【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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6月に入ってしまった……orz

Σ( ゚Д゚)ハッ

新しい月に入ったし、じっしつはつとうこうということでは?


【 まほルート 第十六話 「涙目爆発音(ダージリン的な意味で)」】

「押田くん!栄光あるヤークトティーガーとの戦いは君に譲ろうじゃないか!我々小物一同はチマチマと雑魚どもをつぶして回るとしよう」

「いやいや何を言うんだ安藤君!君たちの高まった練度であればこそあの弾丸の雨を抜けて肉薄できると思うのだよ?ARLでは少々速度に欠けるからね。ゆえに我々一同、涙を呑んで先駆けを譲ろうじゃないか!」

「いやいや押田くん!何を言っているんだい押田くん!BC自由学園の誉れとしてここは内部生に見せ場を譲らねばなるまい!」

「いやいや安藤君!気持ちは嬉しいが我々に必要なのは功の平均化だ。なので合併で外からやってきた君たち外部生にこそ誉れが必要だと思うのだよ」

「いやいやいや押田くん!」

「いやいやいやいや安藤君!!」

 

 

 譲り合い精神という名の“ババの押し付け合い”を繰り広げるS35とARL44の一団を―――側面から突如現れた軍団がターゲットにおさめ、食らいついた。

 

 

「どきなさい雑魚ども!!獲物を前に舌なめずりしてるんならメインディッシュの前のオードブルに添えるつもりで薙ぎ払うわよ!!ノンナぁ!クラーラぁ!やっておしまいなさい!!」

『『Арахора Сассер!!』』

 

 

 

 ロシア語で答えているのだが耳で聞く分には発音が日本語とほぼ同じなため気づいていないカチューシャと、そんなカチューシャに満面のトロ笑みを内心で浮かべつつ突貫するノンナクラーラの左腕右腕コンビ。全速で駆け抜けつつ自軍小隊に命令を出し、クラーラは押田側、ノンナは安藤側から曲線を描くように迂回進撃を行いながら、鶴翼陣形からの半円包囲を作り上げた。

 

 

「―――обжиг(放て)!!」

 

 

 号令ひとつで半円状のプラウダ車輛から全体に満遍なく砲撃が放たれ、押田と安藤を含めたBC自由学園の車輛を呑み込んでいった。

 

「縦深戦術のいい練習台になったわ。じゃぁね負け犬さんたち。ピロシキ~」

 

 カチューシャがパッパッと手を振るとノンナ・クラーラがハンドサインで合図を返す。同時にプラウダの一団の一斉射が止まり、周囲には白旗を挙げたBC自由学園の車輛たちが死屍累々と転がっていた。

 

 

「……くそっ!これが格の差ってやつかよ……!!」

「―――だが我々は……まだ……!!」

 

 

 かろうじて白旗の上がっていない押田と安藤が味方の屍の中から動き出し撤退していく様子を尻目にカチューシャは悠々と前を向き進んでいく。

 双眼鏡で見る彼方の先には、ゴルフ場のフェアウェイを睥睨する形で周囲に散発的な土塁を配置し、高台になったティーグラウンドの上に陣取るヤークトティーガーと、その周囲に構える大洗の車輛たち。Ⅳ号、三式中戦車、ルノーB1の3輛。

 

「―――厄介なⅢ突とポルシェティーガーがいないわ。ノンナ!クラーラ!周囲警戒!見つけ出しなさい!」

『『Арахора Сассер!!』』

「さっきから何なのよその掛け声は!?」

 

 通信機から響くユニゾン声にようやくカチューシャがツッコミを入れた。

 

 

 

******

 

 

 

 「……いませんね」

 

 周囲のブッシュを押し破り、突き抜けた先には何もいないようだった。ノンナは上部から顔を覗かせ周囲の索敵を行い、カチューシャに通信を行う。

 

『カチューシャ。周囲にⅢ号突撃砲、ポルシェティーガー、どちらも見当たりません』

「―――他の連中と戦闘中なのかもしれないわね。いいわ、こっちは一斉砲撃の準備が整ったし、相手の動きもないから一気に決めて次に行くわよ」

 

 通信を受け取ったカチューシャは周囲に展開した車輛に通信を開く。

目標はヤークトティーガーとその周囲の護衛車輛たち。

 

 

「―――обжиг(放て)!!」

 

 

