【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「はぁ~……」

 重い重いため息を吐いて、桃ちゃんが机に突っ伏していた。
季節は春が終わり夏が来る手前、期末の成績が返されたところである。まぁ結果はあの顔色を見る限り言わずもがな。―――っていうか最終章でのセンター試験の結果から大体の想像つくけども。
 河嶋桃が大学を目指す理由については―――『ガルパン最終章第2話』で大体語られてるので割愛する。

 まぁ俺も他人のことは言えない成績なんだが!!

 大洗女子に来てからこっち、黒森峰のエリート気質とうってかわって大らかで自由奔放な校風とゆるーい学園のボーダーラインにすっかり気が緩んで赤点ギリッギリか赤点に片脚突っ込んだ生活を続けている俺である。

「天翔ぉぉ……お前は違うよな?お前は“わたし側”だよな?な??」

 縋るような目で見上げてくる桃ちゃんに、まぁこの先留年しない程度にしか勉強するつもりもないし卒業してみほエリを見守る以外に何かしたいことがあるわけでもないので、

「大丈夫。私もあんまり成績伸びてませんし……むしろ若干下がり気味ですし」
「ほ、本当か?本当だな?信じるぞ!?私を置いて(成績上位に)行ったりしないんだな!?私を一人(浪人地獄に)放り出したりしないな!?」

 なんか地獄に仏を見たような涙目で縋りつかれた件。それでいいのか?その思考は駄目なんじゃないか?とも思ったが―――よくよく考えるならここで桃ちゃんが一念発起して成績上位になった場合……無限軌道杯に参加するモチベーション薄くなるよな。みほエリの構築のために無限軌道杯は外せないよな。と考えたので、とりあえずそのまま放っておくことにした。

 ごめんね桃ちゃん。君は悪い人間ではなかったが、君がいないとみほエリのためのイベントが起きないからアホの子のままでいて下さい。



【 まほルート 第十五.五話 「ギラギラ(した思惑だらけの)サマー 裏」 】

『 インターミッション:エキシビションの前準備 2 』

 

 

 

「てぇん翔ぉぉぉぉぉーーーーーーーッッ!!!」

 

 

 学園艦傭兵ツアーを終えて帰ってきたフリューゲル小隊の面々に、最初に飛び込んできたのは、そんな声だった。

 漫画やアニメで見るような爆走状態で突撃してきた桃ちゃんはそのままの勢いでレスリング選手顔負けのタックルを見せる――――俺に。

 

 

―――なんで?(困惑)

 

 

 

「裏切ったな天翔ォ!!私の気持ちをもてあそんで!裏切ったんだ!!絶対に許さんぞ天翔ォォォ!!!」

 

 

がっくんがっくんと桃ちゃんに揺さぶられている俺。体格差のせいで膝をついて俺に縋りつく様なポージングの桃ちゃんと先のセリフのせいで誤解が加速していく。ちょっとやめないか(動揺&困惑)

 

 

「うわぁ、修羅場だぁ」

「天翔先輩と桃ちゃん先輩がぁ?」

「桃ちゃん先輩をめぐって会長と天翔先輩が修羅場!?」

「さんかくかんけぇ~?」

「えー?柚子ちゃん先輩も含めて四角関係じゃない?」

「いや、この場合会長たちは関係なくない?むしろ西住隊長の方が―――ヒッ」

 

 

 ウサギさんチームの無責任なガヤに外堀埋めたてが加速していくのがわかる。とりあえず最後の澤ちゃんの言葉をメンチビーム(視線)で黙らせて、ギャン泣きの桃ちゃんを引きはがすことに専念する。ってうわぁこの人力強ぇ!!いや腐っても装填手だもんね!是非もないよね!!?

 

「おー?まさかのかーしま参戦かー?いっやぁ、モテモテじゃーん天翔ちゃーん♪」

「桃ちゃん……と、とりあえず一旦落ち着こう?桃ちゃん?ね??」

 

 干し芋片手に観戦モードの会長とオロオロしているだけの柚子ちゃんもさぁ!止めようとしてくれ!物理的な意味で!物理的な意味で!!

 

 結局、駄々っ子のように俺にしがみつこうとする桃ちゃんを引きはがして大体の事情を聞くのに30分ほどかかり―――この糞忙しい時にいらん騒ぎを起こしたからだろうか、みぽりんが静かにキレ気味で、背後に虎のオーラを浮かばせた無言の圧力に屈した桃ちゃんが白目向いて失神したりした。

 

 

―――そうして聞かされる。“副賞”のお話。なにそれきいてないんだけど?

 

 

 

 ******

 

 

 

 ――月――日

 

 桃ちゃんに絡まれて、エキシビションの顛末について聞かされた。

副賞の話とか寝耳に水過ぎて胃袋にダメージが凄かったんだが(恨み節)

あのブリカスめが、俺に一切の相談もせずに何勝手に決めてやがるのか……!!

