【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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 雑木林を抜けて、ぞろぞろと群れで現れるのはM4シャーマン軍団。
サンダース大付属の物量ここにありと誇るように、悠々と行軍する。

 数の暴力という点で言うならば―――数だけならば負けていないのがこちら、知波単学園。……とはいえ保有車両はチハ―――九七式中戦車しかないんだが。

 丘の上に居並ぶチハの群れと、それに向けて進軍してくるシャーマン軍団。

隊長の西絹代は、やや時代がかった調子で―――後ろを振り返る。

「―――では、先生!お願いします!」
「どーれぇぇ……!!」

 用心棒の先生への言葉の如くやや冗談染みた芝居がかった声に反応して、こっちも用心棒の先生のテンプレで返す俺。そのままチハの中で一人めっちゃ浮いてる存在感を醸し出すヤークトティーガーの装填席へ飛び込み、砲手にグッと拳を突き出すとコツンと拳を当てて返す砲手。

「さぁて――――いつもと勝手は違うから“当てる必要はない!むしろ何にもない空間を狙ってけ”!!」
「了解ッッッ!!」


 ―――ぼくはいま、ちはたんといっしょにたたかっています。なんでや工藤()



「―――相手は突撃しか能のない突撃馬鹿でしょ!!狙い打ちなさい!」
「無理!無理ですよ!!足を止めてゆっくり狙ってたらこっちがぶっ飛ばされま――――いに゛ゃぁぁぁぁぁぁ!!!!?

 ゴァンッッ!!という鋼板をへこませる大きな音を立ててシャーマンの1輛が錐揉みながら吹き飛ばされた。通信機からドップラー効果を纏いそうな大絶叫が上がり、思わず片耳を押さえるアリサのM4A1の直近に、砲弾が着弾して大きく地面を抉る。128mmの砲撃はただ地面に着弾したその地響きだけで転げるほどに車体を揺らし、盛大に恐怖を煽る役目を果たすのだった。


「か、回避っ!全車回避よっ!急げーーー!!」
「りょ、了解――――えっ!?ちょ、ぎゃーーーー!?」


 女子にあるまじき悲鳴が上がったかと思うと、回避のための旋回運動に入っていたM4の横っ腹に、勢いそのままに吶喊してきたチハが盛大に激突。シャーマンがひっくり返り白旗を上げた。


「細見が目にもの見せたぞー!!我らも続けえーーー!!」
「「「おおおおおおおおお――――――――!!!!」」」


 遠方からの砲撃支援を受けての騎馬特攻。戦術としてはもっともオーソドックスな形である。が、例えば同数のぶつかり合いの場合、騎馬と砲兵に兵隊を分ける割合が例えば15:15での編成の場合、15騎で30の防御を砕かねばならない。
 かといって砲兵の数を減らしてしまうと支援射撃の意味を損ない、騎兵は狙い打たれるが必定である。

 だが、例えば遠距離砲撃支援するのがたった1機で、「ガトリング砲並みの連射速度で飛んで来る艦砲射撃」であったならばどうだろうか?


「―――――全軍抜刀、全軍突撃!!!……じゃなかった、ええと……全車突撃ぃ!!後方支援に報いるために、己が命をかけて奮戦せよ!!総員!連呼――――ッッ!!」
「「「全車突撃ぃーーーーーッッ!!!」」」


―――答えは、目の前で統制を失ったシャーマンが突撃してきたチハとぶつかり合い、1対2くらいのキルレシオで押し相撲をしている状況に集約する。


 知波単とサンダース、どこにこれほどの差が出たのか?

答えは決まっている―――“覚悟”の差だ。
 知波単の連中は“至近弾の着弾”をものともしない。こっちが積極的に何もないとこを狙っているとはいえ、誤射の可能性は未知数だというのに速度を落とすことなく吶喊していく。対してサンダースは正面から128mmが自分たちの方を向いているのを見ながらの戦闘なのでより恐怖をあおられ、逃げ惑う羽目になる。
 結果として―――不安定な体勢の戦車に安定した突撃姿勢の戦車が突撃するわけだ。車輛の重量差*1で逆にシャーマンが跳ね返す時もあるが、大体は突撃時の速度×重量から生まれた衝撃に耐え切れず横転、白旗を上げていく。


