【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「大洗、ピンチですね」
「―――西住まほを抑え込む役目は天翔エミにしかできなかった。けれど、天翔エミを抑えに回してしまったために、敵の足を確実に止めることができる存在が失われてしまった……。それでも、“今までの黒森峰”なら問題はなかったのでしょうけれどね」

 少しだけ愉しそうに紅茶を傾けるダージリンに、さっきまでの剣呑なオーラはない。オレンジペコはホッとひと息吐きつつ、疑問に思っていたことを口にしてみた。

「ダージリン様。昔と今と、黒森峰の何が変わったのですか?」
「あら?わからないの?」

少し意外そうな声を上げるダージリンは、やや考えるような仕草をしてから―――

「―――じゃあ、これは宿題としましょうか」

そう言ってくすくすと笑って見せた。




【 まほルート 第十三話 「 永遠 」 】

「―――やられた」

 

 丸めた手に頭突きするように自罰をひとつ。

黒森峰に西住まほがいる以上、黒森峰は「西住まほのためのチーム」であるという絶対的な信用が、西住みほには存在していた。

 今回はそのみほの想定の裏側を行かれた。翻って見ればそれだけの話なのだ。

 

 【西住流の黒森峰】のルールは単純。「西住まほが心臓であり、その心臓を護るための手足が他のメンバーである」ただそれだけ。手足に思考は必要ない。命令に即応して即行動できることが求められ、一糸乱れぬ動きこそが誉れであるとされる。

 

それこそが「撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れ無し」の言葉に収束される。

 

 この西住流から唯一外れることができていたのが【虎の翼】、天翔エミ以下フリューゲル隊であるという事実から、天翔エミの存在の大きさが類推できるものだろう。―――とはいえ、エミがまほの命令に背いて好きに動いたことは余りないので有名無実化していた部分があるのだが。

 

 今回その西住まほを動けなくすることで命令系統を奪うことができた。代わりに大洗側も間隔3秒で放たれる128mmの後方火力支援という大きな鬼札を切って足止めに使っている状態ではあるが―――それを加味しても相手の頭を抑え込んだことが後々に大きく響くことになる―――はずだった。

 

 

 

「―――お姉ちゃん……もしかして……?」

 

 

 

 みほは脳裏にちらりと過った考えを、今は無駄なものだと振り払う。兎に角今は我武者羅に逃げ惑う状況から、一手を導き出すタイミングなのだ。

 

「―――間もなくHSに入ります。レオポンさん、今どこですか?」

『こちらレオポン。HS入りましたー』

 

 レオポンからの報告を受けて、みほの脳内でのマップに各車の位置が新たにアップデートされる。

 状況は徐々に混迷に向かっている。一刻の猶予もない。

 

「0017に移動してください」

 

 チリチリと嫌な予感は消えない。けれど―――

 

「やるしか……ない―――!」

 

 みほの覚悟は決まった。予断を許さぬ状況で新しく情報を詰める余裕などない。

 

 先の報告ではウサギさんチームがエレファントを撃破して残りは13輛。対するこちらはアヒルさん、カメさん、レオポンさん、ウサギさん、あんこうの5輛。数の上ではまだ2倍以上の差が存在する。

 

 みほの作戦は単純明快。HS地点、【学校】の校舎をケージ代わりに中庭にフラッグを誘い出し、玄関口をレオポンのポルシェティーガーで塞ぎ、強制一騎打ちによる斬首戦術。

 

 あんこうが連れている5輛をレオポンに引き受けてもらって、アヒルさんを追いかけている3輛にカバさんを仕留めた1輛とカバさんを相手していた2輛で合計11輛。まほを除いた相手の車輛中の把握できていない1輛が思考にノイズを生んで行く―――。

 

 

 

―――わたしがなんとかしなくちゃ―――!!

