【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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*** 聖グロ出発 → 大洗女学園新年始業式


 >> Anzu


 ――月――日

 冬休みが明けて、始業式を迎えた。あと3ヶ月ほどで二年生が終る。
 高校生として最後の一年。振り返って約二年、色々なことがあった。
 水かけ祭りとか、泥んこプロレスとか、あんこう踊りとか……馬鹿らしいお祭りだったけど、みんなでやると楽しいものだった。
 最後の一年―――良い一年になるといいなぁ……。


 ――月――日

「突然だが、転校生を紹介します」
と、始業式の翌日はそんな担任の言葉から始まった。
 紹介されてやってきたのは子供のような身長の子。いや、私も人のコト言えた義理じゃないけどさ……?
 【天翔エミ】と名乗ったその少女のことが妙に気にかかった。
どっかで見た気がするんだよねぇ……どこだったっけ……?


 ――月――日

 “虎の翼”じゃん!?なんで関東に来てるのさ!?何で黒森峰転校し(やめ)てんのさ!?
色々聞きたい気持ちはあるけどどうにも聞いていい話かもわかんない。黒森峰を辞めて大洗まで来たってことは、戦車道から距離を置きたいってことなんだろうし……
 でも一体全体、何があったって言うの?あんなに楽しそうに戦車道してたじゃん。西住まほと一緒に。


 ――月――日

 1年生の教室前でウロウロしてる不審者がいた。
っていうか天翔さんだった。何やってんの?
「―――馬鹿な……こんなことが……」
とかなんとか呟いてフラフラどっかに歩いて行った。なんだったの?ホント。

その日以降なんか天翔さんが死んだ目をしていた。うちの1年生に誰か探し人でもいたのかな?


 ――月――日

 ―――ふざけた話をされた。呼び出された先で、文科省の辻さんとやらに実にふざけた話を語られた。
 この学園艦も、学校も、全部なくなるって?大人の都合で?
「戦車道のプロリーグ、及び世界大会に向けての計画なので」
そう言われてハイそうですかって引き下がれるはずがないでしょ?
この年齢まで過ごしてきたんだよ。この学園艦で、この学校で、やってきたんだよ。

―――やってやろうじゃん。優勝すればいい話でしょ?

戦車道でさぁ!!!


 ――月――日

 思いっきり啖呵を切っては見たモノの。生徒会予算案をいじくりまわしても、結局とこ無い袖は振れない。
戦車一台買う予算なんか捻出できない。それに戦車道を始めるための準備も重要だけど、メンバーも探さなきゃいけない。
 新入生へのクラブ活動・選択必修科目のためのオリエンテーションの時間を取って大々的に宣伝とか、特別依怙贔屓な条件もつけちゃうか!
 とにかく、やれるだけのことはやってみるしかない。

―――それと後は……【彼女】を勧誘しなきゃいけない。彼女が味方に付いてくれるなら心強い。なにしろあの黒森峰のレギュラーメンバーだったんだから。



【 まほルート 第零話 「TRYアングラー(あんこう)」 】

『 ~エミ(おれ)(わたし)と、時々しぽりん(おかん)~ 』

 

 

****** >> Emi

 

 

 ――月――日

 

 数か月早かったorz

そらそうよね。みぽりんが放校処分受けてから、皆に転校伝えて学園艦を降りて、家で荷造りしてーの、住居決めてーの、大洗に向けて電車なり車なり、はたまた船なりで行くとしてもタイムラグあるよね……俺ってホント馬鹿……(さや感)

 ノリノリで2年生の教室でご挨拶して、とりあえず一週間我慢してみぽりんの教室に状況確認に行ってみた結果……誰もいないの。

 

 みほエリは……みほエリはどこ……?ここ……?