 広場に死屍累々と転がるシャーマンの群れが、戦の結末を如実に表していた。


なお試合後にアリサが死んだような目をしていた。反省会、するらしい(合掌)

*1
シャーマンは約30t、チハは新砲塔仕様で約15t




【 まほルート 第十五話 「ギラギラ(した思惑だらけの)サマー」 】

『 インターミッション:エキシビションマッチ“大饗宴” 』

 

 

 ――月――日

 

ぼくはいま、びょういんにいます。

 

 

 白装束をいのち(胃の血)で染めて、なかなかアバンギャルドな装いになった俺が救急車で運ばれる羽目になったあの日、詳しくは何がどうやり取りされたかは知らないが、どうやらエキシビションマッチは夏休みが終わって新学期に入った後、秋口の開催になるようだった。―――時系列、ズレてない?大学選抜ねじ込まれて拗れたりしない??という疑問は残ったが、まぁ今の段階で未来のことがわかる人など普通いないんだからしょうがないわな。最悪廃校問題が立ち上がって大洗がピンチになったとして―――自分が主催側に立って催しているイベントを直前に台無しにされたブリカスが一体どんな報復行動に出るかを考えると……万の軍勢を味方につけたようなものだ。この上なく安心できる。

 決勝を終えて、みほエリ間のわだかまりはなくなっていると確信できた。あの宿での二人の距離感を考えたらみほエリは目前。あとは時間の問題で、くっ付くまでを遠くから眺めるだけの楽なお仕事と言えよう。

 ともあれまぽりんのドイツ留学撤回を食い止めてくれたダージリンには感謝しなければなるまい。俺だけであの状況を食い止めることはできなかった。

 

「サンキューフッド!」の賛辞を贈ると「でしたら各校への根回しに協力なさい」と返って来た。よくわからんができることであればやってやろう。

 

エキシビションの参加者がいなければまぽりんが安心して後輩に託せない→ドイツに行かない→日本の戦車道が取り残される→政府のプロリーグ設置が遅れて票田集めに仕えない→財源確保(しゃぶらせるアメ)のために学園艦廃校が加速する→(みほエリもまぽりんの未来も)いくえふめい()

 

のドミノ倒しが発生する可能性がある。実際起きたらデフレスパイラルどころの話じゃなくなるだろうが。

 

 

 

 ――月――日

 

 

 なにそれきいてないんだけど?

 

 

*******

 

 

「―――親善大使?」

「ああうん……そんな顔になるよねぇ」

 

 そこまで変な顔をしていただろうか?とむにむにと自分の顔を手で捏ね回す天翔エミに苦笑する角谷杏。

 入院して数日、検診の後に「問題なし」の診断書を貰って退院して大洗学園艦に帰って来たエミを待っていたのはそんな話だった。

 

 ダージリンが提唱する『大規模エキシビションマッチ』の実現に向け、学園艦をハシゴしつつそれぞれの学園艦の代表と親睦を深めてエキシビション参加の意欲を高める努力をして欲しい というのがダージリンからの要請なのだそうだ。

 

「なるべく多くの学園艦の協力を得られればそれだけエキシビションが大規模で豪華なイベントになるし、そうすれば聖グロリアーナが今後戦車道連盟にでっかいパイプを作れるんだってさ」

 

 そんな風に語る角谷杏の表情にも若干の興味の色がうかがえる辺り、大洗の学園生徒会も一枚噛んでいるのだろう。と、エミは納得した。目の前の生徒会長が他人だけが一方的に利益を得る状況を放っておくなどありえないという確信があるのだ。

 

「どうする?厳しいなら代案として黒森峰に行ってもらう予定のあんこう(西住ちゃん)に代わりに行脚してもらう感じに調整案もあるけど」

「やります(のでみほエリの邪魔しないで、どうぞ)」

 

 エミはとてもいい笑顔で食い気味に即答した。杏はちょっと引いた。

 

 

 

******

 

 

 

 ――月――日

 

 

今日はアンツィオに来ています。

 

「天翔も災難だよなー」といつもの調子で笑ってる偉大なるドゥーチェよ。だったら助けてくれてもいいんじゃねぇかな?と言いたくなるわ。

 あ、でも歓迎の山盛りパスタは美味かったです。ドゥーチェの手作りと聞いてPPが加速したけど(PP+12)