 

 

 

 奮起するみほの心の根幹に在る“それ”は、まほの軛に名乗りを上げ、自ら捨て石になったエミの存在が大きい。そうまでして自分に託してくれたのだ、それを置いても【勝たなくてはいけない】というプレッシャーが、みほの心に雁字搦めに鎖を掛けていく。

 

 

 

 HS地点に差し掛かった。

 

 

 

 Ⅳ号が校舎の正面を抜ける―――

 

 

 

 追いかけるティーガーⅠがその後に続く―――

 

 

 

 

 ポルシェティーガーがその入り口をふさぐ様に座して、砲口を追いすがる5輛に向ける。

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 中庭の、二宮金次郎でも置いていたかのような台座を中央に置き、円運動を描いて2つの車輛が向かい合った。

 

 

 片やあんこうのエンブレム。大洗Ⅳ号戦車、西住みほ。

 

 片や鉄十字紋章、黒森峰ティーガーⅠ、逸見エリカ。

 

 

「ここが決戦の地―――ってわけね」

 

 みほへと強い視線を向けるエリカに、無言で視線を返すみほ。そんなみほの姿に、エリカは―――

 

 

 

 

 

 

 

―――口元を歪ませた。

 

「――――――“だと思ったわ”」

 

 

 

 

 

 

 

―――みほの耳に僅かに届いた“異質なエンジンの音”に―――

 

「―――緊急前進!!」

 

 咄嗟に反応ができたのは西住流としての薫陶のおかげと、冷泉麻子という天才のなせる業であったと言えよう。

 

 

 ―――さもなくば、ここで終わっていたのだから。

 

 

 逃げ遅れた後部増加装甲(シュルツェン)を剥ぎ取って中庭の地面を抉った砲弾は―――エリカと対峙するみほの更に後方、校舎の影に隠れた『Ⅲ号J型』から放たれたものだった。

 

「―――やっぱり、赤星さんだったんだね」

「―――こんな形で戦うのは、本当に不本意です」

 

 申し訳なさそうな赤星小梅の姿に、僅かにムッとした表情を見せるエリカ。

 

「何言ってんのよ赤星。勝負ってのは“こういうモノ”でしょうが!」

 

 エリカの言葉に、大ピンチの状況とはいえ少しクスリと笑ってしまうみほをエリカが睨みつける。器用にⅢ号とティーガーⅠの砲撃軸を調整しながら微速前進をするⅣ号の上で、みほはエリカと赤星へと順番に視線を向ける。

 

―――状況は最悪の一歩前。けれど、越えなければならない相手。

 

 己を奮い立たせるみほの目下では、心配そうにみほを見るあんこうチームの皆の姿。

 

「―――落ち着いて、ひとつひとつ、できることをやっていくだけです」

 

 絞り出す声と同時に、心に火を入れる。ぎゅぅと握りしめる手を胸に、心臓を叩くように。

 

 

 

 恐れるな

 

 恐れるな

 

 心を燃やせ

 

 炎を灯せ

 

 

 

 恐怖を灼き尽くせ

 

 

 

 

 「さぁ!始めましょう最後の勝負を!!」

 

 してやったりのエリカへと、キッと気迫を込めた目で返し―――

 

「―――受けて立ちます!」

 

 みほは言うが早いか矢継ぎ早に麻子に指示を送り、全速で駆けだした。

 

 

 

*******

 

 >> Side Miho → Side Emi

 

*******

 

 

 

「―――後輩はいつの間にか成長するものだな」

 

 小さく呟くまほの言葉は戦車の音にかき消され、誰にも届かなかった。

通信機から届く情報と、運営からの撃破報告から、戦況の様子を俯瞰図に加えていく。ヤークトティーガーとの『位置取り合戦』は膠着の一途を辿り、未だ混迷晴れず。操縦手と砲手だけが消耗を増していく事態に発展していた。

 

 ヤークトの操縦が兎に角巧みなのだ。あちらからの砲撃が飛んできていないのは、発射後の硬直時間を考慮してのものなのだろうとまほは結論付けた。

 

 何しろ“天翔エミは動きながらの装填ができない”のだからしょうがない。

 

そしてその割に“こちらをよく見ている”。回り込もうとするこちらの動きにきちんと対応し、木々をバリケードにし、車体を信地旋回させ、時に超信地旋回まで使用して“きちんと真正面で”こちらを睨みつけて来る。

 速度に重点を置くためにハッチを閉じているにも拘らず、こちらの動きをおそらくは『音の反響』で読んで動いている。その練度の凄まじさよ

 

「エミも他の面々も―――良くぞ育った」

 

 ともに歩んできた者として、その成長を喜ぶ己がまほの中にいる。強敵に胸躍るまほがいる。この刹那よ永遠であれと願うまほがいる。

 

 