 カチューシャの号令による全車輛からの飽和砲撃が、高台で鎮座するヤークトティーガーを周囲の3輛ごと呑み込んで、盛大に周囲に轟音と土煙を上げる。もうもうと巻き上がる土埃が煙幕のように天然のカーテンを作り上げ、向こう側が見えない状況の中でカチューシャは自身が指導し鍛え上げた戦術に絶対の自信を持っていた。

 

縦深戦術を基盤とした、点ではなく面による制圧飽和斉射。包囲戦術の申し子であるカチューシャだからことできる敵陣形の圧縮と特に相性が良いこの戦術は、決まれば理論上、西住まほといえど逃げ場をなくし、ただ討ち取られるのみ―――。

 

 

 

―――だがそれは、“決まれば”という大前提の上に成り立っている。

 

 

 

 土煙が晴れた後に転がる、“戦車だったものの残骸”。ばらばらと地面に散らばっている木片と、一部金属片。

 

「―――これは……!?」

 

 

 

 跡形もなく消え失せた車輛たちの姿に、カチューシャがそれを悟ったころには―――もう、すべてが噛み合った後だった。

 

 

 

 

「―――今だぞお前たち!攻めこめぇ!!」

 

「―――オラオラオラァ!!!てめーら、後れを取るなよ!!」

「「「「ricevuto!!」」」」

 

 

 丘陵のところどころにあった土塁がエンジン音を響かせてはじけ飛ぶ。上から土塁の色に合わせた布をすっぽりかぶり忍者のように擬態していたCV33が、カチューシャが組み上げた包囲網の間をしっちゃかめっちゃかに駆け回り分断を始めた。豆戦車なのでプラウダ戦車の装甲を抜ける威力はないが、機銃が装甲をはじく跳弾音が反響してひたすらに鬱陶しい。その上、その反響音は的確に車内に残響音を残し、正確な通信伝達を阻害し続ける。

 

 

「豆戦車なんか気にしてないで態勢を立て直しなさい!ノンナぁ!クラーラぁ!!偵察中止!反転包囲陣!!ボッコボコにぶっ叩くのよ!!」

 

 

 通信機に向かって呼びかけるカチューシャ。だがその声に返ってくるべき応答はない。

 

その一方で、CV33を指揮するP-40。その上部で顔を覗かせ戦場を俯瞰する安西千代美は片手の通信機を弄びながら心底面白そうにニヤリと笑った。

 

「―――自分が一番頭がいいって考えてる奴ほどハメ易いものはないってやつだな。……西住ぃ、そっちはどうだ?」

『―――捕捉した。感謝する』

 

 通信機から返ってくる手短な返答に「そうかそうか」と返して通信を切る千代美の表情は、アンチョビのものに戻っていく。

 

「―――一時同盟は終了!西住まほが相手の一番の懐刀を抑えてる間にカチューシャを討ち取るぞ!!」

「「「「ricevuto!!」」」」

 

 

 

*******

 

 

 

「―――すみません。直ちにカチューシャのところに戻らねばならないのですが」

「そうか。無理だな」*1

 

 ゴルフ場のブッシュの向こう、唐突に開けた場所になっている平野を舞台に、ノンナと対峙している車輛がひとつ。

 

 エンブレムは黒森峰。ティーガーⅠ、西住まほであった。

 

「―――理由を聞いても?」

「私が望んだ」*2

「意味がわかりません」

 

 端的なノンナの質問に短く答えるまほ。その言葉の真の意味を理解するには、ノンナでは役者が足りなかった。まほの言葉の意味を推測するノンナに、まほはただ静かに目を閉じて、それからゆっくりを目を開き決意を秘めた瞳をノンナへと向ける。

 

 

「西住流に敗北は許されない―――あの時の借りを返しに来た」

「……今のは理解できました。どのみち逃げられるとも思えませんし、放置してカチューシャの下へ通すわけにもいかない……受けて立ちましょう」

 

 

ぶつかり合うティーガーとJS-2。その一方で、違う戦場では―――

 

 

「―――ハァイ!正々堂々、フェアプレーで行きましょう!」

「オーケーオーケー。おケイだけにね!なんつってー」

 

 ヘッツァーとM4シャーマンが鎬を削る。その一騎打ちの傍らでは、ファイアフライの砲撃支援を止めるために足元を狙い続けるポルシェティーガーと、同じようにアリサが駆るM4A1と僚機のM4シャーマン2輛との追いかけっこを繰り返しているアヒルさん、ウサギさん、アリクイさんの3チーム。