 

対戦相手はBC自由学園。当初の作戦ではひなちゃんことカルパッチョのセモヴェンテと左右に展開して十字砲火―――のはずだったんだが……

 

 

 

******

 

 

 

『森の奥で味方のはずのソミュアに砲撃を受けました!行動不能です!!』

「なんだと!?……チッ!あの躾のなってない野猿どもめ!こちらを撃破してアンツィオ撃破の栄華を独り占めにしようとしているのか!?」

 

 

『なんでARL44が持ち場を離れて――――うわぁぁぁぁ!?』

「クソが!エリ―トどもが本性を現しやがったな!!私らを敵もろともなで斬りにってわけか!舐めやがって!!」

 

 

 

「―――これが我々の『マカロニ作戦・Ⅲ(ドライ)』だ!!」

「ああうん……えげつねぇな」

 

 ARLとソミュアの立て看板の向こうから砲撃を行って、立て看板をすぐ傍の塹壕の中に放り込んで撤収しただけなのだが―――BC自由学園が勝手に同士討ちを始めた。原作再現原作再現()

 今回試合に参加せずに観戦席で山盛りのケーキに舌鼓を打っているマリー様はそんな様子を実に愉し気に眺めている。いい趣味だな、ある意味で感動的だわ。だが(カプ要素皆無という意味で)無意味だ

 

「天翔の的確な敵陣偵察がなければワナに嵌められなかったからな。感謝してるぞぉ」

「―――そうかい?まぁ、褒められるのは悪い気分じゃないな」

 

 内心でガッツポである。軍師キャラと化したドゥーチェはまず俺を単独で斥候に飛ばし、忍者のように森を進む連中の位置を把握させた。その敵陣配置を見るや『二虎共食』が狙える位置を割り出し、そこへヤークトとセモヴェンテを配置。立て看板で同士討ちを狙わせ、同時にお互いの通信を乱れさせるために敵小隊長枠の履帯を狙って散発的に砲撃して逃げたりしている。

 

「さぁ、十分に数が減ったらBuon appetito!(いただきます)の時間だ。C'è anche una ricarica(おかわりもあるぞ)!!」

comprensione(ヒャッハー)!!!」

 

アンツィオ+翼 VS BC自由学園 は、盛大な同士討ちで数を減らしたところへの波状攻撃によりアンツィオに軍配が上がることになった。

 

 

 

******

 

 

 

 ――月――日

 

 

 今日も今日とて傭兵生活。船に揺られてヤークトと一緒に渡り鳥である。

今日の学園艦は―――プラウダだ。

 

 

 

「―――よく来たわね!エミーシャ!!」

еланный(ようこそ)。歓迎致します」

 

 カチューシャにお出迎えされてロシアンティーでおもてなしである。

 雪原フィールドでヤークトティーガーはこう、冬将軍を彷彿とさせてものすごく縁起が悪いとかで、カチューシャが提案したのはフリューゲル小隊から俺だけパージして俺をプラウダの車輛に乗っけるという案だった。

 一応フリューゲル小隊の他の面々はかーべーたんとかT-34などの各車輌に乗り込んでプラウダのやり方を学ぶという名目で色々するらしい。

 

対戦相手はメイプル高校。北海道の学園艦でカナダの戦車を使う一応大会にも参加してたそれなりの強豪校である。

 

 

―――まぁ全く危なげなく包囲して殲滅して勝利したのだが。

 

 

 やはり4大強豪とそれ以外だと地力が違うというのを再確認できる内容だった。

というかカチューシャがチートすぎるんだろう。敵のやって来る方向を偵察車輛で発見した後相手車輛が集結する場所を割り出し、高速で包囲網をくみ上げて文字通り蟻の子1匹逃げ出せない程の密度で包囲を完成させた。

 やっぱり4大隊長はどいつもこいつもチートや!チーターや!!といった印象は崩れそうにない。

 

 IS-2からノンナに抱っこされて降ろされ戻ってくるとカチューシャが不機嫌ですって顔でお出迎えしてくれた。

 ははーん。冷泉殿の時(ドラマCD話)と同じようにノンナを取られた感じがして嫉妬してるんだな?俺は詳しいんだ。あぁ~~カチュノンイイっスねぇ~~~(至福)

