



 ――年――月――日

「我がグロリアーナにはそぐわない野卑なゴリラが一匹、半年ほどこちらで過ごしておりましたの」

 聖グロリアーナとの練習試合の後で、ダージリンがそんな話を切り出してきた。
普段から礼節をもって接する彼女が「ゴリラ」と揶揄する人物など一人しかいない。

「―――今もか?」
「いいえ、彼女が出て行ったからこそこうしてお話をしておりますの」

 ダージリンの言葉に棘を感じるのは、間違いではないだろう。

「―――君と聖グロリアーナの皆に迷惑をかけて申し訳ない。そしてありがとう」

 学園艦を飛び出して、その後どこで何をやっているのかもわからなかった彼女の手がかりにはならなかったが、無事に生活していられたのならば何よりだ。思わず気分も高揚もしよう。


 立ち止まっていたエミは歩き出した。きっとこれはそういうことだ。


ならば私は彼女に恥じない自分であろう。そして彼女に尋ねるのだ。

なぜあの時突然いなくなったのか、何故私から逃げるようにいなくなってしまったのか。




 その答えはひょっとして、みほにあるのではないのか?


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