【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「ヤークトティーガーとティーガーⅠ……虎と虎の戦いになりましたね」

興奮した様子のオレンジペコに、対照的に冷ややかな様子のダージリン。

「そうかしら?私にしてみれば、天翔エミが虎などと鼻で笑って差し上げましてよ」
「そう……ですか?虎は群れを護るために戦う獣ですから、それほどおかしいとは思いませんけれど」

オレンジペコの様子にハァとため息を吐き、いつものように蘊蓄や格言を言い聞かせるように人差し指を立てて、訥々と語る。

「天翔エミは装填手なのです。獲物を狩るのは砲手、獲物を探すのは車長と操縦手。ほら、彼女は何もやっていないでしょう?

 なのに周囲が勝手に獲物を狩って彼女に運んで来る。この条件に当てはまる生き物は虎ではないわ。


  ――――雄のライオンよ」


渾身のどや顔で済まして見せるダージリンは、目を細めて電光掲示板に映るヤークトティーガーを射抜く。


「―――そう。雄のライオンが本気で戦うときは、『自分の大切な家族を護る時』だけですものね」





【 まほルート 第十一話 「 故意のドッグファイト! 」 】

『大洗女子学園!三式中戦車、走行不能!!』

 

「―――ごめん西住さん。もうゲームオーバーになっちゃった」

 

 たははと苦笑いするような調子のねこにゃーの声に、怪我の有無を尋ねるみほ。

問題なく無事だと聞いて胸をなでおろし―――

 

「もくもく作戦を発動します!みんな、準備を!!」

 

 

―――即座に他のメンバーに作戦を通達し、煙幕で周囲を包み身を隠す。

 

 

「―――忍者じゃあるまいし、鬱陶しい―――ッ!!」

 

 ギリッと歯噛みの音を響かせて、全体に砲撃命令を出そうとするエリカが、手の甲に在る『それ』に気付いて即座に停止する。

 “西住流”

そう書かれたその文字は、フラッグ車に搭乗する際に自身で書き記したものだ。

 西住流の模範たれ。フラッグ車に乗り込む以上、西住まほの代わりに皆を率いる以上、西住流の名を貶める戦いだけはしてはならない。

 

 

 

―――――――スゥ――――――――――――ハァァァァ―――――

 

 

 

 深呼吸を一度。思考を入れ替える。

隊長ならばどうしたか?これまでの試合も隣で見てきた私だからこそわかること。

 

「―――無駄弾を撃っては駄目よ。煙幕も無限じゃない。ポルシェティーガーがいる以上、鈍足にならざるを得ないんだから相手の位置を確認してからでも遅くない」

 

 そう、きっとこれでいい。仮に山上に陣取られたとしても相手が陣を敷く位置なんて限られている。それぞれに対応したマニュアルは頭に叩き込んである。私は慢心しない。西住流らしく、黒森峰らしく―――深く言い聞かせるように、エリカは内に向けて静かに繰り返す。

 

「―――撃てば必中、守りは堅く―――進む姿に、乱れ無し―――!!」

 

 目標を見据える。煙の向こう、ワイヤーでお互いをつないで牽引して上り坂をありえない速度で昇っていく車輛の姿。自分では考えもしなかった戦術、それを可能とする発想力と行動力。

 

「―――みほ、アンタはすごいわ……でもね。だからこそ負けられない……!!」

 

 インカムに向かって声を上げる。

 

「全車!榴弾装填!!目標、丘陵地帯中腹!!煙幕をフッ飛ばしなさい!!」

 

 

 そうして、煙幕の晴れた向こう側でエリカとみほの第一ラウンドが幕を開ける。山上に陣取るみほと、麓で陣形を整えるエリカ。

 

 「「―――砲撃開始ッ!!」」

 

2人の声は、同時に戦場に響いた―――。

 

 

 

 

******* >> Maho

 

 

 

 

 轟音。揺さぶられる車体。激しく縦に横に揺れる車内で、体幹と下半身で軸を作って揺れを抑え、時に揺れに身を任せ、標的を見据える。

 土煙の向こう側には砲口をこちらに向けるヤークトティーガー。当たれば痛いなどという言葉では済まない128mmの巨砲を前に、背に冷や汗が伝うのはどうしようもない。

 