 

 

 

*******

 

 

 

「―――で?エミーシャの使い心地はどうだったの?ノンナ」

「……想像以上でした。彼女が装填手で傍らに居てくれるのであれば、狙撃の撃破率は格段に向上しますね」

 

 エミ達が帰還した後で、不機嫌そうなふくれっ面を見せるカチューシャがそう尋ねる。

カチューシャとしては自分の乗るT-34に同乗させたかったのだが、砲手として今回妥当なのはノンナだということもあり、それでも納得できない部分で不機嫌さを隠すことができないのだ。

 それでもノンナにとっては珍しくべた褒め評価が返って来たことに、カチューシャはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。

 

「―――そう。じゃあ、例の話、ノるのよね?」

「Да。持ち込んできたのが彼女という点を除いても、悪くない話であると愚考します」

 

ノンナの答えに満足そうに頷いて、カチューシャは胸を張る。

 

「それじゃあカチューシャたちも参加しましょう!!

 ――――エキシビションマッチ“Большой праздник(大饗宴)”に、殴りこむわよ!!」

 

グッとこぶしを握り締め天に掲げるカチューシャに、ノンナは溜息をひとつ返す。

 

「―――何事か練習していると思ったら、ロシア語で言えるようになるためでしたか」

「い、いいでしょ別に!!」

 

 

 

*******

 

 

 

 季節は夏休みに入ったある日。陸のとある場所で―――

 

学園艦所属の戦車道専攻の隊長格がイベント用多目的会議室の、あつらえた様な円卓に座して一同に介していた。

 

 

「皆様、まずはお集まりいただき感謝いたしますわ」

 

 

今回の催しを企画した立案者として上座に座るダージリンが恭しく一礼する。

 

「さて―――ここにいらしたということはもう答えは出ているとは思われますけれど……再度、皆様のお答えを拝聴いたしますわ」

 

 ダージリンがニコニコと笑顔で手を差し伸べて、隣の席に発言を促す。

隣に座っていたサンダース大付属隊長、ケイは椅子に座ったままのラフな態度でサムズアップする。

 

「サンダース大付属は参加するわ!こういうお祭りは踊らなきゃ損でしょ!!」

「プラウダも勿論参加するわ!勝利はカチューシャが貰うんだから!」

 

サンダースに続いてカチューシャが椅子の上に立つようにして自分をアピールする。隣で座ったままのノンナも無言で肯定するように一度頷いて見せた。

 

「BC自由学園、参加を希望する。他校の力を知るチャンスでもあるしな」

「知波単学園!参戦致します!!!」

「アンツィオもだ。西住には悪いが全力で行くぞ!」

 

代表としてやってきた押田ルカが立ち上がり参加を表明すると隣の西絹代も立ち上がり敬礼して見せる。その更に隣で、銀色のツインテールを揺らしてアンツィオのドゥーチェ、アンチョビが立ち上がって手にした鞭を掲げて見せた。

 その隣、黒森峰の席に座るまほと大洗の席に座るみほに続く間の席に座った少女は、立ち上がることなく卓上に置かれたカンテレと呼ばれる楽器を静かに爪弾いて見せる。

 

「―――継続は、保留するよ。

 ―――この戦いに意味があるか、わからないからね」

 

 ややけちが付いた形になった継続の保留表明にダージリンが少しだけ眉根を寄せた。が、気を取り直して黒森峰に視線を向ける。

 

「―――西住流に、逃げるという文字はない。当然、参加しよう」

「お、大洗も勿論!参加します!!」

 

 まほとみほが立ち上がり参加を表明する。その様子を見てダージリンは満足そうに頷き―――

 

 

「結構。では―――細かく詰めてまいりましょうか。

 

 

 大規模バトルロワイヤル戦“大饗宴(グランドフェスタ)”について―――!!」

 

 

 

会議の始まりを告げた。

 

 

 

*********

 

 

 

「―――ダージリン。どういうつもり?」

「どういうつもりも何も……おそらくは受け取ったままの思惑でしてよ?」

 

 