 

―――だって終わってしまったら“もう黒森峰として戦うことはできない”のだ。

 

 

 

 大会の終了は、試合の終了は同時に、ドイツ留学へのカウントダウンだ。

まほにとって、心を燃やしてともに駆けることができる最後の戦いだ。

 

 

 

「―――こんな気持ちは初めてだ」

 

 

 

 終わりたくない

 

 終わらせたくない

 

 時よ止まってくれ

 

 後生だ。後生だから。

 

 

 

 

「―――私は、西住まほは――――“黒森峰の西住まほ”は、これで終わりなんだ……。

 

 ―――エミ……私はもっと、君と語り合い(たたかい)たい―――!!」

 

 

 血を吐く様な重みを持って紡がれた言葉に―――

 

 

 

「――――何言ってんだ?西住まほさんよ」

 

 

―――空から鴉が舞い降りた。

 

 

 

****** >> Emi

 

 

 

 「―――私は、西住まほは――――黒森峰の西住まほは、これで終わりなんだ……。

 ―――エミ……私はもっと、君と語り合い(たたかい)たい―――!!」

 

 

 ―――ああ、畜生。今更ブレんなよ畜生。

 

 

 左手の小指をへし折れそうなほどに握り曲げる。樹上の枝の一つに両足をひっかけて蝙蝠のようにさかしまに、俺こと天翔エミは“戦車の外に居た”。戦車の中が居たたまれなかったわけではない。ないから。作戦だから(震え声)

 何のことはない。戦闘中に木々の影に隠れた一瞬のタイミングで車外に飛び出し、そのままフリークライムで木の上に。あとは戦場の空気に合わせて木の上を飛び移り、的確にティーガーⅠの動きを通信手に報告し続けるだけの簡単なお仕事です。……“だった”。

 

 本来、俺の、俺たちの仕事は『西住まほの足止め』なのだ。無理に相手を撃破する必要はないし、それならば無駄に砲弾をばら撒くのではなく、俺の索敵能力を生かし、相手を牽制し続けるだけでいい。俺の装填能力という幻影に踊らされて正面戦闘を避け続けるのはひとえに―――『これまでの西住流黒森峰における西住まほ』にある。 そう思っていた。

 

 

 違ったのだ。

 

 

 まほは「この戦いを続けたい」と願っていた。

 

 この戦いがいつまでも続いて欲しいと思ってくれていた。

 

 俺たちはただ、その願いに便乗して、踏みにじって今ここに立っていただけだった。

 

 

「―――ままならねぇな。糞が」

 

 

 自分の察しの悪さと馬鹿さ加減に腹が立つ。先の告白もどきも脳に残らぬほどに頭の芯から沸騰しそうに沸き立っていた。

 通信機を手に取る。通信手に向けて、短く、ただ一言

 

「―――“やるぞ”」

 

告げる。

 

『―――いいんですね?』

 

確認の返信に、「応」と返した。

 

 

 ああ、全く――――

 

 

 

―――俺って糞野郎は――――ブレてばっかりだ。

 

 

 樹上から身を翻し、空中でくるりと反転してティーガーの上に降り立った。

漸く俺がさっきからどこにいたのかを理解して唖然とするまぽりんに向けて、顔を上げて目を向ける。

 

 

「―――何言ってんだ?西住まほさんよ。

 

    ―――上から見てんじゃねぇぞ?私たちはどっちが上でも下でもねぇだろうが」

 

 

 精々笑ってやろう。其処意地悪くニヤリと笑ってやろう。

ティーガーの装甲を蹴ってジャンプして、背後の木を蹴って飛び跳ね、体操選手のように身を翻して四肢を伸ばして獣のようにヤークトの上に着地する。

 

 

「―――来いよまほ……矜持なんざ捨てて掛かってこい!!」

 

 

 一度点いた火は消えない。燻っていたのもあって燃え上がるのも早い。

 

 みぽりんの方は原作通りエリカ(フラッグ)を引きずり込んだと聞いて居る。其処にいささかの想定違いがあったとしても―――まぁ原作補正できっと何とかなる!