 

「土煙が車体の位置を誤魔化してくれる―――そうそう当たるものではない。目暗滅法大いに結構―――!エミの装填がいかに優れていても、弾数には限りがある」

 

 動揺する乗員に、自分自身にも言い聞かせるようにそう告げる。鋼の心、西住流。ああ―――だがしかし、いけない。これは、駄目だ。

 

 

 

 

―――愉しい。

 

 

 

 

 戦場で愉悦に浸る。そんなことはあってはならない。勝利を至上とする西住流において、勝利よりも優先すべきものなどはないと教えられてきた。

 

 

 

 

 

―――嗚呼、だというのにこれはどうだ?

 

 

 

 

 

「――――――エミ。きみもそうなのだろうか?」

 

 ハッチから顔を出してヤークトティーガーを見る。相手の車輛からこちらを見ているのは車長だけで、装填手がこちらを見ているわけではない。けれど、感じる。

 

 

「ああそうだ。私を見ていてくれ、エミ―――――!!」

 

 

 どうしようもない。心が震える。歓喜が広がる。

 これはきっと毒だ―――抗いようのない毒なのだろう。西住流として、勝利を至上として揺れぬ心、乱れぬ意志、ただ勝利のために邁進する精神をと教えられ生きていたというのに。

 

 

―――私は今、何よりこの戦いが続くことを望んでいる―――――――!!!

 

 

 

 

 

******  >> Emi

 

 

 

 

 

 まぽりん。怖いです。なんか車長の報告だと上から顔出してるまぽりんが薄く笑ってるらしくてより怖い。早く終わって欲しいとヤークトの乗員全員がそう思ってるんじゃなかろうか!?

 

 車長から悲鳴じみた声が響く。操縦手が踊るように車体を動かし砲手がそれに必死で応えて砲の先に居るティーガーへと照準を計算して狙撃していく。だが別に車体を狙うわけではない。こっちの狙いは「釘付け」なのだから、わざわざ狙いにくい相手を狙ったりしない。

 

 狙う場所?決まってるだろ「地面」だよ。

 

高低差から来る加速度ってのは恐ろしいモノ、加えて突入角度も斜め下を狙う時点で語るに及ばず。

 基本的に128mm砲弾で地面を抉る衝撃だけで近くにいる戦車は爆風だの粉塵だの破砕礫だのの餌食になる。そして、まぽりんの乗っているティーガーⅠはただでさえ部品が壊れやすいドイツの戦車の中でも圧倒的に故障率が高いと言われる逸品である。

 57トンの重量を支えるのに適してないあの車体と履帯は圧倒的に切れやすく転輪も破損しやすいくせに直すためには全部外さなきゃならない謎構造をしている。不整地だと故障率倍率ドン!となる。故に俺は今まぽりんを物理的に釘付けにするために「整地状態の平野をクレーターだらけにする」作業に勤しませてもらっているというわけだ。

 

 

 ―――なお黒森峰時代にもこの作戦でまぽりんを釘付けにしてた時期があったが、まぽりんの車輛の故障回数があまりにも多すぎて当時の整備班がブチギレて「自分らで整備しろよお前ら!!」って怒鳴られた過去があったりする。

 

【閑話休題】

 

 

 

 

 

 だがまぁ、それでも―――だ。

 

 

 

 ―――西住まほは【怪物】なのだ。はんぱねぇことに。

 

 

 

 

「―――何であんな化け物じみた動きができっとや!?」

「車長!語尾!言葉遣い!!」

 

 苛立ち紛れにダンッと内壁を叩く車長に通信手のツッコミが飛ぶ。

 周囲を穴だらけにしようとするとそれを地面の小さな段差を使って軽く跳ねるようにして躱し、飛び越え、急停止は旋回運動の遠心力を砲撃で相殺して急停止急旋回を行い、こっちの砲撃によるフィールド破壊効果をかわしながら戦場を駆けている。その行動の結果からこっちへの攻撃は少ないため、装甲の傾斜で被弾を弾いているんだが、そのたびにアハトアハトの衝撃でこっちの足元が揺らぐ。

 

 

ええい!西住流の戦車乙女はどいつもこいつも化け物か!!