 

 

 ――月――日

 

 死んだ目のまま数日授業を受けていたらしい。どうにもこうにも意欲がわかない。どうしようもない。みほエリウム欠乏症で記憶すらも曖昧になっている気がする―――だが、みぽりんの力になって、今度こそみぽりんを守護り、最終的に黒森峰に戻るフラグを確立するためにも、まだ倒れて死んでいるわけにもいかん。

 

 とりあえず毎日のトレーニングは欠かさず続けていたらしい。無意識に(謎)

 

 

 ――月――日

 

「天翔ちゃぁん。ちょっといい?」

そんな感じで猫なで声でやってきました生徒会長。先日なんかお呼ばれしてどっか行ってたことから考えると、おそらく文科省の通達云々のフラグったやつだろうか。原作だと春先だったかと思ったが……誤差かな()

「来年度から戦車道復活させるからさ、戦車道取ってよ」

ってのが本題だったんだろう。ただこっちの事情をある程度類推してたっぽく、迂遠に迂遠に回りくどく確認しつつ話を振って来る会長に

「もう一度ここで戦車道ができますか?」と思わず食い気味にせかしてしまった件。

反省せざるを得ない。

 

 

******

 

 

「―――もう一度、ここで戦車道ができるんですか?」

 

目の前の少女、天翔エミは角谷杏の両肩を掴む様にしてそう言った。

 生徒会長である杏の両脇に控えていた河嶋桃、小山柚子の二人はエミがそのまま杏につかみかかろうとしていたのかと誤解して、思わず引きはがしてしまったのだが……そんな状況を見えていない程に杏の脳内で目まぐるしく情報の整理が始まっていた。

 

「もう一度戦車道ができるのですか?」と、彼女はそう言った。

杏は天翔エミについてあまりにも知らなすぎたことを悟っていた。エミのことは戦車道について国を挙げて沸き立っているから知っただけだ。雑誌に紹介されていた国際強化選手の話。西住まほ、そしてその相棒ともいえる存在としてピックアップされた少女、天翔エミ。

 黒森峰から転校した理由も定かではない。しかも転校してきた転校元は【聖グロリアーナ】となっていた。

 訳が分からない。けれど今はこの縋る手を掴んで引き上げることが必要だった。

 

「―――来年度からスタートするからさ。必要になりそうなもの、そろえなきゃなんだよ。戦車も今のとこ自動車部が把握してるのはガレージにひとつだけみたいだしね」

 

杏はそれだけ告げてその場を離れた。エミのことをもっと調べる必要性を感じていた。

―――それから数日後、角谷杏は天翔エミが起こした事件。黒森峰決勝戦での行動を知る。

 

 

―――プラウダに二重包囲され、西住まほと分断されて後、ヤークトティーガーから離脱。戦線を放棄して逃亡。その後、フラッグ撃破による黒森峰の敗北―――

 

 

 戦車道における通信記録などは本来開示されることはない。通信記録には作戦用の暗号・作戦コードなどが使用される場合があるため、それを流出させるということは通信傍受などで作戦内容が割れる危険を孕んでいる。そのため黒森峰女学園の会話内容は秘匿されたままの決勝戦でのエミの行動が記録として残るすべてだった。

 

 

 

******* 大洗女子学園新年始業式 → 原作第一話~

 

>> Anzu

 

 

 ――月――日

 

 敵前逃亡。それが退学の理由?聖グロリアーナで戦車道を続けられなかったのもそれ?

 「それはおかしい」と、思った。天翔エミの情報を集めるため行った雑記掲載の記事の切り抜き、月間戦車道に乗っていた彼女のインタビュー、西住まほやその周囲の生徒がインタビュアーに語る天翔エミの性格、そして何より「彼女を擁する黒森峰」と戦ってきた他の学園の名だたるメンバーの彼女を評価する声。

 それらすべてが『あの状況で西住まほを、全ての生徒を見捨てて我が身可愛さに逃げるなどありえない』と結論付けるに十分だった。

 まぁいずれにしても戦車道経験者でプロ顔負けの装填技術を持ってる人間。スカウトしないという選択肢なんかないんだけど……

 

 

 ――月――日

 

 新学期からの新入生・編入生に戦車道経験者がいるかどうかを河嶋に調べさせていたら、超ド級のレアモノが紛れ込んでいた。

 

 西住みほ。あの『(ティーガー)』西住まほの妹。

 