 ならば俺のできることは一つしかない。

 

 

 ―――“しでかしたことの責任を取る”ことだ。

 

 

 くしゃくしゃの顔を袖口で一つ拭えばそこには建て直した鉄面皮。それでもその背後に、ザワザワと波立ち揺れる湖面と、そのうえで燃える炎が見える。

 

「―――西住流に―――――いや、違う。違うな。

 

 ―――わたしに、“西住まほ”に、この勝負から逃げ出す道などない」

 

 宣言する西住まほは、これまでのどの試合よりも、日常のどれよりも晴れやかに笑っていた。その笑顔の奥に在る炎に、対峙する俺たちは恐れを感じていて、同時に―――光栄で、上等で、素晴らしく糞ったれで、

 

 こんな気分でセルフピロシキするのなら、そのまま逝っても良いなどと、分不相応にも思ってしまった。

 

 

 

*******

 

 >> Side Emi → Side Miho

 

*******

 

 

 

 ガリガリと石畳を削りながら、Ⅳ号がまたシュルツェンの一部を剥ぎ取られた。

内部棟の周辺を周回しながらティーガーⅠと交差するたび88mmの、Ⅲ号の50mmの砲撃に晒され、 そのたびに一枚また一枚と装甲を剥ぎ取られていく。

 じりじりと追い詰められていく感覚に、それでもみほは折れない。挫けない。

 

 

「―――やっぱりアンタは凄い……ここまでされてまだ諦めてないのね……みほ」

「やっぱり、みほさんは凄いです……!!」

 

 エリカの呟きは誰に向けたモノでもない。ただ漠然と口から飛び出しただけのそれは感嘆なのか、賞賛なのか―――それともあるいは、嫉妬なのか。

 

 西住みほは諦めない。どんな状況でも、勝つための戦術を考えて実行する。

「必ず勝つ」ことを至上とし、勝利するために歩みを進める西住流の果てに、今の西住みほがいる。西住まほが居る。

 

 あの場所までたどり着かなければならない。逸見エリカの願いはそこに在る。

 

 みほが見ている世界と、まほがいる世界は違う。けれどきっと、まほがエリカに教えようとしている地平は―――今、みほがいる方の地平なのだ。

 

 

「ねぇみほ―――私に見せてよ……アンタの全部を」

「みほさんに全部ぶつけます―――あの時助けてもらった私の、私たちの、全部!」

 

 

 

*****

 

 

 

「―――こちらレオポン。あんまり持ちそうにないよー?」

 

 既に砲撃を受けて片方の履帯と転輪が大破し擱座しているポルシェティーガーはただの的と変わらない。それでも88mm砲を撃ち返すも、砲塔旋回範囲外からの飽和射撃にじわじわと装甲が悲鳴を上げていく。

 

 そうしてあっさりと、終わりが訪れた。

 

 シュポッと拍子抜けする音を立てて白旗が上がる。もはやどこを見ても満身創痍のポルシェティーガーが地に伏した。黒森峰の車輛たちが校舎へと殺到するも、ポルシェティーガーの車体が入り口をふさぎ、ティーガーやパンターといった車高の高い戦車では乗り越えて入り口を通ることは困難と言えた。

 

『回収急いでよー!』

『ゆっくりでいいよぉー』

 

 呑気なレオポンと、急かす黒森峰たちのコントラストの取り合わせの中に

 

 

「―――――吶喊(とっかぁーーん)

 

 

 陽光を反射する何かが駆け抜けた。

 

 “それ”はレオポンに殺到して止まったパンターの上に乗り上げて

 

 “それ”はポルシェティーガーの上にも乗り上げて

 

 

 強引に入り口に車体をねじ込ませる。凡そ3mの車高のパンターやティーガーより一回り小さなその体躯は上部で玄関口の天井を削りながらズルリと滑り込んだ。

 

 

 

*****

 

 

 

 ―――拙い。

 

 みほの中で焦りがどんどんと大きくなっていく。攻撃のたびに上手くいなし続けているが、ジリジリと追い詰められていっているのだ。Ⅳ号のシュルツェンはもうほとんど残っておらず、装甲もところどころが食いちぎられそうなほどに満身創痍。このままでは、最後の一撃を狙う事すらもできずに動けなくなってしまうかもしれない。

 

「―――危険ですけど、Ⅲ号を無視してフラッグを撃破します」

「大丈夫なの!?2対1だよ!?」

 