 

 

 こっちとしても装弾数に限りがある以上、あまり手をこまねいてもいられない。

我らがヤークトティーガーは装填手が俺一人であるためその分余分に砲弾を積み込んでいるとはいえ、基本弾数は40発ほどなのだ。そうそう何発もバカスカ撃っていたら速攻で砲弾切れ起こして審判に白旗認定を受けてしまう。*1

 

 俺が内心で頭を抱えていると、山肌を通じて衝撃が響いた。どうやら山を利用した陣地構築からの砲撃戦は無事始まり、黒森峰の反撃で山が鳴動しているらしい。

 

『―――フリュ……なんだっけ?えーっと……もういいや!つばささんチーム!!こちらあんこうチーム!残った車輛全部で山上から撤退するから!援護しながらついてきてください!!』

 

 通信手の持ってるヘッドセットから割と切羽詰まった声が響く。通信手が「了解」と短く返して車長を見た。

 

「―――戦車、転身!!皆と合流してこの区域から撤退する!!」

「「「「了解(Jawohl)!!!」」」」

 

 

 

******

 

 

 

 

「エミッッ!!何処へ行くんだ!!まだ勝負はついていないぞ!!」

 

 突然転身し、一転して逃げに走るヤークトティーガーを前に、まほは声を上げる。まほの言葉が届いたかどうか定かではないが、車上に飛び出したエミが車長にその身体を支えられながらまほの方へと向き直る。

 

「―――その足場を乗り越えてついて来れるか?決着をつけるのはここじゃない。なぁに、一足先に待ってるさ。Wir sehen uns wieder(また会おうぜ!)

「待てッッ!!待つんだエミッッ!!」

 

 まほが操縦手に合図を送り、ティーガーⅠが悪路を迂回してヤークトを追いかける。

 

 だがヤークトもティーガーも走破性能はほぼ同じ、整地で40km/h、不整地で20km/h前後。その差は縮まることなく両者の距離は一定のまま―――釣りだされているという感覚もないままにまほはエミを追いかけていた。

 

 

 

 

******* >> Emi

 

 

 

 途中で足止めされてるみぽりんたちに合流する。川渡ってる途中にウサギさんがエンスト起こして立ち往生していたので川渡る手前で弁慶さながらに背水の陣敷いてみたりしたけれど俺は元気です。

 ウサギさんを助けるときにみぽりんが武部殿ぱわーですらどうにもならなかったのはちょっとマジで焦ったけど、ウチの乗員が出した助け舟が功を奏したらしい。俺その時偵察に出てたんでよくわからんけど!!

 

 

 

*****

 

 

 

『私たちのことは気にせず、先に行ってください!』

『後から追いつきますから!!』

 

 

 ウサギさんから届く通信の内容に、みほの脳裏にフラッシュバックする過去の残影。崖を滑落して濁流に呑まれていくⅢ号戦車―――だけではない。

みほの脳裏に浮かんだのはその手前。自分が桟道へと逃げ込む前の、必死な声を上げるエミからの通信。そして―――それを無理に押し通した結果生まれたあの事故からの敗北―――。

 

 

あの時と同じ判断を、自分はしようとしているのではないか?

 

 

あの時と同じように、勝手な判断でまた負けてしまうのではないのだろうか?

 

 

 

 

―――そのうえで、もしも負けることがあれば、皆は学園も学園艦も失うというのに―――私のこの判断は、本当に正しいモノなのだろうか?

 

 

 

 

みほの思考は定まらない。踏ん切りがつかない。けれど時間だけは無常に過ぎていく。M3中戦車は流水に弄ばれ転覆の危険と隣り合わせ。背後からは黒森峰の一団が迫っている。沙織の「行ってあげなよ」の言葉にも、足が震えてしまっていた。

 

 

『―――後ろっから来とんは、まかしんしゃいな』

 

 

唐突に入ってきた通信にハッチから後ろを見ると―――ヤークトティーガーが川岸に停車して、川に背を向けていた。

 

『ぬしゃ、ぬしの仕事せんね。天翔さんば偵察に出とんば、あたしが代わりにこぎゃんしとったい。―――大方、天翔さんならこげんするつたい』

 