 

「天翔エミも西住みほもいないアンタたちにやられてやるほど、ウチは弱くないのよ!さっさと落ちなさい貧弱車輛どもがッッ!!」

「車輛の強弱が強さ弱さに直結はしないんじゃないですかー?八九式は強くないかもしれませんけど、この子と一緒にチームで戦ってますからね?私たち」

 

 車内で地団駄を踏むようにして指示を飛ばすアリサに、さらりと返して砲撃をかわし続ける八九式とアヒルさんチーム。その回避と移動の合間を縫って、ウサギさんの砲撃がしやすいように誘導を忘れない。

 けれどウサギさんのほうもシャーマンと追いかけっこをしている傍らでアリサを討ち取れるほどの余裕はない。お互いに拮抗した盤面のまま戦況は続いていた。

 

 

 

******* Others → Emi

 

 

 

「―――ひまだねー」

「周囲に敵影もありませんから……冷泉殿もうたた寝しているみたいです」

「ちょっ……!麻子!?寝ちゃダメだってば!操縦手がいざという時に動けなくてどうするのぉ!?」

「―――ねてないぞぞぞzzz―――」

「寝てる!!寝てるってば!!」

 

 そんなこんななあんこうのやり取り実に美味しいです。天翔エミです。

 今俺たちは、小高い感じの開けた丘の上でⅣ号戦車とヤークトティーガーで待機任務についています。

 

 

 何故待機任務が必要なのか?それは―――

 

 

 

「―――この機を活かしましょう」

 

 そんな風にみぽりんが言い出したのがきっかけだった。

 

 決勝戦で、或いは2回戦のアンツィオ戦で、プラウダ戦で、みぽりんは作戦指揮における戦略的な意味での失敗を経験している。そのたびに盤面をひっくり返して逆転勝利を収めて来たけれど、反面自分に自信が生まれていない。

 要するに今のみぽりんは『覚醒フラグが立っているのに軍神になり切れていない』状態なのだ。

 

 なのでみぽりんが考えているのは『チーム全体の経験値の底上げ』だった。

どのみちこのエキシビションマッチは半分はお遊びで、残り半分がガチモードという仕様で出来ている(ダージリン曰く)ため、勝ち負けが進退にただちに影響するわけではない。俺へのスカウト権にしたって最終的に判断するのは俺なのだから、【お断りします】すればよいだけの話である。

 俺にとってもこの試合はあくまで『まぽりんが安心できるように』という意味合いが大きい。エリカが、黒森峰が、西住まほに頼らずとも大丈夫だと安心できるチームであることがまぽりんがドイツ行きを納得する条件であるのだから、大洗が多少善戦しなくなったことで相対的に黒森峰が活躍する機会が増すのであれば願ってもないことだったし、諸手を挙げてこれを快諾。あんこうチーム以外のメンツが心配そうな顔を見せる中、「信じてますから」の一言で皆を安心させるあたりみぽりんマジ隊長だと思いました(安堵)

 

 そんなわけで仮想的として挙がったのはサンダース大付属だったりする。理由はなにしろシャーマンだらけで敵として相手する分には十分な防御力、機動力、攻撃力を持つ相手だということ。隊長のおケイさんはフェアプレー精神持ちなので車輛の数を絞って挑めば相手に合わせて数の差を揃えてくるであろう点などが上げられた。

 

 その間、ヤークトとⅣ号が無防備になるんだが、そこをなんとか埋めるべく同盟先を用意したのが―――そう、アンツィオだ。

 

 アンツィオも今回の試合はどちらかというと経験値稼ぎのための試合で、資金稼ぎのための自己アピールの場でもあるため、対戦相手を限定させるための同盟は願ったり叶ったりだったらしく、俺がチョビに話を持っていくと感激して全力でハグされて同盟締結が成った。でもチョビさんや、感激したのはわかるけどイタリア式の感謝の行動やめて、マジやめてください死んでしまいます(不夜キャス感)

 

 

 ―――とりあえず試合終わったら片手の五指全部逝っとこう(覚悟)

 

 

 ともあれ、そんなわけで急ピッチで準備が進み―――“マカロニ作戦(ドリュット)~虎よ煌々と燃え盛れ~”が生まれたわけである。

 自動車部が用意した金属のガワに立体的に描かれた書き割りをはっ付けるだけの作業ではあるが、それらをパーツに分解して運搬→建築(クラフト)という作業工程をほとんど時間かけずにやり遂げるアンツィオのDIY力に感服の声しか出ない。もうTO●IO系戦車女子でチャンネル作って金稼いだほうが良くないかこの子ら!?と思ってしまうほどに。