 天翔エミについて調べてた時に大体の情報は手に入っている。

 決勝戦で水没した味方車輛を助けに向かったフラッグ車の車長。勝敗よりも味方の安否を気遣うところは注意が必要だけど、指揮能力の高さ、戦車道の経験、それらは群を抜いている。絶対に必要な駒だ。

 「彼女は絶対にスカウトすべきです」と河嶋も言っている。希望が見えたことで河嶋にも小山にも笑顔が増えた。

 ―――守らなきゃいけないんだ、私は。

 

 

 ――月――日

 

 西住ちゃんを勧誘した日の放課後、オリエンテーションを行った後で天翔ちゃんが生徒会室にやってきた。

 「みほには最初から本当のことを言ってもらえませんか?」

 そんな風に言う天翔ちゃんにはこっちの裏の事情まで筒抜けのようだった。

 最近挙動がおかしかったのは西住ちゃんに顔を合わせづらかったとかそういうのかもしれないな、と思ったり……まぁそれはどうでもいいんだけど。

 どこまで知っているのかわからなかったし、とぼけつつ質問してみたらこっちの廃校・廃艦問題まで知っているようだった。

 

 ―――失策があったとするなら、それを西住ちゃんに聞かれてしまったことだろう。戦車道の紹介動画を流すにあたって見せ札として紹介した天翔ちゃんの姿を見て思わず生徒会室に突撃してきちゃったらしい。西住ちゃんと天翔ちゃんの関係性を甘く見積もってた部分はある。けどまぁ、結果的に天翔ちゃんの望みに沿う形になったし、いいんじゃないかな?

 

 

****** >> Miho

 

 

「―――エミ……さん……?」

 

 戦車道の動画を終えて、壇上で説明を続けている生徒会長さんの言葉も耳に入らない。私の目はただ真っ直ぐに、壇上の生徒会長の横で微妙に所在無げに立っている少女―――黒森峰でお姉ちゃんと一緒にいるはずの天翔エミ先輩に向けられていた。

 

 オリエンテーションの後、沙織さんと華さんの言葉も耳に残らない。何も考えられない。どういうことなのか、何もわからなかった。

 

「―――ごめんなさい。確かめなきゃ―――!!」

 

 悩むよりも先に駆け出していた。生徒会長のところまで、真っ直ぐに。

あの時と同じように、反射的に駆け出していた。

 

 生徒会室の扉の前で、一度深呼吸して息を整える。ノックの手間も惜しいと扉を開けて中へ―――

 

「―――天翔ちゃんの言う通りだよ。この学校を廃校から救うために、戦車道が必要なんだ」

 

 

 

 

   ――――――えっ?

 

 

 

 

 

****** >> Emi

 

 

 ――月――日

 

待って。ちょ、待って(動揺)

ごめんこんな展開予想してない。マジ勘弁して……!!

 

 

 ――月――日

 

 計算外だ―――!!なんであのタイミングでみぽりんが……!?

 いや考えれば当然なんだけども……壇上に立たされたのは俺で、紹介もされた。名前も出された。他人の空似ではない。

 

結論:普通どういうことか問い詰めに来るわな。

 

 プラウダ戦でいきなり暴露されるよか多少は胃にやさしい可能性があるのと、俺のせいでかなり極まった感があるまぽりん相手に大洗戦力の底上げするのにみぽりんに早めにKAKUGOをキメさせておかないとまずいと感じたのは確かだが、もう少しやりようあったんじゃないかと今更思っている。これはケジメ案件ですわ……戒めの意味も込めて小指一本の関節をコキャッと外しておく。近いうちに蝶野教官呼んで「戦車、乗ります」があるし、戦車探さなきゃいかんしで指イわしてると参加できなくなるからね。本格的なピロシキは後日だ。

 

 

 ――月――日

 

 昨日は家に帰り着くなりみぽりんからのお電話ラッシュ。わざわざ携帯買い替えてエリカやまぽりんからの連絡もシャットアウトしたんだが流石に教えないわけにもいかんかったからしょうがない。なお聖グロでお世話になっているころに買い替えのためにダージリンに付き合ってもらったのでダージリンも番号を知っている。かかってきたことはないけど。

 色々聞かれてぼかしぼかし答えつつ会話してるんだけど……みぽりんの追及がどっかの紅茶好きな特命の方並みに切れ味鋭くて草()

 なんなの?みぽりんのこの変に勘の鋭いとこマジなんなの……?