 

 

 ――月――日

 

 ダージリンの言うことがいちいち正論過ぎて反論ができないうえに、きちんと事前に俺の受け答えから事後承諾を取れる形を取っている辺り性格が悪い。

 加えて俺に拒否権があるから俺のデメリットは(俺の精神やセルフピロシキのことを除けば)なく周囲の納得を得る意味でメリットしか生まれない。こいつのこの蜘蛛の巣みたいな用意周到さ何なの本当……。

 

 

 

******

 

 

 

 それは入院していた時のこと。

 

 俺が入院生活で暇を持て余していたころ、ダージリンがお見舞いにやってきて、最近の大洗や各学園艦の話を聞いて居た時のことだった。

 

「そういえば―――エミさんは進路はどうされる予定なの?」

 

何気なく、本当に自然にそんなことを聞いてきたダージリンに、

 

「―――特に、考えてないなぁ……」

 

そんな風に、するりと答えていた。

 別にまぽりんと交わした会話を忘れていたわけではない。「ドイツについて来て欲しい」という話も、その答えをまだ返していないこともおぼえている。

ただしぶっちゃけ俺にとってその辺の話は「終わったこと」という認識だった。なぜなら俺はもう黒森峰の生徒ではないのだ。黒森峰学園艦のサイクルと大洗学園艦のサイクルは違うもので、留学についていくにしてもその手続きなどが可能とは思えない。なのでこの話は自然消滅。次回にご期待ください。という状況のつもりだったのだ。

 

「そもそも大学入試に受かるとは思えないしなぁ……私の成績知ってるだろ?」

「ええ、ゴリラに人の知識は難しいものでしょう。ええ」

「森の賢人ディスってんじゃねぇぞ英国かぶれ」

 

 隙あらばゴリラ認定してくる目の前のブリカスに睨みを利かせても、目の前にいるのは聖グロリアーナで隊長を務め、揺れる戦車の中で紅茶をこぼすことのない変人格言マシーンである。メンチひとつで怯むような相手ではないし、むしろこっちが視線を向けている状況を楽しんでいる節がある。

 

「―――まぁ、実際問題。私は大学行って何やろうってわけでもないし……高卒でどっか自分の身の丈に合った仕事探して、働くことになると思うよ」

 

 ベッドの上に倒れ込んでそんな風に呟けば、ダージリンは目線を俺から隠すように少しだけ俯いた。

 

「戦車道推薦枠でなら、行けるかもしれませんわよ?」

「よしてくれ。私は今の段階で極まってる。これ以上伸びしろがないのは自分でもわかってるんだよ―――私はそれでも必死でくらいついて居たかったから頑張ったんだ。それももうこの先だましだましでも難しいし、その理由ももうないからな」

 

 そう。俺にはもう戦車道を頑張るという理由が存在しない。

もともと戦車道はみほエリを見るために、みぽりんのあの事件に介入するために、みほとエリカの仲立ちのために努力してきたものだ。何の因果か一年早く生まれてしまい、まぽりんのサポートのために、フリューゲル小隊の皆のためにとその理由が若干横道にそれてしまったが、理由の本筋は変わっていない。俺はただただ純粋に、みほエリを見たいがために頑張ってきたのだ。

 そのみほエリのためのフラグはすべて立て終えた。わだかまりを無くした二人はこれ以降俺の手を離れても問題なくみほエリへと向かうだろう。そのためのイベントトリガーである大学選抜戦の前哨戦たるエキシビションや、無限軌道杯のフラグは既に立っている。これ以上俺がやるべきことはない。

 

「ほら、お前さんなら知ってるだろ?『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』だ」

 

 

―――老兵は死なず、ただ消え去るのみ。

 

 

 マッカーサー元帥が引退するときに語った演説の一節として知られているこの言葉の意味は、「役目を終えた者は潔く表舞台から去る」というものである。

 

 

「old soldiers never die, they just fade away―――ということね」

「そうそう、そういうこと。私はもうやり切ったってことで。それでいいんだよ」

 

 

 俺の言葉が何がしかの答えになったのかどうかわからないが、ダージリンはその後ただ静かに紅茶を飲んでいるだけで、お互いに何も言わない空気になって―――紅茶を飲み干したダージリンはそのまま去って行った。

 

 

 

 

 

―――認めませんわ

 

 

 

 その呟きは病院の入り口で呟かれた言葉で、俺の耳には届かなかった。

 

 

 

*******

 

 

 

「―――つまるところ、考え方の違いなのです。“あれ”がもう自分の役目が終わったと思っているのなら、思い出させてあげるべきでしょう?