 日程など大まかな段取りを取り決め、全学園艦の日程調整を終えて全員退室を終えた会議室で、西住まほとダージリン、そして西住みほだけが残っていた。

 

「―――この試合の勝者の権利については?」

「……それも、『これまでの天翔エミの活躍を見た貴女ならわかっている』と、そう思っておりますけれど?」

 

 ダージリンの言葉にまほが言葉を詰まらせる。

 ダージリンが強調しているのはこれまでのエミの活躍―――“エキシビションのための根回しで学園艦から学園艦へ飛び回っていたころの試合記録”である。

 決勝戦でまほは、心の内側でくすぶっていたものを吐き出した。それこそ自分でも自覚していなかった心のうちに在るモノすらも。

 

 それは“独占欲”と言えるモノであり、同時に“自己顕示”でもあった。

 

 

 “自分だけが天翔エミの唯一無二のパートナー足りうる”

 

 

 そう主張して止まない自身の浅ましさが露わになったことで、まほは結局最後の最後で、エミに尋ねることを躊躇してしまった。

 

 そのまほの主張に、ダージリンがもたらした試合記録は真っ向から喧嘩を売っているともいえた。

ダージリンは複数の名のある学園艦の隊長のもとで目を見張る活躍を見せるエミの姿をまほに見せることで、『天翔エミは、西住まほの隣でなくともそれを活かすことのできる将のもとで才能を枯らすことなくあり続けることができる』と、まほの主張を正面から否定して見せていた。

 

 そのうえで、今回の『大饗宴』の“勝者へのご褒美”ともいえる【裏の取り決め】をカードとして切って見せた。

 

 

 

 『大饗宴の勝者は、卒業後の天翔エミを自身の進路の先へと勧誘する権利を得る』

 

 

 

 権利、というだけで、結局はエミの意志次第ではある。

 だが黒森峰から大洗に流れ流れた天翔エミと角谷杏のやり取りは、聞かされた各学園艦の面々に『戦車道ができる環境であれば、最初に誘われた場所に割とホイホイついてきそう』という印象を抱かせるに足りた。

 唯一印象を抱くことがなかったのは、黒森峰から飛び出した後匿っていたにも拘らずフられる形になってしまったダージリンだけなのだが……対外的にエミに対するダージリンの態度はひねくれているを3度ほどねじくれさせたモノなので他の面々にとって参考にはならなかったらしい。

 ともあれ、『大学以降の戦車道』において天翔エミを得るということがどれだけのアドバンテージになるか?という点で鑑みれば各学園艦の実力者たちが諸手を上げる現状がなによりも雄弁に語っていた。納得が行かないのはまほとみほなのではある―――が、天翔エミの未来を考えると何も言えないみほと、自身の浅ましさと直面し『本当にエミのためを思うのなら』を考えるまほにとっては、全力でダージリンに異を唱えることができないこともまた事実だった。

 

 ただし同時に解せない話でもあった。この一件におけるダージリンのメリットが、どこにあるのかが見えないのだ。

 

 

 

「ダージリン。腹の探り合いは止めにしよう―――君は何がしたいんだ?」

 

 

 まほの言葉に、ダージリンは紅茶を飲み干したカップとソーサーを卓の上に置き

 

 

 ―――空を仰ぐ様に明後日の方向の天を見上げて両手を広げた。

 

 

 

「―――私はただ、見たいだけなの。

 

 決勝戦での、あなたと天翔エミの戦いの続きを―――」

 

 

 “そしてできれば、その時の天翔エミの相手が私であればなお良し”

 

 

 ダージリンの言葉の続きは、心の内だけにとどめられ西住姉妹の耳に届くことはなかった。

 

 

 




「さて―――それはそれとして西住まほさん、西住みほさん。
 私人としてではなく、聖グロリアーナのダージリンとしては『礼儀のなってないゴリラ』を勧誘する権利を手に入れてもしょうがないというのが本音なのですが。

 ―――バトルロワイヤルにおける同盟相手、欲しくありませんこと?」

「―――かつてエミが君について言っていた評価があるが……今ほど的確だと思ったことはない。―――このブリカスが」


 大洗と黒森峰、明確にスタンスの別れる二校を前に「どっちの味方をしてもいいのですけど?」と公然と言い放てるダージリンに、思わずまほは毒づいた。 


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