 「もしかして、わたしのせいなの?」みたいなこと言われたのでそこは全力で否定しておく。みぽりんのせいとか言ったら確実に曇るのは自明の理すぎる(確信)

 

 結論として色々ゲロることになりました(観念)

 

 ただ俺も詳しいこと知らなかったんだけど、雑誌とかだとあの決勝では俺が敵前逃亡したことになってるらしい。まぁその分みぽりんの風当たりが弱くなってれば別にその辺は構わないと考えてたんだが、なんかみぽりんは決勝の後学園艦に乗らずに西住の実家で謹慎食らってたらしい(衝撃)

 どういうことなの?え?エリカどうなったの?みほエリの波動どうなっちゃったの??みほエリ……どこ……??どこなの……??

 

 ―――やばい、まぽりんなりエリカなり事情を知ってる人に連絡したい。でも俺から連絡するのは拙い。ジレンマで胃に穴が空きそう。病むぅ。

 

 

 ――月――日

 

 指導と練習をこなして数日、桃ちゃんが聖グロと練習試合を纏めてきた。

予想外なほどに食い気味に「よろしくてよ!」とオーケーしてくれたらしい。

 あの時の去り際の言葉通り、俺が戦車道を復活させて来ると信じて疑ってなかったらしい―――戦車道復活させたの俺じゃないけど!!

 

 

 ――月――日

 

 聖グロとの練習試合。結果はまぁ―――言わずもがな。

いくら俺やみぽりんという経験者が居ようと経験者の数で言うならあっちは全員歴戦の戦士たちである。

 兵士が凡庸でも将が優秀なら……という意見もあるが、相手はあのダージリンだ。みぽりん相手に(原作では)唯一公式に負けたことがない相手である。まぁ負けて元々の試合だったので会長的にも善戦した方だと思ってるようだった。

 

 あ、あんこう踊りは楽しかったです(雑感)

 

 

 ――月――日

 

 高校生戦車道大会抽選会。黒森峰とは逆ブロック。原作通りの配置におさまった。―――こっちを見るまぽりんとエリカの表情が正面から見れない。怖い。

 帰りにみんなで戦車カフェで談笑中、原作通りにまぽりんとバッティング。

こう、色々と足りないところは相変わらずらしい―――俺居なくなってみんなとちゃんとコミュニケーション取れているんだろうか……?エリカがいれば安心なのかもしれないけど、かなり心配になる。まぽりんがこの状態になったのはきっと俺のせいだしなぁ……指一本くらい圧しっておくべきだろうか?(使命感)

 

 

 ――月――日

 

 サンダース前の偵察に向かう秋山殿を途中でキャッチ。会長の許可貰って生徒会のバックアップ込みで潜入ミッション。

 まぁ盛大にバレて逃げる羽目になるんだが―――。

 

 情報は持ち帰ることができたし問題はないだろう。

 

 

 ――月――日

 

 サンダース戦。特別特筆すべきところはない。

原作通りに稜線射撃できっちり仕留めて終わり。

試合後の「おばぁが倒れた」イベントと「私たちのヘリを使って」も正史に従い起きてる。問題はない。

 

 あるとすればまぽりんの言語能力が明らかに圧縮度に磨きがかかってきている点だろうか……?これその内俺にも理解できない部分まで進化を果たしてしまうかもしれない……もうやめてしぽりん!まぽりんの語学力はゼロ(に近い)よ!!