 

 そんでそれをデコイにして周囲の敵を釣りつつ、本命の俺たちはいざって時に援軍できるように待機。

 秘密裏にまぽりんと連絡を取り合ったチョビが「雪辱を果たす機会を作ってやる」と言ってまぽりんを動かしてノンナにぶつけ、カチューシャ本体の足止めを引き受ける。クラーラの情報は大会までのデータしか集めてないチョビの計算外とはいえ、俺から教えるわけにもいかないから申し訳ないけど放置。

 BC自由学園が半壊したのは僥倖だった。ダージリン率いる聖グロは黒森峰と同盟を組んで補佐に回っているらしく、まだ前に出てくる段階ではないらしい。

 

 

 詰まるところ戦況は確定し、膠着していると言えた―――当面の問題は一点。

 

 

「―――西住隊長!天翔殿!我々は引き続き潜伏による突撃待機でよろしいのでしょうか!?」

 

 いつもの定位置で周囲を見回しているみぽりんに後ろから声をかけてきたのは知波単隊長の西さん。何故か“大饗宴”が決定した直後にいの一番でやってきて『我ら知波単一同、傘下の杯を交わしたく』とか謎の宣言で大洗と同盟を組んでしまったのだ。―――なお一同整列して敬礼&臣下の礼をされた時のみぽりんのテンパり具合は色々と筆舌に尽くしがたいものがあった。

 ※この後俺にも臣下の礼とか取られてめちゃくちゃピロシキチャレンジ(指)した。

 

「えっと、はい。ひとまず戦況が落ち着いてこちらへの攻勢を行う相手が決まるまではこのままでおねがいします」

「承知致しました!!」

 

 みぽりんの言葉に素直に従い敬礼を返してチハで元の場所まで帰っていく西さん。決意に燃えている反面、背中に「突撃はよ!はよ!」という意思が見え隠れしている。

 

「で―――みほとしては誰が残ってやってくると思う?」

 

 ヤークトの上によじ登って座る俺の言葉に「うーん」と考える様子で唸るみぽりん。まぁ答えは大体想像できているのだが―――

 

「―――やっぱり、お姉ちゃん……黒森峰は残ると思う。聖グロリアーナと同盟しているから、ダージリンさんも」

 

 この辺りは鉄板だろう。攻撃力でいえばてっぺん級の黒森峰と、防御力に定評のあるダージリンが手を組んでいる。機動力の差に難点があるとはいえ生半可な戦力で太刀打ちできる相手でもない。

 本命黒森峰。対抗にプラウダ。大穴でサンダース くらいの認識でいるのが今のみぽりんだと―――俺はそう認識していた。

 

 

 

 

「―――気になるのは、直前で飛び入り参加してきた継続のミカさんと、ヨーグルト学園の皆さんかな……?」

 

 

 

 

 だが、軍神の直感はこの後の嵐の予感を如実に感じ取り、すでに警鐘を鳴らしていたのだった。

 

 

 

 

*1
そうか。気持ちはわかるが千代美との約束でここを通すわけにもいかないし、私にも理由があるから残念ながら無理だな

*2
私が貴女との再戦を望んだからだ。その願いを汲んで、千代美がおぜん立てを整えてくれた。その心意気に感謝をしている。それが理由だ




――― >>>???





「―――残存車輛の……報告を……ッッ!!」

 通信機に向かって絞り出すように声を上げるのはラウンドシニヨンのプラチナブロンド、聖グロリアーナ隊長のダージリンである。

『ニルギリ及びルクリリ小隊、まだいけます!』
『ローズヒップ以下クルセイダー隊。わたくしとクランベリーのみ行動可能ですわ!』

 返ってくる被害報告から残存戦力の計算をアッサムに任せ、車上ハッチから顔を覗かせるダージリンが見据えるのは、目の前の車輛。

 群馬県代表、ヨーグルト学園のエンブレムを刻んだその車輛から顔を覗かせるのは―――

「―――まさか。ですわね……西住まほ、天翔エミのほかにこんな化け物が存在していたなど―――」

 履帯をやられて行動不能にされたチャーチルからはもう興味も失せたのか踵を返して去っていくその車輛は




 ―――英国戦車、センチュリオンだった。



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