 ヤークトの車長からの通信に、「でも」と声を上げるみほに―――

 

 

 

『やぁぜぐるしかぁぁ!!!!』*2

 

 

 

 彼女はただ一言、吠えた。

 

『あーだこーだ言うてんおこなえんばい!!大事なば、西住さんばどげんしたいかと違うんか!?』*3

 

 ハァハァと通信機の向こうから荒い息が聞こえた。スゥと深く息を吸い込んだヤークトの車長は、静かに諭すように言葉を続ける。

 

「―――西住さんがそうしたいのなら、私も天翔さんも、他の皆も手伝うよ。西住さんがそういう子だってのは、この場の皆がきちんとわかってる。わかっていて、だからみんな西住さんについて来てるんだよ」

 

 車長の声と、みほの手に添えられたⅣ号の皆の手と視線に―――

 

「―――秋山さん!ロープとワイヤーを!」

「はい!お任せください!!」

 

 

みほの目から、もう迷いは消えていた。

 

 

 

 

****** >> others

 

 

 

 みほがM3を救助し、皆で川を渡り切るまでの間、黒森峰の車輛たちはその光景を遠くから見ていた。

 その光景を見送らねばならない程に【天翔エミが乗っているヤークトティーガー】が脅威だったから―――だけではない。

 

 皆が皆ではないが、少なからず思い出してしまっているからだ。あの日あの時に起きてしまった悲劇と、その時躊躇わずに救助へと向かった少女。その顛末と、自分たちが取ったその後の行動による今の惨状を。

 

「―――状況は?」

 

 合流したまほの声にエリカは一瞬だけ安堵した様子を見せるも、まほの硬い表情を見て表情を引き締める。

 

「見ての通り……川を渡ろうとしていた戦車の一輛がエンジントラブルで停止。流される車輛を見捨てられず、フラッグの車長が救助に向かっているところです」

 

 エリカの説明に、まほは川の中で救助活動を行っている戦車たちを見る。その手前、川岸に座してそれを護ろうとするヤークトティーガーの上に、胡坐をかくように座り込んでこちらを見ている少女が一人。

 

 

 誰も動けない。誰も撃たない。ただ静かな時が流れ―――

 

 

『つばささん。こちらあんこう、全員川渡ったよ!』

「―――オーケイ。じゃあ先に行っててくれ」

 

 

 通信にそう返答したエミは、そこいらで拾ってきた適当な長さの棒でこちらを見ているまほを指すようにその先端を向ける。訝し気な様子のまほに、棒の先端を川に沿った先に移動させ、装填席に潜り込んだ。

 

 

 ガガガガッッッ!!!と、砂利を砕いて履帯が回り急発進したヤークトが川に沿って一人違う方向へ走り出していく。突然の行動に動揺する黒森峰一同に

 

 

 

「―――狼狽えるな」

 

 

 

 まほの鋭い叱責が飛ぶ。ピタリと静まった一同を見渡して、まほはエリカに向き直った。

 

「エリカ。後のことを任せる」

「隊長……」

 

 

 不安そうなエリカに、フッと口元を緩ませるまほ。

 

 

「心配はしていない。逸見エリカの西住流を、みほに見せてやれ」

「―――はい!!」

 

 

 迷いの消えたエリカの瞳に満足そうに頷き、まほは操縦手に指示を送る。

 

 

「―――決着はこの先―――――そういうことなのだろう?エミ」

 

*1
【戦車道ルール:白旗認定を受けていない車輛でも審判が試合続行不可能とみなした場合撃破判定を受けたものとして処理される】

*2
鬱陶しいわぁ!!

*3
「あーだこーだ言っても仕方ないでしょ!大事なのは、西住さんがどうしたいかじゃないの!?」




―――この後は市街地で対マウス戦が待っているんだが。まぁ実のところ全く問題視していない。

 まぽりんは二回戦という早い段階でマウス導入に踏み切り、継続相手に負けの目を完全にぶっ潰した。が、同時に圧倒的悪手を取ったともいえる。




―――なにせ、軍神にきっちりと対策を取るだけの時間を与えてしまったのだから


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