 沙織の心配そうな声に「大丈夫」と返しはするが、みほの中で到底確約できるものではなかった。

 けれどここで攻勢に打って出なければ、磨り潰されて終わってしまう。

 

 

『―――やーやー西住ちゃーん?お困りみたいだねぇ』

 

 

 そんな焦燥を、あっけらかんとした声が吹き飛ばした。

 

 

『こちらカメさん。Ⅲ号の方はまーかせて』

 

 

 玄関口から飛び込んできたヘッツァーが、追い立てるティーガーとⅢ号の間に割り込み、強引に3号の鼻先を車体で蹴っ飛ばして引きはがす。

 

 

『頼むぞ西住!お前に託した!!』

『勝って下さい。お願いします!』

 

 通信機から河嶋桃の声が、小山柚子の声が響く。

 

『ここまで来れただけでも御の字だよ。

 

 さー西住ちゃん。張り切って行こうか!!!』

 

 この状況でも飄々と調子の変わらぬ角谷杏の声に―――

 

「―――はい!行きましょう!!」

 

 みほの声に力が戻った。さっきまでの焦りに満ちた様子は何処にも無い。万の軍勢を味方につけた様な力強い瞳で、追いかけて来るティーガーの上、逸見エリカを見る。

 

 最初と同じ、中庭で対峙する2輛の戦車。突撃のタイミングを計り、引き絞られた弓のように、ピリピリと空気を張りつめさせていく。

 

 

 

 逸見エリカは西住みほを見続けた。その戦いの全てを、見続けてきた。

 

 だからこそわかる。『西住みほが狙う場所』を。

 

 グロリアーナとの練習試合。敵側面へ回り込んで接近射撃を行う迂回特攻。

 

「―――戦車前進(PanzerMarsch)!!」

 

 

 西住みほは考え続けた。前へ前へと進みながら。

 

 だからこそ進む。前へと―――歩を進める。

 

 グロリアーナの時より“より進化した”迂回進撃。敵戦車の後背部まで滑り込む必殺の一撃。

 

「―――前進!!」

 

 

 

 

 

 ―――両者に違いがあるとするならば、ただ一点。

 

 ―――前へと歩を進める少女の歩みの早さを読み切れなかったこと。

 

 

 

 

 

 

『黒森峰フラッグ車、走行不能!! よって、大洗女子の、勝利――――!!!』

 

 

 




******



『黒森峰フラッグ車、走行不能!! よって、大洗女子の、勝利――――!!!』



アナウンスが大洗の勝利を告げている。






―――けれど、




『戦闘中の車輛は戦闘を中止してくださーい!あの!聞こえてますよねぇ!?』





―――止まらない。



―――止まれない。





 ヤークトの砲撃を躱しきれないと直感した瞬間、前進の指示を出していた。砲塔を旋回させ、ゼロ距離に踏み込む。ヤークトの砲塔を肩に担ぐ様にして安全地帯に滑り込んだが、同時に備砲を旋回させてもこちらからヤークトを砲撃できない位置を取ってしまった。




―――愉しい。


―――嬉しい。


―――この時間よ永遠なれと。



 まるでダンスを踊っている様に、互いの履帯が前面装甲に当たり軋みを上げる。



ヤークトが退く、離されないように追いすがる。

ヤークトが押し込みをかける。潰されまいとこちらは併せる様に退く。ワルツのように、押しては退いて、退いては押して、




 un,deux,trois



 Eins, zwei, drei



 片方の履帯が互いに食み合い同時に千切れた。ヤークトの向かって右側と、ティーガーの左側。





―――まだ、終わってほしくない。




 そんな願いに戦車が応えてくれたかの様に、踏み込んだティーガーの転輪とヤークトの転輪が噛み合った。お互いを喰い締めるように噛み合った二つの転輪を橋掛けにして、互いの外側の履帯が前進する動きに合わせて、円を描く。ぐるぐると、尾を食らう蛇のように、その場で回る。



 これではまるで比翼の鳥だな。



 なんだか無性におかしくて、笑っていた。ケラケラと笑って、笑って―――



―――涙が止まらなかった。




運営の回収車がやってくるまで、くるくる、くるくると、2輛の戦車は廻り続けた。




「決着は付かなかったか―――未練になるな」




 “だがきっと、これでいい”




私は最後の言葉を飲み込んだ。声に出してしまったらそれが最後だと思ったからだ。


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