 

 ―――“まだここに、決着がついていない存在がいる”と」

「それが今回の動機、というわけだな」

 

 ダージリンが語った“事の発端となる出来事”を聞き、まほはゆっくりと嘆息する。

どうしてこう、目の前のダージリンといい、安斎千代美といい、カチューシャといい、あの少女は妙な執着を持つ女性ばかりと人脈を作っているのかと、己を棚に上げてまほは独り言ちた。

 

 

「ええ、そうですとも。まほさん―――あなたはきっと今こう思ったはずです。『子供染みている』と。ええ、そうでしてよ!これは子供の意地の張り合いなのですから」

 

 

 ミュージカルのように、大仰な身振り手振りを加えるダージリンの行動は、まほにダージリンの一挙手一投足を関心付けるに足りた。

 街角で踊るパフォーマーや演劇を生業とする者たちのそれと同じく、ダージリンの身振り手振りはまほに印象を濃くするための努力の端くれである。その行動に言の葉を乗せ、ダージリンは弁舌を続ける。

 

「―――天翔エミがこのまま消え去るなど、誰が認めようと私が許しません。まほさんも、カチューシャも、アンチョビもみほさんも、逸見エリカさんであろうとそうでしょう?彼女と関係の深い生徒全てが、何らかの形での彼女との因果の清算を行うべきなのです」

「―――そのための“大饗宴”か」

 

 バトルロワイヤルと銘打ってはいるが、実質天翔エミvsエミと因縁が深い者たち という構図。その他エミを戦力として求める学園たちはその裏側に隠された真意を誤魔化すための賑やかしに過ぎず、空気を読めない連中は即興同盟なり一時休戦なりをするそれらになで斬りにされるための獲物ということになる。

 そのうえで生き残る可能性が高いのは【最初期にもっとも生き残る可能性が高いところと同盟した相手】ということ。

 

「―――なんと性質の悪い話なのか……」

「あら?実益も勿論あるでしょう?天翔エミという鬼札を得る機会は値千金。ただ強い生徒が欲しいだけの学園にはそれを為すだけの因縁がない分確率が渋くなっているだけの話で、副賞に関してはただの宝くじにすぎませんもの」

 

 

 さらりとまほの言葉を受け流し、紅茶を一口。

 

 

「私が貴女の同盟相手となるために貴女に求めるものはただ一つ。“天翔エミとの一騎打ちを認めること”

 

 

 すっとまほへと人差し指を突き付けて、ダージリンは宣言する。

その為の同盟。そのための大饗宴。すべてはそのためだけにあると、ダージリンは公言して見せた。

 

 

「何故そこまで……何が君を駆り立てるんだ……?」

「あら?貴女がそれを言うの?―――まぁ、そうね。

 ……こんな言葉を知っている?“ Less is more ” 人生は、執着するものが少ない程、よりその可能性を増す」

 

 

 ダージリンはただ静かにそう答えた。

 

 

 “人生はただ一つを取捨選択し、それのみに没頭したほうが可能性の幅は広がる”という意味合いを持つとある詩の一節である。断捨離などはこの一節から派生した代物だとも言われている。

 

 

 

つまりダージリンは、

 

 

あの日天翔エミに出会い、

 

 

天翔エミにしてやられて、

 

 

それからずっと天翔エミを打倒するためだけに、

 

 

 

 

―――天翔エミのためだけに―――

 

 

 

 

ずっとずっと、努力を重ねてきたという事。

 

 

 

 

「―――私、勝ち逃げなど許しませんから」

 

 

 

 うっすらと笑うダージリンの偏執的ともいえる行動に、まほは周囲を巻き込んでここまでの大騒ぎを起こせるその才能に舌を巻くべきか、それとも呆れるべきか本気で迷っていた。

 

 

 




「“Less is more”。人生は、執着するものが少ない程、よりその可能性を増す」
「イギリスの詩人、ロバート=ブラウニングの言葉ですね」


西住まほのもとを去り、聖グロリアーナの連絡艇の中で、独り言ちるダージリンへと、オレンジペコが即座に返す。



Less is more.



それは道のみを追い求める求道者への言葉であり



それはただ一つを突き進める者への言葉であり



そしてそれは―――【戦車道】、【装填手】の茨の道を歩み続けた天翔エミを指している。




「―――ですが彼女は今その道を何のことはない路傍の石と同じ様に見ている。故あれば棄てられる何のことはないモノになり果てている。
ならば―――きっと彼女の中に他の何かがあるのです。己の今までの人生のすべてをかけてきた戦車道が理由に過ぎない程の「何か」が。私は、それを知りたい」

 
それは例えば、戦車道を続けることで相棒として並び立ち続けることができた“西住まほ”なのか?


それともあの時己を捨てて、戦車道に背を向けても救助に向かった“西住みほ”なのか?


それとも或いは、“逸見エリカ”?“赤星小梅”?







―――【そんなもの】のために私を無視して一人で消えるなど、私が許すはずがないでしょう?天翔エミ―――!!


















「―――屈折してるでしょう?あの子の愛情は」

「アッサム!!聞こえていてよ?それにこれは愛情ではないわ!ドロドロとしたこの情念は、憎しみと怨みと根源的な嫌悪以外の何物でもありませんでしょう!?」



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