 

 

 ――月――日

 

 アンツィオ戦。手前の潜入ミッションには申し訳ないが秋山殿だけで行ってもらった。何の事はない、後回しにしたかっただけだ。

ここ最近大洗で楽しく過ごし過ぎてたために記憶の隅っこに追いやっていた。俺のやらかしてしまった罪。

 俺がしでかしてしまった決勝での敗北。これによりアンチョビのメンタルがえらいことになってた可能性―――つまるところはまほチョビの可能性の寸断―――!

 

 それを確認するのが怖い。どうしようもなく恐ろしい。

 ぶれないことを選択した以上俺はその一件に対して命でペイすることができない。それが申し訳ない。

 

 

 ――月――日

 

 アンツィオ戦。38tの中にも慣れてきた。

ちょっと原作改変した影響でみぽりんも俺もめっちゃ焦る羽目に陥ったが勝敗を覆すほどではなかった。

 試合の後、皆で乾杯する。わだかまりを解くためにわざわざ心を砕いてくれたアンチョビマジドゥーチェ。これは尊敬する(確信)

 

 

 ――月――日

 

 嫌な夢を見た。あの時のどうしようもねぇ俺の夢だ。

俺は結局のところあの時どうしたかったのだろうか?あの日何を思っていたのだろうか?まぽりんの誘いをどうしたかったのだろうか?

 今更考えてもどうしようもないことなんだが考えずにいられない。

 

 

 ――月――日

 

 プラウダ戦を前にカモさんが加わり、俺の乗車がルノーに変更された。

上級生ということでみぽりんと物理的に距離があるのであまり一緒に時間が取れないため、みぽりんのメンタル関連はさおりんに一任されてしまっている現状。さおりんのオカン力に期待せねばならない。

 まぁ原作ではみぽりんのメンタルを完全に補強し軍神まで強化した実績がある。俺が下手に手を出さずとも大丈夫だろう。

 

 ―――夢見が悪い。眠るとあの日の夢ばかり見るようになった。これはきっと俺が俺自身に目を逸らすなと言っているのだろう。

 

 

 ――月――日

 

 プラウダ戦。試合前も試合後もカチューシャはカチューシャだった。

ノンナ曰く「態度を変えたら貴女が気を使うと思っているのです」だそうな。

俺としてもしおらしく謝られても今更困るしカチューシャがそんな態度とか自分になんか色々赦せない気持ちが湧いてきてしまうので非常に助かる。

 「実は廃校がかかっているんだよ!!」「な、なんだってー!?」 という暴露を受けた一同のメンタルだが……まぁみぽりんとさおりんがどうにかしてくれたようだった。

 

 

 ――月――日

 

 ポルシェTと三式中戦車を加えたとしても戦力差があまりにひどい。

加えてまぽりんは西住流としての個を鍛え上げてきているようだし、かなり分が悪い。状況がハードモード過ぎる気がする。運営はよ!

 

 

 

 

 ――月――日

 

 待って。待って(震え声)

ごめんなさい許してくださいあのね、違うのマジで違うの。あの時はほら私正気じゃなかったって言うかねほらあのね?まぽりんにもさよならいってないから順番的にもね?忘れてたわけじゃないんだよ?わたしみんなのこと(モブとしては)大事に思ってたし大切な仲間だと思ってたよ?でもほらあの時はね?時間の関係とか事情とかこみいってたしね?あのr―――(これ以降文章になっていない文章が続く)

 

 

 

 

 ――月――日

 

 ヤークトティーガーと“フリューゲル(ドイツ語で『翼』という意味)”小隊が大洗に加わりました(白目)

俺の胃も天元突破しそうです。助けて。

 黒森峰でエリートとしてやってきたんじゃん。その5年間蹴って大洗に転入とかマジで人生踏み外してんじゃん。俺の責任が重大過ぎんじゃん……orz

 どげんかせんといかん ってことで震える手でまぽりんに電話。

 

 結論:まぽりんマジ神だった。大天使マホエル降臨

 

 何とまぽりん、話を聞いてすかさずヤークトティーガーの廃棄申請改竄の書類をそのまま正式に受理したうえで、件の4人の短期転校手続きを申請させていた件。マジ助かった!!さすまほ!!

俺の「ありがとう。助かった」に対して、「礼には及ばない。あの子たちのことをよろしく頼む」と返すまぽりんは心なしか嬉しそうで、やっぱまぽりんもあの4人のことを気になってたんやなぁ……立派な隊長やないか……と思わずほっこりした。

 

 

 ――月――日

 

 鳴り物入りでやってきたヤークトティーガーだが、部品取り用に置いておかれたのは伊達ではなく、ところどころ部品が足りない状態だったのか、動かすと危険と判断された。

 申し訳なさそうにしてる4人の方々よご安心為され。大洗が誇る最強のメカニックを紹介しよう!!というノリで甘味をデリバリーしつつ自動車部に拝み倒して修理してもらう。

 旋盤で部品削り出す匠の技に通信手の子とか信じられないものを見たような顔をしていた。やっぱり黒森峰から見ても異常なんだなぁ自動車部……。

 

 

 ――月――日

 

 いよいよ明日は決勝戦。明日の朝には富士演習場へ到着する。

今からエリカやまぽりんだけでなくあの日別れも告げずにいなくなってしまった黒森峰の皆と顔を合わせると考えるとクッソ気が重い。胃が痛い……血ぃ吐きそう。

 

 

 

 

 

 

 

 ――月――日

 

 

 

 

 

 

 




 ****** 大会決勝戦前夜 → JC~JK(天翔エミ出奔まで)
>> Nishizumi



 西住しほは悩んでいた。原因は我が娘、西住まほにある。

 陸の学校(小学生)のころから優秀で、西住流としての心得をしかと叩き込み理想の西住流体現者として成長してくれた。
 だが、それが中等部に進級し、学園艦に乗った矢先に敗北し、その相手と友誼を結んだという。まるで状況がつかめない。
 しかし情報を問い質そうにもまほは既に学園艦とともに海の上、戻ってくるのは最短でも3ヶ月は後になるだろう。



  ******



 実家に戻ってきたまほは溌溂としていた。生きる気力に満ち溢れていた。
その様子を見てしほは理解した。まほは、これまで勝って当然の生き方をしてきた。そんな中で、負けて悔しい思いよりも「自分が勝てない相手」と出会えたことを喜ぶ気概が彼女をより一段高みへと導いたのだと。
 ならば、と、しほは考えを改める。自分に今できること、まほが一番必要とするべきもの。
 ―――西住流として、より高みを目指すためのさらなる薫陶を―――!



 ******



 まほを負かした相手は、天翔エミ。
 車輛が停車状態であれば3秒未満でヤークトティーガーの装填すらやってのける。しかも二人がかりで装填すべきその車輛の装填をたった一人で仕上げてしまう怪物だった。もしも彼女が体格に恵まれ確りとした重心を得て居れば行進間射撃を3秒未満で行うヤークトティーガーという無双の怪物が生まれていただろう。
 まほとの関係も良好。突撃するまほとそれを砲撃支援できる連射が可能なエミのコンビネーションは、高校生のレベルで言うなら脅威の一言に尽きる。

 ―――どうにかして西住流に取り込めないか、という考えだって過る。



 ******



 安易に言葉を弄するのは悪徳。それが西住の女として生きる上で必要な事。
 男尊女卑の考えが長く続いた日本ならではの大和撫子の定義は「夫を立てる女子であるべし」。故に無駄なことを口走り、お家の窮地を招くことは避けねばならず、夫より弁の立つ妻が居れば夫の立つ瀬がない。黙って夫の三歩後を行きその功名の立役者であり続ける。
 その弊害として、言葉少ななになることは避けられない。隊長として寡黙であることは孤立に繋がる。孤高の存在として皆の模範であることは、孤独と隣り合わせなのだ。

 ―――けれどまほにおいてはそんなことを心配する必要は皆無と言えた。

 彼女を理解して、彼女のために動いてくれる親友がいる。
 天翔エミ。彼女の存在がまほを支え、まほのために下を統制し、黒森峰を一枚岩にしてくれる鎹の役割を担っている。公私においてパートナーとして申し分ない働きを見せるエミを、しほが疎んじることなどありえなかった。

 だが、危険視をする派閥がいることもまた事実だった。



  ******



 首輪をつけるべきだ。 誰かが言った。
 天翔エミに首輪をつけるべきだ。彼女は危険だ と、声が大きくなった。
 連覇を続け、安定を求める唾棄すべき者たち。取り除こうにも理由が薄く、代わりもいない要石。しほが座して眺めることしかできない相手。それが声高に主張している。天翔エミを【管理】せよと。
 彼女の存在はまほを支える稀有なものだ。故に彼女を押さえることができればまほの進退を決定づけることができるし、実質、黒森峰の全体を支配できる可能性すらある。だからこそしほは敢えてエミに触れることをせず傍観者の立ち位置に徹していた。
 大人が学園の戦車道の在り方に下手に手を出しても彼女たちの成長を阻害することしかできないから。
 まほが西住流として薫陶を下級生に授け、下級生がそれを手本に西住流を学ぶ。これは構わない。だがそれを『強要』してはいけない。生まれながらの西住流であるまほやみほには他の選択肢を選ぶことはできないだろうが、真っ新な原石にそれを強要することは彼女たちの成長を無視して型に嵌める行為であり、そんなことをしても劣化品が出来上がるだけ。無意味に人材を浪費することに繋がる。

 西住の家に生まれたみほが、西住流宗家の教えに合致しない性質をしているように、人の成長は千差万別なのだから。



 ******



 決勝戦での顛末を聞いて、しほは頭を抱えていた。
 ボタン一つを掛け違えたことで起きた連鎖的な瓦解と言える。戦況と通信記録、そしてそれらを照らし合わせて見える『天翔エミが見ていたであろう戦場の光景』を見た場合、彼女の取った選択肢は―――正しいか間違いかを考えるとどちらとも取れなかった。

 結果としては『滑落した車輛の救助にフラッグ車の車長が向かう』という前代未聞の行動による敗北。
 それよりも『敵前逃亡したヤークトの乗員の行動による連携の途絶。それによる西住まほの不落の伝説の崩壊につながる危機』を重要とする声。

 意図は読めている。天翔エミに責任をかぶせることで彼女に物理的に『首輪』を付けようというのだろう。西住流が便利に使える駒として彼女を適宜『管理』するために、汚名返上の機会を恩義に彼女を縛ろうとしている。

 しほの行動はそれに反するものでも迎合するものでもなかった。

 みほの処遇を早期に決定。その上で沙汰がある謹慎という名目で実家に隔離し学園艦から引き離してもとに置いた。みほが悪意に呑まれてしまうことをまほもエミも望んではいないと感じたがゆえに。
 そしてエミに責任が集中する前に、みほを放逐という手段で『責任の損切り』を行う必要があった。西住家としての責任の取り方として愛娘を放逐する。まほにも意図が理解できているはずだ。


 現状、【親友(エミ)(みほ)、どちらかしか助けることはできない】。そして、まほの今後に必要になるピースは、前者であるということ。


 そのうえでしほには打算があった。みほの内にある才能は西住宗家の教えでは開花するかも危うい。加えてみほは戦車道に対するトラウマすら持っている可能性が高く、その回復には時間がかかる。
 みほ自身が自分の道を決める。その時間を与える意味でも、黒森峰に置いておく必要性は薄く、黒森峰にとってもみほは爆弾だ。外に放逐する必要性はあった。


西住しほにひとつ悪手があったとするならば、この一手。その『順番』にあった。


 もしも西住しほがこの時、天翔エミとの対話を先に行ってからみほの進退を決める という手順を行っていた場合、結果は全く違ったことになっていたに違いない。なぜならこの時点で天翔エミは既に学園艦を離れており、彼女の不在の理由をしほが類推し、その真意を(間違っているとはいえ)くみ取る余裕ができていたからだ。

 だが現実としてはしほは先に『親子姉妹での対話』を選択した。この手順の遅れが、黒森峰に致命的なヒビを与えてしまったのだと、しほは後に自分の著書に記している。

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